226  味噌汁

 7月7日は七夕でした。二十四節気では「小暑」であり、「梅雨明けが近く、本格的な暑さが始まる頃。集中豪雨のシーズン。蓮の花が咲き、蝉の合唱が始まる頃」とされます。前回は埼玉県行田市の「古代蓮公園」に行ったことを紹介しました。蝉の合唱はまだ聞こえませんね。「集中豪雨のシーズン」は今年も大変なことが起きています。一方で関東は荒川水系で10%の取水制限が始まり、庭で水撒きしていると後ろめたさを感じます。

■ 線状降水帯によるゲリラ豪雨
 福岡、大分両県を襲った記録的な豪雨、2011年3月11日の東日本大震災の津波映像を見ているような、すさまじい水の猛威に、言葉を呑みました。避難所で不自由な生活を続けている人たちは、「もう涙も出ない」、「生きてるだけ良かった」と言っていました。「線状降水帯」、「ゲリラ豪雨」、以前は聞いたことの無い気象用語が近年次々と出て来ます。今回福岡県朝倉市などを襲った大雨は地形的な要因などが重なり、局地的に記録的な雨量となりました。一方、大分県への特別警報発表が福岡県の2時間後になり、大分県日田市も孤立する集落が続出、局地的豪雨を予測する難しさも浮き彫りとなりました。

■ 毎年どこかで記録的大雨被害発生
 九州では熊本や鹿児島が以前から台風などで大雨被害常襲地帯ですが、北部では5年前、熊本、福岡、大分の3県で死者計30人を出した「平成24年7月九州北部豪雨」が記憶にあります。これも対馬海峡から朝鮮半島付近に停滞する梅雨前線の南側に位置する九州北部に、東シナ海から暖かく湿った空気が流れ込み、発達した雨雲が次々と連なる線状降水帯が発生したことによるもので、今回と同じです。線状降水帯は局地的なので、いつどこでゲリラ豪雨が起きるかわかりません。4年前の8月岩手県雫石町(25『事故と災害』)、9月台風18号による近畿地方を中心とした河川の氾濫や土砂災害(31『災害と地震』)、3年前の8月広島市(76『対馬丸』)、2年前の9月茨城県常総市(131『水害とダム』)、昨年8月台風9号による集中豪雨で埼玉県内の七つの川が氾濫(180『Rio→Tokyo』)、更に同月迷走台風10号で岩手県岩泉町中心に死者多数、後で分かったのは11号のほうが先に発生したものでした。毎年かつて無かったような記録的大雨による被害がどこかで起きています。
 7月9日は満月(望月)でした。暑くてカンカン照りの関東では、夜きれいな月が見えました。自宅が崩壊したり、身内をなくした被災者の皆様には月も無情に見えることでしょう。慰めの言葉もありません。

■ 若者の味噌汁離れ
 かつて食事になくてはならない存在だった「味噌汁」が、食卓から遠のいているのだそうです。6月28日の産経ニュースによりますと、大阪の街頭で、若者を中心に30人に「味噌汁を週に何回飲むか」と尋ねたところ、11人が2回以下と回答し、このうち「1、2ヶ月飲んでいない」など月1回以下とした人が4人、出汁をとることを知らない人もいたそうです。出汁=だしですよ、分かりますか?
 一般家庭の味噌消費も減少しており、1世帯あたりの味噌の年間購入量は右グラフで明らかなように右肩下がりの減少振りです。総務省の家計調査によれば、1世帯あたりの味噌の年間購入量(2人以上、農林業・漁業世帯を除く)は1979(昭和54)年には12.667kgだったのが徐々に減少し、10年後には10kg、30年後は7kgをそれぞれ下回り、2016年には5.255kgと1979年の半分以下にまで落ち込みました。
 味噌消費が減少している原因は何でしょうか?丸刈りの男の子「マルコメ君」と「♪マルコメ、マルコメ、マルコメ、マルコメ マルコ〜メみそ」のCMで有名な大手味噌メーカーのマルコメ(本社・長野市)は、若者の味噌離れを食い止めようと、世界的なモデルのミランダ・カーさんやアイドルグループ「モーニング娘」をCMに起用するなど対策に乗り出しています。日本の伝統食にいったい何が起きているのでしょうか。

■ 食の変化が味噌汁離れの要因、背景にある家族の変化
 ひとつ言えるのは、家族一人ひとりが別々に食事をとる『個食化』により、家族全員の分を作る味噌汁文化が衰退して行ったことです。次に考えられるのは食の洋食化です。イタリアンやパンと共に味噌汁という人は少ないでしょう。第三に食の多様化です。ファストフードやコンビニなど食の選択肢が増えたことです。また朝食を抜く人が増えたことも関係していると思います。
 やはり味噌汁と言えば家族が食卓を囲んで・・・という光景が眼に浮かびますが、そういう光景が減ったことが一番の要因と思います。この背景には世相の変化があります。我が身を振り返れば分かりますが、団塊の世代は、戦争で多くの人が死んだ反動で、人間の生存本能から戦後生めよ増やせよとなったものです。1947(昭和22)年から3年間にどっと子どもが生まれました。しかしさすがに食糧問題もあって、その後は出生数が減りました。その団塊の世代が成長するとともに日本は第1次産業だけでは食えないために第2次産業に軸足を移し、廃水の関係から沿岸部に工場を作り、地方からの大規模人口移動が始まりました。高度成長が始まり、団地で核家族が暮らす、当然地方の大家族は減少し、都会では夫婦と子ども二人が普通になりました。結婚しない人が居ますから、夫婦と子ども二人では人口が減ります。少子化ですね。そもそも政府は「家族計画」を啓蒙して、人口抑制策をとっていたんですよ。「家」を軸として跡継ぎ第一の「直系家族制」から「夫婦家族制」へ変わったことが現在の状況に繋がっているわけで、少子高齢化と束ねて言いますが、実は少子化と高齢化は別物です。
わらびの味噌汁

■ 味噌購入量は東北や九州が多く関西が少ない
 味噌の購入量は「東高西低」の傾向がはっきりしています。中でも、近畿が特に低く、大阪市と神戸市は、最低レベルの少なさです。味噌の消費量の都道府県ランキング(平成27年);「地域の入れ物」サイトをご覧下さい。別の統計データですが、世帯あたりのみその年間購入量を示した総務省の家計調査には、都道府県庁所在地(東京は23区部分)と5政令市の統計があります。大阪市、神戸市、和歌山市、奈良市など関西が少ないのに対し、東北や九州などは購入量が多く、昨年最多だったのは盛岡市(8.219kg)、次いで青森市(7.841kg)、新潟市(7.748kg)の順でした。最も少ない大阪市は出汁文化があり、みそ汁だけでなく、すまし汁を多く飲むとか、『食い道楽』のまちでもあり、カレーライスのときは洋風スープにするなど主菜によって汁物を変えるからではないかと推定されます。また、大阪はパンをよく食べることも影響しているのではないかと思われます。

■ 味噌汁の可能性は無限大
 日本の味噌は大別すると、大部分の地域で親しまれる米味噌、中京地方の豆味噌、九州地方などの麦味噌の3種類です。それぞれ米こうじ、豆こうじ、麦こうじで発酵させます。味噌汁の具材は、豆腐やワカメ、油揚げ、各種野菜、シジミやアサリなどの貝類、薬味はネギやみょうが、青紫蘇です。野菜といっても大根、人参、玉葱、ジャガイモ、キャベツ、白菜、もやし、さやえんどうなど、ピーマンやトマトを入れる人もいます。豚汁もおいしいし、牛肉やチーズも合うというひとが居ます。納豆汁もあるし、七味唐辛子やサンショウ、さらにオリーブオイルをかけるなど、いろいろな人が居ます。まさにみそ汁の可能性は無限大なんですね。

■ 和食ブームとともに見直される味噌汁
 食生活やライフスタイルの変化とともに味噌汁は飲まれなくなっており、若者にその傾向が強いと言われますが、和食が2013(平成25年)にユネスコの無形文化遺産に登録されたことが追い風になって、味噌の出荷量は下げ止まってきました。昨年はわずかですが0.17%増と、9年振りにアップしたのです。味噌汁は健康に良いという様々な方面からの発信もあり、味噌汁を含めた和食が見直されてきているのは間違いありません。

■ ちょっと変わっている我が家の味噌汁
 さて、我が家は味噌汁に関してかなり変わっていると思います。味噌汁大好き人間なのですが、コレに合う白いご飯をあまり食べません。美味し過ぎて太るからです。夕食は基本的にご飯抜きなので味噌汁も無し。液体ご飯が主食です。意味分かりますか?昼食は麺類です。そこで朝食に味噌汁です。パンに味噌汁、果物とヨーグルトです。果物は定番がバナナ、時にりんごだったり、季節によってさくらんぼ、メロン、みかんです。ヨーグルトに筆者はイチゴかブルーベリージャムを入れますが、連れ合いは黒ゴマキナコです。味噌汁は筆者が作ります。野菜具沢山、これだけで腹がくちくなります。必ず入れるのが油揚げとワカメ、さつまいもないしジャガイモです。芋の糖分が味噌汁を甘くするからです。

■ 岩手県が獣医師確保へ修学資金
 加計学園の問題が獣医師界を震撼とさせていますが、岩手県は、牛や豚など畜産業を支える獣医師職員の不足解消に向け、県内の高校3年生を対象にした「県獣医師養成確保修学資金」の貸与を本年度から開始します。大学生対象の支援は1991年から実施していますが、獣医師は犬や猫のような小動物を診る「ペット医」に人材が偏り、県職員獣医師は現状七名足りないのだそうです。高校生向けの修学資金制度は、県内3ヶ所の家畜保健衛生所などで獣医師として働くことを前提に県内生徒に貸与するもので、生徒が私立獣医師系大を卒業後、同衛生所などに9年間勤務すれば返還が免除されるというものです。貸与額は高校3年次に175万円以内、大学1〜6年次に月12万円。本年度の募集定員は1人で、全体の評定平均値4.3以上など県が課す募集条件を満たした人が応募できます。大学は国の補助事業(補助率2分の1)対象の麻布大、北里大、日本獣医生命科学大、日大、酪農学園大が対象です。足許の岩手大学農学部の獣医学科は全国的に有名ですが、連携している帯広畜産大学など、国立大学法人は対象外です。

■ 偏在する獣医師の現状
 実は獣医師は「ペット医」が余剰になってきているのに「産業医」が足りません。「ペット医」は都市部に偏在します。「産業医」の勤務地は当然ながら人の少ないド田舎と、保健所です。人間用の医師もド田舎にはほとんど居ません。医師も都会を好むからです。そこで地方では都市部よりずっと高い給与を提示して誘っていますがなかなか集まらないのが現状、来てくれるのは報酬よりも使命感に溢れた人だからです。しかも辺地医療では専門医よりも、広範囲の科目を診れるスーパードクターが求められます。獣医師も同じようなもので、数を増やしたからといって牛や豚、鶏の牧場巡りの現場に来てくれる獣医は少ないのです。しかもハイレベルの獣医師が求められますからなおさらです。こうした現状の打破に、いま獣医師界は悩んでいるのです。

■ 「南部美人 特別純米」が日本酒部門世界一に
 世界的なワイン品評会、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)の授賞式が英国ロンドンのホテルで2017年7月6日夜(日本時間7日朝)開かれ、日本酒部門の最優秀賞「チャンピオン・サケ」に二戸市福岡の南部美人(久慈浩介社長)の純米酒「南部美人 特別純米」が選ばれました。詳細は日本酒造青年協議会・酒サムライ本部のホームページをご覧下さい。
 同部門は2007年に創設されました。岩手県の蔵元の同賞受賞は初めてです。日本酒部門は全国の蔵元などが1245点を出品し、4月に銘柄を伏せた審査を行い、南部美人は同部門の純米酒の中で最高の「トロフィー」を獲得、さらにトロフィー9銘柄でトップのチャンピオンとなったのです。受賞者ら約800人が出席した中、夫婦で出席した久慈社長は「南部杜氏の酒造りと日本の酒が世界に認められた。社員や酒米農家を含む全員で勝ち取った栄誉だ」と喜びを爆発させました。昨年も本醸造部門で「トロフィー」を獲得しましたが、「チャンピオン・サケ」は山形県天童市の出羽桜でした。久慈社長の喜びの声をご覧下さい。

■ 南部美人の歴史
 南部美人の歴史は1902年創業、1990年「醸造」と言えば→東京農業大学を卒業した五代目・浩介氏が入社、1997年には海外への日本のsakeの輸出を始めました。2001年に社名を久慈酒造合名会社から株式会社南部美人に改変し、四代目の浩氏(現会長)が代表取締役に就任、2013年には浩介氏が代表取締役に就任しました。2011年の東日本大震災で岩手では有名な銘柄だった「酔仙」が被災、このときに湯島の「岩手屋」では酔仙が飲めなくなり、代わりに「南部美人」や紫波町の「月の輪」、岩泉町の「龍泉・八重桜」など五銘柄が置かれました。

満面の笑みの久慈浩介社長

■ 東日本大震災から一躍注目された南部美人
 東日本大震災を機に「南部美人」の浩介氏はマスメディアに登場、いろいろな場面で「岩手に南部美人あり」と有名になりました。首都圏でもたびたび「南部美人」を飲める機会が増え、筆者の知り合いの利き酒で有名な人も「南部美人はいいよ」と言っていました。不思議なことに段々と味が良くなっていく気がしました。これは東日本大震災で岩手に元気をと、株式会社南部美人とそれを取り巻く多数の人々が連帯し、一致団結して取り組んだ現れと思います。いくら頑張ろうと、日本酒の評価は人の舌です。頑張れば旨くなるというものではありません。しかし、実際に「世界一」を取得したのですから、これはもう岩手の誇りです。二戸の誇りです。

■ 父の日プレゼントで頂いたのがまさしくそのもので感動
 実は日本酒通の娘夫婦から父の日プレゼントで日本酒を何本か頂きました。「姿」という栃木の酒を飲んで、「まあまあおいしいね」という感想でした。実は我が連れ合いも日本酒好きです。「南部美人」がおいしいのは分かっていたので最後の楽しみにとっておいて、まずは連れ合いが「おいしい〜〜〜」と言うので、焼酎を飲んでいた筆者もひと口お相伴に預かると「むむ、何だコリャ、ウマイ!」と唸りました。最近に無いおいしさです。翌日ニュースでIWC「チャンピオン・サケ」に選ばれたことを知り、瓶を見たら、まさしく「南部美人 特別純米」そのものではありませんか!感動して、すぐに娘にメールしました。

■ 名城;九戸城のある二戸市
 この蔵元は、筆者の連れ合いのお父さんの出身地、二戸市で、今も実家には叔父さんが住んでいます。二戸市福岡字城ノ外の実家から北へわずか4百mのところに株式会社南部美人の蔵元があります。歩いて5分ぐらい、電線地中化したステキな通りにあります。秀吉の陰謀で滅ぼされた九戸政実(クノヘ マサザネ)の名城;九戸城があります。馬仙峡という渓谷もステキですよ。南部せんべいで有名な石切所の巌手屋も近くだし、東証一部上場メーカー澤藤電機の創業者の出身地でもあります。少し南の一戸町には「戸田久」という盛岡冷麺や南部蕎麦で有名な製麺工場もあり、社長は筆者の高校同級生です。更に南には岩手県岩手郡岩手町という元気な町があります。このあたりはつぶやき452『九戸城』(2011年9月11日)をご覧下さい。

■ オートメーションで羽ばたけ日本酒!
 今欧州や米国では日本のsakeが大人気です。一方日本では消費量が減っています。おいしい酒は「ワインみたいにフルーティ」だという人がいますが、これは正しくありません。「ワインよりおいしい」と言うべきです。世界のワイン品評会にsake部門が出来たのは、sakeファンが増えて、ワイン好きの人たちもこの酒を無視できなくなったからでしょう。ただ、ワインファンをsakeファンに転向させられるほどのおいしい日本酒を醸造できる蔵元は多くないし、安定的に輸出量を確保するのも困難でしょう。ここが最大の課題です。しかも杜氏の腕に頼るのも限界があります。杜氏のワザをAIに託し、安定的に美味しい酒を大量に醸造することは可能です。オートメーションを嫌う人も居ますが、いま日本の味噌や醤油がどうしてあんなに安い価格で店頭に並ぶのでしょうか?海外でも人気が沸騰する醤油は輸出以外に現地生産されています。どうして海外で醤油作りができるのでしょうか?日本でナンバーワンの醤油メーカーの人に聞いたことがあります。「日本では儲からなくていいんです。日本人は美味いだけでは買いません。コスパが求められます。でも日本で受けたら海外では高くても売れます。日本の気候で麹菌に活躍させて旨いものを作るのは至難の業ですが、空気と水のクリーン環境と温度、圧力のオートメーションによって海外ですら日本と変わりない製品を作ることができます。マーケティングリサーチは日本で、利益は海外で得る、日本人の舌が私たちのブランドを作ってくれているんです」とのことでした。なるほど、よく分かりました。日本酒でも、盛岡市のあさ開は、手作り醸造とオートメーションを併用する酒造メーカーです。「あさ開大慈清水仕込み」という純米酒など、一升瓶(1800ml)で1700円チョットという安さ、あの美味しさであの価格はオートメーションならではです。手作りの場合、どうしても品質の良し悪しにバラツキが出て、年によって出来栄えが変わります。樽によっても変わるかもしれません。オートメーション=自動制御の良さがここにあります。藤井聡太四段もAIにはかなわない時代です。こういう取り組みを続けていれば、日本酒は海外でもきっとファンを増やしていくことでしょう。
(2017年7月10日)


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