71  同胞

 日本各地に甚大な被害をもたらした台風ですが、関東南部は雨も風もほとんど心配ない程度でした。この土日はやっと少年野球がまともにできそうです。2014年7月12日(土)朝4時22分、スマホがヒュイヒュイヒュイと鳴りました。午前3時40分に起床してパソコン中だったので、地震が来るぞと妻の寝ている部屋の灯りを点けました。娘はすぐ「福島県沖だ」と言って2階から降りてきてテレビを点けました。スマホで情報を確認したのでしょう。しかし妻はのんびり寝ています。家族でもそれぞれ性格が違います。妻は真っ先に死ぬタイプですね(>_<) 津波警報が出て沿岸住民に避難指示が出たところも有り、避難所が開設され、漁船の中には急いで沖合いに出た船もありましたが、多くは係留されたままでした。確かにこの震度ではそれほど大津波が来るとは想定されなかったのでそういう判断になったのでしょうが、自治体から避難指示が出たら真っ先に避難するというのは頑なに守るべきでしょう。自分の判断、自己責任というのでは、いずれ狼少年になってしまいます。

■ 岩手に関する映画

 今回は岩手県の盛岡市近辺に関連する映画をご紹介します。前回の「ホーム・スイートホーム」は、岩手県岩手郡岩手町が舞台でした。


 映画内でのグループホーム「おばんでがんす」のある岩手県岩手郡岩手町は岩手山の北です。左右のパンフレットの画像は、岩手山の南の雫石町・小岩井農場から見た画像です。地元ではコレを「表岩手」と言い、岩手町や八幡平市から見た岩手山は「裏岩手」と言います。片側が富士山と同じように、長い裾野を引く美しい形で、火山としては円錐形のコニーデ型です。この形状から、南部片富士と呼ばれる日本百名山のひとつです。
 ただ本来、表とか裏は失礼ですね。静岡から見たのが表富士で、山梨からは裏富士?そんなことは無いと思いますよ。どこから見ても、富士山は富士山です。岩手山も同じです。
誰にでも帰りたい家がある

■ 岩手県の東側はリアス式海岸、西側は奥羽山脈

岩手県と盛岡広域8市町
 岩手県は北海道に次ぐ広大な面積の県であり、県庁所在地は盛岡市です。岩手県の東側は太平洋に面しており、2011年3月11日の東日本大震災で津波の甚大な被害を受けました。海岸線の多くは海から直ぐ陸地が立ち上がり、広い浜辺はあまりありません。いわゆる三陸リアス式海岸です。日本ではほかに伊勢志摩が同じような海岸です。こういう海は、魚や貝や海草の宝庫です。左地図の岩手県の海岸の北端が洋野町(ヒロノチョウ、青森県の八戸市に接しています)、その南が北限の海女で有名な久慈市です。「あまちゃん」の舞台です。南端が津波で甚大な被害を受けた陸前高田市、奇跡の一本松、千昌夫のふるさとです。宮城県の気仙沼市に接しています。
 岩手県の西側は奥羽山脈が秋田県との境を形成しています。最北の八幡平市は最高級にんにくで有名な青森県田子(タッコ)町と秋田県鹿角市に接しています。南へ雫石町、西和賀町、奥州市、一関市と奥羽山脈沿いに南下、宮城県の栗原市に接し、ここは東北の地震で一番揺れる場所です。3.11でも最大震度7を記録しました。

■ 山田洋次監督の松竹80年記念作品
 1975年に松竹が80年記念作品として制作、同年10月25日に公開した山田洋次監督の映画が同胞(はらから)です。岩手県の過疎の村で、青年会が劇団公演を計画し成功させるまでを描く青春映画です。実際に起きた話を基にしており、モデルとなった劇団「統一劇場」が公演シーンを演じています。
 この映画には地元の青年団の人たちが実際に出演しました。実はその中に筆者の知り合いの人(農民)もいます。郵便を届ける役の人は、実際に郵便局員でした。したがってドキュメンタリー的要素もあったということです。この映画の何が良いか、ご覧になった方はほとんど居られないでしょうから、YouTubeのプレビュー(3分26秒)をご覧下さい。音声が出ますので、ご注意下さい。DVDも発売されています。
 舞台となった岩手県の山間の小さな村・松尾村(現在は合併して八幡平市)の青年会会長高志(寺尾 聡)の許を、統一劇場の職員の秀子(倍賞千恵子)が訪れ、劇団の公演を提案します。高額な費用が問題となり、青年会の議論は紛糾しますが、高志の熱意に押され、公演の実施が決まります。青年会員の頑張りでチケットも完売しましたが、公演の直前になって有料の催しには会場は貸せないと中学校長(大滝秀治)から断られます。
 この映画全体に流れる雰囲気は、生き生きとした若者の姿です。今の時代には失われた活気です。みんなで協力して、力を尽くせばなんとかなる、そういう時代でした。若者が生き生きとしていれば世の中は明るい、改めてこの映画を見て、そう感じます。なにせこの時代若者だった我々が、今老人となって、世の中には老人が溢れているのですから。

山田洋次監督

■ 同胞(はらから)出演者の交流続く
 「同胞(はらから)」で主演した倍賞千恵子さんと一緒に出演した地元の人たちや、山田洋次監督たちとの交流はずっと続いています。山田洋次監督も、自身の作品の中でもプロとアマがこれほど自然に交じり合った作品は無いということで、この思い出をずっと大切にしていきたいと地元の人たちに話し、「同胞塾(はらからじゅく)」と命名した集まりを長く続けて行きましょうと提案しました。それ以来、同窓会のような形で同胞塾は続いています。倍賞千恵子さんが映画の中で、「いちばんお酒の強いひと」と紹介した工藤金子さんは、自宅に同胞塾(はらからじゅく)を開いています→詳細
 八幡平ファンチャンネルというページでは、もりおか映画祭2013で、八幡平市で撮影された「同胞(はらから)」で主演女優を務めた倍賞千恵子さんの舞台挨拶や地元の出演者達の挨拶が行われ、会場が大いに盛り上がったことが紹介されています。
 まためんこいテレビ「八幡平探訪」では、「同胞(はらから)」で山田洋次監督の下、映画にプロの俳優さんと一緒に出演した地元の人の一人、工藤金子さんに当時の思い出を語っていただいた内容が掲載されています。
 また、松尾地区公民館には旧松尾村を舞台に地元の若者たちが大勢出演して話題となった映画『同胞』の記念碑が、制作に携わった有志によって20周年を記念して建てられています。

■ 八幡平市で「同胞」感謝祭〜40年目の出会い〜というイベント開催
 松竹映画「同胞」の松尾村ロケから40年、1975年の映画公開以来、山田洋次監督をはじめ、映画出演者、関係者との交流が続き、これまで松尾中学校文化祭への倍賞千恵子さんの訪問、映画公開20周年の記念事業、撮影当時のパネル写真などを展示する同胞塾の創立など、映画の舞台となった旧松尾村とのご縁が、40年を経た今もつながっています。これまでの交流に感謝するとともに、作品を知らない世代との新たな交流・つながりを祈念して「同胞」感謝祭〜40年目の出会い〜イベントが開催されます。

映画のあらすじ
 岩手県岩手郡松尾村は岩手山の北麓、八幡平の裾野に広がり、四つの集落からなる、人口7200、戸数1700の村です。斉藤高志(寺尾聡)はこの村の青年団長で、酪農を営んでいます。兄が盛岡の工場に通っているので高志が農事のすべてを切り回しています。村の次男、三男のほとんどが都会へ出て行き、残った青年たちも東京・大阪方面へ出稼ぎに行って閑散としている3月半ば、松尾村に河野秀子(倍賞千恵子)が訪れました。彼女は東京の統一劇場の職員で、ミュージカル「ふるさと」公演を青年団主催でやって欲しいと言うのです。秀子の話を聞いた高志は、公演の費用が65万円かかるため、青年団の幹部が揃う春になってから理事会を開いて検討すると答えました。5月、桜が咲く遅い春に、青年団の理事会にはかると、公演費用に責任を持ちかねるという強硬な反対意見が出されました。何度も理事会がくり返されました。頼りない団長の高志ですが、「もし劇団の公演が赤字になったら、なじょすのや(どう責任を取るのか)」と詰め寄られて「んだば俺がべご(牛)売って弁償する」との一言で、停滞気味の話し合いが動き出し「やろう!」と決まりました。夏が来ました。目標650枚の切符が、青年団全員の必死の活動で目標をオーバーするまで売り切ったのです。公演3日前、会場に予定されていた中学校の体育館が、校長(大滝秀治)に、「有料の催物には貸せない」と断わられてしまいます。急を聞いて秀子が盛岡から飛んで来ましたが、校長の答えは変りません。秀子は遂に最後の条件を切り出しました。「無料ならいいんですね」、「勿論です」、無謀とも思える提案ですが、秀子は「無料で公演するのは苦しいけれど、芝居を楽しみにしている人たちのために中止することはできません」と言って校長室を出ました。校長は、今回に限り特別に許可するとやむなく決断しました。公演は大成功でした。千人を超える人々が集まってくれました。劇団員の歌うお別れの歌を青年達は泣きながら聞きました。八幡平に秋が来ました。山肌は紅葉に色どられ、遥か彼方、岩手山の頂上には、もう初雪が白く光っています・・・


松竹80年記念映画です。山田洋次監督は当時「男はつらいよ」がヒットし、毎年二本づつ撮りながら、この映画を撮りました。寅さんシリーズの主役である渥美清と倍賞千恵子、下條正巳と三崎千恵子のおいちゃん、おばちゃんコンビ、井川比佐志や大滝秀治など、とにかく寅さんシリーズのキャストが沢山出演しました。寺尾聡や下條アトムのコトバもなかなかハマっていてイイですよ。市毛良枝さんが若い!40年前ですから(^_^)


☆☆☆ イベント内容 ☆☆☆


実施日:平成26年7月20日(日曜日)
会場:八幡平市立松尾コミュニティセンター(入場無料)
内容・日程:
 午前 9時30分 開場(会場内で20周年記念の映像上映)
 午前10時30分 開会
 午前10時40分から正午まで 40年目の同胞トーク
    ・ 映画出演者、松尾中学校文化祭関係者、20周年記念事業関係者などによるパネルディスカッション
    ・ 山田洋次監督の講話(30分ほど)
 正午から午後0時40分まで 松尾中学校吹奏楽部演奏
    ・ 中学生によるジャズバンド披露(演奏20分)
 午後0時40分から1時20分まで 昼食・休憩
    ・ 松っちゃん市場(産直)によるそば等の販売
 午後1時30分から2時30分まで 倍賞千恵子さんふるさとコンサート
    ・ 倍賞千恵子さん、小六禮次郎さんによるコンサート
      松尾中学校文化祭訪問時に小六禮次郎さんから贈られた曲「約束」を、現在の中学生を中心に会場全体で合唱
      フィナーレに映画主題歌「ふるさと」を会場全体で合唱
 午後3時から 映画上映
    ・ 映画「同胞」上映。上映前に、監督、出演者による舞台あいさつ
 出演予定:山田洋次監督、倍賞千恵子さん、寺尾聰さん(調整中)、岡本茉利さん(調整中)、小六禮次郎さん(作曲家)
 実施主体: 主催  映画「同胞」感謝祭実行委員会(会長:藤田賢吉)
共催  八幡平市松尾地区地域振興協議会
後援  八幡平市
協賛  八幡平市立松尾中学校、八幡平市芸術文化協会松尾支部、松っちゃん市場
 その他: 松尾地区地域振興協議会主催による松尾コミュニティセンター事業(被災地支援事業)として、姉妹都市・宮古市田老地区(仮設住宅)から30人ほどを招待予定(前日の7月19日に八幡平市入り、20日はふるさとコンサートまで参加予定)(宿泊:なかやま荘)
 問い合わせ先: 映画「同胞」感謝祭実行委員会事務局 佐々木宣明
URL https://www.facebook.com/eiga.harakara.40th  または http://eigaharakara40th.web.fc2.com/

 松尾村の若者たちと共に  汗を流して 映画「同胞」を作り上げた
 あの輝かしい思い出を ぼくとぼくのスタッフは 一生忘れないだろう。  山田洋次  1995年5月28日

松尾地区公民館には旧松尾村を舞台に地元の若者たちが大勢出演して話題となった映画『同胞』の記念碑が、制作に携わった有志によって20周年を記念して建てられています。山田洋次監督直筆のコメントが刻まれています。
左写真は八幡平市 鹿角街道の歴史、文化、歴史的資源等を紹介するポータルサイト「八幡平市 鹿角街道WEB」より
 55『山田洋次ワールド』の中でも『同胞(はらから)』を紹介しています。
予告編(YouTube) 講談社「山田洋次・名作映画DVDマガジン」
倍賞千恵子が歌う「ふるさと」は、実に映画にマッチしていますね。名曲です。
  ♪ふるさと ふるさと
  ♪ふるさと ふるさと
  ♪けや木の梢としじゅうがら
  ♪庭の日だまり 水たまり
  ♪帰ってこない渡り鳥
  ♪ふるさと ふるさと


■ 『愛しの座敷わらし』
 27『映画』(2013年8月25日)で2012年の『愛しの座敷わらし』(東映・監督:和泉聖治)という映画を紹介しました。東京から引っ越した一家が、"座敷わらし"との出会いを機に家族の絆を取り戻してゆく物語です。水谷豊演じる父・晃一の転勤で岩手県の古民家へ引っ越すことになった高橋一家。片田舎という表現ですが、これは岩手山の見え方からして滝沢村(人口日本一の村から2014年1月1日滝沢市になりました)です。ここから見える岩手山は南部片富士ではないのです。
 東京からやってきた一家が、“座敷わらし”と出会うことで、それぞれの生きていく意味や自信を取り戻し、都会での生活で気づかぬうちに失ってしまった家族の絆も新たに作り直して行く、やさしい希望と再生の物語です。
 盛岡広域地域を舞台にした映画はすべて岩手山がポイントになっています。このふるさとの山が人々を癒してくれることを物語っています。

■ ふるさとの山・・・岩手山
 ふるさとの山に向かひて 言うことなし ふるさとの山は ありがたきかな ・・・ 石川啄木のうたです。盛岡広域の人たちには、この山が心のふるさとなのです。

南(雫石)から見た岩手山
 
東(啄木碑)から見た岩手山
 
北(八幡平市)から見た岩手山
 
盛岡駅(南南東)から見た岩手山
 なお、八幡平(ハチマンタイ)というのは、十和田八幡平国立公園(環境省のホームページ参照)の南部で、標高1,614mですが、その名のとおり平(タイラ)です。アスピーテ型火山なので、粘度の小さい溶岩のためたいらに広がったのです。美ヶ原も同様です。途中まで車で行けますが、頂上へは歩いて登ります。沼があってきれいな湿原が広がる、高原の聖地です。
 十和田八幡平国立公園は、青森県、秋田県、岩手県にまたがる国立公園で、北部の十和田八甲田地域が十和田湖、奥入瀬渓流、八甲田山、田代平湿原、南部の八幡平地域が、八幡平、玉川温泉、秋田駒ヶ岳、岩手山などが主要スポットです。すなわち十和田八幡平国立公園は北端が八甲田山、南端が岩手山、いずれも日本百名山です。岩手山(2,038m)は円錐形のコニーデ型火山で、溶岩に粘り気があるので、盛り上がって、それが溶岩として噴出して溶岩流として流れたため、長く裾野を引く美しい形となりました。岩手山は南北の奥羽山脈から真東に突き出た山脈の突端で、独立峰のようなものですが、西側だけが奥羽山脈に連なっており、北も東も南もきれいに裾野を引いた山なのです。したがって上写真のように見えるわけで、それぞれの地域に住む人たちは、みんな自分のところから見た山が「おらほのいわてさん」だと思っているわけです。盛岡広域出身者は、岩手へ帰るとき、新幹線の車窓から、もしくは東北自動車道を走る車の窓から、岩手山が見えたとき、「ああ帰ってきた」と思うのです。
盛岡市の北上川から望む岩手山
 なお、岩木山(1,625m)と岩手山を混同する人が居ます。岩木山は青森県で一番高い独立峰で、やはり日本百名山ですが、津軽平野にすっくと聳える、円錐形のコニーデ型火山です。弘前など、津軽の人たちには心のふるさとです。
(2014年7月12日)


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