90 高倉健
安倍晋三首相が衆院を解散し、12月2日(火)公示、12月14日(日)投票の総選挙となりました。前回は、「なぜ解散?」と書きました。現在以上の議席を願うのは無理、むしろどこまで自公で減らすか、という選挙です。したがって勝敗ラインを自公で過半数と、えらく低く設定しています。なぜそんな選挙をやるか?それは今を逃すと、次の選挙では負けるだろうという読みがあるのでしょう。今のうちに選挙をやって、次の4年間で憲法、特定秘密保護法、集団的自衛権関連の法律を一気に改定してしまおうという魂胆と思われます。前回総選挙では、投票率の低下と野党の乱立で多数の死に票が出て、自民党が3分の1強の得票で3分の2の議席を得ました→つぶやき518『総選挙』(2012年12月16日)。小選挙区制では、何が起きるかわかりません。 ■ 解散の大義?選挙の必要性は無し 「解散の大義はあるか?」と問われて公明党の山口代表は「ある」と答えていましたが、この方には「ノーは無い」ので当然の答えです。21日の衆院解散は、伊吹衆院議長が解散詔書の朗読中と朗読後の2度万歳が起こる異例の展開でした。「万歳はここでやって下さい」と衆院議長が言うというのは、いかに新米議員が多いかということを示しました。衆院本会議場では、万歳した人、しなかった人がいました。しなかった一人が自民党の小泉進次郎復興政務官です。記者団に対し、「多くの国民の皆さんの反応は、なぜ今(解散)なのかと。万歳している姿が、余計に国民との心の距離を生むんじゃないか」と語りました。公明党の代表より余程素直ですね。「増税を先延ばしすることの是非を問う」そして「2017年4月には景気がどうあれ絶対に増税する」という安倍総理の言ですが、増税先延ばし法案を国会に出せば、一部の野党以外は皆賛成と言っているのですから、全会一致に近い賛成で可決されますから、別に総選挙をやる必要はありません。増税すべき論者は、意見を聞いた有識者の3分の2で、谷垣、麻生といった自民党内の重鎮や、民主党内にもそういう考えの人はいますが、総理が先延ばしすると言えば「しょうがない」ということで反対はしません。大義などと大上段に構えなくても、そもそも世論調査では、今は増税すべきでないと言う人が過半数ですから、選挙をする必要性が無いわけです。首相は、解散から1時間チョットして、党本部での選挙対策本部会議でこう切り出しました。「年末の衆院選ですから、国民の皆さまにはご迷惑をおかけすることになります」、首相には、師走選挙への遠慮があったのでしょう。続いて、首相はこう発破をかけました。「だからこそ、意義ある選挙にしなければなりません。民主党は政策ではなく、単に数を増やすことに執心しています。日本の将来に向けてどの党がしっかりとビジョンを持っているか、いかに分かりやすく説明できるか、そこに勝負がかかっています」 ■ 戦後レジームからの脱却 「アベノミクスは誤りか?」を争点にして選挙をやろうというのも間違っています。そもそも今回の解散の狙いは経済問題ではなく、「戦後レジームからの脱却」を仕上げるためです。特定秘密保護法や集団的自衛権など、国の安保体制に関する改革は緒に着いたばかりです。つぶやき244『戦後レジーム』(2007年9月17日)をご覧下さい。第1次安倍内閣は小泉内閣の後を継ぎましたが、郵政改革の化けの皮がはがれて参議院選挙で歴史的大敗を喫した小泉首相が、もともと小泉の手足であった当時の福田官房長官が小泉の靖国参拝に反発してその許を去り、次期首相就任も固辞したので、仕方なく若い安倍晋三に後を託しました。小泉はブッシュのイラク戦争を支持し、当時民主党のトップだった小沢一郎が猛反発し、後に開戦の大義とされた大量破壊兵器はなかったことが明らかになって、イラク戦争を支持した英国議会やオーストラリア議会では大問題になりました。米国の世論も共和党を見捨て、次はオバマ民主党になることが確実で、ブッシュがレームダックのときに第1次安倍内閣が誕生したわけです。第2次安倍内閣はソックリ逆の状況下にあります。中韓は、ネオコン安倍晋三を目の敵にしています。そこで安倍晋三は、親分である森元総理と仲の良いロシアのプーチン大統領と、その仲介によって握手しました。安倍晋三はかつて北朝鮮を叩きまくって台頭しましたが、当時のキム総書記は既にこの世になく、その息子の代になっているので、北朝鮮にも秋波を送りました。中国とねんごろのオバマとソリの合わない安倍総理にとって、オバマのレームダック化はチャンスです。もともと米国共和党のほうが安倍総理にはくみしやすいのです。米国の弱体化により、中韓といつまでも喧嘩しているわけにはいかないので、かつて外務大臣も長く、柔軟外交で中韓に知己の多い福田元総理に仲介を頼んだわけです。習近平も、安倍は嫌いだが、「双方の立場に隔たりがあることを確認する」ために握手しました。分かりにくいですが、お互い考えは違うけれど、話し合いのテーブルには着こうよ、というわけで、あの無愛想な握手になりました。ここで一発総選挙をやって、議席を減らしたとしてもあと4年間総理をやっていれば、「戦後レジームからの脱却」の仕上げができる、との思惑です。 ■ 戦後レジームへの回帰 アベノミクスの根幹は間違っていないと国民の多数は思っているでしょう。副作用としての円安はありますが、そもそもこれまでの円高は作られたものです。日本の実力以上の円高になった以上、デフレにしなければ生活が成り立たなかったのです。すると賃金は上がりません。子供も産めません。少子高齢化が進むと、医療費の増大、介護問題、生活保護など社会保障の増加と、社会的出費が増えますから、社会保険料を上げなければいけません。サラリーマンの手取りは下がるばかりです。バブル崩壊後、日本国民は暗い年月を過ごしてきました。したがってアベノミクスは歓迎されました。円安で輸入物価が上がるから年金生活者などは特に困る、という話があります。なんでも輸入に頼るからそうなるのです。TPPの議論を思い出して下さい。円安ですから輸出には有利ですが、輸出するものがありません。輸入は不利ですが、輸入するものばかりです。このままTPPが実施されれば、どうなるのでしょうか?バター不足騒動が明確に示しています。今はまだ緊急輸入できるお金があるからまだ良いのです。牛肉や羊肉を見て下さい。中国や台湾が豊かになって、火鍋ブームで大量輸入し出したら、争奪戦になって日本に入ってくる量が減って大きく値上がりしています。一方米はどんどん値下げされ、恐らくそう遠くないうちに米作りを投げ出す農家が続出するでしょう。食糧安保とは、市場経済に委ねてはダメなのです。農業を含めて、日本で作るものを増やしていかなければなりません。作るためには労働力が必要です。社会構造を変えなければなりません。選挙における老人の怒りを恐れたかつての自公の政策によって、年金問題は将来世代にツケ回しされました。民主党への政権交代はいっとき明るさが有りましたが、リーマンショックと東日本大震災の発生、それへの対応の誤りで一気に崩壊しました。アベノミクスはかつての保守的な自公の政策を転換した改革的なものです。円安が本来の日本経済の実力反映への回帰である以上、日本の経済構造もかつての日本のような夢のある成長を伴うものでなければなりません。そのための社会構造改革は「戦後レジームへの回帰」であるべきです。そのためには地方創生が必要です。アベノミクスは大きな矛盾をはらんでいます。アベノミクスを選挙の争点にするのは間違いです。 ■ 7〜9月期の実質GDP成長率は年率換算▲1.6% 内閣府が2014年11月17日に発表した、日本の今年7〜9月期の実質GDP成長率は前期比で▲0.4%となり、4〜6月期(▲1.9%)に続いてマイナス成長を記録しました。GDPの寄与度では、内需が▲0.5%、純輸出(輸出−輸入)が+0.1%となっています。また、前年同期比においても、第1四半期(4〜6月)で▲0.2%、第2四半期(7〜9月)で▲1.2%と2期連続のマイナスとなっており、消費増税後の景気落ち込みが鮮明に示されました。これを受けて安倍総理は国会の解散を翌18日発表しました。同時に、というか、奇しくも(くしくもと発音、きしくもではありません)、その渋さとカッコ良さに日本中の男女が憧れた名優・高倉健さんが、10日に悪性リンパ腫のため都内の病院で死去していたことが、この日に明らかになりました。そもそもGDPで国の豊かさは計れない社会になっています。OECD加盟国の中で日本の幸福度はずっと下位です。先進国では最低に近い・・・・ これだけ少子高齢化が進んだ以上、GDPがそうそう上がるものではありません。それで一喜一憂するのは間違いです。健さんが日本国民に示した幸せとは何だったのでしょう? ■ 「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」・・・高倉健さんが悪性リンパ腫で逝去
■ 寒さが似合う高倉健
■ 高倉健さんと山田洋次監督の出会い
■ 演じるのではない、役になりきる高倉健 後年健さんは降旗康男監督の作品に出ることが多く、2015年には降旗康男監督と次の映画を撮ろうと準備していましたが、その製作話は実現しないまま、健さんは逝ってしまいました。 27『映画』(2013年8月25日)で『少年H』について紹介しましたが、この作品も降旗康男監督です。また数多くの共演者と一緒に映画を撮りましたが、皆さん口を揃えておっしゃるのは、健さんの映画作りへの並々ならぬ入れ込みようでした。「演じる」のではなく、主人公に「なりきる」というのです。その意味では今は亡き大滝秀治さんと共通したものがありました。 有名な話では、映画「八甲田山」で、軍隊が訓練中に八甲田山で吹雪の中で立ち往生して遭難してしまうシーン、現場に行くのに役者は歩いて行かないといけない、当然足跡がつく、立ち往生しているのに足跡がついているのはおかしいと、雪山で4時間、足跡が消えるのを待ったそうです。 健さん最後の作品となった「あなたへ」(2012年)で、漁師役の大滝秀治さんが健さん演じる主人公に『久しぶりに、きれいな海ば見た』ってつぶやく場面、健さん曰く、「台詞を見たとき、『なんて、つまんねぇ台詞書きやがって・・』って悪口ばっかり言ってたんですけど、台詞って言う人で変わるんだなぁ、って改めて思いましたよ。台本では平凡なセリフだと思ったんですが、泣きましたから。泣くシーンじゃないのに。ドキっとしました」と共演シーンでの最後の台詞について振り返りました。大滝さんの口から出ると深い意味を感じて、撮影直後、あまりの感動に現場で涙をこぼしたのだそうです。つぶやき508『未来創造〜2050年』(2012年10月7日)に大滝秀治さんの訃報が載っています。 ■ 『あなたへ』
■ 数多いエピソード
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