512  2024年問題

 皆様明けましておめでとうございます。2022年はロシアのウクライナ侵略によって世界中がエネルギーや食糧の危機に瀕し、インフレが昂進しました。戦争がいかにSDGsの妨げになるかを実感しました。まさかこんなことが現実になるなんて、以前は思ってもみませんでした。それ故、私たちは「想定外」などと言わずにあらゆるリスクを考えておかなければならないと思い知らされたのです。


■ 日本郵政グループと楽天グループの提携の結果・・・?
 下は今年の日本郵政グループの年賀状です。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は2021年3月に、日本郵政グループの増田寛也社長と共同会見を開き、1500億円の出資を受け入れました。その後楽天市場は好調、楽天グループは楽天モバイルが経営上の問題点と言われてきましたが、ドッコイ将来性は明るいと見ています。なぜなら携帯4社の中で楽天モバイルだけが保有していない「プラチナバンド」、1GHz以下の周波数帯を指すもので、障害物を回避しやすく建物の中や遠方に飛びやすいので、少ない基地局で広範囲をカバーできることから携帯電話会社にとって最も重要な周波数、いわば「虎の子」と言われてきました。これを楽天にも割り当てて欲しいという要望に対して、総務省は、有識者会議の答申を受けてdocomo、au、ソフトバンクの3社から等分に切り取って楽天モバイルに与えることにしました。これで楽天モバイルの弱みが一気に解消されたわけです。通信と情報と金融と物流とEC、これらすべてを握っているのは楽天のみですから、楽天ポイントを使ってあらゆるサービスでお客様を囲い込む戦略です。ソフトバンクは投資損失を受けて孫さんが第一線から退きそうな雰囲気で、auは通信障害でミソ付けて、NTTも菅さんの息子さんの問題の余波からあまり派手な動きは出来ないので、日本郵政グループとそのバックの総務省と提携した三木谷さんは天下を取った気分でしょう。やがてじわじわと楽天の勢いは増し、日本国政府がGAFAへの規制を強める中、アマゾンもうかうかしてはいられなくなるはずです。

日本郵政社長からの年賀メッセージ、妻のハトコです


提携会見時の楽天グループ・三木谷浩史会長兼社長と日本郵政グループの増田寛也社長

■ 音楽を聴きながら年越し・・・その音楽とは
 The Venturesです。1959年リズム・ギターのドン・ウィルソンとボブ・ボーグル(初代リードと2代目ベース・ギター)により結成され、初代ベース、2代目リード・ギターのノーキー・エドワーズが加わり、1962年ドラマーにメル・テイラーを迎え、1960年代の黄金の4人が揃いました。ノーキー・エドワーズが1968年に一度脱退、1972年に復帰、1984年再度脱退し、1999年以降はレコーディングや毎年1月の日本公演などにリード・ギター(ベンチャーズ・オリジナルメンバー)として参加しましたが、その不在の間はジェリー・マギーがリードギターを担当しました。ドラマーのメル・テイラーが62歳で死去した後は息子のリオン・テイラーが後任となりました。リーダーのドン・ウィルソンが2022年1月22日に死去して、結成メンバー及びジェリー・マギーは全員故人となりました。メンバーチェンジを重ねつつ現在もリオン・テイラー(ドラム)、ボブ・スポルディング(リードギター・リズムギター)、イアン・スポルディング(リズムギター・ベース・キーボード)、ルーク・グリフィン(ベース・リードギター)というメンバーで活動中です。
 このグループが日本で圧倒的人気を保ったのは、ヤンキーというより紳士であったことと、日本のメロディを理解し、日本の歌手に楽曲を提供して、ベンチャーズ歌謡というジャンルを確立したためでしょう。ビートルズは世界的なバンドでしたが、ベンチャーズは日本のバンドと言っても過言ではありません。我々世代にはなくてはならないグループでした。1960年代にはドラムの太鼓の数も少なく、エレキギターの音もシンプルでした。それが時を追って豪華になり音も華やかになる・・・YouTubeのお蔭で1960年代のベンチャーズを見れますが、あの人たちが今は全員この世に居ない・・・自分も長くはないだろうなと思うわけです。アメリカ人に日本の若者たちが親しみを持ったのはベンチャーズのおかげという気がします。

2023年1月1日6時23分夜明け前書斎から

■ この10年の新年のテーマは
 新年を迎えたとき、何をつづるか、下にこの10年の最初のESSAYが何をテーマにどのように始まったか書き出してみました。概ね新年の賀詞または幕開けの話題です。ちょっと趣きが違うのが2015年と2016年、長かった会社員生活に別れを告げた後だからでしょうか。
タイトル 年月日 書き出し
2023年 512 2024年問題 2023年1月1日 皆様明けましておめでとうございます。2022年はロシアのウクライ
2022年 460 五黄の寅年 2022年1月4日 2022年は五黄の寅年です。「五黄の寅」は「ごおうのとら」と読み
2021年 408 年賀状 2021年1月3日 2021年の幕開けです。昨年はいきなりゴーン逃亡で始まり「イヤな
2020年 356 中東 2020年1月5日 2020年の幕開けは実に不穏に始まりました。ゴーン被告の逃亡、IR
2019年 304 四国一周U 2019年1月6日 2019年元日は、見事な初日の出とともに明けましておめでとうござ
2018年 252 明治維新150年 2018年1月7日 2018年となりました。毎年ゆえあってJR東日本のカレンダーを頂く
2017年 200 冬虫夏草 2017年1月7日 皆様明けましておめでとうございます。さりながら、おめでたくな
2016年 147 始皇帝と兵馬俑 2016年1月1日 我が家は1階、2階すべての部屋が正東南方向に面した、日当たりの
2015年 96 小江戸川越七福神 2015年1月3日 新年と言えば神社、仏閣詣でですね。我が住む隣の小江戸川越七福
2014年 44 車遍歴 2014年1月5日 皆様明けましておめでとうございます。 おめでたくない方も中には

■ 荒れる予感の2023年
 昨年152円/USドル目前まで進んだドル高はピークを過ぎたので、2023年はドル安方向に向かいます。2022年終値は131円/ドルでした。米国ではインフレ抑制のためFRBのパウエル議長が強烈な金利引き上げを進め、これによって資産インフレが抑制されてきたのはスゴイです。今年は米国景気が悪化するのは間違いなさそうですが、EUも、いや、世界ほぼすべてで景気は悪くなるでしょう。したがって株価も一般的には下がります。中国が不動産バブル崩壊と医療崩壊で大変な状況ですが、では日本はどうか?日本経済は中国と密着していますから中国次第でしょう。日経平均株価は2022年の大納会で2万6094円50銭で取引終了、前年比2697円(9%)安と、4年ぶりの下落となりました。NYダウ平均株価は3万3147.25ドルで3191ドルの下落(下落率8.8%)、下落幅はリーマン・ショックの2008年以来14年ぶりの大きさでした。下図は1年前に掲載したものです。さて今年はどうなるでしょう。荒れる予感がします。銀行が住宅ローン金利を引き上げると発表していますので、これまでの借り得は終焉、日銀は黒田総裁がやめて、市場にジャブジャブお金垂れ流しをやめるでしょうから、経済はやっと正常化に向かい始めるでしょう。ただし、その過程で生き残れない企業が多数出るような気がします。

■ 2024年問題
 さて今回の本題です。コロナ禍という未曽有の危機から企業を救うため、国は市場にお金を供給して手厚く支援しました。企業は売上高が落ち込んでも生き延びることができ、倒産件数は歴史的な低水準に抑え込まれました。コロナ禍からの出口が見え、ゼロゼロ融資の終了など支援策が一段落し始めたところに、経済環境の激変が襲い掛かっています。急激に進行した円安に、急速な物価高、倒産を増やすさまざまな要因が企業を追い込んでいます。円安倒産と共に急増しているのが物価高倒産です。帝国データバンクによれば、物価高倒産の業種別では建設業がトップ、運輸・通信業、製造業と続きます。建設業と運輸業にはさらなる共通のリスクがあるのです。「2024年問題」です。長時間労働などを規制する働き方改革関連法が2019年に施行されたのですが、この両業界は是正に時間がかかるため、時間外労働の上限規制適用までの猶予期間が設けられ、この猶予期間が2024年3月に終了するのです。長時間労働に頼っていた企業は従業員数を増やさざるを得ず、人の奪い合いが激化していますが、中小・零細企業の中には賃金を上げても人手を確保できず、倒産するケースが出てくるはずだと言われています。トラックの運転手などはもうすでに人手不足が顕著、欧米で起きたことが日本でも起きようとしています。いま働く女性や高齢者が増えていますが、これらの業界は体力的に女性や高齢者には困難なのでなおさらです。

岩手県盛岡市高松の池の白鳥


■世界中の国が「日本病」に怯えているそうです
 エコノミストのなかで筆者が好きなのは第一生命経済研究所の永濱利廣氏です。その著書『日本病――なぜ給料と物価は安いままなのか』で、「低所得・低物価・低金利・低成長」の「4低」状況を「日本病」と名付け、その原因と、脱却の道筋を明らかにされています。デフレ・スパイラルの中にある日本、そもそもデフレとは何なのか、教えて頂きましょう。

永濱利廣氏

■デフレが日本病の本質
 以下、永濱利廣氏の言葉です・・・・「デフレ」という言葉は日本ではもはや連日のように聞いているので、すっかり耳に馴染んでしまったかもしれませんが、うかつに馴染まないほうがよい恐ろしいものです。ここで改めて確認しておきましょう。IMF(国際通貨基金)の定義によれば、2年以上にわたり物価が下がり続けることを「デフレ(デフレーション deflation)」と言います。「物価が下がる」ということは、裏を返せば「お金の価値が上がる」ということです。そうなると、デフレ状況における合理的な経済行動は「欲しいモノがあったときはなるべく我慢する」になります。なぜなら、物価が下がっていくので、できるだけ必要ギリギリまで待ったほうが、安く買えるからです。そうやって、人がお金を使わなくなります。人がお金を使わないので、モノやサービスが売れにくくなります。モノやサービスが売れにくくなると、企業は価格を下げることで競争力を得ようとします。日本でよく聞かれる「価格破壊」が最たる例です。しかし、値下げによって儲けは減るので、働く人の給料は上がりにくくなります。給料が上がりにくくなれば人々はさらにお金を使わなくなり、モノやサービスが売れなくなります──この悪循環がデフレスパイラルです。当然、景気はますます悪くなっていきます。将来への不安からお金を「使う」より「貯める」ようになり、金利も上がりにくくなります。なぜなら、金利はお金の需給で決まるからです。こうなってくると、もちろん経済成長もしにくくなります。こうして、日本の「4低」現象=「日本病」が作られました。

■世界中が恐れる「日本化(Japanification)」
 「低所得・低物価・低金利・低成長」──バブル崩壊以降、日本に定着したこの「日本病」は、海外の国々からは「日本化(Japanification)」と呼ばれています。「ああはなりたくない」という恐れから、日本の不況は世界の経済学の研究テーマにもなってきました。特に「100年に一度の不況」と呼ばれた2008年のリーマン・ショック後には、各国で「日本化」現象が起きました。アメリカの住宅バブル崩壊を主因とするリーマン・ショックと、そこから広がった経済全体へのダメージは、日本のバブル崩壊と同じような状況をもたらしました。日本のバブル崩壊は日本国内だけでおさまりましたが、リーマン・ショックは経済のグローバル化も手伝って世界中にダメージが波及したので、むしろより影響力が大きな不況だったかもしれません。しかし、日本以外の先進国では、日本のように長期間デフレに陥ることはありませんでした。
 いったい何が違ったのでしょうか。
 それは政府や中央銀行がデフレを放置し長期化させたか、放置せずに正しく対応したか、の差です。海外は日本の失敗から学んでいたのです。経済政策の失敗でデフレを放置してしまい、日本病に陥った日本の姿を見て、不況への対策を研究していたからこそ、リーマン・ショックのときに迅速かつ大胆な経済政策を行うことができたのです。その結果、デフレを回避し、「日本化」を免れることに成功しました。

■デフレ長期化の恐ろしさ
 海外の国々がここまで「日本化」を恐れるのは、30年間デフレを放置するとどうなるか、実際に日本の状況を目の当たりにしているからです。不況になると自殺者が増えます。日本では1998年に年間自殺者数が3万人を超え、以後は減りつつあるものの、なお2万人を上回る高い水準のままです。自殺率で見ても、人口10万人あたり15.3人と、日本はG7諸国中トップです。さらに低所得や将来不安の影響か、結婚しない若者が増えており、出生数もほぼ毎年下がり続けています。2000年に119万547人だった出生数は、2020年には84万835人に減少しています。これは1899年の調査開始以来、最少の出生数でした。不況によって、人口にまで大きな影響がおよんでいる──こう考えると長期化したデフレの恐ろしさがわかるでしょう。では、海外の国々が日本の長期停滞から学びとり、見事リーマン・ショックから立ち直ることができた経済政策とは、どのようなものなのでしょうか。「ああはなりたくない」と日本から学んだ海外諸国はいったいどんな経済政策をとったか・・・続編は永濱利廣氏の著書をご覧ください。日本人はなぜこんなに『お金を使わない』のか?心の奥底に染みついた『恐ろしい怪物の正体』が明らかにされます。
 そのためというわけではありませんが、筆者はお金を使っています。使えることは有難いことで、かつて死に物狂いで働いたことの報いと考えています。それだけに将来世代にツケ回しする今の政治には怒りを覚えます。
(2023年1月1日)


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