山田洋次監督や降旗康男監督の映画が好きです。27『映画:座敷わらしと少年H』(2013年8月25日)でも映画を採り上げましたが、やはり時々劇場映画を見ないといけません。大画面と音響が素晴らしい。今回は山田洋次監督の作品を採り上げます。2013年1月劇場公開の『東京家族』と1年後の今年2014年1月劇場公開の『小さいおうち』は素晴らしかった。『東京家族』は小津安二郎監督の『東京物語』をモチーフに製作され、『小さいおうち』は山田洋次監督82作目にして初めてのラブストーリーです。
■ 久し振りに会ったが、子どもたちは忙しく・・・
■ 田舎の老夫婦と都会の子どもたち・・・お互いを思いやるが・・・ 最初は互いを思いやるが、のんびりした生活を送ってきた両親と、都会で生きる子供たちとでは生活のリズムが違いすぎて、少しずつ溝ができて行きます。滋子は幸一に、お金を出し合って二人に横浜のホテルに泊まってもらおうという提案をします。忙しい娘と息子は、ゆっくり両親をもてなす時間が無いためでした。横浜のホテルの高層階の広い部屋で、ただ外を眺める周吉ととみこ。周吉はネオンに輝く観覧車を見て、結婚する前に二人で観た映画「第三の男」を懐かしく思い出します。寝苦しい夜が明け、周吉ととみこはプレゼントされた2泊の予定を切り上げて、帰ってきてしまいます。そんな両親に、商店街の飲み会があるので今夜は居てもらっては困ると言い放つ滋子・・・。周吉は同郷の友人、沼田(小林稔侍)の家へ、とみこは昌次のアパートへ行くことにします。久し振りの母親の手料理を美味しそうに食べる昌次の部屋に、母に紹介しようと呼んだ恋人の間宮紀子(蒼井優)が現れます。昌次はボランティアで行った福島の被災地でひと目惚れしてプロポーズしたことを、とみこに打ち明けます。一方、周吉は、沼田に宿泊を断られた上に泥酔して、周囲に大迷惑をかけていました。『このままじゃイカン』の日本を憂う言葉が何度も口に出ます。幸一の家でようやく落ち着いたところに、とみこが上機嫌で帰ってきましたが、突然倒れてしまい、そのまま帰らぬひととなりました。 ■ のぉ 昌次、母さん、死んだぞ・・・ 屋上で周吉がポツンと言います。「のぉ 昌次、母さん、死んだぞ」、そんなこと言われなくてもわかっています。しかし末っ子・昌次には、父親の淋しい気持ちが痛いほどわかるのでした。おっとりしていて茶目っけのある母は、子ども達にとってかけがえの無い以上に、口数が少なく頑固だが筋の通った父には誰よりも頼りになる存在でした。父親と子供たちの間に入り、家族の潤滑油のようになっていた優しい母親が居なくなった・・・父と子の間に、余りに急な喪失感が漂います。昌次の家で、母親と彼女が対面するシーンはグッと来ました。心から息子を愛する母親の優しさ・・・、カワイイお嫁さんだと心底喜んで長男の家に帰って来たのに・・・。 つれない子供たちの態度に、仕方ないと思いながらも、淋しさを抱く父と母。親を気にかけながらも仕事に追われる長男と長女、いくつになっても口うるさい父親につい反抗してしまう次男。大切なのに煩わしい、誰よりも近いはずなのに、時々遠くに感じてしまう。「そうそう、うちもそう」と思わず共感してしまいます。今の日本の、平均的な家族の物語です。 ■ セリフに無くてもワカル山田洋次映画 田舎の瀬戸内の島に帰ってお葬式をします。忙しい長男と長女は、末っ子・昌次とその許婚の紀子に「後は頼むワ」と言って帰京します。フラフラとニートのような今どきの若者の生活に見える昌次ですが、実は子ども達の中で一番優しい心根の持ち主で、しっかりした紀子の心をつかんだことに、自分達夫婦とは組合せが逆だけれど、この二人はうまく行くと周吉は思っていますが、何しろ口数が少ないので、紀子は「お父さん、自分が気に入らないのだろうか」と不安です。周吉の気持ちも、紀子の気持ちも、一切セリフにはありません。しかし、ワカルのです。山田洋次監督が名監督と言われるユエンです。 久石譲の、優しく抒情的な旋律の音楽が、家族の物語を優しく包みます。島で独りぼっちになってしまった周吉に、隣に住む女の子のユキちゃんとその母親がかいがいしく世話します。東京には無くなった近所付き合い、家族ではなくてもまるで家族みたいに優しい人たちに、昌次と紀子は安心します。ユキちゃんは噂どおりの本当にイイ子でした。 ■ 紀子さん、昌次を頼みます いよいよ東京へ帰る日、周吉はとみこの形見の時計を紀子にもらってくれと手渡し、「昌次を頼みます」と紀子に頭を下げます。怖いと思っていたお父さんが、実はこんな気持ちで自分達を見てくれていたんだと、グッときた紀子は嬉しくて涙がこぼれます。この作品を観て、心が洗われて、親や誰に対しても優しく思いやりを持って接しなきゃと観客に思わせる、山田洋次監督は本当にスゴイと思います。 この映画は東日本大震災の発生で制作延期されました。山田監督は「延期は正しかった。3.11は無視できない大惨事だし、もしあのまま製作を始めたら、とても後悔していたはず」と述懐し、「日本という国がこの先どうなるのか…。作品の最後に提示できればと思った」と語っています。すなわち、東日本大震災の復興ボランティア先で知り合った昌次と紀子への老父の想い、人間は、社会は優しさがイチバンなんだ、というのが山田洋次監督が日本の未来に託すメッセージだったのです。 ベルリン映画祭でこの映画を見たドイツの人たちが絶賛していました。日本人はなんて優しいんだろうという感想でした。韓国の朴 槿惠大統領が随所で日本の悪口を言っていますが、一本の映画が日本の印象を決定的に良くしてくれる典型です。韓国で上映したら、韓国の人たちもきっと日本人が好きになるでしょう。中国では、日本ナンバー1の映画監督として評価され、中国人も大好きなのが山田洋次監督なのです。東南アジアでも、山田洋次監督作品は、日本での上映が終わったら自分達の国にも来てくれると心待ちにしている人が多いと聞きます。 ■ 小さいおうち ・・・私は、あの小さいおうちが大好きでした
■ 米沢から上京して女中奉公 本当に市民生活が暗くなったのは中国大陸で戦争が本格化して、あろうことか米国に宣戦布告し、庶民には知らされないままに敗色濃厚と成ったあたりからです。金属という金属が、戦争のために供出される事態にナンカオカシイと思った庶民はそれでも大本営発表を信じようとしました。
■ 身の程知らずの戦争に突入して行った日本 映画を見て、外国人などは、戦前の日本がなんて豊かだったのか、と感じたでしょう。女中を雇うほどの家が一般家庭であり、住んでる家族は、ちょっと品があって、幸せそうです。そして女中のタキちゃんがいい女中さんで、割烹着を着てかいがいしく働くし、坊ちゃんのマッサージはしてあげるし・・・。うらやましいなぁ〜〜と思ったでしょう。 平井雅樹はおもちゃ会社の常務です。社長(ラサール石井)はじめ会社の幹部が来ては酒を飲み、仕事や戦争の話をしています。社長が金歯をしているのを見て、この時代をアピールしていることに気付きました。中国や韓国を侵略していた当時の大日本帝国陸軍に対し、米国はさまざまな圧力をかけて来ました。「アメリカと戦争になるんでしょうか?」と不安そうに言う社員に「ならないよ、第一アメリカ人と日本人じゃあ、食ってるものひとつとっても大違いだ」と、米国視察でアメリカの豊かさや技術の進んでいる状況を知っている社長は言います。しかし、真珠湾攻撃し、日本が米国に宣戦布告すると、一転意気軒昂で日本軍を支援して米国を倒すゾ、という展開に話が変わっていきます。高揚感でヒトは盲目になるのですね。 ■ 板倉に気を引かれていく時子
■ 奥様を引き止めるタキ
■ 未開封の封書〜長く生き過ぎたなぁ〜 ストーリー的には、ドラマもなく大きな感動もなく、昭和初期から戦後までの、ある小さな家で起こったことが、女中のタキの視点で淡々と描かれています。愛着や郷愁や優しさとかそういうものをほのぼのと語りかけて来ます。手紙を渡さなかったという“秘密”をタキはとうとう誰にも話しませんでした。しかしタキは、遺品として健史に遺したものがありました。あの大学ノートです。そしてそこに1通の開封されていない「板倉宛て」の封書がありました。 終盤にかけてもうひとひねりあります。ただの思い出話で終わらないのです。恋人と一緒に見ていたポスターのイニシャルから健史は、展覧会を知るのですが、それは板倉正治の展覧会でした。同姓同名かと思いましたが、スマホで検索したら戦争帰りの画家です。展覧会の係員の話から、たどってついに平井恭一が生きていることを知ります。北陸へ恋人と一緒に老いた恭一を訪ね、手紙を渡します。開いて読んでくれ、と言われます。それを聞いた恭一の目に涙・・・。「この歳になって、おふくろの不倫を知るなんて・・・、長く生き過ぎたなぁ〜」と。そう言えば健史は、タキばあちゃんがちゃぶ台に伏して泣いていたことを思い出しました。「長く生き過ぎた」と。戦争で生き残った二人の老人、戦争は、その時代に生きた人々の人生を大きく変えました。 ■ 生涯独身のタキは、何を思っていたのか? タキばあちゃんを茶化してた健史が最後で活きてきました。ずっとタキばあちゃんと平井家の様子を見守ってきた健史は、時子にも板倉にもタキにも想いが募ります。そして、心底、恭一とタキを再会させてあげたかった!と思いました。 タキは、密かに奥様の不倫相手を思っていたのかもしれません。それで手紙を渡さなかったのかも?いいや、世話になっている奥様ですが、美人で、性格も良くて、お金もあって、夫も子どももいるのに、不倫をするって、何だか理不尽だなと思って、やきもちで渡さなかった、それをずっと後悔して、手紙を捨てられなかったのかも?いえいえ、奥様が好きだから、板倉に渡してはならないと心に決めて、自分だけの秘密にしていた・・・これが一番マトモだけれど真相はあなたのご想像にお任せします、という終わり方でした。 ■ 黒木華が良かった! 松たか子が綺麗でした。昭和の着物が素敵でした。絽の着物を着て、不倫相手に会いに行く、帯を締めるときの見返り美人の仕草にゾクッとしました。主演は松たか子と倍賞千恵子ですが、実は黒木華が良かった!実質、主演と言って良いでしょう。NHK朝ドラの「純と愛」ではホテルの同僚役で最初はちょっと小憎らしく、最後は宮古島に来てくれて仲良くという役どころでした。 この作品のキャスティングは「東京家族」とダブリます。橋爪功と吉行和子は夫婦だし、夏川結衣と妻夫木聡が姉弟で、中嶋朋子、林家正蔵、小林稔侍もいました。山田洋次作品には欠かせない倍賞千恵子と吉岡秀隆は、もちろん「男はつらいよ」のさくらと満男です。ただ吉岡秀隆は男の色気を漂わせるタイプではないので、松たか子の色気に比べると釣り合いませんでした。これが山田洋次監督の照れでしょうか。山田流ラブストーリーというところです。
■ 実は一番喜んでいるのがNHKというウワサが・・・ 来月からのNHK朝ドラ『花子とアン』に黒木華は主役の安東はな/村岡花子(吉高由里子)の2歳下の妹・安東かよ役で出演します。主役を食うのでは?と話題になっています。黒木華はとびきり美人でもなく、どこにでもいそうな顔立ちなので、電車に乗って帰って、途中コンビニで買い物しても気付かれないのだそうです。しかし演技の中では、「美しい」と感じる場面もあります。美しく演じることができるというのは、並みの役者ではないと言えます。 この朝ドラに安東はなの6歳下の妹・安東もも役で出演するのが、今売り出し中の美女・土屋太鳳(つちやたお)です。詳しくはコチラ。他にも仲間由紀恵はじめ美女がたくさん出ます。「あまちゃん」、「ごちそうさん」とヒット連発で、さすがに今度は・・・、と言われていたときに、出る映画やドラマでヒット連発、受賞続々の黒木華が出るなら見てみようか、となるはずだと、NHKが銀熊賞を一番喜んだというウワサなのです。なお村岡花子とは「赤毛のアン」の翻訳者です。 ■ 同胞(はらから) 同胞(はらから)は、1975年に松竹が制作、同年10月25日に公開した山田洋次監督の映画です。岩手県の過疎の村で、青年会が劇団公演を計画し成功させるまでを描く青春映画です。実際に起きた話を基にしており、モデルとなった劇団「統一劇場」が公演シーンを演じています。 舞台となった岩手県の山間の小さな村・松尾村(現在は合併して八幡平市)の青年会会長高志(寺尾 聡)の許を、統一劇場の職員の秀子(倍賞千恵子)が訪れ、劇団の公演を提案します。高額な費用が問題となり、青年会の議論は紛糾しますが、高志の熱意に押され、公演の実施が決まります。青年会員の頑張りでチケットも完売しましたが、公演の直前になって有料の催しには会場は貸せないと中学校長(大滝秀治)から断られます。公演を楽しみにしている人たちのために中止にはできないと、秀子は無料にすることを決断します。公演は大成功に終わりました。 この映画には地元の青年団の人たちが実際に出演しました。実はその中に筆者の知り合いの人(農民)もいます。郵便を届ける役の人は、実際に郵便局員でした。したがってドキュメンタリー的要素もあったということです。 倍賞千恵子が映画の中で、「いちばんお酒の強いひと」と紹介した工藤金子さんは、自宅に同胞塾(はらからじゅく)を開いています→詳細。工藤金子さんたちは今でも山田洋次監督や倍賞千恵子さんと交流しています。 また、松尾地区公民館には旧松尾村を舞台に地元の若者たちが大勢出演して話題となった映画『同胞』の記念碑が、制作に携わった有志によって20周年を記念して建てられています。そこに山田洋次監督直筆のコメントが刻まれています。 松尾村の若者たちと共に 汗を流して 映画「同胞」を作り上げた あの輝かしい想い出を ぼくとぼくのスタッフは 一生忘れないだろう。 山田洋次 ■ 第37回日本アカデミー賞
真木よう子は今売り出し中の女優ですが、セリフが下手(わざとらしい、いかにもセリフという感じ)なのが何とも言えず良い、という不思議な女優です。気が強そうで、猫のような美しい眼から鼻筋、唇とキリリと筋の通った美形です。山崎豊子原作の「運命の人」をTBSがドラマ化したのを見たとき、スゴイ女優が出てきたと思ったものです。これは477『運命の人』(2012年3月4日)で紹介しております。
■ 日本アカデミー賞と言えば高倉健、しかし『八甲田山』も良かった 日本アカデミー賞と言えば高倉 健です。高倉 健と言えば『幸せの黄色いハンカチ』と筆者は思います。高倉健はヤクザ映画にばかり出演していましたが、1976年に東映を退社し、フリーに転向しました。同年の映画『君よ憤怒の河を渉れ』(永田プロ/大映) で、10年以上出演し続けた仁侠映画のイメージから脱却し、翌1977年には『八甲田山』、『幸福の黄色いハンカチ』の2作品に主演しました。『幸せの黄色いハンカチ』は、シンプルながら観衆の心情に深く訴えかけるストーリーが、高い評価を得て、第1回日本アカデミー賞や第51回キネマ旬報賞、第32回毎日映画コンクール、第20回ブルーリボン賞、第2回報知映画賞など、国内における同年の映画賞を総なめにしました。
■ 夕張の炭鉱の住宅にはためく黄色いハンカチに涙が止まらない 失恋して自暴自棄になった花田欽也(武田鉄矢)は、新車の真っ赤なファミリアを買って北海道へ傷心の旅に出ます。そこで欽也は一人旅をしていた朱美(桃井かおり)のナンパに成功し、さらに2人は海岸で勇作(高倉 健)という男と知り合います。旅をともにすることになった3人は夕張まで行く途中でいろいろな事件に遭います。ひょんなことで勇作が運転することになりますが、彼らの車は一斉検問に引っ掛かり、勇作が無免許運転であったことが判明します。無免許の理由を問われ、一昨日までの6年間、殺人罪で刑務所に入っていました、と話します。最寄の警察署に連行されましたが、そこには、昔勇作の事件を担当した渡辺係長 (渥美 清) が偶然勤務しており、彼の温情で事無きを得ます。
■ 山田組 山田洋次監督の映画に出る俳優は「山田組」と呼ばれます。渥美清を始め、名優揃いです。中でも倍賞千恵子、大滝秀治、ハナ肇、小林稔侍、吉永小百合、米倉斉加年、根津甚八、吉岡秀隆、永島敏行、三國連太郎、西田敏行、最近では『東京家族』や『小さいおうち』に出演した人たちですが、実は『東京家族』では蒼井優以外は山田組初参加でした。『小さいおうち』は『東京家族』の出演者がダブりますが、久し振りの松たか子、山田洋次監督が惚れ込んでいる吉岡秀隆に加え、蒼井優に似た面影の有る黒木華を大抜擢しました。 ■ 田中邦衛 吉岡秀隆や中嶋朋子と言えば、どうしても『北の国から』を思い出しますね。倉本聰脚本のテレビドラマです。さだまさしの音楽から思い出すのは黒板五郎、そう田中邦衛ですね。田中邦衛も81歳で、最近は体調の関係でお目にかかれなくなりましたが、いい俳優でした。東宝映画『若大将シリーズ』では、若大将のライバル・青大将役で、敵役・悪役ですがコミカルで憎めないキャラクターを好演し、『若大将シリーズ』のレギュラーとなりました。岡本喜八監督にも気に入られ、岡本作品の常連となりました。 1965年(昭和40年)に出演したフジテレビのドラマ『若者たち』は映画化され、第22回毎日映画コンクール男優主演賞を受賞しました。ヤクザ映画では、同年からスタートした『網走番外地シリーズ』で高倉健演じる主人公を慕う舎弟をコミカルに演じ、1973年(昭和48年)から始まった『仁義なき戦いシリーズ』では、それまでのイメージを一新する姑息で狡賢いヤクザ・槙原政吉を演じました。 1980年代以降はヤクザ映画への出演は減り、1981年(昭和56年)に開始した『北の国から』シリーズでは、葛藤を持ちつつも2人の子を温かく見守る父親・黒板五郎を演じて、好評を博しました。1993年(平成5年)の山田洋次監督の映画『学校』では苦労しながら夜間中学に通う労働者イノさんを演じ、好評で4作が制作されました。第17回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を獲得しました。 長女は、NHK初の女性海外支局長(シドニー支局)になり、現在ワシントン支局長である田中淳子さんです。最近ウクライナ、クリミア問題でアメリカ政府のリポートで良くNHKニュースに出てきます。 ■ うっ、暗いな! クリミアをロシアが併合することに、欧米が経済制裁強化の動きをしています。日本のマスメディアは大概批判的論調です。ところがネットの世界では逆なのです。まず投資家達は欧米の経済制裁を信用していません。ロシア株が下がったのは当たり前ですが、次いで日経平均が大幅に下落しているのに、ニューヨークダウがそんなに下がっていないのです。つまり、米国にとってはロシアは経済的にそんなに痛みを感じる関係ではないわけです。ロシアと切っても切れないのはEUなのに、EU株もそんなに下がっていません。すなわち欧米の政治家が経済制裁を声高に言っても、経済界はその実効性を信用せず、パフォーマンスと受け止めているというわけです。 それなら何故日経平均が下がるのか?それは円高ドル安のためです。ちょっと東京市場は神経過敏症です。本来有事であればドルが買われ、円安ドル高になるのが普通です。これを見ても、投資家達の見方が分かります。ネット上では、ある有名な日本の軍事評論家が、ウクライナの現政権にネオナチが入り込んでいるという証拠画像をアップしています。ネオナチ政権にロシアが反発しているのが実態で、ウクライナ革命政権が真に民主的であるかについて疑念が出されています。ネット上での投票では、「クリミアの住民投票の結果を尊重すべき」が第1位で、「日本はロシア制裁に加担すべきでない」という意見が大勢です。
日本国政府は安保問題があって米国に従わざるを得ません。ただ、米国にもロシアにも意見は言えます。憎まれても言うべきことは言う、安倍外交が試されています。安倍嫌いの米国マスコミは、クリミア問題に関し「アベは煮え切らない態度で米国の要請に応えない」と怒りの論調です。
■ 日本と経済協力したいロシア 日本では、経済産業省、ロシアの経済発展省などが2014年3月19日、東京都内のホテルで「第6回日露投資フォーラム」を開催しました。クリミア編入決定の翌日で国際世論が揺れる中、ロシアから来日した約300人を含めて計700人以上のビジネス・行政関係者が集まる盛会となりました。フォーラム冒頭で、両国の経済交流が拡大してきたことを強調する安倍晋三首相・プーチン大統領からの2通のメッセージが読み上げられ、主催者である経済発展省のA・リハチョフ次官は「ロシアと日本の貿易額は300億ドル強でまだ大きくはないが、これを2018年には500億ドルに増やしていきたい。今回ロシア側からは50のプロジェクトを提案する」と述べた上で「1300万人が住むモスクワには1000軒以上の日本食レストランがあり、誰もが日本食に親しんでいる。ロシア人は今、日本に対して大きな関心を持っている」と話しました。衰退する欧州より発展するアジアとの経済関係を強めたいロシア、それにはまず日本だ、ということでしょう。 ■ クリミアの歴史は奪い合いの歴史
■ EUが支援して政権崩壊、ネオナチや傭兵も ネットで、YouTubeなどでウクライナやクリミアの画像が出ています。これが何故か日本のテレビには出てきませんでした。やっと3月21日毎日新聞朝刊で、大きく報道されましたが、日本マスコミで報道されていないことがあったのです。日本マスコミではこれまで欧米とともにロシアの行動を非難して、制裁を課せ一色でした。しかし上記のように、ネット上での日本国民の意思とはかけ離れています。 欧州はウクライナの反政府勢力を支援し、自分達の方になびかせようとしてきました。過去ウクライナは親欧州派と親ロシア派が政権交代し、権力を握った側が私腹を肥やす、それに怒った国民が選挙で与野党逆転させるという繰り返しでした。ロシア派のヤヌコビッチ大統領と野党指導者の間にEUを代表して独仏ポーランドが加わって前倒し大統領選に合意しました。ところが市民のデモで、その中の過激派が大統領府を占拠、ヤヌコビッチは逃げ出しました。ヤヌコビッチがいかに贅沢していたかが報道陣に公開されました。しかしこれはその前のオレンジ革命以降登場したティモシェンコなども同様でした。いや、ティモシェンコはそれ以上だったために投獄されました。この政変でティモシェンコは出獄できました。これで怒ったのがプーチンです。ソチオリンピックでロシアが手を出せないのをいいことに、平和的な選挙をやろうとしていたのに、反ロシア的な極右民族派(ネオナチ)がデモ隊の先頭に立ってウクライナの政権崩壊を引き起こし、親欧米政権を誕生させたのです。その影にEUの陰謀がある、とプーチンは見ていました。実際ラスベガス郊外にある民間軍事会社が市民デモに紛れ込んでいたという話もあります。米国にはいくつも民間軍事会社があり、元米兵が雇われています。中でもラスベガス郊外にある民間軍事会社は強力で、世界殺戮記録を持った社員もいるそうです。内向きのオバマは海外の戦争をやりたくありません。だからどこからか資金提供を受けた傭兵が戦闘現場に現れるのです。フランスにも同様な組織があり、「フランス外人部隊」と呼ばれています。オーストラリア政府は、シリアの戦闘に豪軍出身の傭兵が居た、と発表しました。こんなこと、平和ボケした日本人は興味ないかもしれませんが、ゴルゴ13の世界は現実なのです。 ■ フィーバーするロシア国民 ヒットラーを崇拝するネオナチはロシアにとっては宿敵です。それが含まれるウクライナの暫定政権は許せない、だからと言ってウクライナに進軍したら欧米を敵に回してしまう、緊張状態が続いた中で、クリミアでロシア編入を求める動きが起きました。ロシア国民はこれを支援しろという声を上げ、今やナショナリズムと愛国心の高揚でロシア国民は陶酔状態の中にあります。引き返せなくなったプーチンは、ロシア国民から熱狂的な支持を受け、クリミア編入を発表しました。オバマはプーチンに、力による領土拡張は認めないと言いました。しかし、米軍を出す積りは無く、実は中国に期待しています。習近平にロシアに圧力をかけさせたいようです。
安倍晋三はネオコンだと米国マスコミは言い、親共和党だと見ています。ロシアと日本の間には北方領土問題があります。尖閣問題で中国の脅威があるのでロシアと仲良くして対抗したい、と安倍総理は考えています。しかしそもそも北方領土問題は、大東亜戦争末期、ソ連が条約を破って日本に宣戦布告し、ドサクサに紛れて日本から不当に奪ったものです。そのうえシベリアに日本兵を抑留して多数が死んだ恨みもあり、日本国民は心の底ではロシアを信用しない人が多数でしょう。 ロシアと欧米の制裁合戦はありますが、エネルギーを持つロシアですから、EUも過激な制裁はできません。オバマは腰が引けています。日本は過敏な反応をせず、あくまで平和的な動きに徹すべきです。一方、領土問題はやはり武力が最終的にモノを言います。日本も自衛隊の軍備を怠らないようにしないといけません。またエネルギーと食糧が日本の弱点ですから、この開発と確保が鍵になります。 (2014年3月21日) |