221 清貧
■ 人生 楽しく をあらな 世間では、お金をたくさん持っているのに、生い立ちの故か使えずにケチケチ暮らしている人を見かけることがあります。「消費する」ということにマイナスイメージが身に付いているからだと思われます。スーパーの安売りで少しでも安いものをと買いあさり、一方で大きな無駄遣いをする、なんてことも目にします。しかし人生の終末がチラチラと見え出しているのですから、たくさんヒトと交流して「人生 楽しく をあらな」と思うことが大事、そのための出費は惜しまないことが大切だと思っています。先般あるヒトと会って、今年4月に飛鳥山公園で花見したうちの一人が、その後すぐ突然死したことを聞きました。昨年の161『ほったらかし温泉』(2016年4月9日)の冒頭で紹介した「長屋の花見」の写真のうちの一人です。今年もピンピンしていて楽しそうでした。日中の花見にわざわざ来るくらいですから、体調は良かったはずです。人生一寸先は闇ですから、楽しい思い出だけが残っていることを良しとして、ご冥福を祈ります。 ■ 清貧とは 今回のテーマ「清貧」の意味はどういうことでしょう?清貧とは「無理に富を求めようとはせず、行いが清らかで貧しい生活に安んじていること。○○に甘んずる、というように使われる」と辞書には書いてあります。「私欲を捨てて行いが正しいこと」と「貧しく生活が質素であること」との間には因果関係があるのでしょうか?「私欲」と「正しい行い」の間に強い相反関係が見られるのは世の常です。つまり、「私欲」をとるか「正しい行い」をとるかの二者択一の状況になった場合、「貧しい生活」となっても、「正しい行い」を選択する場合に「清貧に甘んずる」という状況になるのだろうと思います。「清く、正しい生活」=「貧しい生活」とは限りません。むしろ「清貧」とは、心の清らかさと貧しさの相反する状況を指していると捉えています。心が貧しかったら、どんなに物理的に豊かでも、清らかとは見られません。清らかな行いのためなら、物理的に貧しいことも厭わないということであって、清らかで豊かならこれに越したことはありません。 ■ 「清貧」を貫く哲人政治家
■ ムヒカさんの目に、日本はどう映ったか 以下、ムヒカさんが語ったことを羅列します。 「ひとつ心配なことがある。というのは、日本は技術がとても発達した国で、しかも周辺には労働賃金の安い国がたくさんある。だから日本は経済上の必要から、他国と競争するために、ロボットの仕事を増やさないといけない。技術も資本もあるから、今後はロボットを大衆化していく最初の国になっていくのだろう。ただ、それに伴って、これから日本では様々な社会問題が表面化してくるだろう。いずれ世界のどの先進国も抱えることになる、最先端の問題だ。確かに、ロボットは素晴らしいよ。でも、消費はしないんだから」・・・課題先進国日本の現状と未来を的確に指摘しています。 「とても親切で、優しくて、礼儀正しかった。強く印象に残ったのが、日本人の勤勉さだ。世界で一番、勤勉な国民はドイツ人だと、これまで思っていたが、私の間違いだった。日本人が世界一だね。たとえば、レストランに入ったら、店員がみんな叫びながら働いているんだから」・・・痛烈ですね 「とても長い、独自の歴史と文化を持つ国民なのに、なぜ、あそこまで西洋化したのだろう。衣類にしても、建物にしても。広告のモデルも西洋系だったし。あらゆる面で西洋的なものを採り入れてしまったように見えた。そのなかには、いいものもあるが、よくないものもある。日本には独自の、とても洗練されていて、粗野なところのない、西洋よりよっぽど繊細な文化があるのに。その歴史が、いまの日本のどこに生きているんだろうかと、つい疑問に思うこともあった」・・・日本人の中にも同じ思いの人は居ります。ただ、ほとんどの日本国民は、外国人から指摘されて、初めてそうなのかと思うようですね。 「退任後に行ったのはトルコ、ドイツ、英国、イタリア、スペイン、ブラジル、メキシコ、米国だ。行った先で私はよく大学を訪れる。年老いてはいるが、なぜか若者たちとは、うまくいくんだ」 ・・・若者たちと会話ができるということは、ムヒカさんが極めて柔軟な人だということを表しています。 「そこで気がついたんだが、どこに行っても、多くの人が幸福について考え始めている。日本だけではない。どこの国もそうなんだよ」 ・・・そうですか。 「豊かな国であればあるほど、幸福について考え、心配し始めている。南米では、私たちはまだショーウィンドーの前に突っ立って、『ああ、いい商品だなあ』って間抜け面をしているけれど、すでにたくさんのモノを持っている国々では、たくさん働いて車を買い替えることなんかには、もはや飽きた人が出始めているようだ」・・・日本の若者の車離れ、バイクすら乗らない、酒は飲まない、煙草は吸わない、結婚しない...つまりかつての幸福観は今や過去のもの、パソコンの操作が出来ないスマホ世代は、スマホの小さな画面の中に大きな幸せを感じているのでしょう。 「おそらく、自分たちは幸せではない、人生が足早に過ぎ去ってしまっている、と感じているからだと思う。昔の古い世界では、宗教に安らぎを感じる人もいた。だが世俗化した現代では、信心がなくなったから」・・・日本だけではないんですね。 「東京は犯罪は少ないが、自殺が多い。それは日本社会があまりにも競争社会だからだろう。必死に仕事をするばかりで、ちゃんと生きるための時間が残っていないから。家族や子どもたちや友人たちとの時間を犠牲にしているから、だろう。働き過ぎなんだよ」・・・日本国政府は「働き方改革」を掲げていますが、どうももっと底辺にある、もやもや〜〜っとした社会通念を変えなければならない気がしますね。現代日本人は北朝鮮や韓国を異常と見る人が多いようですが、南米の人から見たら同じようなものに見えるようですよ。 「もう少し働く時間を減らし、もう少し家族や友人と過ごす時間を増やしたらどうだろう。あまりにも仕事に追われているように見えるから。人生は一度きりで、すぐに過ぎ去ってしまうんだよ」・・・北欧の人たちやドイツ人は有能ですから高効率で働き、残業しないでアフター5を大事にします。日本人は必死に働かないと追い着けないから頑張ってしまう。でも別に、追い着けなくてもいいんじゃない?なんて言ったらぶっ飛ばされる社会なのです。 「もっとも深刻な問題は、富の分配がうまくいっていないことだ。世界各地で、富があまりにも一部の人間に集中している。資本が生む利潤のほうが、経済成長のペースを上回っている。だから豊かな家庭に生まれたら、貯蓄して投資する能力を早くから身につけたほうがいい世の中なんだ。つまり人生のスタート時点から、巨大な富を持って生まれた者がさらに大きく、強くなっていく。この先の世界にあるのは、紛争だよ」・・・おっしゃるとおりだと思うけれど、その未来予想図は深刻ですね。額に汗して働く人をあざ笑うように投資で稼ぐ人が多い、豪邸とアパ−トが混在する我が家近辺... 「放っておけば、富は集中する。今後も、ますます集中していくだろう。この問題は日本でも、ウルグアイでも、米国でも、世界中で起きていることだ。どうすれば正せるのかはわからない。だが将来、紛争の原因になっていくことは間違いない」・・・その紛争をどうやって過激な方向に持って行かずに収められるかが最大の課題です。 ■ 痛烈な政権批判
■ 他にも知識人から批判が
■ 千丈の堤も蟻の穴より崩れる
■ 顔は男の履歴書 ところが加計学園問題で菅官房長官が前川前文部科学省事務次官を個人攻撃したことが潮目を変えたと思います。読売新聞が報道した前事務次官の歌舞伎町通いを非難し、文科省の組織的天下り斡旋問題では「その地位に恋々として・・・」と誹謗したのですが、週刊誌などがそれを機に前川前事務次官の周囲を徹底的に調べたら、どうやら正反対の人間像が現れて、人望があって、奉仕の精神に溢れた人だったということでした。212『天下り』(2017年4月3日)で文科省の組織的天下り斡旋問題を採り上げたのはつい2ヶ月前です。天下り問題に非難ごうごうというマスコミも一部ありましたが、筆者がこの中でこの問題を悪と決め付けず、システム変更が必要だと論じたのは、その生ずる背景を理解しているからです。むしろ自らの罪を潔く認め、辞任した前川前事務次官は立派だと思いました。なかなかこうした潔い人は珍しく、菅官房長官の言うことは的外れです。その後テレビで質問を受けるときのやり取りを見て、その人となりが分かりました。「顔は男の履歴書だ」と言われます。女は化粧して別人のように変身できますが、還暦を過ぎたような男は、その顔に人生が現れるのです。前川前事務次官の顔は立派ですが、黒も白としらばくれる菅官房長官の顔は醜く見えました。 ■ 安部内閣の支持率は下がる? それでは安部内閣の支持率は下がっていくのでしょうか?70代以上の人たちは、とにかく残る余生を既得権のまま安穏に送りたいと思っていますから怒るパワーは無く、支持率は下がらないでしょう。60代の人たちは働き盛りを過ぎて、政権の欺瞞対応に怒る人も増えているようなので支持率は下がるでしょう。働き盛りの人たちは、一時期の熱情で民主党政権を誕生させた結果、大変な混乱を招いたトラウマを引き摺っていますから、野党NOの人が多く、与党内では安部1強ですから他に選択肢はありません。高度成長の時代、モーレツ社員の時代を知らない若い世代は、むしろ「失われた20年」で苦労した上の世代を見ていますから、雇用が安定している今以上のものは求めません。この人たちが最も安部内閣の支持率が高い、若い世代から順に右肩下がりの支持率なんて、過去全くありませんでした。普通は右肩上がりです。若者の支持が高い限り、安部内閣は安泰でしょう。お隣の韓国とか、米国、欧州の若者と日本のそれが根本的に違うのは、政治に対する醒めた意識です。もし若者の意識が変わるとすれば、それは本当に戦争が起きそうになったときでしょうか。 ■ ピンチになると現れる助け舟 そして安部内閣がピンチになると、不思議にも助け舟が現れるのです。今回もそうです。2017年6月2日の日経平均株価は前日比317円25銭高の2万0177円28銭と続伸し、2015年8月以来約1年9ヶ月振りの高値水準になったのです。しかも日銀が同日公表したところによりますと、5月末現在の日銀の資産と負債の残高は、初めて500兆円を超え、GDP(国内総生産)に匹敵する規模に膨らみました。1年前から約75兆円増加し、量的・質的金融緩和(QQE)導入前の2013年3月末の164兆円と比べて3倍超となったのです。依然として物価2%目標の実現が遠い中、市場では、長期化する大規模緩和の副作用や、将来的な出口戦略が困難になる可能性に警戒感が強まりつつあるようです。 ■ 米国が「パリ協定」離脱 トランプ大統領の公約通り、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からアメリカが正式に離脱を表明しました。コレに対して世界中から非難の声が沸き起こっています。日本経済界からも批判が相次ぎました。「一言足らない」ことで知られる麻生財務大臣は、閣議後の会見で「もともと国際連盟を作ったのはどこだった?国際連盟はアメリカが作ったんですよ。出来上がりました、どこが入らなかったか、アメリカですよ。その程度の国だと思っています」と批判しました。山本公一環境相も「失望と怒りを感じている。人類の英知に背を向けた決定だ」と厳しく批判しました。 ■ 「清貧政治家」ムヒカさんに学べ 2012年6月、ブラジルで行われた「国連持続可能な開発会議」は、環境が悪化した地球の未来についてみんなで知恵を出し合おうと、世界中から各国の代表者が集まって開催されました。会議が始まりましたが、これといった名案は出ません。会議も終盤となって、南米の小国、ウルグアイの番がやってきます。ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカは、質素な背広にネクタイなしのシャツ姿で、「私たちあわれな人類は、どんな未来を選ぶべきなのでしょうか」と述べ、「より便利で、より豊かで、わたしたちは幸せになったのでしょうか」と続けます。スピーチは当初、小国の話だとしてそれほど関心を示していなかった人々の心も動かし、演説が終わると会場からは、割れんばかりの拍手が起こりました。その後、インターネットを通じてこの演説は世界中に届けられました。のちに伝説となるホセ・ムヒカ大統領の演説でした。 これほど国民に愛された政治家が、米国に、日本に果たして居たでしょうか?世界が抱える諸問題の根源は、我々の生き方そのものにあると説く「清貧政治家」ムヒカさんに、トランプ大統領も安倍首相も学ぶべきではないかと思います。 (2017年6月3日) |