今年は冬の寒さの記憶が無いほどの暖冬の後、桜の開花が史上最速でした。しかしその陰で新型コロナウイルスの影が忍び寄り、このESSAYでも、361『嘘八百』(2020年2月9日)でクルーズ船・ダイヤモンドプリンセス号での新型コロナウイルス感染爆発を採り上げて以降、ず〜っとこの話題に触れています。改めて読み返すと、筆者の危惧が次々と現実化していることにやるせなさを感じます。更にこの間にやるせない訃報にも触れました。ちょうどこのESSAYをアップロードした頃には、COVID-19による肺炎で志村けんさんがお亡くなりになっていた模様で、慌てて30日に追記しました。 ■ 早咲きの花桃と季節はずれの雪 ソメイヨシノは葉桜となりつつあり、菜の花が黄色い帯を形成し、我が家のハナズオウもきれいに咲いてきたと思ったらナント!雪が積もりました。
■ 日本の新型コロナウイルス感染症の状況 このところニュースは新型コロナウイルス感染症一色になってきて、世の中は混乱を極めています。時々刻々と情勢が変わります。下図を見ると感染者数が3月23日(月)まではほぼ直線的な伸びでしたが、3月24日(火)から急激に上昇していることが分かります。何故でしょう?3月24日は、そう、オリンピック延期が決まった日です。延期となればもはやデータを抑える必要はありません。いえ、正しく言えば、PCR検査を抑制する必要がないと言うべきでしょうか。むしろ、COVID-19と戦う姿勢を鮮明にして国民の一致団結を求めるべきだと判断したのでしょう。「能ある鷹は爪を隠す」場面ではないと判断したわけです。
■ 不要不急の渡航はやめなさい;外務省 3月25日(水)外務省は世界全体を対象に海外への不要不急の渡航をやめるよう求める「危険情報2」を出しました。更に3月30日(月)にも、米国、中国、韓国の全土と、英国など欧州のほぼ全域、東南アジアやアフリカの一部地域の感染症危険情報を2番目に強い「レベル3」とし、日本からの渡航中止を勧告するとともに、これら地域からの外国人の入国を拒否するなど、水際対策を大幅に強化する方針を固めた模様です。ほぼ鎖国のような措置で、国際線の運航は、日本航空も全日空も大幅に減少する異例の事態になり、利用客が一段と減少すると見込まれます。 ■ わざわざカタカナで言う必要があるの? 英語ペラペラの河野太郎防衛大臣が、新型コロナウイルス感染症に関連して、「わざわざカタカナで言う必要があるのか」と疑問を呈しました。3月24日(火)の記者会見で、新型コロナウイルスに関する用語として政府が「クラスター」や「オーバーシュート」、「ロックダウン」といったカタカナ語を使っていることに対し、「分かりやすく日本語で言えばいい」と疑問を呈したのです。クラスターは「感染集団」、オーバーシュートは「感染爆発」、ロックダウンは「都市封鎖」と言えば良いと言うのです。
■ オーバーシュート防止にはNPIを ただし「オーバーシュートがイヤだという場合には他に方法があります」と書いたのはどういう意味かと言いますと、時間がかかっても良いからオーバーシュートを起こさせずに収束させるという制御方法があるということであり、それは徹底的にブレーキをかけながら目標値へソフトランディングさせるという方法です。ブレーキをかけながらなので時間はかかります。COVID-19の場合、その方法は非医薬品介入(NPI;Nonpharmaceutical Interventions)を実施すること、簡単に言えば“ノー3密”と、マスク、手洗いの徹底です。副作用として経済的打撃を伴いますが、我慢するしかありません。これをやっている間にワクチン開発や、適合医薬品の絞込みをしてウイルスそのものを撃退することです。山中伸哉教授がiPS細胞の活用を提案されていますが、これなどは大変期待できます。 ■ 市場価格の変動波形 前回株価や為替レート、原油価格の乱高下に触れましたが、筆者がこうした話題が好きなのは、まさにこの「制御」(control)分野にピッタリだからです。通常乱高下しながらもやがてスーッと収まるものなのです。もちろん上の図のようにきれいに制御されることはありません。常にギザギザとハンチングはしているのですが、その揺れ幅がどうか、落としどころ(収束値)はどのくらいか、と推測するとワクワクするのです。もちろんマーケット参加者は気が気でないわけで、特にこうした乱高下時は9割方の参加者は損をすると言われていますから、当事者は一喜一憂しながらハラハラドキドキなのです。上がるときはホップステップジャンプの三段跳び、下がるときは一番底、二番底、三番底と揺れながら収まるものです。どうしてそうなるか?それは天の摂理ではありません。人間の欲望の為せる業なのです。したがってスーッとは収まらず、常にギザギザとハンチングしてはいますが、大きな流れで見るときは1次遅れをかけたり、移動平均で見たりすると、傾向が見えてくるのです。そして概ね収束するときは山、谷、三つぐらいで収まるものです。 ■ 感染者、死者の急増は目を瞠るばかり 前回3月22日12:00現在の各国での新型コロナウイルス関連の肺炎と診断されている症例及び死亡例の数は以下のとおりです。
これが1週間後の3月29日12:00現在となるとこうなりました。
■ ジャパン・パラドックス 実は日本の人口に占める死者数の少なさは「ジャパン・パラドックス」と言われているそうです。”paradox”とは、正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉です。逆説や背理などとも言われますね。日本政府は当初、クルーズ船・ダイヤモンドプリンセス号でのコロナ対策に関して国内外から厳しい批判を受けました。WHOも当初そうした見方でしたが、今では感染抑制で最も成功している国のひとつと見られています。人口1億2647万人の日本の死者数が52人ということは、100万人あたり0.41人、すなわち0.41ppmということです。この数字は欧米諸国にとってまさに奇跡と言えるものでしょう。感染者数が少ないのは検査数が少ないからという指摘はその通りで、現実の感染者数はもっと多いのだろうと思いますが、死者数が少ないのは事実です。都市国家のシンガポール(人口570万人)は死者2人ですから0.35ppm、香港(人口740万人)は死者4人ですから0.54ppm、特筆モノは台湾(人口2387万人)の死者2人で0.08ppm、これらの国は徹底的な非医薬品介入(NPI)を実施して死亡率を低く留めていますが、世界一の高齢国で、さして厳しい措置を取っていない日本がどうしてこんなに少ないのか?ということです。ただ、人口14億3932万人の中国の死者数は3,300人で2.3ppm、人口5126万人の韓国は死者数152人で2.9ppmというのも低いですね。やはりNPIが有効な国民性ということです。人口6046万人のイタリアが165ppm、人口4675万人のスペインが128ppmと群を抜いていますが、上の表で明らかなように、人口3億3100万人の米国が6.5ppm、人口8315万人のドイツが5.2ppmというのもなかなか頑張っています。それだけ医療体制が整っているのでしょう。総人口2億6000万人のインドネシアのように3月2日に初めて2人の国内感染が確認されてから、今では感染者数1,155人、死者数102人で0.39ppmですが、今のペースですと、ほどなくオーバーシュート(感染爆発)することは確実と見られます。
■ 日本の経済対策 安倍晋三首相は3月28日、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、過去最大規模の緊急経済対策を策定するよう指示しました。首相官邸での記者会見で「リーマン・ショックを上回るかつてない規模」と強調、当時の対策の事業規模56兆8千億円を超え、名目GDP(国内総生産)の1割以上にするようです。経済減速の影響を受ける個人や中小企業に現金を給付し、雇用を維持する企業も雇用調整助成金で支援するとのこと。こういうときに一番影響がないのは公務員と年金生活者ですから、そういう人々はさておいて、本当に困っている人に手当てするというのは妥当ですが、無闇にばら撒いて財政悪化させないことです。どうせ赤字国債ですから、そうでなくても借金大国の日本はますますツケが大きくなります。ましてや日銀やGPIFの株買い、国債買いの枠を増やして、ジャブジャブの金融バブル膨らませ政策を強化していますから、その先にあるスタグフレーション、そしてハイパーインフレを強く懸念します。 ■ パラダイムシフトに対応せよ 今回の新型コロナウイルスが人類に警告しているのは、人が密集することとグローバリゼーションです。世界の工場・中国への依存を見直すこと、日本で言えば、国内を空洞化させて、海外へ生産を移した結果、マスクすら足りなくなったという事実です。少なくとも命に関わるものは、日本で自給自足しなければなりません。トイレットペーパーは自給できてますが。人工呼吸機はドイツ製が主、しかし国内生産も出来るのです。グローバリゼーションの結果、地方の工場が閉鎖され海外へ移り、地方の過疎化が進む一方で、トーキョーなど大都市への過度な集中が進みました。今回COVID-19に狙い打ちされた地点は大都市です。今後、感染症ウイルスは形を変えて次々と人類を襲うでしょう。カネが無いからと医療ベッド数を削減しようとしてきた厚労省(その裏に財務省)の施策は、今回のパンデミックで手痛い仕打ちを受けました。 前回「パラダイムシフトが起きている」と書きました。私たちが良しとしてきた生活様式は見直さなければなりません。マネーゲームに翻弄されて、格差を増大させた経済構造は転換すべきです。ソフトバンクグループが出資し英米に拠点を置く衛星通信ベンチャー企業のワンウェブが経営破綻し、3月27日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を裁判所に申請、新型コロナウイルスの感染拡大で資金の調達が困難になったためだそうです。地方の第二次産業衰退のためインバウンドの誘致、さらには統合型リゾートIRの設置など第三次産業の振興を掲げましたが、今回のコロナパラリシスでこれら産業は手ひどいダメージを受けました。京都も北海道も九州も浅草も悲惨なものです。もう一度考え直して、IRなどは一度リセットすべきです。 ■ ブッフェ・レストラン「すたみな太郎」大量閉店
■ NHK朝ドラ「スカーレット」終了 361『嘘八百』(2020年2月9日)でスカーレット視聴率ピンチと書きました。全話平均視聴率は8作ぶりに20%台を下回ることは確実でしょう。ではこの作品は失敗だったか?というと、ネット上には賞賛の書き込みが多いようです。『スカーレット』というドラマは、女性陶芸家・川原喜美子を主人公とした喪失の物語です。ついに穴窯での窯焚きに成功したときがクライマックスでしたが、まじめで安定志向に見えた喜美子が実はリスクをとる芸術家肌の人間であり、芸術家肌に見えた八郎が実は安定志向の人間だったことが分かって、二人は別れます。男尊女卑が当然の時代に、男性に振り回され、男性の陰に隠れていた女性が大成功を収めたことで、胸のすく思いがした女性視聴者は多かったはずです。 朝ドラは2015年後期の『あさが来た』がヒットして以降、大半の作品がハッピーエンドで、「ヒロインがピンチに見舞われても、周囲の優しい人々に助けられて悲しみや我慢は長引かず、喪失感に見舞われることなく、解決していく」というパターンでした。『スカーレット』は真逆で、幸せになっても別れが来る、その連続でした。そこまでして、芸術を追求する意味はあるのか?息子武志の「お母ちゃんは陶芸家として成功する代わりに大事なものを失ったんや」という言葉がグサリと胸を刺します。ハッピーエンドでなくても、毎日を真剣に生きる喜美子の生き様、「攻めた朝ドラ」が新しいファンを掴んだのではないでしょうか。でも、もう少しハッピーにしても良かったんじゃないの?と思いました。26歳の誕生日を前にして武志の死、それが最終回のナレーションでサラリと告げられる... ■ 志村けんさん逝去
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