463  オミクロン

 2022年は年頭から不穏な空気が漂っています。ウクライナ国境付近にロシア軍が10万人規模で集結しているのをはじめ、カザフスタンでは燃料費高騰に抗議する民衆をロシアの後ろ盾を得た政府が弾圧して多くの死者が出ています。中国やイランはロシアの動きを支持しています。北朝鮮のミサイル発射が霞むほどに国際情勢は緊迫してきました。また、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」が世界中で猛威を奮っています。約39年ぶりの高水準となった物価上昇の米国では、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)が過熱気味の景気を押さえるため、3月にも事実上のゼロ金利政策を解除し、年内に計3回の利上げを実施する見通しです。これを嫌気して米国の株価が下がり、連れて日本の株価も下がっています。悪いインフレは世界中を駆け巡り、日本も例外ではありません。

■ 世界的インフレ加速と日本のギャップ
 2021年は、世界の多くの国・地域において『インフレ』が加速し、歴史的な高水準となりました。米国の11月の消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比+6.8%に達し、約39年ぶりの高水準となりました。これでバイデン大統領の支持率が急降下しています。インフレは新興国でも大騒ぎになっていて、二度の世界大戦の引き金になったのも世界的なインフレでしたから、実に嫌な感じがします。国民の不満を逸らすために、独裁政権は戦争や人権弾圧などの手段に出るからです。
 日本でもいろいろなものがジワジワ上がっています。牛丼はもちろん、立ち食いソバも上がっています。小麦関連は皆上がっていますが、何故蕎麦も?それは中国で蕎麦の生産が減っているからです。大豆やトウモロコシのほうが儲かるからです。原油価格高止まりと環境問題が連関していることで、バイオ燃料に起因する「グリーンインフレ」の影響が出ているのです。原油価格高止まりの影響は幅広く、プラスチック製品も上がっています。国産野菜は天候に左右されますが、下がっているのはコメだけではないでしょうか。

 

■ 日本が世界と違うのは...
 悪いインフレに関してはある問題があります。欧米ではインフレ後に賃金が上昇しますが日本ではそうなりません。物の値上がりを感じる一方で、収入は上がりません。それどころか、今現在早期退職勧奨のニュースが巷に溢れているのに企業倒産は抑えられています。世の中にカネが溢れ、「借り得」状態だからです。一方で企業は年功序列制度の解体に躍起だからこうなるのです。厚生労働省は1月21日、2022年度の公的年金支給額を前年度から0.4%引き下げると発表しました。年金額改定の指標となる現役世代の賃金が下落したためで、2年連続のマイナスです。6月に支給する4月分からです。企業の仕入れ値を表す企業物価指数は11月には前年同月比で9%にまで上昇したにも関わらず、企業はまだまだ消費者への価格転嫁をしていないところが多いのが実状です。上げれば消費減退するのを恐れているからです。したがって今後じわじわと日本の物価は上がり続けるでしょう。岸田政権は賃金を上げようと躍起ですが、そうはならないと思います。安倍政権では賃上げを経済界にお願いして一部優良企業では上がりましたが、一方で規制改革として非正規雇用が増える仕組みに変えたからです。雇用と賃金がセットになって、コントロールされたら、たまりません。連合などの労組に加盟する人と非正規雇用者の格差が拡大しました。菅政権は最低賃金をグンと上げましたが、これは継続しなければ効果が出ません。お金がある人は減価するマネーを株や海外投資、不動産に換えて担保しています。ドンドン貧富の格差は拡がっていくでしょう。岸田総理が考えるような社会にするためには、もっとドラスティックな改革が必要ですが、施政方針演説に「改革」という言葉はありませんでした。小泉政権や安倍政権の新自由主義の旗印であった「改革」という言葉がトラウマになっているからだと思われます。

■ ドラスティックな変革?
 悪いインフレに関しては452『悪い円安』(2021年11月10日)で、円の実力を複数通貨と比べて示す「実質実効為替レート」がピーク時の半分に落ち込み、およそ50年前、筆者が大学を卒業して社会人になった時と同レベルになったことを紹介しました。有名な「ビッグマックレート」と見事に一致していて、日本円を購買力で見れば現在1ドル=69円で、113円の名目為替レートの61%の価値しかないということです。日本円をドルに換えて海外で使えば、100円と思っていたのに61円のものしか買えないのです。だから日本のお金持ちはYenではなくUSドルや金(Gold)、宝石、不動産で持とうとするのです。下図をご覧下さい。アベノミクスで円の価値がガクンと下がったことが明瞭にあらわれています。日本国民の支持があったからそうなったのです。経済評論家が今後の円高を予想するのは、名目為替レートが、113円から69円に近づいて行く円高傾向に期待するからで、それは日本経済がデフレスパイラルから脱却して名目と実質のギャップを埋める「強い経済」が実現できなければそうなりません。今の日銀と政府の姿勢では到底夢物語です。現状打破は政治でしか変えられません。岸田総理が夢見る池田政権当時の状態に帰るには、ドラスティックな変革が必要です。国民の心を変えなければ夢は現実にならないのです。

【過去50年間の円の実質実効為替レートの推移】


■ 新型コロナウイルス感染者急増
 新型コロナウイルス感染者は、2022年1月22日に全国で新たに全都道府県と空港検疫で初めて5万人を超えて5万4581人となり、5日連続で過去最多を更新しました。東京都で感染者が1万1千人、大阪でも7千人を上回るなど30都府県で過去最多となりました。自宅や病院、宿泊施設などでの療養者は25万人を超え、最多だった昨夏の第5波のピーク(約23万人)を上回りました。オミクロン株の感染力の強さは海外からのニュース通りです。日本ではまだまだ増えるでしょう。ただし下図で明確なのは、オレンジ色の感染者数に対し、萌黄色の死者数が少ないこと、死亡者は遅れて出てくるにしても、海外からのニュースではインフルエンザ並みとのことで、弱毒化したのは確かなようです。新型コロナウイルスも断末魔状態に入ってきたみたいですね。ただしくれぐれも「ただの風邪みたい」と甘く見てはいけません。軽症というのは、肺炎(中等症1)、酸素が必要(中等症2)ではないというレベルで、39度の熱が数日間でも軽症なのですから、人によっては命取りにつながります。

2022年1月22日までの新型コロナウイルス感染者トレンド(YAHOO!ニュースより)

■ 30都道府県に蔓延防止等重点措置適用
 蔓延防止等重点措置は30都道府県に拡大されそうですが、第五波で明らかになったのは、まん防は顕著な効果は出ないということです。何か手を打たないとカッコ付かないから、政治家のアピールなんでしょう。専門家会議からは、「人流抑制よりも人数抑制」という方針が発表されて、一部マスコミからはブーイングが上がっています。オミクロンなんだから尾身先生の話を聞けと言いたいですね。クレージーケンバンドの「タイガー&ドラゴン」をプレゼントしましょう。♪俺の 俺の 俺の話を聞け ハッ

■ 現実には東京都で1日10万人規模の新規陽性者?
 年末年始での感染拡大は予測通りで、そこに国内でのオミクロン株の拡大が始まりました。東京都で95%は、オミクロンに置き換わったようです。ただしデルタも5%ぐらい残っていますから、特にノーワクチン+デルタ+基礎疾患・高齢者は、要注意とされています。オミクロンは、ワクチンによる感染防御効果がデルタよりも少なくとも半減していると言われますから、デルタよりおおよそ4倍の再生産数となると言う専門家もいます。ブースターを急いでも、3月中頃にギリギリその水準に達するレベルと考えられます。オミクロンとワクチンの競争ですね。現実には東京都で、1日10万人規模の新規陽性者が出ている可能性があると推定されるので、これが3週間続けば、200万人規模あるいは加速して300〜500万人規模になる可能性もあり、ワクチン接種での免疫も合わせると集団免疫水準に一気に近づいて、今度はあるとき(2月中頃?)から一気に急減するのではないかと予測されています。専門家の中からは、ワクチンを接種して感染防御効果が高い状態の人が旅行などで動き回るのは、ある程度感染抑制効果があるという論もあり、ワクチン接種者の節度ある人流拡大は感染拡大には繋がらない、というより感染抑制になるという予測が出ています(人流クラウディングアウト)。

男性的な岩手山の雄々しい山容
 
女性的な姫神山の美しい姿
これは岩手県盛岡市渋民の北上川河畔にある石川啄木歌碑のところで11月に撮った写真です。西に岩手山、東に姫神山が見えます。
岩手県は現在新型コロナウイルス感染者が最も少なく、これは人口密度もさることながら三密にならぬ自然環境だからでしょう

■ エッセンシャルワーカーが大事
 現在、人流はオミクロンの感染拡大で少し減っていますが、外食などの行動は驚くべきことに時間帯によっては、コロナ以前を上回る勢いとのことです。 また、現在検査能力を上回る検査ニーズがあり、試薬も枯渇しつつあります。公式発表の数字は、検査限界の上限の数字であり、実態と大きく下方乖離した数字だと考える必要があります。まん防の効果はあまり無いはずですが、ピークアウトした結果、まん防が効いたようにみえるかもしれません。ただ注意喚起と一定のセグメントへの感染抑制効果はあるはずです。特に、医療、介護、警察、消防、清掃、物流、運輸などのエッセンシャルワーカーへのワクチン接種の加速が重要です。

■ カムカムエヴリバディ
 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」は、昭和、平成、令和と時代が流れる中、ラジオ英語講座とともに歩んだ祖母、母、娘と3世代のヒロインを描きます。舞台は岡山、大阪、京都です。1925年の日本でのラジオ放送が始まった日、岡山で生まれた少女、安子のドラマから描かれます。カムカムエヴリバディ!とは、「みんな来い!」ということですね。NHKのホームページによれば「戦後に始まったNHKラジオ英語講座のオープニング・テーマ曲のタイトル」だそうです。童謡「証城寺の狸囃子(しょうじょうじのたぬきばやし)」のメロディに英語の歌詞をつけたものですね。
  ♪Come come everybody.
  ♪How do you do, and how are you?
  ♪Won’t you have some candy?
  ♪One and two and three, four, five.
  ♪Let’s all sing a happy song.
  ♪Sing trala la la la.

 大正末期からの岡山編は上白石萌音、昭和30年代からの大阪編で深津絵里、昭和40年代からの京都編は川栄李奈が演じます。岡山編は上白石萌音の好演で好評でしたが、結末は悲し過ぎました。そのショックを引きずった視聴者は大阪編の明るいスタートで救われ、道頓堀の人たちの優しさや人情に引き込まれて行きました。そして怖い役でもコミカルな役でも演じられる深津絵里の演技の素晴らしさに、視聴率が一段とアップして行きました。しかし今週の放送は、東京のジャズLP制作に失敗した失意のトランペッター・ジョーが「お前とは終わりや」という、まさかのるいへの別離宣告で終了しました。さあ、来週はどうなるか?久々に次も見たいと思わせる、面白い朝ドラです。

■ ジョーはイップスか?
 ジョーが日常生活は問題ないのにトランペットを手にすると以前のように吹けなくなる姿に「イップスではないか」と思いました。音楽奏者は本番の緊張で「イップス」になる人がいるそうです。音楽の世界ではイップスという言葉が浸透していないため、スポーツ選手の記事を読んでその状態に気づく方が多いそうです。腕や指がスムーズに動かないということで、通常の2倍から3倍の練習を行い、それでも改善しないことから、その元がメンタルであることに気づいてイップスを疑うのです。本番で正確にきちんと演奏しようとする強迫観念が大きくなってそうなることから、メンタルトレーニングが必要になるようです。

■ イップスとは・・・
 イップスって何?と思われる方がほとんどだと思います。私たち野球をやってる人間にとってはなじみの言葉です。ピッチャーが投球をした際に、守備についている選手が、打球をキャッチし、その後投げる時に思うような基本的な動作(送球・プレー)ができなくなってしまうことがあります。肩が委縮してしまうのです。イップスとは、元々ゴルフの世界で生まれた言葉で、「パターを外してしまった時に大きなショックを抱え、以後思うようなパッティングができなくなってしまう現象のこと」だそうです。それが次第に野球の世界でも使われるようになりました。イップスの根本的な原因は精神的なものとされています。明確な治療法は存在せず、精神的ショックが原因であるため、病気や怪我とも断定し難いのです。特に投手がなりやすいとされています。

■ 頑張れ!藤浪晋太郎
 阪神タイガースの藤浪晋太郎投手は、大谷翔平と同期で大活躍して、誰の目からも阪神を背負って立つ大投手になるだろうと思われましたが、ある時からストライクが入らなくなりました。2017年の公式戦で、バッターの頭部付近にボールを投げてしまい、それにバッターが憤慨し、乱闘騒ぎにまで発展してしまった一件以降、思うような投球ができなくなってしまったのです。これが癒えるのに何年もかかっているのは残念ですが、大谷翔平の活躍に刺激されて治癒してくれるのではないかと期待しています。甲子園で春夏連覇のエース、1学年下の森友哉(現・西武)とバッテリーを組んで、ビシバシ三振を奪う姿はカッコよかったですね。2021年シーズンオフには巨人の菅野と一緒に自主トレをやって調子を取り戻そうと必死です。あの長い手足でビュンと投げる、佐々木朗希と同じカッコイイ投球を期待しています。

花巻東・大谷翔平と大阪桐蔭・藤浪晋太郎=2012年3月20日、甲子園 デイリースポーツより

■ 野球漫画の水島新司さんご逝去
 野球漫画の巨匠 水島新司さんが2022年1月10日 肺炎のため東京都内の病院で死去されました 82歳でした 18歳のデビュー以降 2020年の引退宣言まで 63年間の執筆生活で残した漫画は 「ドカベン」 「あぶさん」 「野球狂の詩」など野球一筋 その訃報に野球界からは数多くの追悼メッセージが寄せられました 新聞でも数面にわたって大きく掲載され 人は死んだときにその人の価値がわかると言われますが いまさらながらその偉大さを思い知らされました ライバルで草野球仲間の漫画家・ちばてつやさんが 「監督や控え選手などを含むベンチワークまで綿密に描ききり プロ野球選手をうならせるほど専門的な目線で野球の『可能性』と『面白さ』を探り続けてきた 水島さん そんなあなたのすぐれた野球マンガの出現で 私は野球を描けなくなりましたよ」と追悼コメントを発表しました その作風は球界や実在の選手たちにも多大な影響を与えました
 漫画で描いたエピソードが のちに実現するケースが多々ありました
@「ドカベン」の山田太郎が高2春の甲子園で 江川学院の投手・中二美夫から5打席連続敬遠されるシーンが描かれました 1992年夏の甲子園 星稜高校の松井秀喜が明徳義塾戦で5打席連続四球と勝負を避けられ 現実世界で再現されました もしかして馬淵監督も愛読者だったのかもしれません この時の松井の平然とした態度が「山田太郎そっくりだった」として 水島さんはその後松井の大ファンになったとか
A「野球狂の詩」で活躍した岩田鉄五郎の初登場時の年齢は50歳でした これも2015年に中日の山本昌投手が達成しました 今年野球殿堂入りした偉大な投手です 2人とも晩年は技巧派のサウスポーとして描かれました ちなみに「あぶさん」の主人公 景浦安武は62歳まで現役を続けましたが この記録は当分 破られそうもありませんね
B「ストッパー」では主人公の三原心平がプロ野球選手として 1番センターとストッパーの両方をこなす二刀流選手として描かれました これまた2021年 大谷翔平がメジャーで「1番・投手」を実現 さらにMVP獲得など水島さんの予言を上回る大車輪の活躍を見せました
C水島作品で高校生最速は「大甲子園」で青田高校の中西球道が記録した163キロ 当時は「まさか」と思われた球速でしたが 2019年に岩手・大船渡高校の佐々木朗希の投じた1球が同じ163キロを計測し 現実が漫画に追い着きました
D1981年連載開始の「光の小次郎」で 東京ドームの完成(1988年)前から「札幌ドーム球場」と北海道を本拠地とするプロ野球球団を描き 23年後にそれが現実のものとなりました
 その先見の明に驚きますが「野球狂の詩」に「女性初のプロ野球選手」を登場させました 1991年にプロ野球規約の「女性制限」は撤廃されており 健康食品会社「わかさ生活」(京都市)が3億円を出資して日本女子プロ野球機構が2009年に設立されました 日本女子プロ野球リーグ(JWBL)を行って来たのですが 昨年12月30日をもって日本女子プロ野球機構は無期限休止を発表しました 一方で2020年4月の「埼玉西武ライオンズ・レディース」 2021年2月の「阪神タイガースWomen」に続く女子野球3チーム目を巨人が2023年に創設する方針を明らかにしました ワールドカップ(W杯)を6連覇するなど 日本の女子野球のレベルは国際的にみてもトップクラスですが 待遇が恵まれませんでした 少子化やスポーツの多様化で野球人口の減少が大きな課題となる中 女子は伸びしろが大きいので NPBから女子野球への参入が相次ぐのです 高校野球では 男子の日本高野連加盟校数が16年連続で減少しているのに対し 全国高校女子硬式野球連盟の加盟校数と登録選手数は2015年の19校698人から昨年は43校1320人にほぼ倍増しました NPBはここを狙っているわけです もしかするとプロ野球で男に混じって「未来の水原勇気」が登板する姿を きっと水島さんも天国で心待ちにしていることでしょう 安らかな眠りをお祈りします

(2022年1月23日)


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