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 前回英国のEU離脱”BREXIT"について書きました。離脱派は、もし国民投票で勝ってもその後のことを示しておらず、世界中で大騒ぎになって、たった1日で株式市場から2.1兆ドル(215兆円)が消えたという大騒ぎ、離脱派は今になって後悔している?とかいう声も聞こえてきます。「あの冷静な英国民が先を考えずに投票する?信じられません。それほど熱くなって、理性を失っていたということです」と書きました。

■ シティの地位が揺らぐこと間違い無し
 EU離脱で英国経済には打撃になるでしょう。特にものづくり型現物経済では、日米などは英国で作って欧州大陸に輸出する戦略ですから、その見直しを余儀なくされます。日本国政府が慌てて経済財政諮問会議を立て続けに開催したのは、アベノミクスの危機と感じたからです。
たった1日で日本の年金から3.6兆円が消えた計算になります。アベノミクスでGPIFの運用を株式にシフトしたためです。いま個人で株式を運用している投資家も真っ青でしょうが、何もしていない年金受給者、誰よりもこれからの現役世代が真っ青になる事態なのです。今経済は現物からマネー、すなわち金融経済化が進んでいますので、ニューヨークのウォール街と並ぶ金融の中心地、ロンドンのシティのステータスがぐらつくことは間違い有りません。
 一方直後に行われたスペイン総選挙で事前予想に反して与党が勝利し、急進左派ポデモスが敗れたことで、世界の市場には一転安心感が広がり、株式市場はやや戻しています。スペインでも国民の不満が次第に高まっていましたが、ブレグジットショックを見て、一時ポデモスに共感していた無党派層が、一転保守系に投票したようです。なにしろEUから莫大な支援を受けていますから、英国のような選択はできません。不安が態度を変えました。

ロンドンのシティ(2016年)


■ しかし結論を急いではいけません
 EU執行部は波及を心配して英国に「早期離脱を」と求めていますが、事はそう簡単ではありません。一時期の感情の高ぶりで出てしまった結論に対し報復的な動きをすればまた足元から反発が出ます。ましてやスコットランドが英国から独立してEU加盟と言っていますが、これにEUが乗ることも簡単では有りません。ここまで長年に亘り築いてきた関係を放棄することを短期に結論してはいけないと思います。これは言わば離婚話ですから、家裁の調停が必要、むしろ日本が乗り出すチャンスではないでしょうか。今のままではロシアだけがほくそ笑む形になります。かといって、誇り高き英国民が、国民投票と言う重大な事象で出た結果をゴメンナサイと簡単に放り出すとは思えません。英国民を怒らせた原因をEU内部でも深く掘り下げ、反省して直すべきは直さなければいけません。

■ ロマンティック・イディオット
 なぜEUが形成されて、何故英国がEU離脱を判断しなければならなくなったかについては報道で詳しく出ています。EUの中心は独仏ですが、英国は特にドイツ主導のEUに我慢できなくなったのでは?と思います。英独仏伊、行ってみれば分かりますが、全く国民性が違います。


伊藤博文暗殺犯・安重根の旅順獄中書、見事な字ですが、本文との関連はありません
   週刊新潮に藤原正彦氏のコラムが連載されています。彼は数学者で、お茶の水女子大学名誉教授ですが、エッセイストでも有ります。新田次郎の息子さんです。今回の英国の国民投票の前に書いていたことが印象に残っていました。下記の如き内容です。
 東日本大震災の福島第一原発事故が起きて、イギリス本国でも事故直後から、BBCやフィナンシャルタイムズ等が繰り返し、「福島原発の爆発は視覚的には派手だが、核爆発とは全く異なり、チェルノブイリの如き放射能拡散はあり得ない」と伝えていた。イギリスの沈着冷静さに比べ、ドイツメディアのヒステリーぶりは凄かった。第2のチェルノブイリ、或いはそれ以上と決めつけ、花粉症マスク姿の東京都民を「放射能に怯える人々」と伝え、大使館員や特派員を大阪やソウルへ避難させた。そして、事故4日後の3月15日にメルケル首相は、国内17基の原発の内、8基を稼動中止、6月には、2022年までの原発完全廃止を全政党支持の下、決定した。この結果、ドイツの美しい田園は風車や太陽光パネルで埋められ、不安定な自然エネルギーの補助として、CO2の元凶たる石炭発電が全発電量の半分近くにまで増加した。筆者はアメリカの大学にいた頃、現実や大局を見ずに論理的に正しいだけのことを自信満々に主張する人々を“ロジカル・イディオット(論理的バカ)”と呼んでいた。これに倣えば、ドイツ人は差し詰め“ロマンティック・イディオット”だ。戦前までの1世紀間、学術・文化・芸術で圧倒的な業績を残したあのドイツ人が、何かの夢に憑りつかれると、あっという間に一斉にそれになびいてしまう。「原発は不完全技術で潜在的危険が伴う」(これは正しい)と考える。あらゆる現実を無視して廃止に突っ走ってしまう。第1次世界大戦では、戦前から教養市民層がナショナリズムを吹聴し、戦争が始まるや英仏の文明に対するドイツの文化の戦いと勇み立ち、国民はこれに陶酔した。その十数年後には、ヒトラーの“至高のドイツ”に陶酔した。国際連盟脱退は国民の95%、非武装のラインラント進攻は98%、オーストリア併合は99%が支持した。大戦後はホロコーストの贖罪意識に陶酔している。清く正しい人々になったから、原発は断じて許せない。諸悪の根源だったマルクと祖国を捨てようと、必死にEUを作った。「シリア難民受け入れに上限は無い」と大見得を切った。すべて贖罪だ。現実が見えなくなっているから、エネルギー政策もユーロも移民政策も破綻しかかっている。今月23日に、イギリスのEU残留か離脱かを決める国民投票が行われる。世論調査で両派が拮抗しているのは、離脱が経済的損失を意味するからで、本音ではほぼすべてのイギリス国民がドイツの支配するEU等から離れたいのだ。イギリス人は、ドイツ人と正反対の冷めた人々だ。現実の為には原理原則どころか、正義や道徳さえも巧妙に棚上げしてしまう。彼等はよく、「ドイツ人はどんな小さな過ちも犯さない。犯すのは最大級の過ちだけだ」と言う。ロマンティックバカと同じボートにいては、生きた心地がしないのだ。

 なるほど、と共感しました。でも、藤原正彦氏もそうは言いながらも、まさか冷めた英国民がEU離脱を判断するとは考えなかったのではないでしょうか。ただ、英国民はホンネではEUから離れたいと思っているという指摘からすると、理性より感情が支配する段階に至ればこういう結果になったのもわかる気がします。ドイツ人も英国人も、いや日本人も実はidiotなのかもしれませんよ。

【筆者註】”idiot”は、ばか、あほ、間抜け、雑魚というように他人をののしる時に使われます。古くは「白痴」という差別語として使われました。侮蔑的意味合いがあり、偏見につながるため、専門用語としては使われなくなったようです。おおむね最重度知的障害者を指す言葉です。同じような言葉としては”moron”と言うのもあります。

■ グローバル化への反発
 世界中で今、主流派対反主流派の争いが起きています。世界的なグローバル化の進展→格差拡大→反発からひきこもり化ということと思います。閉じた社会の中に居るうちは、助け合って暮らしているので格差も少なかったのに、グローバル化によってドンドン外に出て行って儲けるやからと、それが出来なくて今の場所にとどまるヒトでは差がついてきます。ましてやヨソから移民が来て仕事を奪われる、犯罪が増える、コイツラを排除して昔みたいに身内で仲良くやろうぜ、これがひきこもり化です。英国のEU離脱を主導したジョンソンも、アメリカの共和党大統領候補内定のトランプも、アンチエリート、アンチ移民と言う点で共通しています。グローバル化を進めるエリートに対し、idiotな民衆を焚きつけて...あ〜、コワイ。

■ 東京都知事選挙
 実は上の安重根の書を紹介したのは46『選挙』(2014年1月20日)でした。選挙と言うのは東京都知事選挙です。舛添要一、細川護煕(小泉純一郎支援)、宇都宮健児、田母神俊雄の四氏が争った選挙です。安部首相は自民党を裏切って出て行った舛添要一氏が嫌いでした。若手のホープ小泉進次郎も舛添不支持でした。あれから2年半、また選挙です。今考えてみると、舛添嫌いな安部首相や小泉進次郎議員はマトモだったということです。他に人材がいなかったから仕方なく東京都連は舛添支持だったわけです。今回の小池百合子氏の立候補、どうなるんでしょう。安部首相は石破茂支持の小池百合子氏は嫌いみたいですね。元岩手県知事の増田寛也氏を推す動きもあるみたいですが、親戚としてはちょっと???ですね。

日本人の善悪判断は美醜で決まる
 ”SEKOY"という字がニューズウィークの見出しに出た舛添要一都知事の辞任は当然でした。法律に違反していないから良いというものではなく、日本人の伝統的道徳観からすると許せなかったのです。先の藤原正彦氏も週刊新潮のコラムで書いていました。「彼はさぞ当惑しただろう。法律の世界に育ったことが仇となった。頭のよいはずの彼なのに、日本人の善悪が、合法か不法かではなく、美醜、すなわちきれいか汚いかで決まることを知らなかった。嘘つく、強欲、ずる賢い、卑怯、信頼を裏切る、利己的、無慈悲、さもしい、えげつない、せこい・・・・・はすべて汚いのだ。逆に、公のためにつくす、正直、誠実、勇気、献身、忍耐強い、勤勉、弱者への思いやり、いさぎよい・・・・・は美しい。日本人のこの道徳基準に無頓着なまま、不法でなければ万事オーケーとばかりに自らを正当化しようとした」、続いて最近の横綱白鳳の話になる、「これは横綱白鳳の「かち上げ」にも当てはまる。近年の彼は立ち合いで左から相手の顔を張り、顔が傾いたところを右肱でかち上げる、という技を多用する。この荒技により、今年になってからだけでも、栃煌山、豪栄道、勢、などが立つと同時に意識を失い倒れた。この肱打ちはボクシングでは危険技として禁じられているが、相撲では禁じ手ではない。だから白鳳はこれ一発で相手を沈めた時は、「立ち合いがうまく行った」と得意満面だ。また彼は、立ち合いで「変わる」、すなわち相手を正面で受け止めず左右に体をかわすこともよくするようになった。「かち上げ」や「変わる」たびに観客からブーイングが出る。白鳳にとって、規則で決められた技で勝ってとやかく言われるのは腑に落ちないはずだ。「かち上げ」や「変わる」のが評判悪いのは、横綱としての品格に欠けた技、すなわち汚い技だからだ。大相撲の頂点に立つ横綱は正々堂々と相手を受け、美しい技で勝って欲しい、との思いがファンにはある。日本人が善悪の判断を、美醜で決めていることが白鳳には理解できないのだ。合法か不法かに頼る諸外国は、何世紀も遅れているように私には見える。不法なことをしていない都知事を国民の美醜感覚が辞任に追い込んだ今回の事件は、日本文化の神髄の表れであり、世界へのよいメッセージでもあった」・・・全く同感です。

■ サラリーマンの小遣い 3万7,873円と過去3番目の低水準
 サラリーマンのお小遣いが、過去3番目の低水準となったそうですよ。新生銀行が発表した2016年の「サラリーマンのお小遣い調査」によると、男性会社員の毎月の平均のお小遣いは、3万7,873円と、2015年に比べて、231円増えたものの、1979年の調査開始以来、3番目に低い金額だそうです。ということは昨年が過去2番目、では最も低かったのは、1982年、昭和57年ですね。なんと3万4,100円だって...この年は米国の不況が深刻で、新興国の不振もあいまって日本の輸出が大幅に落ち込みました。日本が米国への自動車輸出を自己規制するなんてことも起きて、せっかくのチャンスを泣きの涙で見送った頃です。時の米国大統領レーガンは、これではいかんと「レーガノミクス」を発動し、米国経済は拡大してドル高となったので、翌年以降円安で日本経済も急回復したのです。やはり、円高はいけません。アベノミクスで着実に経済が良くなっているのなら、どうしてお小遣いが減るのでしょう?
 ところでサラリーマンのお小遣いには昼食代は含まれているのでしょうか?もちろん昼食代込みです。男性サラリーマンのお小遣いの多くを昼飯が占めるので、外で飲むのは平均月2回チョットだそうです。我が若い頃は外で飲みまくっていたので、今の人たちに比べるとバブっていたわけです。昼食代は587円と、2009年以降では2番目に高かったのに対して、1週間のうち、昼食に「弁当」を持参する割合は、平均で34.9%と最も高くなりました。女性はおよそ半分が弁当持参だそうです。お小遣いが最も厳しいのは子育て世代、そりゃそうでしょう。自分は我慢しても子どものために...親ってそういうもんです。煙草を吸うヒトはそういう意味でスゴイですよね。多分昼食代相当を煙にしているのでは?その上で高額納税者だなんてうそぶく、もはやこれは...涙ぐましい(>_<)

■ どういう金銭感覚?
 2016年7月2日の朝日新聞朝刊に書いてありました・・・「ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義社長(58)が後継者候補として招いたニケシュ・アローラ氏(48)が突然副社長を退任した背景に、在任中の利益相反が疑われていることがわかった。米通信社ブルームバーグは米証券取引委員会(SEC)がアローラ氏の調査を始めたと報じており、2年間に245億円もの高額報酬を与えた孫氏の説明責任が求められる」・・・245億円の報酬とはどういうお金?ソフトバンクはそんなに儲かってるの?サラリーマンのお小遣い;3万7,873円の646898倍なんですけど...
(2016年7月2日)


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