182  格差と賃金

 今世界は不思議な現象に覆われつつあります。米国大統領選挙におけるトランプ台頭、どうしてあんな過激な発言、差別主義を堂々という人が共和党の大統領候補になるのか?米国の良識は何処に行ったんだ?そうこうしているうちにフィリピンの大統領選挙で、過激な発言がたびたび国内外のメディアに取り上げられて「フィリピンのトランプ」といわれた前ダバオ市長のロドリゴ・ドゥテルテ氏が、5月の大統領選挙で圧勝して同国の第16代大統領に就任しました。英国ではEU離脱の国民投票で離脱派が勝利し、世界の金融界をゆるがす騒動に発展しました。日本では東京都知事選挙で小池百合子氏が圧勝しました。いずれも、いわゆる「常識」とか「穏健」、「順当」という言葉と対極にあるものが支持された結果です。これはどういう理由によるものでしょうか?

■ フィリピンのトランプ
 麻薬戦争や国連脱退発言など過激な発言を繰り返し、大統領就任後も「テロリズムを作り出したのはアメリカとイギリスだ」と発言したり、「駐フィリピン米大使は同性愛者だ」とテレビで揶揄して、米国務省がワシントンのフィリピン大使館の特命全権公使を呼び出し抗議する騒動に発展したりしています。「できるだけ多くの麻薬密売人を殺害し、それによってフィリピン全体の治安を回復させる」というドゥテルテ大統領の考えに対し、国内外の人権団体や国連、さらにはフィリピン国内で社会的に大きな影響力を持つカトリック教会までもが非難を繰り返していますが、ドゥテルテ大統領就任からまだ2ヶ月なのに、すでに1800人以上の犯罪者が国内で警察の捜査中に殺害されたり、変死体で発見されているそうです。裁判も受けないうちに殺される?およそ民主国家では考えられないこと、あってはならないことです。

■ 敵を作り排除を主張する危険性
 こうした現象の答えとして考えられることは「ポピュリズム」です。一般大衆をアジって、民衆を味方につけた例としてはナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーが有名です。良識派は一部で、大衆はこうしたデマゴーグに先導されます。かつてこうした勢力の台頭を許した背景には格差拡大による民衆の不満がありました。米国でも、フィリピンでも、英国でも、人々の間に鬱積した不満のエネルギーが溜まっていたのです。これまでは、社会のトップに居る人は一部の豊かな人たちで、そうした人たちが求める社会の安定に対し、公然とエリート批判したり、自分たちを脅かす人たちを敵とみなして排除を主張したりする人に支持が集まって行きました。実は歴史を紐解けば、こうした思想は極めて危険です。ナチス・ドイツのユダヤ排斥、トランプの壁、フィリピンでの暗殺、英国人の移民阻止、こうしたものに民衆が拍手喝采するようになると、社会の中で対立が起き、やがて権力を得たものが支配する危険な社会へと変貌する恐れがあります。民衆がその危険性に気付いた時は既に遅いのです。

ヒガンバナ=曼珠沙華


■ 工業化社会から情報化社会に変わって格差拡大
 どうして不満のエネルギーが溜まるかというと、世界的に格差が拡大しているからと言われます。その原因は社会が変わったことによります。人間が寄り集まって、助け合うことで社会が生まれ、狩猟社会から農耕社会、工業化社会、情報化社会へと変貌してきました。蒸気機関の発明に端を発した産業革命によって形成された工業化社会では、ものづくりのために労働力が必要でした。働くことに関して、人間の間でそれほど大きな差はありません。真面目にコツコツ働く多くの人たちは中間層と言う形で社会の中心となり、あまり大きな所得格差はできません。ところが情報化社会は別です。情報を扱えるホンの一部の人たちが大多数の富を所得し、中間層はどんどん細って、大多数が「自分たちは貧しくは無いかもしれないが恵まれていない」と考えるようになりました。金持ち、中間層、貧困層がラグビーボールの形で形成されているうちは良かったのですが、それが四角に三角形を載せたような形の構成になると、貧困層に加えて、かつて中間層と言われていた人たちの不満が噴出してきて、その原因を見つけ出してぶつけたくなるのです。誰かが、「悪いのはアイツだ」、「敵はアイツラだ」と言うと、それが支持される、以前ならそんなバカなと「良識」が抑えたことが、全然バカではなくなってしまうのです。

■ グローバル化
 農耕社会では民族による、国による差はあまり有りませんでした。しかし工業化社会になると、道具を上手く作り出して、それを売って儲ける国が台頭し、それはヨーロッパに端を発して、船によって他の大陸に渡り原住民を侵略して新しい国を作って行きました。先進国と言われる国にはやがて格差が生まれ、その不満のエネルギーを他国にぶつけて戦争する国が現れました。二度の世界大戦を経て、殺し合うことの愚かさを知ったことで、国際連合という組織が出来て、戦争をしないための話し合いをするようになりました。
 やがて情報化社会になると、これまで抑圧されてきた国にもチャンスが生まれました。情報は瞬時に世界を駆け巡ります。これを利用するための人間の能力は、民族によって差があるものでもありません。これまで工業化社会ではものづくりの便利なところに集まって製造し、それを輸出して富を得ていましたが、情報を利用すると、今どこで何が求められているか、それを作り出すためのリソースが豊富なところはどこか、ということが瞬時に分かり、ものづくり拠点も移動するようになりました。消費者が多いところで作ったほうが輸送コストがかかりません。いわゆる「グローバル化」です。
 例えばオランダ人がアルゼンチンに行って農場経営し、菊の苗を作って日本に空輸する、日本では中国で作ったかぼちゃの苗をちょん切って根の部分に、菊の苗の穂をちょん切って接木する、これを三日三晩多湿の養生室に入れて活着させ、出来た接木苗をハウスで育てる、これによって季節によらず365日、日本では菊作りができるのです。日本の葬儀の主役は菊だからです。航空機輸送のコストをかけてでも、これがコスパ良しというのは情報によって知り得たことです。日本の八幡平市でリンドウが作れない時はチリで作っているし、コンビニで売られている花はケニアやタンザニアから来ているのです。そしてこういう情報は常に変動します。

ノーゼンカズラ


■ 情報化社会で生まれる賃金格差
 人間の能力は多数の人が集まるとおおむね正規分布の形になります。一部の頭の良い人たちが情報を利用して富を得ます。何をやってもだめな人は貧困層を形成します。圧倒的多数の中間層は工業化社会では豊かでしたが、情報化社会になるとある日突然勤務していた工場が無くなって、仕事を変えざるを得ません。サービス業ではどうしても賃金が安くなります。例えば自動車工場で働いていた時は、時給換算で29ドルだったのが、レストランやショップ勤めだと15ドルになる、パートだとその半分で、ボーナスも無い場合があります。自動車工場ではロボットが活躍して、人間の労働に付加価値が付いたのですが、サービス業ではそういうものが無いためです。ところが情報を利用して金融のトレーダーをしている人などは150ドル以上得ています。すなわち一般的労働者の10倍、パートタイマーの20倍です。

■ 中間層の怒り
 米国で「真ん中」を支えてきた働き手がやせ細る背景には、製造業の没落があります。自動車最大手ゼネラル・モーターズ(GM)発祥の地、ミシガン州フリントでは、40年前に約8万あったGM関連の職は、業績不振などで約1万まで減りました。自動車工場なら時給29ドルになりますが、増えるのはサービス業の低賃金層ばかりです。住民の4割は貧困ラインを下回る年収しか得ておらず、大統領選で吹く共和党トランプ・民主党サンダース旋風は、沈みゆく中間層の不満の表れでした。賃金が上がらず苦しんでいる間に、高層ビルが建ち、株価は上がりました。人々はその怒りに突き動かされたのです。

■ 時給15ドル
 米国ワシントン州のシアトルと言えばボーイングとマリナーズを連想する筆者ですが、実はここはスターバックスの発祥の地であり、近郊にアマゾンやマイクロソフトといった世界企業を抱えるまちなのです。2014年、全米に先駆けて「時給15ドル」の最低賃金が条例化されました。時限緩和措置が設けられ、大企業だと3年で、中小企業は7年かけて少しずつ引き上げることになっています。連邦レベルの最低賃金は、為替レートで変わりますが、日本(全国平均で時給798円)よりやや低い時給7.25ドルです。シアトルの雇い主は、その2倍以上の給料を払わなければならなくなるわけです。時給15ドルを求める動きは全米に広がり、シアトルに続いてニューヨークとカリフォルニア両州が、最低賃金を時給15ドルに段階的に引き上げると条例で決めました。職種限定も含めると3州と24都市で15ドルへのアップが決まり、これだけで計1000万人規模の賃金が上がるとの試算もあります。

■ コストコの経営戦略
 実際に「時給15ドル」を決めたのはシアトルをはじめ、米国でも裕福な地域です。シアトルではすでに最低賃金を上げ始めましたが、地元の大学の調査では目立った副作用は出ていません。「15ドルになって困るのは、初めて職を得る機会を奪われる若者と、民族的な少数派ら弱者たちだろう」と言われています。つまり時給が上がって困る人も居るというのですが、果たしてそうでしょうか?経営者は困ると言いそうですが、そうでない事例もあります。シアトル郊外の緑豊かな小都市イサカの湖のほとりにコストコの本社ビル群が広がっています。コストコは世界に約700店を展開し、計20万人の従業員を抱える世界2位の小売企業です。米国のコストコは最低ラインの時給12ドルから普通は5年ほどで最高レベルの23ドルに達するそうです。時給で働く従業員の平均は20ドルを超すというのです。コストコは、日本でも時給が圧倒的に高く、チラシでは1,200円なんて募集をしています。世界一の小売企業ウォルマートの時給は10ドルに届きません。悩みは転職率の高さです。コストコは時給が高いので、従業員が他所に移らない、日本の労働者同様社員教育に力を入れ、お客様満足度を上げる工夫が出来るのです。つまり、コストコの経営者は、時給を高くすることによって経営を安定化しているのです。

■ 下がり続ける日本の賃金
 日本ではこの20年近く平均賃金が下がり続けています。最低賃金の上げ幅は毎年十数円が精いっぱいで、安部政権が目標に掲げる「時給1000円」にはほど遠い現状です。一方で、米国の平均賃金は上がり続け、右に紹介したランキングでも世界2位につけています。しかし、牽引役はハイテクや金融業界に勤める人たちで、働き手の中では少数派です。全労働者の42%は、時給15ドル未満という調査もあります。
 日本の賃金は、OECDの統計によると、フルタイムで働く人の平均賃金は1997年の459万円をピークに下がり続け、2014年には400万円を割り込みました。主要国で、これだけ長く賃金が上がらないのは日本だけです。日本のフルタイム労働者の賃金水準は2000年以降、ほぼ横ばいです。一方、韓国は上昇を続けて2007年に日本に並び、今や上回りました。経済の停滞とデフレが続いた日本は、国内総生産(GDP)が伸び悩んできたとはいえ、為替レートが示すように、他国から見ると安定した経済の国なのです。ただ、企業が利益を内部留保して賃金に回していないのです。生産性が上がっても、その分け前が働き手に分配されていないのです。
 転職市場が発達した米国なら、賃金カットすれば働き手が逃げて行くので、伸びる産業や賃金が高い産業に、人が移ります。欧州では、産業別に労使が職種ごとの賃金を決めて労働組合が賃金を守っています。日本は職を失うと再就職が難しく、労働組合も企業別で弱いので、賃金よりも、雇用が優先されます。その結果、「失業率は上がりにくいけれど、賃金は下がりやすい」ことになります。
 平均賃金が上がり続けている米国でも、高所得層が全体を大きく押し上げ、普通の働き手には果実が回っていません。

OECDによる世界の賃金ランキング

一方で、中国やインドなどの新興国は、賃金労働者が次々に生まれています。国際労働機関(ILO)によると、2013年に世界全体で賃金は2%増えましたが、その半分は中国一国の賃金上昇によるものでした。

■ 中国とインドは世界の経済大国に戻る
 21世紀、中国とインドは世界の経済大国になります。世界史の中で欧州、そして北米が栄えたのはこの200年間のことです。すなわち産業革命によって形成された工業化社会が、それまでは安定した大国だった中国やインドの地位を押し下げて、欧州列強に侵略されます。英国はインドを食い漁り、そこからアヘンを中国に持ち込んで、清国の人々を骨抜きにして、香港を奪いました。中国で麻薬犯罪は即死刑なのはこのトラウマです。蒸気機関によって世界を股にかけた黒船移動ができることになって、欧州列強は北米、南米、アジア、オセアニア、アフリカに乗り込んで原住民を蹴散らして、地域を支配し、原住民を船で自国に連れ帰って奴隷や下働きにしました。ほんの200年の間に大きく変わった世界地図は、情報化社会になってまた変わります。中国人やインド人も頭は良いのです。欧米の人たちには受け入れがたいでしょうが、世界は「通常」の状態に戻るのです。

■ 給与所得者増のアジア、減の欧州
 アジアに住む中間層は、2012年にだいたい5億人でした。これが2020年までには17億5000万人に増えるとの予測があります。あとたった数年ですよ。この中間層の急激な増え方は人類史上、かつてなかったことです。中間層の多くをアジアが占めることで、消費者は誰かという考え方も大きく変わります。みんな米国人向けに商品を作ってきたのに、短い間に中国人やインド人が主要な消費者として台頭するのです。産業のあり方が根本から見直されるでしょう。インドでは雇用されて給料を貰う人が急激に増えています。一方スペインでは若者は学校を出ても働き口がありません。サラリーマンではなく事業主になるしか有りませんが、それで稼げる人はほんの僅かです。「安定した働き口があれば雇ってもらいたい」のが人々のホンネです。

■ ITとグローバル化が賃金にもたらすもの
 世界を大きく変えているのは情報技術(IT)です。ITのスキルのある専門家や、彼らを指揮できるマネジャーは、世界を相手に稼ぐことができます。ただ、こうした高収入が期待できる層は全労働者の15%ほどでしょう。もし、あなたが普通の働き手、つまり残りの85%だと、将来は明るくありません。賢いソフトや、新興国の低賃金の働き手と競争しなければなりません。平均的な人の賃金は増えません。これからは稼ぎの多い上位15%と、貧しくなっていく「その他」の分断こそが切実な問題です。これがトランプ現象を起こしているからです。世界の人々の所得は「超リッチ層」(世界の所得上位1%)と、「新興国の中間層」(上位30〜60%)の所得が20年で6割以上増えたのに対し、先進国の中間層にあたる人々(上位10〜20%)の所得は1割以下しか増えていません。中間層がやせ細っているのは先進国に共通の現象です。日本も欧州も米国に比べれば格差は小さいですが、ITとグローバル化が人々の賃金に及ぼすストーリーは米国と同じです。日本はITで成功している企業が少ないだけ、賃金の面では米国よりも不利です。実際貧困層の割合は、米国に次いで日本が世界第二位であることをご存知ですか?ニッポンは決して豊かな国ではなくなっているのです。

■ 金融改革→賃金下落→雇用も守れず
 日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた2014年度のアジア各都市の賃金比較があります。OECDの統計で平均年収が日本を超えたとされる韓国のソウルでは、中間管理職(課長クラス)の月給が3439ドルですが、香港では3832ドル、シンガポールで4362ドルに達しています。つまり、日本は香港やシンガポールにもどんどん引き離されつつあるのです。
 親の世代と同じ水準の給料を、子の世代は期待できないのが今の日本です。日本の平均賃金が下落に転じた1998年が一つの転換点でした。頼みの綱だったアジア市場は通貨危機で失速し、前年に山一証券が自主廃業に追い込まれ、政府は「日本版ビッグバン」と呼ばれる金融改革に乗り出しました。「株主や投資家の影響が強まり、企業は利益を上げても賃金で還元しない傾向が強まった」のです。この頃から、非正規労働者の割合も高まって行きます。『若者はなぜ3年で辞めるのか?』などの著書がある人事コンサルタントの城繁幸氏は、富士通の人事部門に勤めていました。勤続年数に応じた給料のカーブを緩やかにして、10年以上かけて賃金を1割削る給与改定に携わりました。「日本中の大手企業が、同じことをやっていた」と彼は言います。競争力を失った電機産業はその後、雇用すら守れなくなり、1000人単位での人員削減が相次ぎました。富士通は半導体などのハードからソフトへ事業主体を移行したから良いですが、シャープを見たら、あるいはそれほどではなくても日本の電機産業がどうなったか、皆様お分かりでしょう。

■ 賃下げでデフレ脱却できない日本
 給料が減る、それどころではありません、リストラの嵐、工場が無くなる、海外移転です。こうなったら、賃金が安くても雇ってもらいたい、工場が無くなった人は第三次産業に移る、仕方ありません、所得が大きく減っても生きて行かなければならないのです。雇用を優先した日本の失業率は、他国と比べれば低いですが、雇用を守るために、事業の継続そのものがしばしば目的化し、もうけを度外視した安売り競争になり、賃下げ圧力が生じます。賃金低下で消費者の購買力が伸びないことが、大型スーパーの安売り競争に拍車をかけて、デフレ社会から脱却できません。
 ただし日本でいま好調な自動車産業に勤めている人はまだ春が続いています。トヨタの正社員のボーナス額は、他の企業のサラリーマンの年収です。しかし三菱自動車の問題やスズキを見ると暗雲が漂い始めています。今良い産業は将来は暗いのが世の常、そのため自動車業界は必死になって次の産業に業態転換を進めています。自動車のIT化はもちろん、TOYOTAやHONDAは、富士通同様農業にも目を向けています。これからの日本の花形は航空宇宙と海洋に向けた産業でしょう。

■ ITを駆使して高給を払う企業を目指せ
 安部政権のアベノミクスは金融主体でインフレ誘導する政策です。一方で「時給千円」や「同一労働同一賃金」を言っています。それぞれは正しいのですが、実は政策が矛盾しています。金融で株主や投資家が潤っても、賃金には反映しません。いくら賃上げしろと言っても、儲かり企業の正社員はアップしますが、その分非正規雇用が増えるのです。企業は子会社に社員を移して賃下げする、これをずっとやってきました。同じ給与所得者の間の賃金格差が拡大してきた歴史です。
 また、国が年金や医療制度を維持し、債務を返済するには、やはり円やドルが必要です。特に巨額の債務を背負う日本は、困難を伴うでしょう。結局はインフレか大増税なのかもしれませんが、魔法の杖はありません。生産性を上げるしかないのです。その手段が賃下げや、労働者間の分断であってはなりません。情報化社会で、ITがキーなら、それに集中投資すべきです。農業にもIT化です。住宅にもIT、自動車にもITです。企業経営はコストコを見習わなければなりません。「時給千円」を言うよりも、コストコのような企業経営を政府が賞賛し、それを国民に啓蒙することでしょう。キーエンスが日本企業では好例です。「家が建つ前に墓が建つ」と同業から悪口言われていますが、ITを駆使して、お客様をつかみ、社員に高給を払っています。

■ 知事選挙・・・東京の場合
 小池百合子東京都知事が就任して1ヶ月、リオオリンピックの閉会式で五輪旗を受け取って日本に帰ってきました。東京に戻って早々、豊洲新市場移転延期問題、都議会を標的としたブラックボックスの解明、様々な都政改革、課題は目白押しです。圧倒的な都民の声を背景にしているとはいえ、先代の二人の知事も圧倒的な都民の票を頂きながらその座を追われました。都議会が言うことを聞かないなら、大阪府の橋下方式で行くぞ、なんて話もありますが、都議は草の根で有権者と密着していますから、小池劇場とは違って都議会選挙で刺客を立てるなんて事態には発展しないのではと思いますが、マスメディアはどうもそれを期待している向きもあり、困ったものです。小池百合子氏が巧みなのは、東京都民に鬱積する怒りを吸い上げてエネルギーにするキャッチが上手いのです。しかし、結局はその怒りの根源を解消しなければ、最後はそれが自分に向かってきます。東京都の喫緊の課題は、災害対策と介護難民対策です。東京集中が進む今、地方と連携するしか道はありません。

■ 知事選挙・・・鹿児島の場合
 鹿児島県知事選では四選を目指した伊藤祐一郎氏(68)が敗れ、元テレビ朝日コメンテーターの三反園訓氏(58)が初当選しました。戦後の知事公選制導入後、鹿児島県知事には敗れた伊藤前知事を含め、中央官庁や県庁出身者が就いており、民間出身は初めてです。選挙公約で川内原発(薩摩川内市)の運転停止を掲げたので、早速九州電力に川内原発(薩摩川内市)の一時停止を要請しましたが、九州電力はこれに応じない方針を固めたようです。九電は、定期検査の中で、県が求めている原子炉容器や使用済み核燃料の保管設備などの点検を実施、三反園知事の要請に応じて緊急車両を増やすなど原発事故時の避難計画への支援体制を強化するほか、非常時には迅速に情報提供をする意向も伝える模様です。原発周辺の活断層の調査については「すでに十分な調査を尽くしている」(幹部)として、再度の調査は実施せず、これまでの検証結果を丁寧に説明していく構えです。原発問題を巡っては推進したい安部政権と知事との対立が続きます。

■ 知事選挙・・・新潟の場合
 新潟県の泉田裕彦知事(53)が、四選を目指し立候補を表明していた知事選への立候補を取りやめると発表しました。理由は、地元紙・新潟日報の報道姿勢が自分に批判的だからということだそうです。新潟と極東ロシアを結び、物流の活性化などを図る「日本海横断航路構想」をめぐり、県の第三セクターの子会社が2015年8月、航路に使う船の売買契約を韓国企業と結んだのですが、速度が伝えられていた性能よりずっと低く、これでは使えないとして船の受け取りを拒否、韓国企業が仲裁機関に申し立てを行い、子会社が1億6千万円の支払いを命じられる事態になりました。県議会は閉会中に委員会を開いて泉田知事をただすなどし、県の監視態勢を追及しました。新潟日報は7月以降、「(泉田知事が)少なくとも船を絞り込む経緯、選考作業が進展している事実については把握していた」「2015年8月に県幹部が売り主の韓国企業の仲介業者らと面会し、船の購入方針を決めていた」などと独自に報じました。泉田知事と県は、船の購入は三セク子会社の取締役会の決議事項で、県は取締役会のメンバーではないと繰り返し説明、監査委員に船の購入に至る経緯についての監査を要求しました。その一方で、購入契約を事前に知っていたなどとする新潟日報の記事を「事実誤認」と指摘、適正な報道や記事の訂正を求める申し入れを計7回行いましたが、新潟日報側は「一連の報道は、綿密な取材と事実に基づくもの」として対立が続いていました。
 泉田知事は同県加茂市出身で、経済産業省の元官僚です。2004年に自民と公明の推薦を受けて初当選しました。2007年の中越沖地震で、東京電力柏崎刈羽原発が被災した際には廃炉の可能性に言及、2011年の東電福島第一原発の事故後は「事故の検証と総括なしに再稼働は議論しない」と強調し、柏崎刈羽原発の再稼働に慎重姿勢を続けてきました。この結果共産党などは泉田知事の姿勢を評価し、独自候補を擁立せず、支持する構えを見せていました。前回の知事選では民主(当時)、自民、生活、公明、社民の5党から推薦を受け、今回の選挙でも2月の立候補表明とともに各党に推薦依頼を出しましたが、半年過ぎても、県政与党の自民をはじめとする各党は、3期12年の県政運営に対する評価の違いから意見が割れ、推薦を決めずにいました。この背景には、市長会と町村会から、県政運営の問題点を批判する文書が提出されたことがあるようです。埼玉県の上田知事のようにほとんどの市町村長が支持するようなら四選も可能でしょうが、市町村長から見放されるようでは各党も推薦し難いわけです。8月に立候補を表明した全国市長会長を務める森民夫・長岡市長(67)を推す首長も少なくない中、安部政権の冷ややかな視線を受けて、撤退を決断したというのが真相で、新潟日報の姿勢うんぬんは口実でしょう。
(2016年9月3日)


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