192  憤怒

 11月11日の読売新聞1面の『編集手帳』に、下記のように書いてありました。
 きのうの午後、NHKのBSテレビが『君よ憤怒(ふんど)の河を渉(わた)れ』を放送していた。高倉健さん主演のサスペンス映画である◆西村寿行氏の原作では「憤怒」を「ふんぬ」と読む。映画は「ふんど」である。わざわざ違う読みにしなくてもよさそうなものだが、そうなった事情を永六輔さんが『スターその世界』(文芸春秋)に書いている。この映画のプロデューサーで伝説の“ワンマン”永田雅一氏が「ふんど」と読んだからだという◆口にした言葉は貫き通す。“永田ラッパ”の異名を取った人の、威令の徹底ぶりがうかがえる◆「イスラム教徒の入国を禁止する」「メキシコ国境に壁を築く」。貫かれては困る言葉もある。ドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利したことに、米国では抗議のデモが相次いでいる。国内にツノ突き合わす憤怒の河があるのなら、そこに橋を架けるのが一国の指導者だろう。前言はただちに撤回するがいい◆英語のトランプ(trump)にはトランペット、すなわち「ラッパ」の意味もある。だからといって、程度を超えた有言実行まで元祖ラッパ氏をまねることはない。
びっくりしました。憤怒を「ふんど」と読む人が居るんだ!筆者はこの本を持っています。西村寿行という作家は、そんなに好きと言うわけではありませんが、高倉健が好きなので本も買ったのです。上の記事を見るまで「ふんぬ」しか有り得ないと思っていたので、ワンマンが「ふんど」だと言えば、映画の題名がそうなるんだ、ということを知りました。永田雅一氏と言えば、大毎オリオンズのオーナー、トンデモナイ人で、トランプもびっくり、みたいなところが有りましたが、こういう豪傑は昔はいましたね。

■ トランプ大統領
 トランプ大統領が誕生しそうです。実は筆者はこうなるのではないかと予想していました。英国のEU離脱のときに、まさか?と思ったのですが、その後の経緯を見ていて、なるほど、いま世界の潮流はそういう方向にあるんだ、ということを知ったからです。目からうろこでした。ニッポンという、平和な国に暮らしていると井の中の蛙(かわず)になってしまうということです。グローバル化こそ世界の潮流だ、だからTPPは必要なんだ、とニッポンでは政府が言うし、経済界でもそう言われています。しかし英国のEU離脱、いわゆるブレグジット・ショックに続いて、フィリピンでは米国のオバマ大統領を口汚くののしり、米軍なんて要らないと言うドゥテルテ大統領が国民から絶大な支持を受けています。まずは中国へ行って習近平と会い、続いて日本で安部首相と会って握手しました。言っていることがトンデモナイと日本のマスコミからは言われていますが、フィリピンの国民が支持しているワケは良く聞くとわかります。トランプが言っていたことも米国マスコミからは袋叩きでした。世論調査ではヒラリーが勝つという予測で、安部首相も米国に行った際に会見しています。ただこのときの映像は、ヒラリーが満面の笑みなのに、そつのない安部首相がどことなくそっけないというか、顔がやや引きつっている感じを受けて「おや?」と思ったものです。

■ 大統領選挙が株価や為替に影響
 前回米国大統領選挙が株価や為替に影響するということで次のように書きました・・・・11月8日は米国大統領選挙です。1万7000円を越えて好調に上がってきた日経平均株価がこのところドンと1万6000円台に下がり、為替も円高に振れたのは、FBIがヒラリー・クリントンの私用メール問題の再捜査に着手すると発表した影響から支持率が急落し、トランプが急追、ヒラリーに肉薄してきたため、もしかしてトランプ大統領?ヤバイぞ、という市場の反応で、リスクヘッジしているためです。ヒラリーなら市場は安心、トランプならショックというわけです。しかし、どちらが勝っても、最後はさやにおさまるでしょう。
 これはどういう意味だったのでしょう?経済に影響を与えるような政策は、ニクソンショックとかレーガノミクスのような具体的なものであって、今はあくまで予測でワイワイなので、一時的ショックはあっても元のさやにおさまり、具体的政策が出てきて初めて本格的に動くよという意味です。

■ 金融市場の心配
 マスコミのほとんどの予想を覆す共和党トランプ氏の米大統領選勝利で、金融市場は当初パニックに見舞われましたが、一転して世界的に株価が上がりドル高になりました。トランプ氏の公約は、国境に壁を作って移民排除や環太平洋連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)廃止、世界の警察からの撤退、ロシアのプーチン大統領を持ち上げてうまくやって行ける、地球環境問題くそくらえ、大型減税するけれど金持ちは増税、インフラ投資して景気刺激など、国際問題は過激ですが、国内問題は労働者の耳に心地よいものでした。世界中の投資家はおおむね、民主党のクリントン前国務長官が勝つとみていました。TPP反対とは言うものの、これも一部見直しはあっても、全般的にはオバマ政権の政策を継承し、安定した政権運営となると見込んでいました。これに対し、過激な言動を繰り返し、政治的手腕も未知数のトランプ氏が勝利すれば、政治や経済は大混乱に陥ると心配していたのです

■ 市場心理一変
 トランプ氏の勝利宣言で投資家の心理は一変しました。「すべての国民の大統領になる」「すべての国と公平に付き合う」と語り、移民排斥など選挙中の過激な主張を封印したのです。選挙中と異なり、スタッフが用意した原稿を見て話しました。これで市場は安心しました。市場が注目するトランプ氏の経済政策は、法人税率の15%(現行35%)への引き下げや、総額5500億ドル(約58兆7000億円)のインフラ投資、規制緩和などで、4%の経済成長を目指すというものです。米国の景気が良くなればそれは世界中に波及します。しかしどこからその財源を持ってくるのでしょう?ニッポンほどの借金地獄では有りませんが、米国の債務は大変なものです。中国や日本からカネを借りて運営しています。トランプ氏はグローバル化によって中国や日本の企業に米国企業が負けて労働者の職が不当に奪われたと主張しました。日本や韓国を守るカネを応分に負担しろと主張しました。

■ グローバル化を進めた張本人は米国
 元来グローバル化を進めた張本人は米国です。グローバル化によって米国労働者の職は確かに奪われましたが、それは日本だって同じです。日本の地方の工場は次々閉鎖され、海外に移転しました。むしろ米国に自動車関連の工場を次々作り米国の雇用に貢献しました。日本で製造業が衰退したため、工場閉鎖で地方の労働者は職を失い、上京してサービス業に従事せざるを得なくなりました。「地方創生」と言いますが、もはや工場誘致は有り得ません。今のままではますます東京への人口集中が進み、地方へ移るのは年金暮らしの老人のみです。TPPがもし発効したら、地方の農業従事者さえも職を失い、工場も無い、農業もダメ、東京サ行ってベゴ飼うか、と吉幾三が歌うような状況になります。日本国政府が言うTPPの効果試算は、ちょっと経済を勉強した人ならわかるでしょうが、有り得ない楽天的試算です。数字と言うものはいくらでも作れるものなのです。

■ 惨憺たる日本の未来
 日本は米国に追随してグローバル化を進め、能力ある人は海外へ行って仕事して、環境に適応する日本人の優秀性を示しました。米国の特に白人労働者層がトランプを支持した結果が今回の大統領選挙ですが、実は米国の労働者はそれでも賃金が上がっているのです。182『格差と賃金』(2016年9月3日)をご覧下さい。グローバル化前後の賃金は1991年と2014年で日本は世界9位(36,152ドル)から19位(35,672ドル)に転落し、米国は4位(43,506ドル)から2位(57,139ドル)に躍進しました。日本は韓国(20位→17位、24,308→36,653ドル)にさえも追い抜かれたのです。米国はこの間賃金が31%上がり、韓国は50%上がったのに、日本は下がったのです。米国の労働者が怒ってトランプに投票したと言うのに、日本では安部政権が安定した政権運営を続け、労働者の多数は怒っていません。その間貧困化が進行し、結婚する若者が減って少子化がますます進行します。政府が発表している将来の人口や日本の経済的地位を見ると惨憺たるものです。中国との差は見る見る拡大します。

■ 労働者間でも格差拡大
 かといって怒らない日本の労働者が悪いとは言いません。怒らなくても平和ならそれで良いし、誰もが幸せなら良いのですが、貧困化が進行するのはいけません。格差拡大が世界的に問題化し、米国大統領選挙でトランプ氏やサンダース氏がこれを持ち出して支持を受け、これをますます拡大するTPP反対と言って労働者層の支持を拡げたため、ヒラリーさんもあわててTPP反対と言わざるを得なくなりました。格差が拡大するのは富が広く薄く行き渡らず、一部に集中するからです。それでも米国や韓国ではまだ労働者層に一部還元されていますが、それでも少数エリートとの差が問題視されています。その大金持ちの一人がトランプ氏だけれど、むしろ儲かっている企業から政治献金受けているヒラリーさんのほうがノーだったのでしょう。日本ではグローバル化によって得られた富が労働者に還元されていません。それは海外で蓄積されていますから、外国から見たら日本は金持ちだけれど、日本国内の労働者はそうではなくて、サラリーマンの間でも豊かな人と貧しい人の差が拡がっています。労働組合で赤旗振っていた時代がありましたが、今や労働組合員のほうが労働者間ではエリートなのです。

■ 内向き志向〜面舵転換
 安部首相とヒラリーさんの会見の話を上で書きましたが、実は安部首相の考え方は米国共和党に近いし、伝統的に自民党は米国民主党ではなく共和党寄りです。アベノミクスはレーガノミクスにならったものです。したがってトランプ氏と安部首相は上手く行くのではないかと思います。安部首相はオバマ大統領はあまり好きではありませんでした。むしろプーチン大統領の指導力を好感し、それはトランプ氏も同じです。トランプ氏が大統領になってプーチン大統領と上手く行けば、日米露が上手く行く可能性があり、中国も勝手は出来なくなります。英国で起きたことも、フィリピンで起きていることも、今回米国で起きたことも、内向き志向と言われていますが、むしろ外国へ行って干渉し、戦いを助長して、難民・移民を増やすより、良いのではありませんか?
 ポピュリズムの危険性を以前指摘しましたが、むしろ世界がいま大きく面舵転換しているのだとすれば、それは大衆の意思であり、見守るべきと思います。世界中で大衆の憤怒が政治を変えれば、やがて経済システムも変わる、TPPに象徴されるグローバル化の波は、一旦せき止められるのかもしれません。すべて米国に発し、米国でせき止められるの感がありますが・・・・

■ 君よ憤怒の河を渉れ
 『君よ憤怒の河を渉れ』という映画は1976年公開の佐藤純彌監督によるサスペンスアクション映画です。高倉健の東映退社後の第一作目であり、大映社長だった永田雅一氏の、映画プロデューサーとしての復帰第一作目でもあります。
 あらすじは・・・・ある代議士の不審死事件を単独捜査していた東京地方検察庁刑事部検事・杜丘冬人(高倉健)が、突然、警察官に強盗傷害容疑で連行されました。警察官はある女性の通報を受け、杜丘を拘束したのでした。新宿警察署へ連行された杜丘は旧知の警視庁捜査第一課・矢村警部(原田芳雄)を呼び出し、無実を主張します。すると今度は横路敬二(田中邦衛)という男が「この男にカメラを盗まれた」と杜丘を名指しで通報してきました。杜丘には身に覚えのない事でしたが、証拠が揃っていました。完璧な罠です。はめられたと悟った杜丘は、家宅捜索の隙をみて逃亡します。新聞は“現職検事が凶悪犯"“杜丘検事即日免職"と書きたてました。
 杜丘は逃避行というのではなく、自分を罠にはめた真犯人を探し出し、無実を証明しようと横路の居る北海道に飛びます。ここで北海道知事選に立候補している人の娘真由美(中野良子)と出会います。杜丘をかくまった真由美でしたが、矢村警部に突き止められ、杜丘は逮捕されました。その時、熊が三人を襲い、矢村が負傷し、杜丘は再び逃げました。真由美の父から自家用セスナ機を提供された杜丘は、操縦できないけれど命を賭けて本州へと飛びたち、東京付近の海岸に着水しました。実は事件の黒幕は政界のフィクサー(西村晃)で、精神病院の院長(岡田英次)に命じて秘かに新薬の生体実験をしていたのでした。やがて杜丘の無実を確信した矢村警部が杜丘と共に黒幕を追い詰め射殺するという物語です。杜丘の無実が明白となった後、杜丘は矢村と上司の伊藤検事正(池部良)に「法律では裁けない罪や悪がある事を知った。二度と人を追う立ち場にはなりたくない」と言い残し、真由美と共に去って行くのでした。いや〜カッコイイ!
 この映画は中華人民共和国でも、1979年に『追捕』として公開され、文化大革命後に初めて公開された外国映画となりました。公開は無実の罪で連行される主人公の姿と、文化大革命での理不尽な扱いを受けた中国人の自身の姿を重ね合わせて、観客に共感を持たせ大変な人気となって、中国での観客動員数は8億人に達したと言われます。高倉健や中野良子は中国で一躍人気俳優となり、その後高倉健は中国映画にも主演して、中国でのスターにもなりました。

■ 老害?
 相次ぐ高齢ドライバー事故、多くは加齢によるものでブレーキとアクセルを踏み間違えたというケースが多いようです。高速道路の逆送とか、認知症によって無意識に小学生の列に突っ込んだとか、90歳越えてひき逃げとか、各地で悲劇が繰り返されています。高齢になってから人を殺すなんて考えるだに恐ろしい。免許証を返納する老人も増えているようです。車を運転しているうちは元気だったが、しなくなったら急に元気がなくなったなどという話も聞きます。しかし、元気の源が車の運転というのもどうでしょうか?自動車は運転者次第で凶器にもなります。
 昔の老人は慎みがあって、現役世代の邪魔をしちゃいかん、という矜持があったけれど、最近の年寄りときたら…と嘆く話も聞きます。65歳以上の高齢者犯罪の検挙数は、ここ10年で、傷害は9倍、暴行はなんと48倍にも増加しているそうです。老人が増えてはいるけれど、この犯罪倍率は異常です。結局老人の社会との関わり方が問題だと思います。老人が若者や子供と交流していれば、キレル老人は増えないはず、筆者は少年野球で小学生とずっと一緒ですが、子供は可愛い、素直だし未来がある、子供のお蔭で楽しい日々を過ごせます。有り難いことです。
(2016年11月13日)


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