366  グローバリズムの終焉
 東京で3月14日(土)ついに桜の開花宣言が出ました。気象庁は東京・靖国神社にある桜(ソメイヨシノ)の標本木を観察して開花を発表します。平年より12日早く、昨年より7日早い開花で、統計開始以来最も早い開花日となりました。我が家の陽光桜は3月12日(木)開花しました。早速鶯色のメジロが飛んで来て、花の蜜を吸っています。アブチロンもたくさん咲いているので、ソチラにも飛んで行きます。

■ パンデミック宣言
 WHOがついにパンデミック宣言しました。それとともにこれまでの対応が批判されています。前回「リーマンショック以来の経済大ピンチだと言うので、今回の経済危機が新型コロナウイルスによるものだという意味から『コロナショック』という人が居ますが、筆者はそれにくみしません」と書きました。また「まだバブル崩壊の域に達していないのではないか」とも書きましたが、バブル崩壊とは別のことが起きているのです。

■ 「経済麻痺」発生
 筆者がかねがね警鐘を鳴らしてきたように、30年に一度のバブル崩壊は2019〜2021年頃に起きるだろうと言って来て、それとコロナウイルス・パンデミックが重なりました。経済危機としては、「巣ごもり」で経済が回らないことによる「経済麻痺」が起きることで、ショック=衝撃ではなく、麻痺=パラリシスではないかと考えられるのです。後世には「コロナショック」という名前で残るでしょうが、グローバリズムの終焉に伴う「経済麻痺」が、深刻なダメージを人々にもたらすのは間違いないと思われます。そして、バブル崩壊はまた、別途やってくるであろうと思うのです。

我が家の陽光桜

■ 米国景気後退入り予兆の「逆イールド」が発生
 334『古希』(2019年8月5日)で、世界の株式市場、為替市場はトランプ米大統領のツイートに振り回されていると書き、336『草津と万座』(2019年8月18日)では、2019年8月14日に米国債券市場で、米2年債利回りが米10年債利回りを上回る「逆イールド」(長短金利差の逆転)が発生し、これは過去事例に照らし米国が景気後退入りする予兆であると書きました。
 米国の景気後退は1980年以降で5回あり、そのいずれも、景気後退前に逆イールドが起きています。直近では、1990年後半からの日本のバブル崩壊とも重なる世界景気後退局面、2001年前半からのITバブル崩壊局面、2007年後半からのリーマンショック局面です。図を見れば明らかですね。大きな景気後退局面の約1年半前に逆イールドが発生しているのです。したがって筆者は、次の経済危機は恐らく2020年末から2021年初頭、すなわち東京オリンピックが終わり、アメリカの大統領選挙直後だろうと予測したわけです。アメリカの景気後退は図から明らかなようにおよそ10年置きに起きています。リーマンショックはやや早く起きて、イレギュラーでした。
ピクテ投信投資顧問のデータを基に毎日新聞週刊エコノミスト編集部が作成したグラフ

■ リーマンショックの世界波及は「グローバル化」のせい
 というのもリーマンショックはサブプライムローンの破綻によるものでした。社会的信用の低い所得層(サブプライム)に、返済能力以上に住宅ローンを貸し付けて、カネが回らなくなったもので、いわば「住宅バブル崩壊」みたいなものですが、金融危機なので市場にじゃぶじゃぶカネを回して解決したわけです。このとき本来は米国内だけの問題のはずなのに、世界中の経済が打撃を受け、特に日本などは何も悪いことをしていないのに深刻なダメージを受けて、企業の経済活動が停滞しました。その原因は「グローバル化」です。金融はグローバリゼーションによってネットワークされ、米国だけの問題じゃなくなったわけです。リーマンショック後米国経済は再び好調を続けました。

■ 日本の「金融バブル崩壊」から失われた○○年が...
 一方日本では1989年に消費税が導入され、1990年に大蔵省(現財務省)と日銀が金融引き締めを行ったことで信用収縮が一気に進み「金融バブル崩壊」が起きましたが、その後長期低迷に入り、デフレが長く続きました。世界二位だったGDPも伸びなくなり、賃金も伸びず、国民の所得はドンドン外国に抜かれて行きました。「失われた20年」・・・長いデフレを脱却すべく2012年に始まったアベノミクスは、「アベクロ政策」でバンバン金融緩和し、禁断の国債・株買いに日銀が手を染めて、国民の大切な年金資産を預かるGPIFまでもが同じことをやって日本の株価を上げましたが、デフレは一向に終わりません。

■ FRB、ECBの施策効果なし、日銀は手詰まり
 リーマンショックはカネが回らないことによる金融危機でしたが、今回のコロナパラリシスはヒトとモノが回らなくなった経済危機です。そのため、金融緩和や財政拡張でカネ回りを良くしようとしても、ヒトとモノが動かない限り経済が息を吹き返すことは見込みにくいでしょう。米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が3月に政策金利であるFFレートを0.5%も引き下げ、金融緩和を強化したものの相場は好転しませんでした。利下げの発表のときパウエル議長が、「この施策でコロナウイルスは押さえ込めない」と言いましたが、けだし名言でした。欧州中央銀行(ECB)も3月12日、今年末までに1200億ユーロ(約14兆円)の資産を追加購入する量的金融緩和を決め、民間銀行から資金を預かる際の金利はマイナス0.5%のまま据え置きました。しかしマーケットはFRB、ECB、どちらの施策にも反応しませんでした。日銀はもう金融はユルユルで、マイナス金利をこれ以上拡大したら大変ですから打ち手がありません。
ボケ(木瓜)…織田家の家紋です

■ 欧州でコロナウイルスの感染者が急増
 新型コロナウイルスの大規模な流行を受けて、世界経済への悪影響が深刻化しています。当初は感染の拡大が見られなかった欧米でもコロナウイルスの感染者が急増しており、特に北イタリアやイランは深刻です。イタリア政府はイタリア全土を封鎖する措置に踏み切り、イタリア経済は実質的に機能不全に陥っています。1〜3月期の成長率は記録的なマイナス成長になると予想されます。ドイツではパスタがパニック買いの対象になりました。ドイツ人は合理的であり冷静沈着であるというイメージがあるだけに、これは衝撃的でした。スペインでも非常事態宣言が出ました。WHOは当初日本に警戒の目を向けていましたが、それはクルーズ船への対応のせいで、まだパンデミックではないと言っていましたが、今やコロナウイルス感染の中心は欧州だと言っています。

■ 米国で国家非常事態宣言、欧州からの入国禁止
 3月11日朝までは「落ち着け、すぐに状況は良くなる」と言っていたトランプ米大統領でしたが、夜にはテレビ演説し、欧州からの入国禁止措置を発表、続いて3月13日、国家非常事態を宣言し、感染拡大の防止に向けて500億ドル(約5兆4000億円)の連邦資金を投入すると表明しました。実はトランプ氏がTwitterで、新型コロナウイルスをインフルエンザと比較し、「インフルエンザの致死率の方が新型コロナよりも高い」とつぶやいていたのに対し、大統領の新型コロナウイルス対策チームのメンバーで、アレルギー・感染症国立研究所長のアンソニー・ファウチ博士が11日下院の公聴会で、激しい口調で「インフルエンザと同じようなものだという人がいる。しかし、インフルエンザの致死率は0.1%だ。新型コロナウイルスは、その10倍以上にのぼり、格段に死を招く確率が高い」とトランプ米大統領に警鐘を鳴らしたのです。米有数のシンクタンクであるブルッキングス研究所は、1918〜19年に流行したスペイン風邪と同程度の感染率という最悪のシナリオの場合、新型コロナウイルスで死亡する日本人は57万人、世界で6800万人という恐ろしい数字を出しました。日本は最善でも13万人、アメリカ:最善24万人、中国:最善280万人、世界合計:最善1518万人!ウソでしょう!と言いたいですね。実際、当時とは情報量が違いますから、そんなことにはならないでしょう。

■ グローバリズムの終焉
 世界経済が持続的に成長するうえでは、ヒト・モノ・カネの自由な移動は不可欠です。感染症の流れを完全にシャットアウトすることなどできないでしょう。新型コロナウイルスの流行もいつかは収束し、経済も平常を取り戻すはずです。根拠なき楽観と同様に、過度な悲観もまた禁物ですが、世界の動きを見ますと、冷戦後の世界の大きな潮流、グローバリズムは終わったかもしれません。米中両国が大手IT企業を巻き込んだハイテク・データ覇権戦争、イギリスのEU離脱など、世界中が地域・国別にブロック化されつつあります。こうした状況では、これまで世界経済をけん引してきたグローバル企業は動きにくくなります。GAFAは国を超えて世界中から情報を集めてビジネスにつなげてきましたが、世界が分断されるとそうしたビジネスモデルはもはや通用し難くなります。中国は国を挙げてこれらグローバル企業に対抗し、自分たちの仲間を増やそうとしています。米国が5Gの有力企業;華為技術(ファーウェイ;HUAWEI)の封じ込めに躍起になっているのはその対策ですが、賛同している国はわずかで、英独仏もソッポを向いています。日本は米国の属国なので、表面上は従っていますが、内心は別です。あとから振り返ると、只今はグローバリズムの終わり、成長株ブームもピークをつけた時と位置付けられるかもしれません。
アブチロン 別名「チロリアンランプ」、「浮釣木」

■ 「ユニコーンバブル崩壊」
 そのバブルとは何か?ユニコーンバブルと言う人も居ますが、いずれ米国への余剰資金集中によるバブルと考えます。「ユニコーン」とは、創業10年以内で企業価値が10億ドル以上の未公開(非上場)スタートアップ(ベンチャー)企業のことです。米「ウーバー(Uber)」、「リフト(Lyft)」、中国「滴滴出行(Didi)」、シンガポール「グラブ(Grab)」など、ライドシェア企業も多いですね。ベンチャーキャピタルが上場資金を提供しますが、公開初日は高いがその後株価が下落する事例が続いています。すなわちユニコーンバブルはすでにしぼみつつあると考えられます。
 他にも社債への投資が続いてきました。日本企業は日本でお金が運用できないので米国に投資してきました。それが円安ドル高の流れになったのです。すなわち米国を舞台にバブルが成長してきました。日本のソフトバンクグループなど典型です。ソフトバンクのバブルも崩壊するでしょう。今コロナショックで大騒ぎですが、実は30年に一度のバブル崩壊は、米国発で世界に波及すると思われます。

■ 働き方改革
 今回のコロナパラリシスで「巣ごもり」状態になることで、テレワークが注目されています。これは日本が大変遅れている分野で、そのために一極集中になって東京にヒトが集まり過ぎるわけです。コロナウイルスは満員電車でも感染しているのではないかと言われていますが、通勤は別名痛勤と言われるように、実に大変なものです。人生の中でこれに費やす時間のなんと多いことか!いかに運動になるかは、通勤をやめた時点で直ぐ分かりました。日本人がアメリカ人みたいにブクブク太っていないのは通勤でエネルギーを消費しているからだろうと思います。
 実はこれこそが働き方改革になるのではと考えます。日本では地方創生と言いながら、実態は真逆のことが進んでいます。これは官僚の思惑によるものと想像しますが、東京一極集中が進むことで、トウキョウヒートアイランド現象が起き、緑が失われ、痛勤を強いられているのです。米国などは都市から企業や富裕層が去り、大都市は貧困層の住む街になりつつあります。IT企業は緑豊かな地にオフィスを構え、社員も緑豊かな郊外に住んでいます。仕事が終わればすぐゴルフも出来れば釣りもトレッキングもできるのです。無駄な通勤時間は少なく、自然に溢れた環境で働き、暮らせる、それはITをうまく活用しているからです。

■ 原油価格を巡る各国の思惑
 今回の原油価格の急落は、OPEC加盟国間の協議での原油価格と市場シェアの合意が失敗に終わったためです。ロシアは市場シェアを守りたいので価格下落を容認し、サウジは価格上昇を望んで市場シェアを一段と失っても構わない姿勢でした。問題は米国のシェールオイル生産者と、シェアをどう分けるかでした。中東で米軍がいろいろな作戦に関与し、極端だったのはブッシュジュニアが大統領だったときに、イラクが戦略兵器を保有しているとして英仏などの反対を押し切って戦争を仕掛けたことでした。結局戦略兵器など無かったのですが、独裁者フセインを殺してイラクを支配することに成功したのです。結局アメリカの狙いは石油利権に尽きるわけですが、トランプ米大統領が中東から米軍を引き揚げることを公約にして当選した背景には、シェールオイルの開発に成功して、米国が石油輸入国から輸出国に転換したことがあります。
 サウジと米国は仲が良いので、両者がうまくやって原油価格を高値維持すれば万々歳です。もちろんロシアは高値賛成なので、価格が下がるのは需要が下がったときですが、そういうときはOPECが協調減産してきたわけです。先進国では脱オイルが進んで来ました。日本などは水素エネルギーへの転換を進めています。燃料電池などですね。しかし世界全体を見ればアフリカやインドを中心に人口が増えて、石油需要は増えます。

■ シェールオイルの登場
 2011年以降、シェールオイルで米国の原油生産量が倍増した半面、サウジとロシアの生産は停滞してきました。少なくとも過去5年間を振り返ると、米シェール生産者は原油市場で中期的なアンカー(安定供給者)の役割を果たしてきました。
価格が上がるとシェールオイル生産が急増し、やがて供給過剰になって価格を押し下げ、シェール生産は価格が持ち直すまで減少するというサイクルが生まれたのです。岩を粉砕して浸み込んでいるオイルを取り出すシェールオイルは、どうしてもコストがかかる分、原価が高いからです。サウジとロシアが実施した価格押し上げのための減産によって、米シェール業者は穴埋めのための増産と市場シェア拡大の機会を得る形になりました。2012年以降のほとんどの年で、世界の原油消費の増加分のほぼすべてをシェール生産者が取り込んでいるのです。北海ブレント価格が55ドル未満だとシェール生産は減り、70ドルを越えるとシェール生産者が増産し、価格が下がるので、かつて100ドルを大きく超えてサウジやロシアが大もうけしたようなことは起こらなくなったのです。業を煮やしたサウジは「生産量戦争」を仕掛けました→右図右端参照
2011年以降の価格安定はシェールオイルによるもの

■ 原油価格の急落
 サウジが過去に仕掛けた「生産量戦争」は、1985〜86年(当時はザキ・ヤマニ石油相)、あるいは2014〜16年(アル・ヌアイミ石油相)の場合でも、想定よりも期間が長くなり、サウジは経済がリセッションして痛手が大きくなりました。5年前には原油価格が30ドルを切り、株も暴落して、円高が進行し、今と全く同じ状況が起きました。
 今回はロシアとサウジの交渉が決裂し、サウジは4月から生産を2割アップすると表明したのです。原油価格の下げ圧力を最大化し、すべての産油国に痛みを強いるという意図があるわけです。前回書いた「苦肉の策」というやつです。ロシアを再び交渉の場に引っ張り出すか、あるいは米国が国内のシェール業者を守るために仲介役として乗り出してくるのを待つ狙いです。原油価格の急落をトランプ米大統領は「消費者にとって良いことだ」と言いましたが、それは日本にとってはとても良いことですが、米国のシェール生産者は赤字になって生産量を落としますから、目前に選挙を控える大統領としては単なる強がりで、実は困っているわけです。

■ 株の急落で怖いのが...
 今まで株価は上がり過ぎて来て、多くの投資家は疑心暗鬼でした。上げはジワジワ、下げは急落というのがいつものパターン、ノコギリの歯のようなパターンですが、これは人間の心理によるものです。恐々買って、売るときは投げるというパターンです。成功する投資家は、投げを見て買い、目標を決めて達したら売る、再び買うのは相場が荒れるまで待つ、決して焦らない、という人です。
 GPIFの株買い→年金資産の消失懸念・・・これは怖い!小沢一郎さんは、今回の株価暴落でもしかすると26兆円の年金資産が消失するのではないか?とTwitterでつぶやいています。安倍首相は過去の国会答弁でそのリスクを問われたとき、「もしそうなったとしても、原資が減れば当然給付に反映される」と言っています。至極当たり前の答弁ですが、だからこそ怖い!

■ 目処と目途
 前回新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が「3月19日頃を目処に公表する予定」としたことについて、「目処」はメドだけど、政治家は「目途」;モクトというコトバが好きなようです、と書きました。
実際加藤厚生労働大臣が答弁で目途(モクト)を使っていました。「目途」は「めど」と読む人が圧倒的だそうですが、「途」は「ト」なので、音読みの「モク」と音読みの「ト」を組合せた「もくと」であれば自然ですが、訓読みの「メ」と音読みの「ト」を組合せれば「めと」になりますが、「途」を濁らせて「ド」と読ませるのは無理があります。集英社国語辞典で「めど」を引いてみると、漢字は「目処」のみが当てられています。三省堂の新小辞林でも「目処」で岩波国語辞典でも「目処」ですが、いずれも「処」という字にはマークがついて音訓表には無い、すなわち「ド」とは読まないとなっています。さらに岩波国語辞典では「『もくと』の『目途』を書くのは当て字」とあります。すなわち辞書では「めど」は「目処」だが、本来の発音ではないとしているわけです。確かに「処」は「ショ」であって「ド」とは読まないでしょう。すると「めど」とひらがな表記するしかない気もします。実際新聞ではひらがな表記が基本だそうです。安倍晋三首相は好んで「もくと」という表現を使います。2017年の施政方針演説では、福島の復興に触れ「帰還困難区域でも、復興拠点を設け、5年を目途(もくと)に避難指示解除を目指し・・・」と述べていました。新型コロナウイルス対策でも「もくと」と言っていましたよ。実は首相演説の原稿にはルビが振ってあるのだそうです。政治家用語と言いますか、わざと聞き慣れない言葉を使って「オッ」と注目させようと言うわけで、「目途」に「もくと」とルビが振ってあったのでしょう。でも我々庶民は「5年をめどに」と言いますよね。
メジロ
 ところで「目途」と「目処」は違うのでしょうか?実は同じ意味で、同じように使うことができるそうです。細かく分けると、それぞれ「目途」は「目標」、「目処」は「おおよその見通し」という意味で使うのだと言います。したがって「目途」はハッキリした目標が定まっているので、お役所言葉に使われ、事務方が政治家の原稿を作ると「目途」の「もくと」と振り仮名が振ってあると言うわけですね。
(2020年3月15日)


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