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 驚き、ガッカリしました。二つあります。ウクライナ航空の旅客機がイランのミサイルによって撃ち落とされたこと、もう一つはサッカーU-23日本代表が、AFC U-23選手権のグループBでサウジアラビアに続きシリア代表に1-2で敗れ、グループリーグ敗退となったことです。

■ サッカーU-23アジア選手権GL敗退
 日本代表チームは2連敗を喫し、AFC U-23選手権大会史上初めて決勝トーナメント進出を逃しました。韓国紙『スポーツ韓国』は試合直後、「日本、衝撃の2連敗でグループリーグ敗退」と題した記事で「日本は第1戦に続き、後半終了間際に失点して敗れた」と書き、「開催国としてオリンピック本戦には自動的に進出する日本だが、試験段階だったAFC U-23選手権で屈辱の2連敗を喫し、本大会に臨むことになった」と続けたそうです。常に日本と激戦を展開する韓国だけに、衝撃だったのでしょう。2戦とも遅い時間でしたが、テレビかぶりつきで応援しました。VARからペナルティキックで失点というのも同じだし、同点に追い着いて、押しに押して優勢だったのに、カウンターからの縦パスに対応できずに敗れるという守り負けも全く同じ、いったいどうなってるんだと肩を落としました。海外組不在とは言え、言い訳できません。WBCで野球が世界一となり、ラグビー人気が沸騰する中、前回オリンピックではGS敗退と屈辱を味わったサッカーファンには衝撃の上塗りとなりました。

■ 日本のサッカーに戻るべき
 サッカー解説者のセルジオ越後氏が以前、日本のサッカー界に辛口の提言をしていました。4年に一度の大会を戦う度に「負けても負けても『ドンマイ、ドンマイ』で、結局、同じ準備、同じ繰り返しの強化をやっている」、「年齢関係なく争わせなくてはいけない、それをやらないから若い選手にスターが育たない」と選手選考のあり方に再考を求めた上で、「10人で守るっていう...ゴール前のプレーじゃなくて、引いて一生懸命専守防衛すべき」だと提言していました。日本は守る中から勝機を見出さないと、今のままではダメだと言っていた事が、まさに目の前で起きてしまいました。サウジもシリアも日本の攻勢の前に防戦を強いられ、守りに守って、一瞬の隙を突いて得点しました。アレ〜?これって昔の日本のサッカーだな、と思いました。

■ 前回紹介した「アルゴ」に続いて・・・
 前回、ゴーン被告の逃亡劇は、まるでハリウッド映画のようだと書いた中で、イランで実際に起こったアメリカ大使館人質事件の救出作戦を描くサスペンス映画「アルゴ」に触れました。アメリカ映画と日本映画は根本的に違いますが、特にアクション映画のスケールは凄いですね。今回はハリウッド映画と韓国映画、日本映画2篇を採り上げます。

■ グリーンブック;米国ハリウッド映画:2019年3月1日公開
 映画「グリーンブック」は人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、黒人ジャズピアニストとイタリア系白人運転手の2人が旅を続けるなかで友情を深めていく姿を、実話をもとに描き、第91回アカデミー作品賞を受賞した映画です。1962年、ニューヨークの高級クラブで用心棒として働くトニー・リップ(ビゴ・モーテンセン)は、イタリア系白人で、粗野で無教養ですが口が達者で、何かと周囲から頼りにされていました。クラブが改装のため閉鎖になり、しばらくの間、無職になってしまったトニーは、南部でコンサートツアーを計画する黒人ジャズピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)に運転手として雇われます。黒人差別が色濃い南部へ、あえてツアーにでかけようとするドクター・シャーリーと、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに、その旅に同行することになったトニー...出自も性格も全く異なる2人は、当初は衝突を繰り返すものの、次第に友情を築いて行きます。
 トニー・リップ(本名トニー・バレロンガ)の実の息子であるニック・バレロンガが製作・脚本を手がけた実話作品です。監督は、「メリーに首ったけ」などコメディ映画を得意としてきたファレリー兄弟の兄ピーター・ファレリーです。アカデミー賞では全5部門でノミネートされ、作品賞のほか脚本賞、助演男優賞を受賞しました。移民の国である米国で、イタリア系もやや亜流ですが、黒人はどんなにカネと能力があっても白人と同じレストランでは食事できない、同じトイレは使えない、同じ宿には泊まれない・・・したがって旅先で宿を探すためには黒人用旅行ガイド「グリーンブック」が必要という米国南部の人種差別に接し、それでもそこでピアノを弾きたいというシャーリーが差別される現状に義憤を感じるトニー・リップ、最後はトニーの自宅で開かれるクリスマスパーティにシャーリーが現れ、一瞬凍りつく家族・友人たち・・・シャーリーのことをトニーから聞いていた妻が「いらっしゃい」と歓待し、トニーが自分の尊敬する友人だと紹介して、パーティは一気に盛り上がっていくというお話でした。

■ パラサイト 半地下の家族;韓国映画:公開中
 「殺人の追憶」、「グエムル 漢江の怪物」、「スノーピアサー」の監督ポン・ジュノと主演ソン・ガンホが4度目のタッグを組み、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画初となるパルムドールを受賞した作品です。公式ウェブサイト
 キム一家は家族全員が失業中です。過去に度々事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父キム・ギテク(ソン・ガンホ);右写真左上、そんな甲斐性なしの夫に強くあたる母チョンソク(チャン・ヘジン)は元ハンマー投げのメダリストです。大学受験に落ち続け、若さも能力も持て余している息子ギウ(チェ・ウシク)。美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない娘ギジョン(パク・ソダム)…しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“ 半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族です。“半地下”の家は、暮らしにくいことこの上無し。窓を開ければ、路上で散布される消毒剤が入ってくる、電波が悪い、Wi−Fiも弱い、水圧が低いのでトイレが家の一番高い位置に鎮座しています。家族全員、ただただ“普通の暮らし”がしたいと思っています。そんなある日、受験経験は豊富だが学歴のない長男ギウが「僕の代わりに家庭教師をしないか?」と、エリート大学生の友人ミニョク(パク・ソジュン;特別出演)から留学中の代打を頼まれます。IT企業のCEOであるパク・ドンイク(イ・ソンギュン)一家が暮らす高台の大豪邸へ息子パク・ダソンの家庭教師の面接を受けに行きます。ドンイクの妻ヨンギョ(チョ・ヨジョン);右写真下中央は若くて美しいのですが能天気な性格です。パク一家の心を掴んだギウは、高校2年生の娘パク・ダヘが美術の勉強をしたいと知って、妹のギジョンを家庭教師として紹介します。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき・・・・相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える悲喜劇が待っています。主演はソン・ガンホですが、チェ・ウシクの出番が多いので助演の感もあり、主演女優はチョ・ヨジョン、美しい!パク・ソダムの演技も素晴らしい。

■ 風の電話;2020年1月24日公開
 2020年1月24日公開の映画「風の電話」・・・公式ウェブサイト。2011年に岩手県大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格氏が、死別した従兄弟ともう一度話したいという思いから自宅の庭に設置した「風の電話」、東日本大震災以降、「天国に繋がる電話」として、3万人を超える人々が訪れているこの「風の電話」をモチーフにした初の映像作品です。
 17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)は、東日本大震災で家族を失い、広島に住む伯母・広子(渡辺真起子)の家に身を寄せています。心に深い傷を抱えながらも、常に寄り添ってくれる広子のおかげで日常を過ごすことができたハルでしたが、ある日、学校から帰ると広子が部屋で倒れていたのです。自分の周りの人がすべていなくなる不安に駆られたハルは、あの日以来、一度も帰っていない故郷の大槌町へ向かうことにします。広島から岩手までの長い旅の途中、憔悴して道端に倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和)、今も福島に暮らし被災した時の話を聞かせてくれた今田(西田敏行:特別出演)、さまざまな人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。道中で出会った福島の元原発作業員の森尾(西島秀俊)と共に旅は続きます。そして、ハルは、家族と「もう一度、話したい」という想いを胸に、導かれるように故郷にある「風の電話」へと歩みを進めます。豪雨被害にあった広島で年老いた母と暮らす公平、ハルと同じく震災で家族を失った森尾、かつての故郷の景色に想いを馳せる今田など、旅の中で出会った人々の「それでも生きていく」という強さに触れ、次第に光を取り戻していくハルに、森尾は「お前が死んだらな、誰がお前の家族のこと思い出すんだよ」と力強く告げます。そして最後は「もしもし、ハルだよ」と切なく語りかけるハルの声に続き、白い電話ボックス「風の電話」が映し出されて終わりとなります。ひとは絆で結ばれているのです。
 テレビ東京で2020年1月13日(月) 09時11分〜09時35分、映画「風の電話」の特別番組があり、少年野球の練習に行くのを遅らせて見ました。出演者;◆モトーラ世理奈…2018年「少女邂逅」で映画デビュー、2019年「おいしい家族」「ブラック校則」他出演、◆三浦友和…諏訪監督との「M/OTHER」(1999年)で撮影前から脚本に携わり、作品はカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞、その他「アウトレイジ」(2010年)など多数出演、◆西島秀俊…諏訪作品「2/デュオ」(1997年)に出演、2019年は「空母いぶき」「任侠学園」と主演作が続き、今脂の乗り切った俳優です。◆諏訪敦彦監督…「2/デュオ」(1997年)で長編映画デビュー、代表作「M/OTHER」(1999年)「ライオンは今夜死ぬ」(2017年)など

■ 影裏;2020年2月14日公開予定
 300『影裏』(2018年12月9日)で、沼田真佑さんの第157回芥川賞受賞作「影裏」を、盛岡出身の我が高校後輩大友啓史監督が映画化していると紹介しました。『影裏』は「電光影裏斬春風」(でんこうえいりしゅんぷうをきる)という禅語から採ったそうです。この言葉の「影」と「裏」という2文字は、沼田真佑さんによると小説全体の雰囲気に合っていると思ったので採用したのだそうです。沼田真佑さんは、筆者と共に在京雫石町友会の副会長を務める人の同級生の息子さんです。北海道小樽市生まれで、お父さんの仕事の関係で横浜や千葉に住み、やがて福岡市の有名な福岡大学附属大濠高等学校に進学、さらに西南学院大学卒業後、福岡市で塾講師となります。2011年3月11日、東日本大震災勃発、そのときも博多でした。映像を見ながら「大変なことが起きた」と思ったそうです。
 盛岡市出身のお父さんが家を建てて、両親の住む盛岡市に転居、これが震災の翌年、2012年のことでした。デビュー作が文芸春秋社の第122回文學界新人賞を受賞し、これがナント!第157回芥川賞も受賞したのです。

ロケは岩手で
 人間の心の裏側や、現代社会における繊細なテーマを描いた「影裏」・・・2018年暮れ時点でワンシーンだけ残して撮影が終っていたのに、どうして2020年のバレンタインデーに公開か?実は2019年12月に開局50周年を迎える「テレビ岩手」の記念作品だから、とのことです。「静かな文章と行間に宿る巨大なエモーション」という原作の魅力に惹きつけられたという大友啓史監督は「震災以前、震災以降。変わらないものと変わりゆくもの。東京オリンピックの熱狂と喧騒に追いやられる前に、寡黙な東北人の身体の奥底に潜む感情に、真正面から触れておきたい。熱烈に『撮りたかった』2人の俳優、綾野剛、松田龍平両氏との地元・盛岡での濃密な撮影は、まるで東北の短い夏のお祭りのように、強烈に脳裏にしみついています。良い作品に仕上げたいと思います」と大友啓史監督はコメントしました。

物語は岩手の自然から始まります
 勢いよく夏草の茂る川沿いの小道。一歩踏み出すごとに尖った葉先がはね返してくる。かなり離れたところからでも、はっきりそれとわかるくらいに太く、明快な円網をむすんだ蜘蛛の巣が丈高い草花のあいだに燦めいている。
 しばらく行くとその道がひらけた。行く手の藪の暗がりに、水楢の灰色がかった樹肌がみえる。
 もっとも水楢といっても、この川筋の右岸一帯にひろがる雑木林から、土手道に対し斜めに倒れ込んでいる倒木である。それが悪いことにはなかなか立派な大木なのだ。ここから先は、この幹をまたいで乗り越えなければ目的の場所までたどり着けない。
 (中略)
 岩手というところは、じつに樹木が豊富な土地だと夏が来て改めて思う。むろんここへ移り住む前から予感はあった。ネットの衛星写真からでも鳥瞰できる、岩手というよりは東北地方全域の地肌を埋めつくす、あの深い緑の画像を眺めるだけでも充分だった。とにかく山地が多く、川が多い。それだけ森林の密度も濃厚だから、いたるところに生き物の気配がひしめいている。
 (中略)
 対岸の沢胡桃(さわぐるみ)の喬木(きょうぼく)の梢にコバルトブルーの小鳥がいたり、林の下草からは山楝蛇(やまかがし)が、本当に奸知が詰まっていそうに小さくすべっこい頭をもたげて水際を低徊に這い出す姿を目の当たりにした。

 ・・・このような岩手の自然を紹介しながら物語は始まります。

■ 前半
 岩手県盛岡市に会社の出向で移り住んだ今野秋一(綾野剛)は、すっかり川釣りが趣味になっていました。慣れない土地で出会った同僚の日浅典博(松田龍平)に心を許し、次第に距離を縮めて行きます。2人で酒を酌み交わし、釣りをし、遅れてやってきたかのような“成熟した青春の日々”に心地よさを感じていました。しかし、ある日突然、日浅は何も言わずに会社を辞めてしまいます。しばらくして再会を果たした日浅は、互助会のセールスをしていました。やがて珍しく日浅から釣りの誘い、岩手の清酒「わしの尾」をぶら下げて、焚火して一晩ゆっくり酒を飲みながら釣ろうということでした。しかしその夜の日浅は、陰鬱で全体的に攻撃的でピリピリしていました。いちいち難癖をつけ、いかにも自分に当てつけるような話を持ちかけます。すっかり興ざめした今野は、酒を飲まず帰ることにしました。自宅アパートでバーボンを飲みながら片づけをする今野。押し寄せる腹立たしさと虚しさ。そしてみじめさを振り払うかのように今野はある人物に電話を掛けます。今野が電話した相手は、副嶋和哉(中村倫也)でした。和哉とは岩手に赴任する前、2年ほど付き合っていました。電話から聞こえてきたのは穏やかな女性の声でした。和哉は、別れる直前に性別適合手術を受けるつもりだと言っていました。「びっくりした、なんか突然って感じで」と言う和哉に「変になつかしくなってさ。用事もない無意味な電話だよ」・・・そう言う今野に和哉は笑いながら、当時と変わらない態度で接してくれました。今野はゲイだったのです。今野にも影の顔、裏の顔があったのです。    物語の舞台は、岩手県、撮影も盛岡を中心に岩手県でオールロケを敢行、米内川(作品中では生出川)での釣り、一関市の喫茶店で二人が語り合うシーン、さんさ踊り...。台本は日々改良が加えられていたようで、綾野は厳しくも充実した撮影を「監督とスタッフと心の壁を探す日々だった」と振り返っています。松田は「大抵の人は裏は見せないもの、人によっては裏表なんてものは大して差がないのかもしれませんが、どんな映画になるのか、とても楽しみです」と仕上がりに期待を寄せました。
           ジャズファンの聖地、一関市の「ベイシー」でのシーン

■ 後半

 そして3月11日に東日本大震災が起きました。家族や親戚から安否を問う連絡があるのは当然ですが、昔の同僚や後輩、はたまた卒業以来一度も会っていない大学の友達からも連絡が入ります。今野にはバタバタした日々が続きました。10日間ぐらいがピークだったでしょうか。
 和哉もいち早く連絡をくれました。揺れ自体は強かったものの、地盤強固な盛岡市は大きな被害はありませんでした。停電が数日続き、余震もありましたが、津波で大きな被害が出た沿岸部とは雲泥の差でした。今野が仕事から帰ろうとしたところ、パートの西山(筒井真理子)に声を掛けられます。話を聞くと、日浅が死んだかもしれないということでした。「どういうことですか?ちゃんと順を追って説明して」・・・今野は明らかに動揺していました。西山は日浅に頼まれ、互助会の契約を自分の分と夫の分、子どもの分まで入っていました。終いにはお金を貸していたそうです。それが東日本大震災の津波で、住む家を失くした身内が身を寄せることになり、貸していたお金を返してもらおうと日浅の会社に電話をしたところ、「日浅は行方不明です」と返されたそうなのです。しかも当日、日浅は休みでしたが、釜石に出かけて午前中営業し、午後は格好の堤防を見つけ投げ竿を振る予定だったと同僚に話していたそうなのです。今野は日浅の大きなものの崩壊に感動する特異な性格を思い出していました。あの水楢の倒木のように...
 それ以来、新聞の行方不明者欄を確認しては日浅の出ない携帯に連絡をしてみたり、行きつけの飲み屋を覗いてみたりと、今野は日浅の面影を探していました。むなしい行動はやめ、今野は日浅の実家を訪ねることにしました。震災から3ヶ月が経とうとしていました。父親の日浅征吾(國村隼)に「捜索願を出さないのですか」と聞く今野に、「もう父親ではないんですよ。次男とは縁を切ったんですから」と父親は答えます。知らなかった日浅の過去と、日浅という人物の影の部分が明らかになります。父親は今野に東京の大学の卒業証書を見せ、「偽造したんです」と吐き捨てるように言いました。日浅は大学に通っておらず、4年間父親をだまし学費を送ってもらっていたのでした。さらには、その偽造を知っている者から脅され、お金を振り込んだばかりだと言います。幼い頃に母親が死んでから日浅は、兄の馨(安田顕)によく懐いていました。父親の言う事には返事はするものの、常に距離があり理解し合うことは出来ませんでした。
 「息子には特殊な傾向がありましてね。気味の悪い遊びをしてみたり、決まって一人の人間としか付き合わず、どれも長続きしない。小学校の卒業式の日は皆が泣く中、息子はもう一回関わった人間には興味がないようでした」。堰を切ったように話しをしていた父親が黙り込みます。「あの男を、ほかの真っ当な生活者の方々と、同じリストにのせるなんて烏滸がましいことです。破壊された家屋を物色する不埒な火事場泥棒が横行したそうです。本来あれはそうした組の人間ですよ」。最後に父親は黄ばんだ紙片を取り出し今野に見せます。それは大学の「合格通知」でした。「こちらは本物です。息子なら死んではいませんよ」。
 今野は釣りに来ていました。茂みのバッタの群れのあいだから縞蛇の子どもが這い出してきます。震災後まもなく停止した銀行のATMをバールで破壊しようとして逮捕された男の記事が新聞に載っていました。竿で小突いても蛇の子は全然動かず、今野は日浅がその男の同胞であるのを頼もしく感じていました。その日釣りあげた魚は虹鱒でした。自然河川での繁殖例は本州以南では稀なことです。誰かが放流したのか、あるいは上流に養魚施設か何かあり、そこから逃げたのではないか。不意に自分の足で確かめたくなった今野は、上流に向かい歩き始めました・・・。
 樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出した作品です。沼田真佑さんは岩手生まれでないからこそ、盛岡に移り住んで岩手の風土や優しさに気付き、作品に表現できたのではないかと言われています。

■ 印象に残った部分
 疎遠になった弟に複雑な感情を抱く日浅の兄・日浅馨役に安田顕を当てたのは何故でしょうか?この映画で大友啓史監督が起用したかった役者さんが上の写真の面々で、そのひとりが安田顕だったと思われます。小説の中では兄はあまり描かれていないのです。今野の年下の友人・清人を平埜生成が演じるのもこの類でしょう。小説の中で、今野と同じアパートに住む口うるさい隣人・鈴村早苗(映画では永島暎子が演じます)というおばあさんが妙に印象に残りました。元教師で、今野が回覧板を回す次の相手でした。どうして元教師が、そのことを今でも誇りにしている人が、アパートで一人暮らしなのだろうか?それはともかく、午後に激しい夕立があった日、その鈴村さんという老婆が濡れしょびれた回覧板をつまんで今野の部屋に怒鳴り込んできたのです。「こっただにごっちゃりしもってらない、わが駄目だえんな!」という言葉...分かるには分かりますが、これが盛岡弁かなぁ〜?

■ 四十肩、五十肩
 最近左肩を動かした時に痛みが出たり、腕を後方に回せない、なかなか左腕があげられないなどの症状が出ました。娘の旦那に話したら、それは「四十肩、五十肩だよ」と言われました。「ドンドン動かしたほうがいいですよ」とも言われました。そういえば先日テレビを見ていたときに、子供はどうして肩がこらないんだろう?というのをやっていました。結論は「子供は無駄な動きが多いから」という答えでした。肩こりは筋肉の緊張などから起こるもので、それによる血液循環の悪化が原因だそうです。習慣化した姿勢の悪さや、運動不足、ストレスにより筋肉疲労がおこり、張りや痛みを引き起こすのだそうです。一方、四十肩、五十肩は老化などにより、肩関節をとりまく関節包や腱板に炎症が起こる事で痛みが生じると言われています。したがって中年以降に発症する事が多く、40歳〜60歳の人に起こるので、四十肩や五十肩と言われるようです。ストレッチや振り子運動によって肩関節の緊張をほぐし、痛みの緩和と、関節の可動域を広げることで直るそうです。四十肩、五十肩はどちらか一方の肩に発症する事が多いので、痛みのない側の予防策としても日々取り入れていく事が望ましいそうです。それにしても何故今頃?そうか、それだけ若かったんだ!納得。
(2020年1月13日)


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