383  開き直る

 今年の梅雨の初期には、梅雨明けは早まりそうだとの予報でした。それが一転、来る日も来る日もシトシトとぐずついた空から時折ドシャーッと降雨、晴れ間は2日ぐらいだったでしょうか?そこへ近年の梅雨時恒例の豪雨災害、まだ梅雨末期とは言えないのに、九州から四国、紀伊半島、岐阜、長野と日本列島に沿っての大雨は、7月3日の降り始めから7月10日までの降雨量が九州を中心に8地点のアメダスで1000ミリ以上に達し、記録的な大雨となっています。

■ 令和2年7月豪雨
 気象庁では、顕著な災害を起こした自然現象について名称を定めており、令和2年7月9日に、同年7月3日より続いている豪雨を「令和2年7月豪雨」と命名しました。気象庁がこれまで正式に命名した自然現象は、洞爺丸台風と名付けた昭和29年の台風15号以降31回、「令和2年7月豪雨」は32番目です。ただしこれは、初めての継続中の現象の命名なのだそうです。7月3日0時から9日24時までの168時間(7日間)降水量は、東海地方から紀伊半島、四国、九州で200ミリを超え、高知県馬路村魚梁瀬で1241.5ミリ、大分県日田市椿ヶ鼻で1168.5ミリ、熊本県湯前町湯前横谷で1157.0ミリ、鹿児島県鹿屋市は1146.0ミリ、福岡県大牟田市は955.5ミリの雨を観測し、平年の1年間に降る雨の約50%がこの一週間で降ったことになります。また、1時間降水量など、時間別の降水量も九州各地や岐阜県、長野県を中心に観測史上1位が続出しました。この大雨は、7月12日まで続くと見込まれています。熊本、鹿児島、長崎、福岡、佐賀、大分、岐阜、長野の被害が特に甚大のようです。想像を絶する大雨で被害を受けた皆様の絶望の姿をテレビ画像で見て、本当に気の毒だと感じ、言葉を失いました。7月11日13時現在、九州では死者は計65人、熊本県62人、福岡県2人、大分県1人。行方不明は熊本県7人、大分県5人、長崎、鹿児島両県各1人で計14人となっています。これまでの災害では週末に全国からボランティアが駆け付けるのですが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、各自治体では県内の参加者に限定するという話でしたが、またまた大雨で7月11日(土)はボランティア受け入れ中止、という状態です。

■ 老人施設での浸水で死亡例が多い
 熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」では、球磨川とその支流の水位が2020年7月4日未明から一気に上昇し、入所者14人が死亡しました。氾濫した川の濁流が押し寄せたのは4日早朝で、施設職員と地元住民らが力を合わせ、入所のお年寄りたちを2階に避難させたものの、全員を救うことはできませんでした。この施設がある地域は最大で深さ10〜20メートルの浸水が想定されていました。このため施設は法定の避難計画を策定し、訓練も実施していたそうです。
 2009年7月の中国地方の豪雨では、山口県防府市の特別養護老人ホームに裏山から崩れた土砂が流れ込み、入所者7人が死亡、2016年8月の台風10号では、岩手県岩泉町の認知症グループホームが小本川の激流に直撃され、入所者9人が逃げ遅れて亡くなりました。この被害を受け、2017年に水防法や土砂災害防止法が改正されました。2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)では埼玉県川越市の越辺(おっぺ)川の堤防が決壊し、浸水被害が広く発生しました。川越市の特別養護老人ホーム「川越キングス・ガーデン」は、越辺川とその支流小畔(こあぜ)川に挟まれていて、大きな河川;入間川もすぐ近く、近隣には各種福祉施設がたくさんある地域です。平屋建ての棟では屋根に達するほど浸水し、周囲から完全に孤立するという被害に遭いました。しかし、この施設では一人の犠牲者を出すこともなく、全員を無事避難させることができました。2019年10月13日午前2時ごろ浸水に気づき、20人以上の職員が総出で、移動に介助が必要な人を車いすやベッドごと平屋建ての棟から3階建ての別棟へ移動させました。入居者120人規模の施設なら通常夜勤職員は5人程度なのに、20人以上の職員がいたということは、台風に備えて通常の夜勤者以外に多数の職員が泊まり込んでいたわけで、この施設の災害対応への意識の高さを感じます。ただ、今回の「千寿園」では気象庁も「予測困難だった」という突発的大雨であり、それも線状降水帯がかかって被害想定降水量の2倍という想定外の大雨だったことから、避難訓練していても対応しきれなかったということで、関係者の無念は察して余りあります。


令和元年東日本台風では長野新幹線車両水没
2019年10月13日


■ 温泉地の被害
 温泉地と言えば、河川沿いにあるところが多いですね。普段は美しい風景が広がり、地元民も観光客も楽しませてくれるというのが一般的温泉地の光景ですが、梅雨時期や台風の到来によって、その姿は一変します。大分県日田市天瀬町の天ケ瀬温泉では、温泉街を流れる玖珠川が氾濫、橋は流され、死者も出ました。温泉豊富な熊本県でも、人吉温泉では旅館組合に加盟する9軒のほとんどが土砂の流入などで休業、同県小国町の杖立温泉では宿泊施設の被害に加え、大量の岩や石が温泉街の道路をふさいでいます。岐阜県では全国的に有名な下呂温泉が被害を受け、どこの温泉地も観光客はコロナ禍で3月から激減し、各施設は「ほぼ休業状態」が続いていましたが、再起に向け、今月下旬から盛り返そうとしていた矢先の豪雨でした。
 別府温泉郷、湯布院温泉郷で有名な大分県は「日本一のおんせん県」をキャッチにしています。温泉の源泉数、湧出量ともに日本一だからだそうです。源泉数:4,342ヶ所(2位は鹿児島県の2,773ヶ所)、湧出量:279,462リットル/分(2位は北海道の235,346リットル/分)です。今回の豪雨災害からの復興・復旧は大変でしょうが、頑張って下さい。いずれまた行きます。


豊後富士;由布岳は日本二百名山ですが、その美しさには感動します


■ 湯布院温泉郷
 大分県由布市の湯布院温泉郷、由布院温泉・・・アレ?湯布院、由布院どちらが正しいんだ?と混乱します。「昭和の大合併」で1955年に大分郡由布院町と湯平村が合併したときに両者の頭を取って湯布院町になりました。その後「平成の大合併」で2005年に近隣2町(庄内町と挾間町)と合併して由布市となりました。町名とインターチェンジは「湯布院」で、駅名と温泉名は「由布院」です。由布院小学校の子が、湯布院中学校に進むという、何ともまあ面白い話・・・国民保養温泉地の名称は「湯布院温泉郷」ですが、これは由布院温泉、湯平温泉、塚原温泉、庄内温泉、挾間温泉で構成されます。別府温泉郷と異なり歓楽街が無くて、規模の大きい宿が無いのが特徴で、特に女性に人気の温泉地です。

■ 湯平温泉「つるや隠宅」

 大分県由布市湯布院町の湯平(ゆのひら)温泉、鎌倉時代から続くとも言われる温泉で、旅館「つるや隠宅」を営んでいた渡辺登志美さん(81)一家は、7日深夜に家族4人で避難所と旅館の移動中、車ごと流され、登志美さんは9日に遺体が発見されましたが残る3人の安否が気遣われています。大女将だった登志美さんは明るくて料理上手で歌が好き、娘の由美さん(51)に女将をゆずり、孫の健太さん(28)と旅館を切り盛りしていました。健太さんはツイッターなどで旅館の情報を発信、インターネット上に作った着物姿の旅館公式キャラクターは「電脳女将」として話題でした。


「つるや隠宅」の当主・渡辺健太さんが発信するホームページやSNS情報は人気でした


■ 中国の三峡ダム、完成後最大の危機
 世界最大の水害大国・中国の三峡ダムはいま、完成後最大の危機と言われています。6月2日から、長江流域を含む中国南部を豪雨が襲い、1ヶ月以上経った現在も降り続いていて、被災者は3千万人以上に上るそうです。台湾メディアでは、「三面挟攻」(サンミエンジアコン)という表現を使い、空から降ってくる豪雨長江の上流から流れてくる激流、それに三峡ダムの放水による「人工洪水」という「三面からの挟撃」に遭って、武漢や上海など、長江の中下流地域が甚大な被害に見舞われるのではないか?という報道が溢れています。そして「三面挟攻」の結果、「そもそも50年しかもたない三峡ダムが決壊するリスクが出てきた」と報じています。「三峡ダムの『豆腐渣工程』(トウフジャーコンチャン=おから工事)によって水が漏れだしやすい」という指摘もあります。全長3335m、高さ185m、発電量1000億kWhという世界一の巨大ダムの三峡ダムでは貯水量が増え、放水しても追いつかない状況で、中国水利省によると、警戒水位を3.5メートル上回っているそうです。もし決壊したら甚大な被害にみまわれて政権が崩壊すると言われています。今すぐは無くても、この天変地災の凄まじい増加を見ると、時間の問題で、いずれ人為的に壊すような気がしますね。航空写真で見ると水圧でダムが変形してきているようにも見受けられ、まるで爆弾を抱えているようなものです。しかも何と言っても中国の工事ですから...

■ COVID-19の感染者が増加
 緊急事態宣言解除後、6月19日には県をまたいでの移動自粛が解除されてから2週間、COVID-19の感染者が急増しています。東京都では急激に増加して、ついに最多記録を更新する事態になりました。新型コロナウイルスの感染者は7月11日(土)206人、7月12日(日)も)206人、過去最多だった10日(金)の243人より減少したものの、200人台は4日連続の高い水準となりました。感染者は20代〜30代で7割、感染経路不明が5割に迫り、市中に感染が広まっている模様です。ホストクラブなど「夜の街」関連だけにとどまらず、職場や保育園、家庭内での感染事例も目立ち始め、隣県にも感染が拡大して不安が広がっています。繁華街では会食などの自粛の動きもあり、本来ならにぎわうはずの週末の夜でも客足がまばらとなりました。ホストクラブでクラスター(感染者集団)が発生した池袋や、さいたま市の大宮・南銀では従業員のPCR検査を開始しました。
 東京圏だけではありません。大阪府は7月12日(日)、32人の新型コロナウイルス感染が確認されたと発表しました。感染状況判断の独自基準「大阪モデル」は、警戒を呼び掛ける「黄信号」が初めて点灯しました。これはヤバイ、大阪府は対策本部会議を開いて、対応策を決めるようです。


菖蒲

あやめ

かきつばた

 菖蒲とあやめ、かきつばた(杜若)の違いはわかりますか?花菖蒲(ハナショウブ)は湿地や草原を好み、葉は平たく細く剣のようなフォルムで、地下には根茎を持ちます。菖蒲は花びらの付け根に黄色の筋があります。あやめは、花の付け根に網目上の模様があり、明るい草原を好みます。かきつばたは、花びらの付け根にある白い筋で見分けます

■ 国と東京都の連携?一方で政府は緩和に舵切って...
 東京で感染者が急増した背景には、PCR検査の数が増えたことや歌舞伎町などの“夜の街”の関係者に積極的に検査を実施し、ホストクラブなどの従業員らが応じたことがあるとみられます。西村康稔経済再生担当相は10日、新型コロナウイルスの感染が相次ぐ東京都内の夜の繁華街対策について、小池百合子知事と会談し、終了後に記者会見して、積極的な検査や事業者の感染予防策への支援、都の保健所に対する国や近隣県からの人的支援を連携して進めていく意向を示しました。西村氏は「夜の街で集中的に検査をし、封じ込める」と述べ、無症状者や、陽性者の出ていない店舗も対象に含めるとしました。以前はパチンコ店を悪者にし、今回は「夜の街」を血祭りにしていますが、一方で大型イベント等の緩和、22日から前倒しでgo toキャンペーンを始める・・・政府自ら全国に感染拡大を後押しするようなキャンペーンを始めているわけで、これで良いのか?はなはだ疑問です。


■ 菅義偉官房長官…感染再拡大は「東京問題」、井戸兵庫県知事…「東京は諸悪の根源」
 菅義偉官房長官は「直ちに再び緊急事態宣言を発出する状況に該当するとは考えていない」として、小池百合子東京都知事が「不要不急な他県への移動を控えるよう」と都民に呼び掛けたことに対して明確に否定しました。11日には北海道千歳市内で講演し、感染再拡大について「東京で3日連続200人越え・・・この問題は圧倒的に『東京問題』と言っても過言ではない。東京中心の問題になってきている。これによってまた緊急(事態)宣言をするのかとよく聞かれるが、政府としては今の社会経済活動を進めていくという方針には変わりはない。緊急事態宣言を出した当時と比べ入院している人が大幅に減少しており、今は徹底してPCR検査をして陽性の人を探す、攻めの姿勢で対応している」と述べました。兵庫県の井戸敏三知事は9日、神戸市で開かれた県の新型コロナウイルス対策本部会議の冒頭あいさつで、感染者が急増する東京について「諸悪の根源」と発言しましたが、直後に「『諸悪』は取り消す。感染源は東京が多い」と修正しました。TVのワイドショーでは「普段思っていることがポロリと出たね」と言われていました。

■ 岩手県民…東京、早く何とかしろ!
 小池百合子東京都知事は記者会見で、「夜の街が」、「比較的若い世代が」と繰り返していますが、都民の不安は増すばかりです。こんな首都・東京・・・欲望渦巻く大都市とは対照的に、地方ではコロナに対する認識がまったく違います。感染者がゼロであることが世界的に注目されている岩手県民は「感染者が出ていなくても外出を控えて、外出するときは必ずマスクをするのが当たり前です。真面目な県民性ゆえ、コロナ感染者ゼロを死守することにナーバスになっています。東京の“夜の街”の人はコロナが怖くないんですか?」と不思議がっているそうです。息子が帰省していいかと伺いを立てたところ、父から「絶対に帰るな」「岩手1号はニュースだけではすまない」と危惧するメッセージを送ってきたというのがニュースになりました。そんな岩手県民から見ると、「日本の首都がこんな状況では、岩手や他県の人たちが頑張っても、東京から広がればどんなことになるやら。早く何とかしろ!と言いたい」と怒りにも似た不安の声が飛び出しているのだそうです。


 クロコスミア…夏の花ですね、強くてよく増えます


■ JR東日本「えきねっと」で50%オフ割引を8月20日から
 JR東日本は、ネット予約サイト「えきねっと」会員限定の「お先にトクだ値スペシャル」を発売します。これは、観光業の復興支援を目的に、国が行う旅行代金補助施策「Go To Travelキャンペーン」に合わせてJRグループが共同実施する「旅に出よう!日本を楽しもう!キャンペーン」の一環として行うものだそうです。新幹線では、「JR東日本の全新幹線」を対象に、東京駅と上野駅、大宮駅を発着する列車を中心に50%オフとなる割引があります。利用は2020年8月20日から、北陸新幹線「かがやき」「はくたか」は2020年9月30日まで、その他の新幹線は2021年3月31日まで有効です。詳しくはJR東日本「えきねっと」HPをご覧下さい。しかし東京圏でCOVID-19の感染再拡大下、北海道、東北、北陸へウイルス持って旅行する?いかがなものでしょうか?

■ 新宿区の感染者見舞金10万円の支給はいったい何なの?
 新宿区では、感染が確認された人に1人当たり10万円の見舞金の支給を決めました。10万円をもらえるからラッキーくらいにしか思っていないホストが客の女性に感染させて、その女性が家族や友人に…などと考えると恐ろしいですね。この狙いはいったい何なのでしょう?そんなお金が有るなら、PCR検査の拡大に使うべきではないかという気がしますが、新宿区は、感染する人は、したくなくても働かざるを得ない、可哀そうな人だ、じゃあ見舞金を上げよう、という発想かもしれません。そういう人たちが集まってくる新宿区だからこそ...という発想なのかもしれませんね。岩手県人にはアンビリーバボーなことかもしれません。

■ 俄か将棋ファン
 3年前に天才少年棋士が話題になってから、俄か将棋ファンになりましたが、ルールを覚えようという気にはなりません。勝負メシが話題になりましたが、それも左程気になりません。ただ、将棋の対局というのはスポーツ以上に体力を消耗するだろうというのは分かります。必死になって頭を使うとエネルギーを消費することは経験上分かっているからです。座布団に座って考え込む姿を見ていると、これは大変だろうな〜と考えてしまいます。棋士をテーマとした映画『3月のライオン』については206『金正男氏殺害』(2017年2月19日)211『卒業式』(2017年3月27日)216『3月のライオン』(2017年4月29日)で過去三度紹介しました。監督・脚本の大友啓史(おおとも けいし)氏は筆者の高校後輩です。ヤングアニマルに連載された羽海野チカさんの漫画が原作です。6月に始まる将棋順位戦は昇級、降級を賭けた最終局が3月に行われるため、棋士が3月にライオンとなるのだそうです。これは「将棋をテーマ」にした作品ではなく「将棋を職業とした一人の男の子の人生とそれを取り巻く人々を描いている」作品と見ました。将棋のルールがわからなくても楽しめます。隣町出身の神木隆之介演じる主人公桐山零と小学校時代からのライバルで友人の二海堂役は染谷将太、病気持ちながら零のことを叱咤激励します。この役作りは素晴らしい!あのほっそりしたイケメンの染谷将太が、どうやってムッチリ二海堂に変身したのだろう?しかもあの目力・・・スゴイ!いまNHK大河『麒麟が来る』で織田信長を演じていますが、映画『3月のライオン』でこの俳優が大好きになりました。佐々木蔵之介の島田八段は山形出身、ふるさとの干し柿やお菓子を対局中ぱくぱく食べています。山形から送られてきたダンボールを開封していた時、ダンボールに「JAてんどう」の文字が見えました。目力のスゴイ伊藤英明の後藤九段との手に汗握る対局は迫力がありました。島田八段は干し柿をぱくぱく、後藤九段はまんじゅうをもぐもぐ食べながらの睨み合いです。『それでもボクはやってない』で一躍有名になった加瀬亮が演じた宗谷冬司名人の落ち着き払った着物姿、線が細いようでいて本当に強い人の魅力を感じさせます。桐山零のモデルは羽生善治九段、すると二階堂のモデルは村山聖(さとし)さんでしょう。風貌からしてそうですが、羽生善治と並び称された天才で、難病ネフローゼを患い、病に苛まれ続けた人生は、わずか29年、志半ばで終わっています。宗谷冬司名人のモデルは谷川浩司九段、島田八段のモデルは島 朗九段でしょう。


キャスト紹介・・・左上より幸田香子(有村架純)、幸田柾近(豊川悦司)、川本あかり(倉科カナ)、
後藤正宗(伊藤英明)、桐山 零(神木隆之介)、二海堂晴信(染谷将太…役作りのためデブになった)、
宗谷冬司(加瀬亮)、川本ひなた(清原果耶)、島田 開(佐々木蔵之介)、川本相米二(前田吟)


■ 将棋界を揺るがした将棋ソフト不正使用疑惑騒動
 将棋ソフト不正使用疑惑騒動とは、三浦弘行九段がスマートフォンを利用してコンピュータ将棋ソフトを公式戦対局中に不正に使用したのではないかという疑惑を発端として2016年から2017年に起きた一連の騒動です。
 三浦九段の対局中の離席(特に久保利明九段との対局での30分以上の離席)や指し手の傾向(特に渡辺明竜王(当時)との対局で三浦九段が局後の感想戦で示したコンピュータ将棋風の指し手)などを怪しんだ一部の棋士の告発によって、三浦九段がスマートフォンを利用してコンピュータ将棋ソフトを対局中に不正使用したのではないかとの嫌疑がかけられ、日本将棋連盟の聞き取り調査に対して三浦九段は疑惑を否定したものの、調査のために休場することとなり、最終的には休場届の未提出を原因として連盟から出場停止処分が下されました。三浦九段は第29期竜王戦挑戦者に決定していましたが、出場停止に伴い挑戦者が丸山忠久九段に交代するという異例の事態となりました。その後、第三者委員会による調査が行われ、
 @不正行為に及んだ証拠がない
 A告発の理由とされていた30分以上の離席は存在しなかった
 B告発の理由とされていた感想戦で示した指し手は事前に三浦九段が棋士仲間と研究していた手であった
ことなどが結論づけられたのです。
 日本将棋連盟は三浦九段を復帰させた上で謝罪・和解し、三浦棋士の疑惑が完全に晴れた旨を宣言しました。騒動の責任を取って、谷川浩司会長と島朗常務理事が辞任しましたが、棋士たちの中から他の連盟理事も責任を取れとの声が出て、青野照市専務理事、中川大輔常務理事、片上大輔常務理事の3名が臨時総会で解任され、残る2人はその必要なしとされました。また、この騒動をきっかけに、今後は同じような疑惑を生じることがないよう、様々なルール改定が行われ、電子機器所持に対する罰則が定められ、金属探知機による検査が行われることとなりました。また、波及として、囲碁界でもスマートフォンの取り扱いについてルールが定められました。日本将棋連盟の佐藤康光新会長は三浦九段と協議し、連盟が三浦九段に高額の補償金を支払うことで和解することになりました。

■ その後三浦弘行九段は?
 三浦九段は、4ヶ月振りの復帰第一戦を2017年2月13日、渋谷区の将棋会館で竜王戦予選の1回戦、過去の対戦で大きく負け越している羽生善治三冠(当時)と戦い、一進一退の攻防の末、共に持ち時間を使い切る熱戦になり、最後は羽生三冠に敗れました。この日が誕生日だった三浦九段は、一時有望とみられた局面もあり、ブランクを感じさせない戦い振りでした。三浦九段は、復帰直後は4連敗を喫しましたが、2017年度は結局24勝15敗(勝率 .615)と、トップ棋士としては堂々の成績を挙げました。将棋ソフト不正使用疑惑騒動の一方の当事者である渡辺明棋士は、2017年12月4・5日の第30期竜王戦第5局で羽生善治九段に敗れ、1-4で竜王を失冠、これをもって羽生善治永世竜王、永世七冠が誕生しました。第76期順位戦A級(2017年6月〜2018年3月)に三浦九段は11位張出として出場し、最終的に残留枠を賭けて渡辺明九段と対戦することとなり、奇しくも当事者同士がA級残留を賭け対戦することとなりました。結果は三浦九段が勝利し残留を決めました。渡辺九段は8期所属したA級から降級となり、2017年度の成績はプロ入り以来初の負け越しとなる21勝27敗、勝率.437でした。事件のことを三浦九段に謝った渡辺明九段は、これが尾を引いて自身曰く「どん底状態」に陥ったのでしょう。三浦九段は2020年7月11日に行われたプロ将棋界初の早指し団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」の決勝トーナメント1回戦で、チーム広瀬と4-4のフルセットの最終第9局、チーム三浦・三浦弘行九段(46)がチーム広瀬・広瀬章人八段(33)とのリーダー対決に勝利して激闘に終止符を打ち、準決勝進出を果たすなど、好調な将棋を見せています。

■ 渡辺明三冠は現在最も強い棋士
 既に永世竜王の称号を得ている渡辺九段の歴史の中で語り草があります。2008年の第21期竜王戦七番勝負、渡辺竜王に対し挑戦者の羽生九段がいきなり3連勝、しかも局が進めば進むほど羽生九段の圧勝度が増し、誰もが羽生の竜王奪取、それにともなう永世竜王、永世七冠の誕生を信じて疑っていなかったときです。第4局では壮絶な終盤戦を制して渡辺竜王の勝利。続く第5局も制し、第6局では完勝。最終第7局は逆転に次ぐ逆転となり、最後は1分将棋を渡辺竜王が制して、第4局以降の4連勝で竜王戦5連覇を達成、永世竜王の称号を獲得しました。この最終第7局は、その後将棋大賞の「名局賞」となり、羽生九段とともに受賞しました。七番勝負のタイトル戦での3連敗4連勝は将棋界では初めての出来事でしたが、9ヶ月後の王位戦でも深浦康市九段が達成しました。2018年度以降渡辺明九段は復調し、現在三冠、最も強い棋士と言われています。

■ 次々と史上最年少記録を更新する藤井聡太棋士
 藤井聡太七段が2020年6月8日に開幕した「第91期棋聖戦五番勝負」で、タイトル挑戦の史上最年少記録を更新しました。迎え撃つのは渡辺明棋聖(棋王・王将と合わせて三冠)です。藤井聡太棋士は小学校4年生で新進棋士奨励会に入会、中学1年生の2015年10月18日に、史上最年少(13歳2ヶ月)で奨励会三段に昇段、中学2年生・14歳2ヶ月で四段昇段=プロ入りを決め、ヒフミンこと加藤一二三棋士の持つ最年少棋士記録を62年ぶりに更新しました。2016年12月24日に行われた第30期竜王戦6組ランキング戦、ヒフミンとの対局が、プロデビュー戦となりました。両棋士の年齢差は62歳6ヶ月で、記録に残っているプロ棋士の公式戦では最多年齢差の対局となりました。藤井棋士が更新するまで最年少棋士記録を保持していたヒフミンを110手で破って、公式戦勝利の史上最年少記録を更新しました(14歳5ヶ月)。当時の史上最年少棋士・藤井聡太四段の29連勝について、渡辺明三冠は「天才としか言いようがない。いずれは自分を踏みつけて上に登っていくでしょう」と語っていました。中学生がデビュー後、半年間勝ち続け、敗北を知らないまま公式戦29連勝の大記録を樹立したのです。将棋が社会現象を巻き起こしました。
 藤井聡太棋士は王道のきれいな将棋も指すし、相手の得意な戦型を迎え撃つのは羽生善治九段に近い、「千駄ヶ谷の受け師」こと木村一基九段のディフェンシブな棋風も、「光速の寄せ」で棋界を席巻した谷川九段のようなオフェンシブな棋風もどっちもやるので、今までに無いタイプの棋士と言われます。


羽海野チカさんの描いたイラスト・・・映画館で頂きました


■ 第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負
 「第91期棋聖戦五番勝負」は第1、2局ともに藤井棋士が王者を圧倒しての勝利でした。渡辺棋聖は、竜王を通算11期、棋王を連続8期などタイトルを計25期獲得し、「永世竜王」「永世棋王」の永世称号を持つトップ棋士で、今一番強いヒトと言われています。対局を見ていた同僚棋士たちからは「渡辺棋聖の敗因がわからない」という声も多数聞かれました。いつのまにか負けている、こういう負け方はきついそうです。どこに反省点を求めるべきかわからないからです。しかもこれで、渡辺棋聖は藤井聡太七段に0勝3敗、トップ棋士が新人にこの有様ではいかにも面目ありません。しかし渡辺棋聖は番勝負を35回経験してストレート負けはありません。しかも上記の如く2008年の第21期竜王戦七番勝負では、挑戦者の羽生善治九段に3連敗のカド番から4連勝した実績の持ち主です。このままムザムザ負けるとは思われません。2連敗でカド番に追い込まれた渡辺棋聖は「こうなったら開き直るしかありませんね」と言いました。これは何か起きそうだな、という予感がしました。

■ 第3局は渡辺棋聖勝利
 第3局は7月9日、東京都千代田区の都市センターホテルで指され、渡辺棋聖が勝ってカド番をしのぎ、対戦成績を1勝2敗としました。筆者はABEMA-TVの「将棋チャンネル」で実況を見ていました。解説は長丁場なので森内俊之九段と高見泰地七段が交代で務め、聞き手は杉本昌隆八段門下で藤井聡太七段の先輩である室田伊緒女流二段と中村桃子女流初段でした。しかもここには将棋AIが予想する両者の勝敗確率も時々刻々と表示されます。将棋AIも次々と先を読みますから、盤面が動かない間も勝敗確率はコロコロ変わります。必死になって考えてるんだなと思うと、なんだか可笑しくなります。対局は藤井七段の先手番で始まり、角換わり腰掛け銀の藤井七段得意の形で午前中から激しい戦いになりました。渡辺棋聖は藤井聡太七段が一気に攻めかかってくることを予想していたようで、時間をかけずにポンポン対応しました。午後になってすぐに終盤戦に突入するという速い展開でした。別室で見守っていた棋士たちからは藤井優勢という声が聞かれました。

■ 最後に時間を残し、間違えない対応はさすが
 しかし藤井七段が攻めても渡辺棋聖がポンポン返す、おかしいなぁ〜と藤井七段が考える、いつの間にか藤井七段の持ち時間が少なくなり、渡辺棋聖はタップリ残っている、それでも将棋AIの判定は互角、渡辺棋聖も余裕があるようではなく、真剣そのもの、やがて藤井七段の持ち時間はほとんど無くなる、もうジックリ考えてはいられない、エイッと返した駒に対して渡辺棋聖がパチーンと盤面に大きな音を立てて駒を置く、室田伊緒女流二段が「渡辺棋聖の自信がこの音に表れているんでしょうか」と解説の高見泰地七段に言うと、「そうですね、棋士がこういう駒の置き方をするときは、来い!来てみろ!という相手に対する挑発ですね」と答えました。藤井七段は王手連発で渡辺棋聖に迫ります。一分将棋に入りました。このあたりから将棋AIは渡辺棋聖優勢を表示しますが、渡辺棋聖は攻める藤井七段の手に対してジックリ考えます。そうか、このために時間を残していたのか、と納得しました。結局渡辺棋聖が勝ちました。消費時間は藤井七段3時間59分、渡辺棋聖3時間47分でした。終了後のインタビューで渡辺棋聖は「午前中は想定の範囲でやってました。その後は、対応も広く、変化も多いので時間を残してました。ちょっと指しやすいと思っていたんですが、終盤読んでない手がいっぱいあった。取りあえず、一つしのぐことができたので、依然としてカド番ですけれど、この勢いで来週また頑張れればいいかなと思います」と言いました。藤井聡太七段は、「まとめ方が分からなかった。途中からミスが出たのは、実力かなと思います」と悔しさをかみしめる談話でした。渡辺棋聖は「研究がうまくいっただけで、手ごたえを感じる内容ではありません」と振り返りましたが、研究を生かしての作戦勝ちを本当の勝利に結びつけられるのは実力あってこそです。

■ ハードスケジュールの藤井七段、大丈夫か?
 第4局は渡辺棋聖の先手番ですから優位です。ハードスケジュールも気になります。藤井七段の王位戦七番勝負の第2局は13、14日、札幌市のホテルエミシア札幌であり、渡辺棋聖は13日に大阪市福島区の関西将棋会館で豊島将之名人と第68期王座戦挑戦者決定トーナメント準決勝を戦い、そのまま16日の棋聖戦第4局を関西将棋会館で待つわけです。時間がないので、藤井七段は作戦をどこまで用意できるかということに懸念があります。王位戦第2局は木村一基王位も研究して臨むでしょうし、何しろ年齢は高くてもランニングで締まった身体と無類のスタミナを持つヒトですから、藤井七段の前に立ちはだかるでしょう。藤井七段はこんなハードスケジュールで、高校の勉強は大丈夫なんでしょうか。
(2020年7月12日)


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