27  映画

 水谷豊はあまり映画には出ない人でした。テレビでは人気ドラマ『相棒』でおなじみですが、このテレビドラマの監督・和泉聖治&主演・水谷豊というコンビで映画化された2012年の『愛しの座敷わらし』(東映・監督:和泉聖治)は、アレ、アレ、ここはアソコじゃないか、筆者のふるさとの映像が映ってビックリしました。南部曲り家で囲炉裏のある家、筆者の子供時代は友達の家の中で伝統がある家はこれでした。茅葺には4千万円〜5千万円かかりますから、金持ちでないと維持できません。屋根だけでこれですから、家全体ではとんでもない資産、但し数百年住める頑丈な建築物です。

■座敷わらしを知って、一家に戻る絆

 東京から引っ越した一家が、"座敷わらし"との出会いを機に家族の絆を取り戻してゆく物語です。水谷豊演じる父・晃一の転勤で岩手県の古民家へ引っ越すことになった高橋一家。片田舎という表現だが、これは岩手山の位置からして滝沢村です。お父さんが選んだ家にいやな顔をする娘、奥さんは近所付き合いが大変で、自転車で田圃道で砂利に足をとられてバッシャーン・・・。お父さんの晃一は食品会社の開発部門から、上司に嫌われて営業部門に配転、盛岡に転勤となります。左遷ですね。夫の能天気さに不満な妻・史子、ひそかに友人関係に悩む中2の梓美、喘息持ちなのでサッカーをやりたいがお母さんに禁止されている小4の智也、認知症の疑いがある晃一の母・澄子、家族は一緒に暮らしているのに、心はバラバラ。
 そんな一家が築200年の家に移ってようやく田舎暮らしにもなれてきた頃、智也は着物を着た不思議な子供に出会い、梓美も鏡に映った人の顔を目にし、史子は掃除をしてたらコンセントが抜けるなどの現象に遭遇、澄代もなにやら感じている様子。やがて、古民家には座敷わらしが居ついていることがわかり、家族の関係に微妙な変化が……。


東映のホームページより


■緑風荘
 “座敷わらし”は主に岩手県の伝説で、柳田國男の『遠野物語』で有名になりました。青森、秋田、宮城にも同じようなワラシコの話があるそうです。岩手県最北の二戸市金田一温泉に“座敷わらし”が住んでいるというので有名な旅館がありました。緑風荘という旅館ですが、2009年10月に火事で燃えて、中庭の亀麿神社の祠だけが無事でした。緑風荘の座敷わらしの名前が亀麿ですから、座敷わらしは無事でしょうが、この旅館は未だ再建されていません。“座敷わらし”というのは、「生き続けられなかった子供」、すなわち姨捨伝説と同じように、食うや食わずの時代には、食い扶持を減らすために、せっかく生まれてきても「生き続けられなかった子供」が存在したのです。間引きですね。それが住み着いている家は座敷わらしが守ってくれますが、座敷わらしが居なくなると不幸が襲うという言い伝えがあります。緑風荘にも何かがあったのかもしれません。
 緑風荘に泊まって座敷わらしから運を授かろうと、この旅館に泊まる人が多く、予約がとれないほど有名な旅館でした。古くは首相の原敬、米内光政、福田赳夫、柔道の三船久蔵、実業家の本田宗一郎、松下幸之助、稲盛和夫、ミュージシャンのゆず、なるほど・・・・

■映画の結末は
 東京では社交的でない性格から孤立していた娘の梓美は、中学で同級生から誘われて仲良しになり、学校が大好きになります。サッカーを許された智也は、きれいな空気で病気もなくなり、座敷わらしも智也には心を許して一緒に遊ぶようになります。家の庭に近所のおばさんが来てネギをどっさり植えてくれたり、妻・史子も近所の人たちの人情に触れてこの田舎暮らしが好きになって行きます。父の晃一は盛岡で一生懸命営業します。気難しいスーパーの店長がある日ドッサリ注文をくれました。しかもそれは晃一が開発した商品でした。晃一はある日東京の本社に呼ばれます。開発部門のかつての上司に「戻って来い」と言われますが、意見が対立し、「商品開発には愛が必要だ」とぶちます。やがて、再び本社に呼ばれた晃一は、社長から「君の開発した商品が大ヒットしている。商品開発に復帰してくれ」と頼まれます。かつての上司の部長は配転されました。東京に戻るかどうか、家族会議、子供達は東京に戻るのはいやだ、と言います。しかし史子は、「お父さんの仕事が大事、残念だけど戻りましょう」と言います。東京まで、座敷わらしも付いてきました。
 東京からやってきた一家が、“座敷わらし”と出会うことで、それぞれの生きていく意味や自信を取り戻し、都会での生活で気づかぬうちに失ってしまった家族の絆も新たに作り直して行く、やさしい希望と再生の物語です。

■「少年H」を見ました
 作家・妹尾河童の自伝的小説で、上下巻あわせて340万部を突破するベストセラーを、「ホタル」「鉄道員(ぽっぽや)」の降旗康男監督が映画化したものです。内容については戦後になってから作られた内容だ、とかいろいろ批判もあります。しかしドキュメンタリーではないのですから、作られた物語で、全然問題ありません。史実に反しようと、フィクションで良いのです。
 舞台は神戸の下町。大東亜戦争下という時代に翻弄されながらも、勇気や信念を貫いて生きた家族の激動の20年間を描き、実生活でも夫婦の水谷豊と伊藤蘭が夫婦役で映画初共演を果たした映画です。昭和初期の神戸・・・・名前のイニシャルから「H(エッチ)」と呼ばれる少年・肇は、好奇心と正義感が強く、厳しい軍事統制下で誰もが口をつぐむ中でも、おかしなことには疑問を呈して行きます。Hはリベラルな父と博愛精神に溢れる母に見守られ成長し、やがて戦争が終わり15歳になると独り立ちを決意します。戦時下にはあれほど軍国主義だった教師や近所のおじさんたちが、戦後手のひらを返したように民主主義を唱える大人の無責任さに、Hは怒り心頭でした。
 戦争は絶対してはいけない、ということを改めて知らされる映画です。こういう映画は是非小学生、中学生にも見せたいものです。

(2013年8月25日)


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