120  超電導リニア

 いろいろな事件が起きますね。事実は小説より奇なりとは良く言ったもので、信じられないような出来事が次々に起きます。起きて欲しくないことが起きたらどうすべきか、今回はこれがテーマです。

■ トヨタ役員の麻薬密輸事件
 米国から麻薬の錠剤を密輸したとして、トヨタ自動車の常務役員ジュリー・ハンプ容疑者(55)が6月18日(木)麻薬取締法違反容疑で警視庁に逮捕された事件、宅配便は米ミシガン州からケンタッキー州の空港経由で6月8日(現地時間)に発送されたそうです。11日に成田空港の税関で、小箱にネックレスやペンダントとともに、「オキシコドン」の錠剤57錠が入っているのが見つかりました。内容物は「ネックレス」と申告され、東京・六本木のホテルに滞在していたハンプ容疑者宛てでした。錠剤は開封してもすぐに分からないように小箱の底などに小分けされており、警視庁は麻薬と認識し、意図的に隠したとみているようですが、同容疑者は逮捕当初の取り調べに「麻薬を輸入したとは思っていない」と容疑を否認していました。送り主は父親のようです。
 オキシコドンはモルヒネのように鎮痛作用があり、米国では医療用麻薬として使用されているそうです。日本でも、治療目的で海外から持ち込むには、医師の診断書を提出して厚生労働省の許可を得た上で患者本人が携帯する形のみ認められているとのこと。郵便などで送ることはできません。オキシコドンは依存性がある、すなわち中毒になる薬物で、米国では乱用が社会問題になっているとの報道です。

■ 模範的なトヨタの企業対応
 約4時間後にトヨタは声明を出しました。「ハンプ氏の逮捕について承知しておりますが、当局の捜査が継続しており、それ以上の事実は把握しておりません。捜査には全面的に協力して参ります。われわれは今後の捜査を通じて、ハンプ氏に法を犯す意図がなかったということが明らかにされると信じております」・・・企業として最高の表現です。事実不明のうちに変なコメントはできないし、仲間を信じる気持ちも打ち出したいとなれば、こういう表現になるでしょう。翌日、金曜の午後に入って、「17時に社長会見」との報、素早い対応、さすがトヨタです。
 豊田社長は、繰り返し聞かれるハンプ氏についての質問に対して、「かけがえのない仲間」であり、「人柄」と広報トップ(CCO:チーフコミュニケーションオフィサー)としての「当事者意識」に優れている人物だ、と答えました。それはそうでしょう、そうでなければ常務役員に登用しないわけです。慣れない日本生活に対する「会社のサポートが十分だったのか解明に努めたい」とも言いました。その後、トヨタは国籍性別を問わず「適材適所で人材を登用」し、「真のグローバル企業」になる大きな決断をした、と原則の話でまとめました。また豊田社長は、会見で「役員・従業員は私にとって子供のような存在。子供を守るのは親の責任。子供が迷惑をかければ謝るのも親の責任だ」とも語っています。これもハンプ氏個人についての心情ではなく、経営者としての考え方を示したに過ぎません。何を聞いても最後には「捜査中で詳しい話は控えたい」「捜査には全面的に協力する」「ハンプ氏に法を犯す意図がなかったことを信じる」という前日の声明を繰り返しました。それで良いのです。会見はあっさり30分で終わったのは、模範回答なので、それ以上報道陣も突っ込めなかったというところでしょう。
 しかし、いずれにせよ、彼女はグローバル企業のグローバル広報のトップですから、日米の麻薬取締りの違いや、「オキシコドン」を日本に持ち込んだらどうなるか、知らなかったはずはありません。もし知らなかったら職務失格ですから、どっちに転んでもトヨタの役員は辞めざるを得ないでしょう。

■ 超電導リニア新幹線;ギネス世界記録認定
 JR東海は2015年6月26日、4月21日に山梨リニア実験線(総延長42.8km)で実施した走行試験で出た603km/hが、有人走行世界記録としてギネスに認定されたと発表しました。これは営業車両を想定したL0系で出た記録です。実際の中央新幹線は500km/h走行の予定です。
 超電導リニアの体験乗車はかつて100倍以上の競争率でしたが、最近は回数が増えてグッと倍率が下がってきています。JR大月駅から富士急バス乗車約20分または車で中央自動車道大月インターチェンジで降り、国道20号から国道139号に入り約6.5km、約15分で山梨リニア実験センター(山梨県都留市小形山271-2)に着きます。
 超電導リニアは、車両に搭載した超電導磁石と地上に取り付けられたコイルとの間の磁力によって非接触で走行します。モーターは丸いのですが、それを平に引き延ばしたようなものなのでリニアモーターと呼ばれます。超電導状態を起こすために液体ヘリウムでマイナス269℃に冷却します。研究スタートからもう53年、既に営業運転に支障のないレベルに到達しています。

山梨リニア実験線でのL0系車両

■ 世界の高速鉄道
 世界の高速鉄道は、日本の新幹線が先駆けとなり、その営業的成功を見てヨーロッパで続々と開発が進みました。フランスのTGVを始め、ドイツ、イタリア、スペイン、ベルギー、英国などで運行されています。中国でも2007年から日、独、仏、カナダの技術を導入した高速鉄道が運行を始めています。日本の新幹線では考えられませんが、衝突事故を起こしたら、その車両を穴を掘って地中に埋めてしまうという物凄さ、世界一の速さで走るためには乗客の命は二の次みたいなところがあって、怖くて乗れません(>_<) 中国で働いていた時に工事の様子を見ていた人が言っていました、「物凄い速さで工事が進む、ウジャウジャ人が集まって、あれじゃ管理できないよ、コンクリート養生など出来ないだろうし、手抜きがあっても見逃すのでは?」・・・ますます怖い。同じ年に台湾で日本の新幹線を導入した営業運転が始まり、さすがシンカンセン!と、乗客の評判は上々です。この4月には韓国高速鉄道「KTX」の湖南高速本線がめでたく開通しました。これで、ソウルと光州が約1時間半で結ばれます。開通式に出席し、KTXに試乗した朴槿恵大統領は「世界最高水準の韓国の高速鉄道技術と運営経験を世界に輸出しよう」とアピールしたそうです。ところが、実際に運行を開始した途端、車輌トラブル続出、利用者の急増〜運行本数の不足で、1日平均千人を超える「立ち乗り客」が発生する事態となり、需要予測の甘さや不十分なダイヤ編成に対する批判の声が高まるなど社会問題となっているとのこと。
 起伏が激しく、気候の変化にも富む韓国の風土は、実は日本の新幹線システムの導入が適していますが、KTXが採用しているのは、まっすぐな平地を走ることを前提としたフランスのTGVシステムです。不具合が生じるのは必然でした。

■ 開業半世紀乗客死傷事故ゼロの東海道新幹線がアンチエイジング
 日本が誇る東海道新幹線を運行するJR東海は現在、「新幹線史上最大」といわれる作戦を展開中です。1964年開業の新幹線は昨年50歳になりました。熟年ですから、人間なら体のあちこちにガタがくる時期です。そこで同社は2013年から大規模な「若返り改修工事」を行っています。
 鉄橋233ヶ所、トンネル66ヶ所、高架橋148キロ。10年かけて、これらすべてにアンチエイジングを施します。東北新幹線などは新しいので、線路がより高速運行が可能で、しかも揺れません。東海道新幹線も徐々に若返り改修し、この大工事を、1本の列車も運休させることなく実施するというのですからスゴイですね。
 日本の新幹線は、こうした「予防的措置」とたゆまぬ「技術革新」によって、開業以来、乗客の死傷事故ゼロを続けており、運行1列車当たりの平均遅延時分が0.9分という正確さ、これはたとえ新幹線技術を輸出しても、ニッポンでしか実現しないでしょう。「世界最高水準の高速鉄道技術」の称号は、誰が何と言おうと新幹線にこそふさわしいのですが、海外の人から見ると、「ナンデソコマデヤルノ?」と思うでしょうね(^-^)

■ 楽天が球場でお祓い
 東北楽天ゴールデンイーグルスが2015年6月26日のソフトバンク戦(コボスタ宮城)の練習前に、仙台市にある宮城県護国神社の神職「権禰宜(ごんねぎ)」2人を招き、グラウンドで神事を執り行いました。交流戦前の銀次に始まり、金刃、枡田、西田、伊志嶺、嶋、藤田が続々と戦線離脱、24日のオリックス戦前の早出練習では平石打撃コーチが左側頭部に打球を受け、救急搬送されました。尋常ではない事態に、球団も神頼みに踏み切ったというわけです。「厄難消除 身体堅固」祈願のため、塩で清め、お祓いをし、祝詞を読み上げ、玉串を奉納する神事です。呪われているとしか思えないときは、野球関係者はよくやるんですよ。ただ、大久保監督は個人的には好きでないので・・・、アッ、そんなこと言っちゃいけませんね(^-^)
 気になる結果は? ソフトバンク 5-1 楽天、アチャー(>_<)

■ 格差拡大が引き起こす争い
 111『火山』(2015年4月19日)の中で、「格差拡大から争いの社会への突入を避けよ」と書きました。再掲載→木下栄蔵氏の主張に筆者は全面的に組するわけではありません。しかし、バブルに向かう過程の認識は納得します。バブルは約30年ごとに発生することは歴史が示しています。これは人間の一世代です。人間活動がバブルを産むのです。1980年代後半のバブルから30年というと、そう正に今、その入口と見るべきではないでしょうか。これまで散々書いてきたように、お金持ちは不動産や外貨投資などへのリスク分散を考えるべきです。大多数のお金持ちでない人は心配する必要がありません。むしろ心配すべきは、格差拡大、それへの不満をそらす政策の方向性です。韓国の朴大統領の政策がまさにそうですが、今度は対抗策としての国防強化などに発展すると大変です。「防衛力」までは良いですが、「軍事力」となると、政治での歯止めが効かなくなることは過去の歴史が証明しています。1980年代の30年前の1950年代、さらにその30年前の1920年代、どんな時代だったかを振り返りましょう。1929年の世界恐慌から戦争、その終了でハイパーインフレに突入しました。と書いたわけです。
福田こうへい
6月30日(火)NHK総合20時
歌謡コンサートご覧下さい

■ 憲法学者の違憲の意見で混乱
 国会が史上最長の延長で、何がなんでも安保法案を通そうとの与党の方針です。総選挙で示された民意からすれば3分の1の得票の与党が、選挙制度のマジックで過半数の議席を得て、「今のうちに」やってしまわなければと焦っています。実際、安保法案に対する直近の世論調査では、国民の過半数がこの安保法案に反対しています。平和の党・公明党はどこに行ってしまったのでしょう?菅官房長官は、国会で意見を求められた憲法学者3人がいずれもこの安保法案が憲法違反だとしたのに対し、「そうではないという憲法学者もたくさんいる」と述べて、「どこにいるのか?」と問われ、一部の学者の名前を挙げた上で「たくさんいる」という表現は取り消しました。それはそうです、著名な学者はいずれも同じ見解で、合憲という学者はほんのわずかだそうです。すると、「何故こんな学者を呼んだのか?」と、自民党の中で疑問が出ましたが、それ自体が自らの立ち位置の危うさを露呈しました。憲法はあっちにおいて考えていたからです。これはヤバイということになって、「学者が何を言おうと、政治は政治家が決めるもの、過去も世論は反対でも、政治のリーダーシップで現在のシステムを作ってきた、将来これが正しかったことが証明されるだろう」と開き直りました。確かに、世論におもねて、国の方向を誤ってはなりません。有識者の意見も聞いておかないと、独走だと後で批判されたくない心理があったと思われます。

■ PID制御が有用なワケ
 しかし、過去の歴史に学び、将来の予測に向かって進む方向を考えるのは、筆者の専門の制御理論そのものです。現在プラント制御や空調制御のほとんどはPID制御です。その割合は、憲法学者の中の安保法案違憲論の学者の割合ぐらい、すなわち「ほぼすべて」と言って良いぐらいです。目標値と現在値との偏差量を極小化するために、偏差値に比例する(P)操作量を出力する、過去の偏差を積分(I)して操作量を決める、すなわち経験値に照らした修正を行う、直近の偏差の変化を微分(D)して操作量を決める、すなわち偏差が急変していたらブレーキをかける役割で、これは将来を予測しての制御になります。更にこの変化比例分(P)、過去経験分(I)、将来予測分(D)のそれぞれの割合を対象プロセスに応じて按分するところに知恵があります。すなわち制御対象プロセスは、変化に敏感だったり鈍感だったりするからです。制御が暴走して、歯止めが効かなくなって災害となるのは、人間がこの按分値を誤った場合です。チェルノブイリ原発事故がまさにそうで、やってはならない試験を、オペレータが原発運転中に行って大惨事となった、正に「人災」でした。過去経験分(I)や将来予測分(D)を軽視して、自らの信念に基づいて非科学的に突っ走れば制御=controlはできなくなります。それを引き起こす要因はオペレータにあります。プラント制御では、制御盤のモニターの前でオペレータが常にプラントの状況を監視していますが、それはあくまで「監視」であって、計測はセンサーが行い、制御はコンピュータがPID制御で行っています。人間は感情を持ち、体調の好不調によって感情に反映されるので、そんな危険なモノに制御を任せられません。例えばパイロットが意思を持って飛行機を墜落させようと思えばできるのです。人工知能には今のところ感情は無いので、例えばロボットは、その働きを監視して適宜油をさしておけば、「疲れた、チョット休もう」などと言うことも無くせっせと仕事してくれます。しかし、オペレータが自分の枠を超えて、「意思を持って」プラントの制御を変えようと思えばできないことはありません。企業はその危険を防ぐために様々な仕掛けを組んで、一部の人間の意思では変えられないようにしているのです。

■ 舵取りを船頭さんに任せてよいか
 政治の世界に転換して考えましょう。ヒトラーは独裁者として悪者になっていますが、国民の不満を受けて、打ち出した方向が国民の支持を受けたのであって、結果論から言えばPID制御が効かない状態に陥ったのです。当初は、決して国民を抑えつけて君臨したわけではありません。引き金はやはり経済です。格差拡大で、国民の不満が高まると、それを解消すると言った政治家が支持されます。そのときに過去の歴史に学び、将来の予測に向かって進む方向を考えられれば良いのですが、「意思を持って」甘い言葉で国民を扇動すると暴走につながります。現在の国際情勢はどうでしょうか?過去たびたび書いてきましたが、米国の時代が終わりつつあり、再び中国が超大国になろうとしています。これは日本国政府の内閣府自体がレポートしています。だからといってこの流れに棹差して逆らうか、乗るか、その舵取りを船頭さんに任せてよいか、PID制御を効かせないと舟は転覆してしまいます。
(2015年6月27日)


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