115 視聴率
■ 低視聴率の花燃ゆ NHK大河ドラマ「花燃ゆ」視聴率がワースト記録を更新しました。2015年5月17日放送の第20話の平均視聴率が9.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で、第15話(4月12日放送)の9.8%以来、2度目のひとケタとなったのです。前回は選挙速報で放送時間が変更されたことが影響したと見られましたが、今回は言い訳の余地がありません。言わなきゃいいのに、あの籾井勝人会長が定例会見で、「低過ぎるなという気がしている」「前半は話がばらけた」と現場批判ともとれる不満を口にしました。番組スタッフが大慌てで「これから面白い時代に入ります。プロモーションに努めます」と言ったそうです。これまでは「物語が幕末の動乱に入れば視聴率も回復する」と強気でしたが、その動乱の幕末に入っても回復しそうにありません。「花燃ゆ」はなぜ不人気か?前にも書きましたが、ちっともドキドキしないのです。「次はどうなるんだろう?」という気持ちにならなければ、また見ようという気がしません。豪華な役者を揃えても、脚本が面白くなければこうなります。役者は本の通りに演じているのですから、例えば井上真央には罪はありません。けなげに演じているではありませんか。脚本の3人はいずれも女性ですが、女性視点で見た尊皇攘夷の志士の妻、だから面白くないということではないでしょう。橋田壽賀子が脚本書けば面白くなりますよ。それは人間の本質を突くからです。人は誰しも醜い面を持っています。それを押さえつけて生きています。その醜さがチラリと垣間見えれば面白くなります。橋田壽賀子さんは「渡る世間は鬼ばかり」について、「私は嫌いな役者は作中で出張させたり、死なせたりしていました」と語ったそうです。そこまでやるか、脚本家、という感じですね。 ■ 登場人物の波乱万丈の生涯 このドラマの登場人物たちは実に波乱万丈の生涯を送っています。それを描いたら、面白くないわけがないのです。吉田松陰と親しく、その妹を妻とした小田村伊之助は、長州(山口県)萩の藩医である松島家の次男として生まれ、12歳で藩校明倫館の儒者・小田村吉平の養子となりました。尊王攘夷運動などへの幕府からの追及を逃れるため、藩命により慶応三年(1867)に「楫取(カトリ)」と改名しました。「楫(かじ)を取る」としたのは、祖先が水軍であったことに因みます。安倍晋三首相の「晋」は高杉晋作の1字をとっているそうですが、その先祖をたどると、岩手県盛岡の安倍宗任(アベノムネトウ)に辿り着き、その子孫が安倍晋三になるそうです。80『安倍宗任の子孫』(2014年9月14日)をご覧下さい。「花燃ゆ」が安倍首相の肝いりと言われる理由がここにあります。
■ 佐藤健
■ 天皇の料理番 「るろうに剣心」ではクールでありながら、人間らしい役を演じた佐藤健でありますが、この俳優は、今TBS放映中のドラマ「天皇の料理番」でも主役です。さいたま市岩槻区の出身です。「天皇の料理番」は、1979年に出版された、杉森久英による同名小説で、3度にわたりテレビドラマ化されました。宮内省大膳職司厨長(料理長)を務めた秋山徳蔵の青年期から主厨長になるまでを描いた作品です。秋山徳蔵の実際の経歴をもとにしてはいますが、細部はフィクションであり、実在した秋山との混同を避け、杉森の原作では「秋沢篤蔵」、ドラマ版では「秋山篤蔵」の表記となっています。
■ 親の愛情は海より深い 第4話で英国公使館との「兼業」がばれ、華族会館を追い出された篤蔵は、常に目をかけてくれた宇佐美への申し訳なさから、「ワシ、いつまでたってもアホで…すみませんでした…」と、一人、厨房で涙します。一方、篤蔵に目をかけながら、他の料理人たちの手前、追い出さざるを得なかった宇佐美も紫煙をくゆらせながら、一人、物思いにふけります。双方の心情が痛いほど伝わり、目頭が熱くなります。誰も悪くない、悪くないけれどそうせざるを得ない、こうした切ない心情を描いた作品が、見る者の心を揺さぶり、視聴率を上げるのです。「つぶやき」2『たそがれ清兵衛』と『壬生義士伝』(2003年1月20日)をご覧下さい。 「天皇の料理番」第5話で、篤蔵は街の食堂に勤めることになります。まだまだダメなやつで、「大日本帝国一のコック」からはほど遠いのですが、周囲の人からの愛に支えられ、少しずつ成長していく篤蔵の姿に共感を覚える視聴者は多いでしょう。肺を病んで田舎の福井へ帰る優秀な兄、それを温かく迎える父母、妻子のためにダメ息子を返上しようと頑張る弟を一途に想う嫁のいじらしさをいとおしく思う父母、どんな息子でも子は子なのです。一方男子が居ないので、長女俊子に婿を迎えたのに出て行ってしまい娘を哀れに思って別れさせようとする父、美しい妹たちと違うが長女の宿命で結婚した俊子は、篤蔵の良いところを知り、別れたくありません、そんな娘の心を知って支えようとする母と妹達、やがて俊子の父も許すしかないと思うようになります。どんな子でも、親は子どもを愛するもの、親の愛情は海より深いのです。続きが待ち遠しくなる、これこそ好視聴率の素になるのです。 (2015年5月23日) |