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 気象庁は、西日本を中心に大きな被害をもたらした6月28日以降の記録的な大雨について、名称を「平成30年7月豪雨」とすると発表しました。死者が百人を超えた豪雨災害は、「昭和58年7月豪雨」(死者・行方不明者117人)以来35年ぶりですが、今回はそれを大きく上回り、死者は200人を越え、行方不明の人もまだ50人近くに上るようです。消防庁が2018年7月13日にまとめたところでは、家屋被害は北海道から鹿児島まで31道府県で計2万6496棟で、府県別では岡山1万921棟、広島3667棟、福岡2898棟、京都府2498棟、愛媛県1756棟、岐阜県1256棟、など。岡山県は、県内で浸水被害のあった倉敷市真備(まび)町を含めてさらに4千棟以上の被害があるとみており、真備町分は内訳の確認を進めている段階だそうです。倉敷市真備町が特に甚大な被害だったのでここに関する報道が多いのですが、昨年朝倉市での豪雨災害の傷も癒えていない福岡県や北海道なども大きな被害を受けています。

■ 毎年発生する豪雨災害
 昨年(2017年)7月にも、「平成29年7月九州北部豪雨」と名付けられた集中豪雨により、福岡県、大分県を中心とする地域に甚大な被害が出ました。「線状降水帯」、「ゲリラ豪雨」、以前は聞いたことの無い気象用語が近年では当たり前になりました。昨年福岡県朝倉市などを襲った大雨は地形的な要因などが重なり、局地的に記録的な雨量となりました。一方、大分県への特別警報発表が福岡県の2時間後になり、大分県日田市も孤立する集落が続出、局地的豪雨を予測する難しさも浮き彫りとなりました。
 更にその前年の2016年8月には、北海道に台風7号、11号、9号が立て続けに上陸し、岩手県にも迷走台風10号が上陸し、岩泉町中心に死者が多数出ました。小本川が氾濫し、老人介護施設がもろに濁流にやられました。北海道に3つの台風が上陸したことも、東北地方太平洋側に台風が上陸したことも、1951年に気象庁が統計を取り始めて以来、初めてでした。想定外だったわけです。後で分かったのは11号のほうが先に発生したものでした。台風9号による集中豪雨では、埼玉県内でも七つの川が氾濫(180『Rio→Tokyo』2016年8月23日)しました。
 毎年かつて無かったような記録的大雨による被害がどこかで起きています。3年前には、「平成27年9月関東・東北豪雨」により、鬼怒川が氾濫し、茨城県常総市が大被害(131『水害とダム』2015年9月14日)を受けるなど栃木県や宮城県に大きな被害をもたらしました。

2015年9月鬼怒川が氾濫

■ 7月から9月にかけて豪雨や土砂崩れ
 更にその前年の2014年8月には広島市北部の安佐北区や安佐南区の住宅地等で大規模な土砂災害が発生しました。「平成26年8月豪雨」と呼ばれます。76『対馬丸』(2014年8月23日)を参照ください。更にその前年の2013年8月9日、10日には秋田県から岩手県を襲った大雨がありました。我がふるさと雫石町も大被害でした。25『事故と災害』(2013年8月12日)をご覧ください。その後、9月には台風18号による近畿地方を中心とした河川の氾濫や土砂災害が起きました。31『災害と地震』(2013年9月23日)をご覧ください。このように、毎年、台風、集中豪雨などにより、日本列島は大きな災厄に見舞われてきました。ほとんどが7月から9月にかけてです。九州では熊本や鹿児島が以前から台風などで大雨被害常襲地帯ですが、北部では6年前、熊本、福岡、大分の3県で死者計30人を出した「平成24年7月九州北部豪雨」が記憶にあります。これも九州北部に、東シナ海から暖かく湿った空気が流れ込み、発達した雨雲が次々と連なる線状降水帯が発生したことによるものです。
2013年9月15日淀川河川事務所ホームページより転載、京都嵐山の桂川に懸かる渡月橋

■ 災害列島日本にはどこにも安全なところは無い
 今回の「平成30年7月豪雨」が特異だったのは、これまでの線状降水帯が局地的だったのに対し、日本全国、九州から北海道にかけての広い地域で災害が起きたことです。しかも愛媛県宇和島のみかん山の土砂崩れなどは、川による災害ではなく、山そのものが崩れたわけですから、いかに物凄い降雨量だったかが分かります。このような場合、対策のしようがありません。
 山間の土砂崩れは、里山に住む人はどこでも危険ということを教えています。また川の氾濫は、川の近くに住む人はどこでも危険ということを教えています。津波災害は海の近くに住む人はどこでも危険ということを教えています。こうなると、近くに山が無く、海も無く、川も無い地盤強固な高台しか安全なところは無いということになります。我が住む地域がこれに該当します。しかしながら、竜巻や落雷のようなものはむしろ広い平地が危険なので、結局災害列島日本にはどこにも安全なところは無いというのが正確でしょう。
 我が家の近くでも昨年水害が起きました。242『鎌倉』(2017年10月29日)をご覧ください。右写真のように、今回の災害と同様な氾濫が起きたのです。共通しているのはいずれもハザードマップの通りだったということです。自治体が出しているハザードマップを見て「まさか」と思っている人は今すぐ考えを改めないといけません。

2017年10月23日川越市寺尾小学校周辺は床上浸水 小学校の手前はセブンイレブン 車も水没

■ 利己的な日本人
 50年に一度の洪水などというのが頻繁に起きるようになったのはつい最近です。それだけ地球規模の温暖化が急激に進み、あるスレッショルドを越えたからと思われます。トランプ米大統領のパリ協定離脱などはとんでもないことですが、これを支持する人は米国はもちろん、日本にも居ることに留意しなければなりません。日本人は盛んにエアコンを使い、その電力を化石燃料発電に依存して地球を温暖化させながら、原発ノーと言います。外国人から見たら信じられない利己的な国民と映っていることに多くの日本人は気付いていません。トランプ米大統領を批判する資格は果たしてあるのだろうかと思ってしまいます。

■ 2020年の東京オリンピック・パラリンピックは大丈夫?
 海外の旅行会社のジョークとも取れる宣伝文句に思わず目がテンになったことがありました。「日本は犯罪が少なくて、とっても安全安心なところですよ...ただ、災害が多くてとっても危険なところでもあるんです、良く調べてくださいね」というものです。なるほど確かにそうですね。
 このところ連日猛暑日、防災無線放送で、熱中症に気を付けよと放送しています。昔は30℃越えは夏の一時期だけ、それが今では35℃なんて当たり前、天気予報で「本日は38℃から40℃も...」なんて言う有様です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、7月24日に開幕し、8月9日に閉幕することになっています。本当に、この時期で大丈夫でしょうか。ビルと大量の自動車と舗装道路の東京では、実際の気温が40℃を超えることも今や珍しくありません。かと思うと上で書いたように7、8月は豪雨災害時期です。こんな中でマラソンや競歩の陸上競技や、サッカーなど、さまざまな屋外競技が行われるわけですが、最近の東京の暑さは常軌を逸していますから、選手にとっては、あまりにも過酷な環境となる可能性大です。

■ 老神に行こう
 かつて少年野球の合宿で毎年尾瀬の手前の片品村に行ってました。老神温泉の脇を通るロマンチック街道を通り、東小川温泉に宿泊していました。途中で吹割の滝を通るので、浮島如意輪観音に後半戦必勝祈願をしたものです。
 7月初めに腰を痛め、湯治のため老神に行こうと思い立ちました。何度も通りながらここの温泉は未経験だったからです。13日の金曜日、日は悪いかもしれませんが気にせず出発進行!急ぐ旅ではないので高速道路を使いません。関越道で行けば宿まで1時間45分で着くようです。これだと疲れないので良いでしょうが、下道を通って行こう、我が家の前の国道254号(川越街道)を北進し、圏央道川島IC手前で右に分かれて吉見町経由荒川を渡り、JR高崎線を越えて、国道17号を行田市〜熊谷市〜深谷市と通り、利根川を渡って、群馬県太田市に入りました。道の駅おおたで休憩しました。それにしても暑い!東武伊勢崎線を越え、新田の工場地帯、澤藤電機の工場があります。やがて伊勢崎市に入りJR両毛線を越え、北関東自動車道を潜ります。赤城山がくっきりと見えます。なにせ右手に国定駅があるのです。

吹割の滝(2018年7月13日)
 みどり市に入り、ここから大間々〜桐生市黒保根〜沼田市利根町と赤城山の東側をぐるっと回り、薗原湖の脇を通って日本ロマンチック街道に合流するやすぐ右折して老神温泉というのが定番なのですが、何故か最短距離の赤城山越えルートを選択しました。

■ 赤城山
 赤城山は一つの大きな火山体の名称であり、同名の峰は存在しません。地図上で赤城山というのは黒檜山(くろびさん)のことです。榛名山、妙義山と並び、上毛三山の一つに数えられます。また、日本百名山、日本百景の一つにも選ばれています。中央のカルデラの周囲を、円頂を持つ1,200mから1,800mの峰々が取り囲み、八甲田山や八ヶ岳と同様に八峰の山塊で構成されています。カルデラの外側は標高にして約800mまでは広く緩やかな裾野の高原台地をなしており、奇妙きてれつな山が多い群馬県にあっても、どこから見ても広い裾野を持ってポコポコ山がある不思議な形の山です。裾野は富士山に次ぐ日本で二番目の長さだそうです。中央部のカルデラ内には、カルデラ湖の大沼(おおぬま、おの)や覚満淵(かくまんぶち)、火口湖の小沼(こぬま、この)があります。大沼の東岸に最高峰の黒檜山があり、その山麓に当たる場所に赤城神社があります。黒檜山(くろびさん、1,828 m):最高峰。駒ヶ岳(1,685 m):外輪山。地蔵岳(1,674 m):溶岩ドーム、山頂に複数の通信施設あり。長七郎山(ちょうしちろうさん、1,579 m):小沼火山の火口縁。小地蔵岳(1,574m):小沼火山の一部で、爆裂火口の小沼を囲む火口壁の一部。鍋割山(なべわりやま、1,332 m):溶岩ドーム。荒山(あらやま、1,572 m):溶岩ドーム。鈴ヶ岳(すずかだけ、1,565 m):溶岩ドーム。血の池というのは火口です。

■ 赤城越え
 赤城山越えルートを選択しましたが、これは過酷でした。なにしろカーブが登るだけで100箇所ぐらいあるのです。クネクネクネクネ、大曲がり、小曲がり、道幅は狭いし、大変でした。登るに連れ、車のメーターに表示される外気温度がグングン下がって行きます。途中で鹿に遭遇しました。可愛い顔でじっとコチラを見ていました。やっと登りが終わった辺りで標高は1,480mぐらいです。
 ちょっと下ると小沼の脇に展望所、駐車場、トイレがありました。外に出てみたら涼しいこと、下界は30℃以上でしたから別世界です。標高からして10℃以上低いわけです。小沼は1周約1kmの火口湖で、標高約1,450m、周囲には手つかずの自然が残り多様な植物が自生しています。小沼と言うけれどかなり大きい沼です。隣が長七郎山です。ここからさらにちょっと下ると大沼がありました。大沼は1周が約4kmのカルデラ湖で、標高約1,350m、氷上ワカサギ釣りやボートなどのレジャーが盛んだそうですが、平日なのでほとんど客は居ません。土産物店を兼ねた食堂がずらりと並んでいます。ここから上毛三山パノラマ街道をまたクネクネ下りました。南郷温泉で大きな道路に出て、薗原湖の脇を通って日本ロマンチック街道に合流するやすぐ右折すると老神温泉ですが、まずは吹割の滝に寄って、その後で老神温泉に戻りました。

■ 閑散とした老神
 老神温泉では観山荘という宿に泊まりました。220名収容、決して安い宿ではありません。食事も美味しく、立派な宿ですが、建物の老朽化が進んでいます。どうも食事しているのは我々含めて二組だけでした。信じられません。大浴場は老神7号泉、アルカリ性単純硫黄泉(低張性高温泉)でpH7.9、泉温59.1℃、温泉1kg中の成分は陽イオンNa132mg、Ca23mg、陰イオンCl100mg、SO144mg、HCO328.7mgが多く、メタケイ酸も63mg、露天風呂は老神8号泉と10号泉の混合泉で単純泉(中性低張性高温泉)pH8.5、泉温47.1℃、温泉1kg中の成分は陽イオンNa111mg、Ca23mg、陰イオンCl94mg、SO126mg、HCO332.4mgが多く、メタケイ酸も64mgとのことです。しかし硫化水素臭は無く、無色無味無臭です。大浴場は熱く、露天風呂はぬるい温度でした。温泉としては全く癖が無く、肌もすべすべになりません。ただ午前1時頃に露天風呂から見上げた満天の星空には感動しました。

赤城山の大沼


老神温泉観山荘の外観(上の看板は老神観光ホテルとなっています)

男性大浴場・観山の湯

男性露天風呂・殿の湯
 老神温泉は他の宿も混んでいるように見えません。日本の温泉街はどんどんさびれて行っていますが、ここも例外ではないようです。温泉オタクとしては寂しい限りです。
(2018年7月17日)


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