352  安全な国?
 12月4日に遅い紅葉の話を書きました。実はまさにその日、北日本では大雪に見舞われていました。そしてお隣富士見市の畑ではイノシシの大捕り物、師走ですね。

■ 富士見市の畑でイノシシの大捕り物
 体長1.2メートル、体重約70キロのオスのイノシシが2019年12月4日午前、埼玉県富士見市に出没し、東入間警察署員、入間東部地区消防隊員ら30人以上が出動して、国道254号富士見川越バイパスの三浦病院隣の畑に追い込んで、警察官が人間逮捕用の金属棒「さすまた」を使い、消防隊員が網で捕獲しました。再び人里に現れる恐れや豚コレラ感染の疑いもあり、その場で薬殺処分し、市内の環境センターで同日、焼却されたそうです。その前々日から東京・足立区の荒川河川敷に出没していたイノシシが移動したみたいです。堀切橋付近で生け捕りに失敗、鹿浜橋付近で確認されたのが最後で、富士見市の捕獲現場まで約25km、荒川から新河岸川沿いに移動した模様。泳ぎが得意で遠泳能力もある動物なので、土手の草を食べながら移動したのでしょう。
NHK NEWS WEBより

■ 日本は本当に安全な国なのか?
 今回のテーマ・・・日本は本当に安全な国なのか?災害が起きるたび、窃盗犯の横行のニュースが報じられると、日本人も地に堕ちたと思います。昔は鍵をかける家など無かったのに、今では厳重にロックするのが当たり前になりました。昔は芸能人紹介の記事に自宅住所が書いてあったりしたのに、今では小学生の意見を載せた地域新聞にもイニシャルのみで実名は伏せるのです。どうして?と聞くと、個人情報がなんたらかんたらとかいう理由だそうで・・・何か違ってませんか?

■ 日本の治安は悪化している?
 ちょっと古いデータで恐縮ですが、2012年に内閣府が行った「治安に関する世論調査」では、過去10年間で日本の治安が「悪くなった」と思う人が81.1%に上りました。その理由としては「地域社会の連帯意識が希薄になったから」が54.9%と最も多く、次いで「景気が悪くなったから」が47.4%でした。「日本の治安は悪化している」というイメージが広がったのは、1997年に神戸で連続児童殺傷事件(例の酒鬼薔薇聖斗・・・)が発生し、少年犯罪の低年齢化や凶悪化に注目が集まったあたりからのようです。

■ 2002年をピークに犯罪が急増、その後急減しているように見える
 ところが現実には、1960年から80年にかけて、米英独ほか主要先進国で犯罪が2倍から3倍近く増加したのに対し、日本ではわずか1割強の増加なのです。直近の殺人発生率(人口10万人当たりの殺人件数)の主要国比較でも、日本の発生率の低さが際立っています。
 法務省の2012年版『犯罪白書』をグラフ化した右図では、2002年をピークに犯罪が急増、その後急減しています。これは犯罪自体が増えたのではなく、国内での刑法犯の認知件数(警察が把握した犯罪の発生数)を増やそうとした結果なのです。1999年に発生した桶川ストーカー殺人事件(346『事件参照)において警察の不手際が批判を浴びた結果、ストーカー被害やDVなど男女関係に端を発する事件について、警察が積極的に対応する方針に転換したからです。これによって逆に治安が悪化しているというイメージが生まれたのです。

刑法犯の認知件数、検挙人員、検挙率の推移(1946〜2012年)

■ 検挙率の低下
 検挙率の低下にも同様のカラクリがあります。警察安全相談(困りごと相談)の件数が2000年以降に急上昇しているのは、警察の相談体制が強化されたために、それまで被害者が泣き寝入りしていたような犯罪が掘り起こされ、認知件数が引き上げられたようです。その一方で、認知した事案に対応しきれなくなって検挙率が下がったということなのです。さらに、一般刑法犯の80%以上を占める窃盗事件について、マンパワー不足から余罪調査が十分にできなくなったこと、また窃盗の20%を占める自転車泥棒のような軽微な犯罪で検挙実績を積み上げるより、より重大な犯罪の捜査に人的資源を振り向けるようになったことも、検挙率の低下につながっているようです。

■ 治安悪化はイメージだけ?
 刑法犯の認知件数は2002年に約285万件と戦後最多に達しましたが、2003年以降、減少に転じました。刑法犯の過半数を占める窃盗の認知件数が毎年減少したことが大きな要因です。前述の世論調査の結果に現れている「体感治安」の悪さとは逆に、2002年以降、一般刑法犯の認知件数は減少を続けているのです。殺人の認知件数にいたっては2013年に戦後初めて1000件を切りました。検挙率も、殺人93.5%、強姦88%と、凶悪犯罪では依然として高い数値を維持しています。これらデータを考え合わせますと、治安悪化というイメージ自体に根拠がないのでは?と思われるのです。龍谷大学法科大学院の浜井浩一教授の調査によりますと、「2年前と比較して、自分が住んでいる地域と日本全体で犯罪が増えていると思うか」と聞いたところ、「とても増えた」と回答した者のうち、自分の住んでいる地域では3.8%だったのに対し、日本全体では49.8%でした。つまり、多くの人が「自分の周りでは治安がそれほど悪化していないが、日本のどこかでは治安が悪化している」と感じているということです。

■ 犯罪態様の変化
 では何故、治安悪化というイメージが増えているのか?考えられるのは、殺人事件の報道が増えていることです。認知件数とは無関係に、マスメディアで殺人が報じられる件数が増えていること、さらにインターネットの普及により日本中で発生した犯罪情報が瞬時に広まるためと考えられます。
 オレオレ詐欺や還付金詐欺といった「特殊詐欺」の被害が増えています。一方、インターネット上で流出したID・パスワードによってクレジットカードが不正使用されたり、スマートフォンの無料対話アプリLINEの利用者アカウントを乗っ取って、利用者の友人らに電子マネーの購入を持ちかけたりする事件も急増しています。IT化や携帯電話の普及によって登場した新手の犯罪に対しては、従来の警察システムでは対応しきれないのが現実です。

■ 「あおり運転」一発免許取り消し
 政府与党から「悪質なあおり運転を想定していない現行法による取り締まりには限界がある」として法整備や厳罰化を求める声があり、警察庁は海外の法制度も参考にしながら検討を続けていましたが、道路交通法に「あおり運転」を新たに規定し、事故を起こさなくても即座に免許取り消し処分とする方針を固め、自民党の交通安全対策特別委員会で検討案を説明しました。来年の通常国会での法改正を目指すそうです。厳罰化も図り、悪質ドライバーの排除を目指す方針です。

筆者の最初の車;ケンとメリーのスカイライン2000GT、ナンバーは死に一番

■ 厳罰化の流れ
 日本では地下鉄サリン事件などのオウム真理教事件が厳罰化の転機になったと言われています。被害者感情の重視や犯罪報道による体感治安の悪化なども背景にあると思われます。2010年には刑法・刑事訴訟法の改正案が成立、殺人などの死刑にあたる罪の公訴時効を廃止。2013年には自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律が成立。2014年には児童ポルノ禁止法改正案が成立。2017年に共謀罪(テロ等準備罪)制定と、厳罰化の流れは加速しています。危険運転致死傷罪の制定や、さらに飲酒運転の処罰の厳罰化に伴い、飲酒運転に起因する死亡事故は激減し、2005年には10年前の半数にまで減少したように、厳罰化によって実際抑止に繋がった例もあります。一方で、交通事故を起こした運転者が危険運転致死傷罪による厳罰を恐れたためにひき逃げや「飲み直し」による飲酒運転の証拠隠滅が増加したという指摘や、銃刀法の改正による違法拳銃所持の厳罰化によって拳銃の隠し方が以前より巧妙になり、拳銃の摘発が難しくなっているとの指摘もあります。11月27日に兵庫県尼崎市神田南通の路上で、神戸山口組の幹部で傘下組織の三代目古川組・古川恵一総裁が機関銃で撃たれ殺害される発砲事件が起きました。いま全国各地で指定暴力団の抗争による発砲事件が起きていますが、ついに機関銃が登場したか、と暗澹たる思いです。

■ あおり運転の判断基準はよく検討すべき
 飲酒運転が減ったのは厳罰化のおかげかと言いますと、むしろ事例報道によって社会全体に飲酒運転への眼が厳しくなり、社会的制裁が怖くて減ったというほうが大きいのではないかと考えます。前記の「あおり運転の厳罰化」も、実際東名高速で車を停止させ、夫婦がはねられて亡くなった事件で、あおり運転の末、車を高速道路上で停車させた行為を危険運転致死傷罪で罰せられるのか?という議論がキッカケです。事故当時は運転していたわけではなく、はねたのもあおった本人ではなかったからです。しかし裁判所はこれは危険運転致死傷罪に該当すると判断しました。ただし今後あおり運転の判断基準が議論されると思いますが、これはよくよく検討されるべきです。実際高速道路の追い越し車線をトロトロ走っていて決して譲らない車はよくあります。こういう場合クラクションやパッシングライト已む無しと思いますが皆様どうでしょうか?筆者はあおりと思われたらいやだからやりませんが...

■ 死刑制度廃止圧力にさらされる日本
 日本の死刑制度は、人権を重視する世界からの廃止圧力にさらされています。アムネスティの統計によれば、死刑廃止国142ヶ国(法律上は死刑があるが、執行されていない国を含む)に対し、死刑存置国は56ヶ国(2018年末時点)で、世界の趨勢は死刑廃止にあるのは明白です。
 先進国の中で実際に死刑執行しているのは日本と米国のみ、途上国の中国のようにわずかの取調べで即裁判、死刑判決後すぐ執行というのは論外として、韓国など、死刑制度はあるものの実際には執行していない国もあります。被害者遺族の心情を慮って死刑已む無しというのが国民世論の多数ではありますが、世界の中で日本が異様な国であるというのは事実であり、しかもますます日本の孤立化が進んでいるというのはいかがなものでしょうか。

■ 中曽根康弘元首相逝去

 「戦後政治の総決算」・・・5年間にわたる長期政権で国鉄分割民営化や電電公社民営化などに取り組み 原発推進や憲法改正に取り組んだ中曽根康弘第71代首相が2019年11月29日101歳で大往生されました
 訃報に対して与野党問わず その功績を讃える声で溢れたのは大変珍しいことでした 結局政治家としての手本となるような信念とリーダーシップを体現した人だったということで 今はこうした政治家が珍しいことが残念です 田中角栄元首相と同じ1918年5月生まれで 内務官僚となり 戦時中は海軍少佐を勤めました 戦後1947年群馬3区から衆院初当選 当選20回は戦後最多です 1966年中曽根派を結成 少数派閥なので「風見鶏」と評された政治手法で 科学技術 運輸 防衛 通産 行政管理各省庁の大臣・長官 自民党幹事長 総務会長を歴任しました 鈴木善幸首相が退陣した1982年の自民党総裁選で 河本敏夫 安倍晋太郎 中川一郎の各氏を破り 首相に就任しました 首相就任直後の記者会見で己の政治姿勢を「風見鶏と言われようが とにかく首相になることが大事だと思ってやってきた」と語りました 当初「田中曽根内閣」と批判されたのは 田中角栄元首相と通じるものがあったのでしょう 首相に就任するや 風見鶏を一転し 一度決断すると最後までその姿勢を崩さず 「国益のためにどこまでもやる」と強いリーダーシップを発揮しました 聖域のない行財政改革を断行し アメリカのロナルド・レーガン元大統領とは“ロン・ヤス関係”を築き上げ 海外からも高く評価された首相でした 2003年に小泉純一郎首相から引退勧告され 公認を得られず政界を退きましたが その後も政界のご意見番としての発言には重みがありました 自らの戦争体験から平和主義を貫く姿勢が保革問わず尊敬された理由と思います 今の政治家の中で あえて似た人を挙げるとすれば石破茂さんでしょうね 安倍晋三首相と違うのはウソを言わなかったことです ご冥福を祈ります 合掌


中曽根康弘元首相

■ 中村哲氏を悼む

 アフガニスタンで 医療や緑化事業などに取り組んでいたペシャワール会現地代表中村哲医師(73)が殺害されました 医療施設拡充や灌漑事業に尽力した「地域の英雄」(アフガンのガニ大統領)に対して何故?中村さんは現地時間4日午前8時ごろ宿舎を出発し 25キロほど離れた用水施設の工事現場に向かう途中 自動小銃AK47(カラシニコフ)や拳銃で武装して2台の車に分乗した武装グループに行く手を遮られ 銃撃されたとのこと タリバンは事件当日 即座に「復興分野で活動するNGO(非政府組織)は我々と良好な関係であり 軍事的標的ではない」と犯行への関与を否定しました 犯人像が絞り切れない中 浮上しているのは 中村さんが地元の水利権に巻き込まれたという見方です 州政府や警察には「中村さんが襲撃される」との情報が繰り返し寄せられており 中村さん本人にも伝えられていました 中村さんは危険情報を顧みず 信念を持って灌漑作業を継続し 銃弾に倒れたわけです 中村さんの遺体は9日に故郷・福岡に到着しましたが ガニ大統領が自らひつぎを担いでその死を悼むなど 地域に多大な貢献をした「英雄の死」・・・この事件に関わった疑いで 地元警察は男6人を拘束して取調べ中とのこと 真相解明が待たれます  ご冥福を祈ります 合掌


アフガニスタン東部ジャララバード郊外に整備した用水路の前での中村哲さん
(2019年12月10日)


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