45  自動車と中国の躍進

 また爆発事故が起きました。39『日本の品質がおかしい』(2013年11月17日)でつぶやいたことが、次々起きてきます。冷凍食品への農薬?そんな馬鹿な!ニッポンはそんな国ではなかったはずです。もはや、中国を非難することは難しい・・・。
 NHKのニュースキャスターである大越健介さんが シリアに行き、現地に派遣している記者のレポートを取材していました。その現地の記者が、シリア情勢は単純ではなく、アサド大統領の政府軍と反政府軍の対立は、複雑な利害関係が絡み、反政府軍にはアル・カイーダ系がおり、次第に存在感を増しているので、シリアでは、政府=悪、反政府勢力=解放軍というこれまでの日本での報道のような単純な図式は成り立たず、極めて複雑な様相を呈している、とレポートしていました。そしてとにかく戦争を終わらせることが第一だ、という主張を聞いて、ナルホドと納得しました。こういう現地リポート、もっとドンドンやってほしいものです。41『晩秋〜初冬』(2013年12月1日)で、「シリア内戦の裏にあるもの」を指摘しましたが、それを裏付ける現地リポートでした。

■笑いが止まらない自動車業界
 先週は車遍歴について紹介しました。筆者も新車を購入しましたが、いま世界の自動車メーカーは笑いが止まりません。昨年の販売台数が前年同期比14.8%増の2211万6800台の中国、一気に2千万台の大台を突破し、3年ぶりに2ケタの伸びを回復するなど、市場拡大に弾みがついています。販売台数は、米国(1560万台)、欧州全体(1000万台超)、日本(537万台)を大きく上回っています。世界の自動車メーカーにとって、巨大市場・中国での戦略が経営のカギを握る時代になったことは明らかです。日本各メーカーは日本市場の拡大は難しいとみており、成長が見込める海外に生産、販売をシフトさせています。日本の2013年の国内新車販売台数は前年比0.1%増の537万5513台で、このうち軽自動車は同6.7%増の211万2991台で7年ぶりに過去最高を更新しました。新車全体に占める割合は39.3%、低い税率などで維持費が安いことや低燃費に加え、自動ブレーキなどの安全装備面も充実してきたことも売れ行き好調の要因のようです。メーカー別ではダイハツ工業(同2.1%減の66万186台)、スズキ(同6.4%増の62万2416台)の2社で軽全体の61%を占めます。さらに、「N」シリーズが好調のホンダは前年比26.7%増の40万7050台、共同開発車の販売を始めた日産自動車と三菱自動車は計同15.6%増の26万9783台と大きく伸ばし、軽自動車の市場活性化につながりました。

■若者の車離れ、結婚離れ、老化した日本
 日本国内の新車販売台数は、1990年の777万7493台をピークに減少傾向が続いています。この2年はかろうじて前年比増加ですが、それも軽自動車の増加です。少子高齢化のほか、若年層の車離れも影響しています。車離れの最大の要因は若者の所得が低いこと、派遣やアルバイトなどが多くなったことです。年金加入者が減ってピンチなどと言いますが、若者に安定した雇用を保証せず、一方で毎年収入の倍の借金をして雪だるまのように債務を増やし将来世代へのつけを増やす政府、経済界も政治もどうしようもないひどい状態です。これでは若者に夢を持て、などと言うだけ嘘っぽいし、大人はみんな詐欺師だと言われても仕方ないでしょう。年金保険料を払わない、選挙にも行かない、夢を持てないならそうならざるを得ないでしょう。しかしこれ以上に危惧される現実は、結婚しない男女の増加です。これまで度々つぶやいてきたように、その原因は草食系男子の増加です。そしてそれをもたらしているのは、将来に希望を持てない社会の現状です。若者が悪いわけではありません!だけど文句ばかり言っていてもしょうがない。希望を持っている人々が住んでいる国はどこか?中国を初めとする新興国です。今よりもっといい暮らしがしたい、だから頑張る、というのが筆者が若かった頃です。日本は老化しました。

■世界的に自動車市場は拡大
 2013年の世界市場での新車販売台数でトヨタ自動車が2年連続で世界一になることがほぼ確実になったようです。米ゼネラル・モーターズ(GM)が発表した2013年の販売台数は、前年比4%増の971万台、独フォルクスワーゲン(VW)グループの販売台数(大型トラックなど含む)は約5%増の約970万台でした。トヨタはグループのダイハツ工業と日野自動車を含む13年の世界販売を前年比2%増の996万台と見込んでいます。世界一と言ってもVWやGMの伸びのほうが大きい、これはやはり中国市場のおかげです。
 中国市場で過去最高の販売を記録したGMは、中国市場の勢いを「10秒に1台売れている計算」と表現しています。日系メーカーでも毎月1万台以上売れる車種もあり、「日本では考えられない規模だ」と日産自動車は言っています。
 中国の自動車市場では、売れ筋は11万〜18万元(約180万〜300万円)台の中級セダンで、VWや韓国・現代自動車など各国のメーカーが主力車種を投入しており、激戦区となっています。また、最近は20万元以上の大型のSUV(スポーツタイプ多目的車)も人気で、その販売台数は5割近く増加しており、トヨタ自動車などもモデルチェンジで攻勢をかけています。一方、GMなどは10万元を切る小型車を投入、マイカー購入を検討し始めた層の開拓も進めています。
 2013年の乗用車販売の国別ブランドのシェア(占有率)は、ドイツ系車が18.8%、日系車は16.4%でした。首位の中国ブランド車は40.3%を占めましたが、前年より1.6ポイント減りました。それだけ贅沢志向と言えるでしょう。
 販売の重点は今後、初めて車を買う人が多い内陸部に移るとみられ、「年間販売3000万台超に増える」(中国自動車業筋)との見方もありますから、日本メーカーにとっても縮小志向の日本より中国を重点にすることは必須です。

■何故日本で外車は高いのか?何故米国で売れるヒュンダイが日本で売れないのか?
 日本では前回紹介したようにEU車が人気です。これが米国では随分日本より安く売られています。日本車にしても、米国での販売価格は日本国内とは違う気がします。モデル名を別にして、わからないようにしていますが、これは明確です。大きな差は、オプション価格が日本はすごく高いということです。つい先頃、今より3割も円高だったとき、ベンツは安くなりませんでした。あくまで円建てで販売しているとディーラーは言ってましたが、極度のユーロ安になったときも価格は同じでした。すなわち、価格というのは買い手の意思を見て決まるということです。日本は、舶来の車は高いというイメージが定着しています。しかも良いものは高くても買う、という国民性です。したがって安くしたら売れないのです。ある時期ドイツメーカーはホクホクでした。一方で外車を買えない層は、日本車の品質が一番と信じています。したがってヒュンダイと言われても信用しないのです。ところが米国は富が一握りの金持ちに集中していて、一般大衆は「安い方が良い」という国民性です。したがってEU車も安くなり、ヒュンダイが売れるのです。車の値付けというのはいろいろウラがありそうです。

■中国の検索最大手「百度(バイドゥ)」IMEが29府県市でPC1千台以上で使用
 中国検索最大手「百度(バイドゥ)」製の日本語入力ソフト「バイドゥIME」による文字情報の無断送信問題で、全国の都道府県と政令市のうち29府県市で千台以上の公用パソコンに同ソフトが使われていたことが、読売新聞の調査で分かりました。中には住民情報を扱うパソコンなどから新聞2年分にあたる情報が漏えいしていた自治体もあり、自治体の個人情報保護条例に抵触する恐れも出ています。横浜市の272台、熊本県の197台、秋田県の113台など、23府県と6市の計1124台でバイドゥIMEのインストールが確認されました。

■中国の覇権主義はヤバイ
 さて最近の中国は、防空識別圏だけではなく、海洋においても自国の権利が及ぶ範囲を宣言しています。近年の中国海軍の武力による領海拡充姿勢は目に余るものがあります。右図をご覧下さい。中国の南シナ海支配構想は、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、フィリピンのすぐ近くまで、みんなオレのもの、といった感じです。誰がどう見たって有り得ないラインですよね。41『晩秋〜初冬』(2013年12月1日)で触れました。
「きなくさくなってきた東シナ海」・・・特に尖閣諸島に関連する日中の衝突は依然続いており、両国の関係は著しく悪化しています。
「ヤバイ南シナ海のにらみあい」・・・1974年1月、中国はベトナムとの戦争に勝利し、パラセル諸島(中国名:西沙諸島)を領有しました。更に中国は、ベトナムが実効支配していたスプラトリー諸島(中国名:南沙諸島)に侵攻し、1988年3月の海戦により、その一部を武力奪取しました。フィリピンが実効支配していたミスチーフ礁(英:Mischief Reef)は、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内ですが、1995年に中国が浅瀬に建築物を建造し、そのまま実効支配しています。更に北部ルソン島沖、南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島、三角形の輪の形をしています)に、コンクリートブロックを設置して、フィリピン国防省とのにらみあいが続いています。

Yahoo!JAPANニュースより転載
 この中国の海空における覇権主義は、中国軍の意思と思われます。中央軍事委員会主席である習近平国家主席は、共産党総書記であると同時に、軍の最高司令官でもあります。歴代の主席以上に、軍を大事にしている印象が有ります。人民政府内では軍の突出に眉をひそめる向きもあるようですが、国家主席がこういう方向なので、口をつぐんでいる状況です。
 中国の国防費は年2桁の伸びで増加しており、現在、米国に次ぐ世界第2位で、人民解放軍は兵士230万人を抱えます。中国海軍は太平洋で力の誇示を拡大しようとしており、何年にも及ぶ軍拡により、人民解放軍は米国との「力の差」を縮めつつあり、中国海軍の艦船が、米国のミサイル巡洋艦「カウペンス」と南シナ海で異常接近して、カウペンスが回避行動をとったように、米国海軍の制海権に挑戦する動きを公然と見せています。
 中国が直面する軍事的問題が複雑さを増すなか、習主席は、米国の国家安全保障会議(NSC)をモデルにしたとみられる国家安全委員会の新設を決定しました。同時に日本でも安倍首相が日本版NSCを新設しました。ドンドンきなくさくなっています。ただし、今のままなら戦争は起きません。その理由は・・・やめましょう。とにかく起きなければ良いのですから。

■日中貿易、2年連続縮小 昨年5.1%減、関係冷え込み鮮明
 中国税関総署が発表した2013年の貿易統計によると、日本との輸出入を合わせた貿易総額は前年比5.1%減でした。2年連続で前年水準を下回り、減少幅も2012年の3.9%減から拡大し、両国の貿易総額はピーク時の2011年から約9%減りました。中国の世界との貿易総額は7.6%増と初めて4兆ドル(約419兆円)を突破しており、沖縄県・尖閣諸島を巡る日中関係の冷え込みが鮮明となっています。
 中国の2013年通年の全体の輸出額は7.9%増と、2012年の伸びと同水準を維持しました。輸入は7.3%増、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2597億ドルの黒字で、2012年に比べ12%増。こうしたことから人民元相場の上昇圧力は今後も続く見通しです。
 日中貿易は縮小傾向が続いています。2013年の中国から日本への輸出は0.9%減、日本からの輸入は8.7%減でした。このところ回復の兆しも出始めていますが、安倍晋三首相の靖国神社参拝もあって先行きは予断を許さない状況です。ただ中国はしたたかな国ですから、ある程度政経分離し、日本に頼らなくて良いものは欧米に振り分けるような形を取るでしょう。
 世界貿易機関(WTO)によると、中国は2009年に世界最大の輸出国となり、モノの貿易総額でも2012年に米国と肩を並べ、2013年は世界最大となる模様です。

■中国政府:767品目の輸入関税を大幅引き下げ、日本などの輸出に寄与
 中国財政部はこのほど、「2014年の関税実施案」を発表しました。ここでは、計767品目の輸入関税が引き下げられ、平均引き下げ率は約60%になることが明らかになりました。新しい関税率は2014年1月1日から適用されています。
 輸入関税の大幅引き下げについて、経済界からは、中国の内需拡大につながるほか、世界経済の回復にも寄与すると評価する声が大きくなっています。また、携帯電話やパソコン、ハイテク設備などの輸入関税も対象となるため、日本などハイテク技術の輸出国が恩恵を受けられるとみられています。

■中国の躍進
 日本は1992年から「失われた20年」の間、低迷が続いて、その間米国も欧米も伸びて、新興国がグンと成長しました。特に中国がすさまじい急成長、韓国も伸びました。日本はデフレが続いて、この間賃金をカットし、正社員をリストラして、企業は内部留保を増やし、少子高齢化社会へと突き進みました。それでも2009年時点では日本がGDP世界第2位でした。内閣府が作成し、公表した「世界経済の潮流2010」から紹介しましょう。アジアは合わせて24.7%で米国1国の24.9%に及びません。これが2030年には世界のGDP総額が倍になり、アジアは合わせて40.5%になります。中国は23.9%でトップ、米国17%、日本は3位で5.8%です。インドも、ドイツを追い抜き30年には4.0%に拡大する見通しです。

日本を始めとする先進国のGDP規模は緩やかに拡大しますが、全体に占めるシェアは軒並み減少が予想されます。世界全体に占めるシェアは、2009年時点で規模の大きい順にアメリカ、日本、中国、ドイツであったものが、2030年時点になると中国、アメリカ、日本、インドとなる見込みです。

■購買力平価ベースではとっくに中国に抜かれていた日本
 ただし、購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)ベースで換算したケースでは、2009年時点で、規模の大きい順にアメリカ、中国、日本、インドでした。中国は既に日本の倍以上の規模だったわけです。2030年時点になると中国、アメリカ、インド、日本となる見込みですが、なんと中国は日本の10倍に拡大し、日本はインドの4割になるそうです。日本が威張っていられる時間はもうほとんど残されていないのです。

■ところで購買力平価とは
 購買力平価説には、絶対的購買力平価説と相対的購買力平価説があり、前者の絶対的購買力平価説は、為替レートは2国間の通貨の購買力によって決定されるという説です。具体的には、例えばアメリカでは1ドルで買えるハンバーガーが日本では100円で買えるとするとき、1ドルと100円では同じものが買える(つまり1ドルと100円の購買力は等しい)ので、為替レートは1ドル=100円が妥当だという考え方です。しかし、この説が成立するのはすべての財やサービスが自由に貿易されなければなりませんから、厳密には成り立たないことになります。一方、後者の相対的購買力平価説は、為替レートは2国間の物価上昇率の比で決定されるという説です。具体的には、ある国の物価上昇率が他の国より相対的に高い場合、その国の通貨価値は減価するため、為替レートは下落するという考え方です。この説もすべての財やサービスが同じ割合で変動することを前提としているため、厳密には成り立たないことになります。

■高く買って安く売る、コスト削減のために・・・・
 2013年11月で円ドルレートが104.77円/US$だったとき、輸出物価PPPは71.11円、企業物価PPPは97.83円、消費者物価は127.87円でした。すなわち本来、日本国内で104.77円の商品を輸出するときは、それが1ドルではなく1.47ドルに相当する輸出価額になりますからそれでは売れないので輸出は安くします。企業が購入する価格は円高ですから、97.83円で原料を買って、製品にして輸出するときには71.11円と逆ザヤになります。消費者が購入するものは円安ですから、127.87円出さないと1ドル相当のモノが買えないということです。すなわち例えば米国人なら1ドルで買えるものが日本人は127.87円、これは為替レートでは127.87÷104.77=1.22倍ですから、日本の購買力平価は高い=物価が高い、すなわちもっと円安になっても良い、ということになります。外国からモノを買うときは高い、外国にモノを売るときは安くしないと売れないということを意味しています。だから輸入は抑えられお金は貯まる、儲ける企業では、原価を下げるため設備投資を止め、研究開発を行わず、配当を払わず、賃金を下げ、首を斬り、必死の努力の結果、価格を下げたのです。賃金カットや非正規雇用の増加で正社員より労働コストを3分の1に下げるといったことが行われて来ました。

■伸びない輸出
 アベノミクスで急激に円安になり、本来は輸出が増えて良いはずですが、国内製造業の空洞化のため、円安にもかかわらず輸出が伸びません。燃料輸入で貿易赤字が定着化、2013年度の赤字は、商社の業界団体である日本貿易会の見通しでは12兆990億円になるとしています。2013年11月までの燃料の輸入額は前年同期よりも12.8%増えて24.7兆円に達しました。もう一つがスマートフォンの輸入で、スマホなど「通信機」は23.6%増えました。通信機を含む電気製品全体では、2013年累計で輸入額が輸出額を初めて上回って輸入超過(赤字)に転落する見通しです。これはかつての輸出で稼ぐ貿易立国日本が様変わりしたことを意味しています。

■円高トレンドの終焉
 すると、これ以上円安になっては困りますね?ところが、貿易でお金を貯めてきたから円高が進んで来たわけですから、原発停止で貿易赤字が定着し、ドンドン国富が海外へ移動して失われて行く日本、一方でグイグイ伸びる中国や、シェールガスでエネルギー革命が起き、オバマ大統領の対外縮小・内向き政策で軍事支出を減らし内需拡大で景気が上向きの米国、こうなれば円を売ってドルを買うのは投資家の必然です。円安が進めば輸入品は上がりますから、エネルギーや食料などをほぼ海外依存している日本の物価は上がります。消費税が上がって支出が増え、徐々に日本人の資産は減って行きます。一時的に消費抑制するので輸入は減ります。しかし、エネルギーや食料は必需品ですから、これは長くは続きません。これまでの長い円高トレンドは終焉する可能性が高く、中国との国力の差は勢いよく広がって行くと考えられます。

■為替レートは円安になり、購買力平価に近付いて行く
 一方国際比較でみた場合は、購買力平価より円高ということは、日本の見かけのGDPはドル換算すると少なくなるということです。したがって名目GDPが中国を上回っていたときも、購買力平価で見ると中国の方がずっと上だったわけです。同じモノの価格を日中間で比べれば一目瞭然です。日本の方がずっと物価高、ドル換算すると日本の実質GDPはずっと下だったわけです。国際通貨研究所のグラフでは、実勢為替レートより消費者物価と企業物価が円安で、輸出物価は円高という傾向が安定して続いていました。アベノミクスで実勢為替レートが急に円安になって企業物価が円高になりましたが、消費者物価とはまだ乖離しています。しかしいずれ為替レートと消費者物価は近付いて行くと考えます。右のグラフでは見えませんね。国際通貨研究所のホームページをご覧下さい。

国際通貨研究所のグラフより転載

■ビッグマックレート
 世界中に展開するマクドナルドの代表的商品「ビッグマック」の価格で為替レートをはかってみようというのがビッグマックレートです。日本の購買力平価は、ビッグマックレートで見れば円安過ぎるという説があります。エコノミスト誌のデータでは2010年7月に日本のビッグマック(320円)は当時の円ドルレート87円で3.67ドル、アメリカは3.73ドルでしたからほぼ為替レート通りの値段でした。このときノルウェーは7.2ドル、中国では1.95ドルでした。2013年7月には米国で4.56ドルと随分値上げされました。このときノルウェーは7.51ドル、中国では2.61ドル、いずれも上がってますね。このとき日本では320円、当時の円ドルレートは100円でしたから3.2ドル、同じになるレートは1ドル=70円(320÷4.56=70.17)ですから、日本の100円/$というレートは円安過ぎる、というわけです。
 下図は、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、台湾、イギリス、アメリカ、中国について、IMFが計算した購買力平価と通常の為替レートを示したものです。これによると、日本の為替レートが79.3円/ドルのときに、購買力平価は102.8円です。購買力平価とは、すべての財・サービスの価格を考慮したものですから、平均の平価です。ということは、日本のマクドナルドは他のものに比べて、きわめて安くビッグマックを売っているということです。為替レート通りなら米国で4.56ドル=456円に対し320円なので米国より3割安いですが、ビッグマックレートでは4.56ドル=320円なので70円/US$です。こちらも為替レートと3割違います。ビッグマックレートを信じるなら為替レートは円安過ぎるということですが、従来の購買力平価と為替レートの関係からこれは有り得ません。すなわち、日本のビッグマックは安過ぎると考えるべきでしょう。2010年夏からちょうど3年、釣り合っていたのが3割安くなった、すなわちこの3年で日本マクドナルドは3割デフレ戦略を取ったということです。その結果はご存知の通りで、収益が悪化し、2009年の売上高3623億円が1000億円減、経常利益232億円が100億円に、純利益が128億円から50億円に落ち込みました。2013年8月、原田社長が退任し、新社長にカナダ出身の女性サラ・カサノバ氏が着任しました。日本マクドナルドは価格戦略を転換し、ビッグマックも店舗により310円から400円にしました。中心価格帯は360円ぐらいでしょうか。為替レートからすれば104.6円/ドル×4.56ドル=477円ですから、まだ25%ぐらい割安です。逆にビッグマックレートを信ずるならば、4.56ドル=360円ですから、1ドル79円、まだまだ円安になっても良いということです。

■中台韓は購買力平価が低くて貿易有利だった
 為替レートが79.3円とは、日本の製造業は投入コストの平均が102.8円のときに、79.3円で海外企業と勝負しなければならないということです。これはヒドイですよね。海外の為替レートと購買力平価の関係を見ると、先進国は皆、購買力平価の方が為替レートより高いですが、その差は大したことはありません。唯一日本だけが、102.8円と79.3円と23.5円、すなわち29.6%ものハンディを負っているのです。しかも、韓国を見ると、為替レートが1137ウォン/ドルに対して、購買力平価が807ウォン/ドルと、購買力平価より為替レートの方が割安なのです。
 韓国の輸出企業は、国内の投入コストが807ウォンのときに1137ウォンで海外企業と勝負すれば良いということで、これでは日本企業がかなわないのは当然です。為替レートと購買力平価の逆転は、韓国だけではなく、台湾、中国にも共通です。日本企業は大変なハンディを背負って輸出をしてきたということですが、家電業界はドンドン撤退、工場閉鎖して、もはや中韓に対抗することはできなくなりました。
 最近の円安の底流には、日本の貿易収支の構造変化もあります。燃料輸入の高止まりなどから、2012年の貿易赤字は過去最大になりました。貿易赤字が定着し、輸出で稼いだ外貨を売って円を買うよりも、輸入代金の支払いのために円を売る方が大きいので、アベノミクスが無くても、円相場は構造的な円安局面に入っていたのかもしれません。


■中国人民銀行(中央銀行)は人民元高誘導へ地ならし
 これだけ中国経済が強くなってくると、当然人民元切り上げ圧力が高まります。いかに中国政府といえども、これを無視するわけにはいきません。2014年の米中戦略経済対話が行われる以前の4月から7月にかけて、現在ドルに対する変動幅1.0%を2.0%から2.5%にまで拡大させるのでは?という推測が上海の日本企業ではささやかれています。
 日本の消費税増税、アメリカのQE3出口戦略や金利の上昇、EURの安定化などにより、円ドルレートは110〜120円/$となる可能性があります。
 これらを踏まえると2014年末の為替レートは現行の6.06元/$→5.8元/$、17.29円/元→19円/元となるのでは?と予測されています。10,000円が527元ですよ。つい1年前に10,000円が800元であった事を考えますと、1年後の予測527元は、実に66%であり、3分の2になるということです。中国で生産し、日本へ輸出する形態の産業にとっては、まさに進退を考えるレベルであり、長期化する円安を背景に、こうした産業を中心に中国からの撤退を検討する企業が増加しているとのことです。一方ドンドン中国の国内部品に切り替えてきた自動車部品なども、高品質の日本製品の輸入が検討されてくるのではないでしょうか。為替環境に合わせて、日本企業にとってもまだまだ中国で取りうる企業戦略があるのではないでしょうか。
(2014年1月16日)


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