524  WBC2023

 花見が出来ないと嘆く声が聞こえます。ちょうど花盛りになったソメイヨシノ、しかし「菜種梅雨」ではゴザ、いやシートでしょうか、敷くこともできず、しかも桜は陽光の下で映えるもの、薄暗い日の光の下では心躍りません。この桜を見に大挙訪れたインバウンドの人たちも、「花より団子」でしょう。例年なら桜咲く小学校で少年野球の試合にいそしむのですが、今年は中止、中止、雨ではできません。ところでこのソメイヨシノ、林先生の解説でそのいわれを知りました。江戸時代末期に江戸染井村(現・東京都豊島区駒込)の植木屋がオオシマザクラとエドヒガンの2つの桜を掛け合わせて「吉野桜」と命名していたそうですが、奈良県の吉野山にあるヤマザクラが昔から「吉野桜」と呼ばれていたことから、混乱しないように染井と吉野の2つを合わせた「ソメイヨシノ」になったそうです。


徳川吉宗が人々のお花見のために整備した飛鳥山公園で毎年お花見してましたが今年はダメですね


■ 旅立ちの日に♪
 前回・・・3月は節目のときです 卒業、試験、決算、引っ越し、いろいろなことのある月です・・・と書きました。沢山の方が、新たな旅立ちを迎えます。そんなとき思い出すのは・・・秩父ミューズパーク『旅立ちの丘』に流れるメロディー・・・秩父市立影森中学校の校長先生と音楽の先生が1991年に作った歌、「旅立ちの日に」・・・秩父の中学校から羽ばたいた一曲は、今や卒業の定番曲となりました。子どもたちの可能性を信じ、成長を願った恩師の思いが込められています。


秩父市街地の夜景と、夕闇に群青色の雄姿が映える武甲山を展望する秩父ミューズパーク『旅立ちの丘』
この展望デッキを歩くと「旅立ちの日に」のメロディーが流れます

■ 日本国民をとりこにしたWBC2023
 ワールド・ベースボール・クラシックは2006年の第1回から今年まで5回開かれ、日本、日本、ドミニカ、アメリカ、日本が優勝、過去5回すべてBEST4以内は日本だけです。「クラシック」の意味は「決定戦」ということで、一般的に言われる「伝統的」の意味ではありません。まさしく野球の世界一決定戦ということです。今年はMLBの本気度も高く、これまで最多の20ヶ国の参加、強豪国はメジャーの選手がズラリと揃う中、ニッポン頑張りました。MVPは大谷翔平、投手とDHでベストナイン、スゴイ!今回のWBCでは印象的なシーンがたくさんあり、いろいろなキーワードが生まれました。その中で「野球は楽しい」ということと、「信じることの大切さ」が私たちの心を打ちました。

■ WBCとサッカーワールドカップの違い
 ワールド・ベースボール・クラシック(英: World Baseball Classic、略称:WBC)は、メジャーリーグベースボール(MLB)機構とMLB選手会により立ち上げられたワールド・ベースボール・クラシック・インク(WBCI)が主催する大会です。昨年末のサッカーワールドカップで日本は大いに盛り上がりました。ワールドカップの主催者はFIFA(国際サッカー連盟)で、本部はスイスのチューリッヒにあり211もの国内競技連盟が加盟しています。アマチュア、プロ問わず、すべてのサッカー選手の大会であり、その規模は、IOCが主催する夏冬のオリンピックに匹敵します。これに対しWBCは「アメリカのプロ野球リーグが、世界大会を主催、運営している」ので、サッカーでいえばイギリスのプレミアリーグやドイツのブンデスリーガがワールドカップを主催しているようなものです。世界の野球を統括する団体は別にあり、WBSC(世界野球ソフトボール連盟)と言います。もともとはIBAF(国際野球連盟)という組織で、野球のワールドカップを主催していましたが、MLBが参加していなかったこともあり主としてアマチュア選手の大会でした。IBAFは2011年に財政難となり、MLBが支援をしたことで機構が再編され、ISF(国際ソフトボール連盟)と合併して2013年にWBSCとなりました。

■ WBCへのMLB球団や各国の対応
 しかしながら、MLB球団オーナーたちのWBCへの反応は冷たいものでした。21世紀以降、MLB球団はスター選手と巨額の契約を結んでいて、選手は球団の「資産」です。その選手たちがMLBのペナントレースと無関係の大会で怪我されたり、故障されてはたまりません。特に2009年、第2回WBCで優勝した日本のエース、当時ボストン・レッドソックスの松坂大輔投手が、WBC後、不振に陥り復活することなく引退したことから、MLB球団のオーナーたちは、エース級の先発投手は出さなくなりました。対する日本は、NPBの一線級のエースを立てて「国の威信をかけて」大会に臨んだので、第1回、第2回と2大会連続で世界一に輝いたのですが、第3回以降、アメリカやドミニカ共和国などは一線級の救援投手を揃えたこともあり、日本選手はこれを打ちあぐみ、第3回、第4回とベスト4に終わりました。
 今大会でも10人もの選手をアメリカ4、ベネズエラ3、プエルトリコ2、コロンビア1と各国代表へ送り出したニューヨーク・メッツは、このオフに5年総額1億200万ドル(約160億円)の契約を結んだエドウィン・ディアス投手が、プエルトリコ代表として出場した1次ラウンドプールDのドミニカ共和国戦で9回に登板、3者連続三振でチームの準々決勝進出に貢献した直後に、優勝候補撃破のチームメートとの歓喜の輪の中で膝を痛め、右膝の膝蓋腱断裂の修復手術を受けて、復帰まで約8ヶ月かかるため、今季の復帰は絶望的となるという、大打撃を受けました。地元メディアは怒りの矛先をWBCに向けています。

■ 各国が「史上最強」の布陣で臨んだ第5回WBC
 しかし今大会では、アメリカは前回優勝から連覇する意気込みで、MVP三度の現役最高の選手と言われるエンゼルスのマイク・トラウトがキャプテンを務め、昨年のナ・リーグMVPのカージナルスのポール・ゴールドシュミット、ノーラン・アレナド、ドジャースのムーキー・ベッツなど超大物が顔を揃える布陣としました。先発投手はベテランが多く、大型契約を結んだ上り調子のエースはほとんどいませんが、救援陣はメッツのアダム・オッタビーノなど動く球を駆使する一線級を揃えました。トータルでは「史上最強」です。またドミニカ共和国は昨年のナ・リーグ、サイ・ヤング賞投手のサンディ・アルカンタラをはじめとするエース級の投手に加え、ブルージェイズのゲレーロJr.、マリナーズのフアン・ソトなど働き盛りの打者をそろえ、こちらも「史上最強」と言われました。この2国とプエルトリコ、日本が優勝候補と言われていました。侍ジャパンも二刀流でMLBでも頭抜けた存在になった大谷翔平の他、パドレスのダルビッシュ有、カブスの鈴木誠也、レッドソックスに移籍した吉田正尚に、母が日本人のカージナルスの成長株ラーズ・ヌートバーと現役メジャーリーガーを揃えましたが、他国のように全員メジャーではなく、NPB主体の構成でした。鈴木誠也が故障で出場辞退しましたが、2年連続沢村賞のオリックス山本由伸、完全試合男のロッテ佐々木朗希の他、若手の粋の良い投手陣、三冠王の村上宗隆、巨人の大砲岡本和真、パの本塁打王山川穂高など、日本はこれ以上ないようなベストメンバーで並々ならぬ決意で臨みました。今回は、リーグ戦は1次ラウンドだけで、2次からは負けたら終わりのノックアウト方式で、さらに、アメリカでの3次ラウンドに進んでもアメリカ、ドミニカ共和国に勝つのは容易ではないとみられていました。当初危惧されたのは、対戦相手もさることながら「世界一奪還」のプレッシャーで選手がガチガチにならないか、ということでした。

■ これまで5回のWBCにおけるデータ
 5回のWBCのデータを見てみましょう。
WBC歴代入賞国一覧
開催年 優勝 準優勝 ベスト4
2006 日本 キューバ 韓国・ドミニカ共和国
2009 日本 韓国 アメリカ・ベネズエラ
2013 ドミニカ共和国 プエルトリコ オランダ・日本
2017 アメリカ プエルトリコ 日本・オランダ
2023 日本 アメリカ メキシコ・キューバ

WBC歴代最優秀選手(MVP)一覧
開催年 受賞選手 守備位置 所属チーム
2006 松坂大輔 投手 日本 西武ライオンズ
2009 松坂大輔 投手 日本 ボストン・レッドソックス
2013 ロビンソン・カノ 内野手 ドミニカ共和国 ニューヨーク・ヤンキース
2017 マーカス・ストローマン 投手 アメリカ トロント・ブルージェイズ
2023 大谷翔平 投手 日本 ロサンゼルス・エンゼルス

WBC歴代ベストナイン選出の日本選手
開催年 守備位置 選出選手 所属チーム
2006 投手
捕手
外野手
松坂大輔
里崎智也
イチロー
西武ライオンズ
千葉ロッテマリーンズ
シアトル・マリナーズ
2009 投手
投手
外野手
松坂大輔
岩隈久志
青木宣親
ボストン・レッドソックス
東北楽天ゴールデンイーグルス
東京ヤクルトスワローズ
2013 投手
DH
前田健太
井端弘和
広島東洋カープ
中日ドラゴンズ
2017 投手 千賀滉大 福岡ソフトバンクホークス
2023 投手
外野手
DH
大谷翔平
吉田正尚
大谷翔平
ロサンゼルス・エンゼルス
ボストン・レッドソックス
ロサンゼルス・エンゼルス

 どうですか。WBC歴代ベストナインに選出された日本人選手は、里崎智也さんと井端弘和さんを除いて全員メジャーに移籍しています。里崎智也さんは今回のWBCでも解説者として大活躍でしたが、辛口の野球評論家、千葉ロッテマリーンズスペシャルアドバイザーの他、YouTuberとしても活躍しています。井端弘和さんも野球評論家、YouTuberとして活躍していますが、昨年に続き侍ジャパンU-12代表監督として、7月28日から台湾で開催される第7回WBSC U-12ワールドカップに出場するチームを率います。それにしても世界の二刀流;大谷翔平が投手とDHでベストナイン大会MVPというのはスゴイというのを通り越してますね。

(岩手日報号外)

■ WBC2023侍ジャパンの1次ラウンド戦績
 「史上最強」と言われた侍ジャパンですが、決して楽勝で勝ち上がったわけではありません。3月8日に開幕、日本代表・侍ジャパンは1次ラウンドでプールBに入りました。3月9日に中国代表との初戦を迎え、大谷翔平が先発、二刀流で躍動し、4回無失点、打っては2安打2打点で中国に8-1の快勝、3月10日の韓国代表戦は3回表に3失点を喫するも3回裏に逆転、その後も攻撃の手を緩めず、13-4で大勝しました。3月11日のチェコ共和国代表との第3戦、先発の佐々木朗希が4回途中1失点8奪三振(自責点ゼロ)、打っては吉田正尚が逆転打を含む2打数2安打3打点の活躍で、10-2で勝利しました。実に4連戦の3月12日、オーストラリア代表との対戦では大谷翔平がWBC初となるホームランを初回、東京ドームの右翼席上段の自身の写真看板にぶち当てる特大ホームランなどで、7-1で4戦全勝を飾り、プールB首位で2次(準々決勝)ラウンド進出を決めました。

■ 各プールの1次ラウンド戦績
 プールAは予選突破国パナマ含め5チームすべてが2勝2敗で並び、失点率の差で1位キューバ、2位イタリアとなりました。プールBは予選突破国がチェコ共和国で、日本は4戦全勝で1位、2位が3勝1敗のオーストラリアとなりました。プールCは予選突破国がイギリスで、メキシコとアメリカが3勝1敗で並び、失点率の差で1位メキシコ、2位アメリカとなりました。プールDは予選突破国がニカラグアで、4戦全勝のベネズエラが1位、2位を掛けて2勝1敗同士のプエルトリコとドミニカ共和国が対戦、プエルトリコが勝って2次ラウンド進出となりましたが、上記のように歓喜の余り守護神ディアス投手が負傷して今期絶望の惨事となりました。

(日刊スポーツより)

■ WBCが大会途中に対戦相手を変更
 WBC組織委員会が最初に組んだ日程を日本−イタリアの準々決勝直前に変更しました。当初日程では、下図のようにA組1位−B組2位の対戦(ゲーム1)の勝者がB組1位−A組2位(ゲーム3)の勝者と対戦することになっていました。C組1位−D組2位(ゲーム2)とD組1位−C組2位(ゲーム4)は別のブロックでした。ただ、「日本が準々決勝ラウンドに進出する場合、順位とは関係なく準々決勝の2番目に試合をする。日本が1次ラウンドで敗退すれば本来の順に進める」「米国が準々決勝ラウンドに進出すれば、準々決勝の2番目に試合をする」という条項が付きました。チケット販売および中継の便宜のためでした。米国と日本の野球人気が圧倒的に高く主催国であるため、予定通りなら米国と日本は無条件の準決勝で対戦することになっていました。日本は予想通りB組1位となり、日程の変更なく3月16日に準々決勝でイタリアとの対戦でしたが、米国は3月13日のメキシコ戦で敗れてC組2位となったため、3月19日にD組1位のベネズエラと準々決勝で対戦することになりました。米国−ベネズエラ戦を当初の「ゲーム4」でなく「ゲーム3」にしたのです。そして3月18日に行われたC組1位メキシコ−D組2位のプエルトリコ戦を「ゲーム4」にしました。つまり、米国と日本は当初予想されていた準決勝では対戦せず、両国が勝利すれば決勝で対戦することにしたわけです。このように日程が変更されたのは、観客動員能力が優れた米国と日本が準決勝で対戦するのを避けるためのようです。WBC組織委員会は「予定された日程」と主張しましたが、あいまいな表現ばかりで明確な説明はできませんでした。しかし大会途中で日程を変更するというのは非常識で、主催側が自ら大会の公正性を毀損したことになります。しかしWBCは真の野球最強を決める大会ではなく「ビジネスイベント」ですから、なるべく面白くして野球人気を盛り上げるというか、ハッキリ言えばテレビやネットの視聴者を増やして、スポンサーの期待に応えたいというわけですね。

■ 準々決勝ではイタリア代表を9-3撃破・・・「最高です」
 3月16日の準々決勝ではメジャーの選手を揃えたイタリア代表との対戦、ここからは負けたら終わりのノックアウト方式です。先発は大谷翔平投手、一球一球声を出して投げる気迫のピッチング、試合が動いたのは3回、近藤健介が四球出塁し、大谷の打席、右翼方向に野手を配置する“大谷シフト”を敷いたイタリアの意表を突き、セーフティバントを成功させて無死1、3塁とチャンスを広げ、4番に入った吉田正尚のショートゴロの間に先制に成功すると、村上宗隆の四球を挟んで岡本和真が3ランホームラン。一気に4点のリードを奪いました。大谷翔平投手は初回から飛ばした影響からか、5回はやや制球が乱れ、2つのデッドボールなどで2アウト満塁のピンチを招き、ドミニク・フレッチャー(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)の詰まった打球がライトへポテンと落ちて2失点、2アウト1、3塁のピンチでマウンドを託された伊藤大海は、後続をショートフライに打ち取る見事なリリーフ。その裏、先頭打者の大谷が四球、吉田のデッドボールでチャンスを広げ、村上宗隆が今大会初となるタイムリーヒットを放って5-2、続く岡本もフェンス直撃の2点タイムリーヒットを打って7-2としました。日本は7回にも吉田のソロホームラン、指の負傷を抱える源田壮亮のタイムリーヒットで2点を追加し9-2とリードを拡げました。8回にドミニク・フレッチャーのソロホームランを許したものの、今永昇太、ダルビッシュ有、大勢の継投でリードを守りきり、9-3で勝利を収めました。ヒーローインタビューで岡本和真は「最高です」を6回連続...

■ その他の準々決勝の結果
 準々決勝ラウンドはプールAとプールBの上位2チームによる準々決勝1(Q1、Q2)が東京ドームで、プールCとプールDの上位2チームによる準々決勝2(Q3、Q4)がマイアミのローンデポ・パークで行われました。3月15日(水)Q1:オーストラリア(B2) 3-4 キューバ(A1)、3月16日(木)Q2:イタリア(A2) 3-9 日本(B1)、3月18日(土)Q4:プエルトリコ(D2) 4-5 メキシコ(C1)、3月19日(日)Q3:アメリカ(C2) 9-7 ベネズエラ(D1)となりました。Q3とQ4が入れ替わってますね。ここがミソです。準決勝はマイアミのローンデポ・パークで行われ、Q1-Q3、Q2-Q4で、日本と米国が準決勝で当たらないようにしたわけです。

■ 準決勝ではメキシコに押されながら逆転サヨナラ勝ち
 3月20日(月)準決勝1はQ1-Q3、キューバ 2-14 アメリカでしたが、1回表キューバがまず1点先制しました。3連続内野安打の無死満塁から4番A.デスパイネがフルカウントから低めのカーブを見極めて四球〜押し出し、しかし後続凡退。その裏アメリカは1番M.ベッツがレフトへ二塁打、2番トラウトはライトライナー、3番P.ゴールドシュミットがレフトオーバーの2ランホームランであっさり逆転しました。2回裏には絶好調9番T.ターナーがガツンと一発レフトスタンドへ叩き込み、その後もアメリカはこれでもか、これでもかと、6回まで毎回得点、キューバは5回に1点返したものの、終わってみれば14-2の一方的な試合でした。米国の14安打に対し、キューバも12安打ですから打ち負けたというわけではありませんが、残塁11の拙攻と、本塁打がキューバ0、アメリカ4と長打力の差が出ました。
 準決勝2は3月21日(火)Q2-Q4で、日本の先発投手は佐々木朗希、メキシコはロサンゼルス・エンゼルスのパトリック・サンドバルがマウンドに上がりました。1回表佐々木朗希は2三振の三者凡退、サンドバルはヌートバー、近藤、大谷を三者三振というものすごいスタート、序盤は両チーム無得点、大谷翔平の同僚のサンドバルがナイスピッチングです。試合が動いたのは4回表でした。メキシコが2アウトから連打で1、2塁とすると、フリオ・ウリアスがレフトスタンドへ3ランホームラン、メキシコ打線は佐々木朗希の剛速球に手を焼いて、当てても詰まらされていました。打てるとすればフォークが甘く入ったところと解説者が言ったら、どんぴしゃり、高めの甘い球をバット一閃、メキシコが3点を先制しました。4回裏日本は一死から近藤健介がライト前ヒット、大谷翔平はイイ当たりでしたがセンターライナー、4番の吉田正尚がレフトへヒットして二死1、3塁のチャンス、ここで村上宗隆見逃し三振で無得点、チャンスを逃しました。
 5回から山本由伸が登板、さすがのピッチングを見せます。するとその裏、先頭岡本和真がレフトへイイ当たり、スタンドに入ろうかという大きな当たりを、レフト;アロザレーナ(レイズ)が絶妙のタイミングでジャンプ、フェンス越えの打球を捕ってしまいました。これは参った、この日アロザレーナは度々好守を見せます。初動が速いので、ヒット性の当たりも楽々キャッチ、打撃でも活躍する素晴らしい選手です。次の7番山田哲人はライトへヒット、源田は四球で一死1、2塁、ここで日本は代打牧を送ります。メキシコはサンドバルを諦めピッチャー交代、牧ショートゴロで二死、1番に還り選球眼の良いヌートバーが四球を選んで満塁、近藤健介に期待しましたがレフトフライ、ここはアロザレーナ、チェンジです。どうしても1点が取れません。6回表山本由伸は三者凡退に抑え、流れは完全に日本へ転換しました。その裏大谷翔平からの攻撃、レフトへ流し打って、とにかく点を取るゾというチームバッティングで後続打者を鼓舞します。吉田正尚はファーストゴロで大谷二封、村上宗隆は空振り三振でこの日3個目の三振、絶不調です。当たっている岡本和真と山田哲人は警戒されて四球で二死満塁、源田の当たりは吸い込まれるようにレフトへ飛び、ここはアロザレーナ、チェンジです。どうしても1点が取れません。
 7回表メキシコは一死から7番トレホ、四球出塁し、8番トーマスは空振り三振でしたが、この時に走って盗塁を謀りました。「シメタ」と思いました。キャッチャーは甲斐拓也に代わっています。世界にその強肩を示すチャンス、案の定悠々アウトのタイミング、ところがこのトレホというランナー只者ではありません。二塁に入った源田のタッグをかいくぐり、ヘッドスライディングしながら手で足でベースタッチ、まるで忍者のような動き、源田も一旦トレホの身体がベースから離れたと見るや再度タッグ、判定はセーフでしたが、栗山監督がリプレー検証を求めます。なかなか結果が出ません。よほど検証に手間取っているのでしょう。やがて審判の手が横に開かれず拳となってアウトの判定になりました。三振ゲッツー、これは大きかった、流れがメキシコに戻りかねない場面、これはワールドカップ;スペイン戦の「三苫の1mm」になぞらえて、「源田の1mm」とSNSで話題となりました。すると7回裏、日本の反撃は甲斐空振り三振、ヌートバーがレフトライナー、アロザレーナに捕られて2アウトから近藤健介がライトへヒット、ここで大谷翔平ですからメキシコは3番手ジョジョ・ロメロにピッチャー交代、やはり大谷は怖い、3B1Sから四球で1、2塁とすると、4番の吉田正尚が2B2Sからの低めのチェンジアップをすくい上げると、片手で打ったような打球でしたが、打球は高く上がってライトスタンドへ飛び込む値千金の同点3ランホームラン、まさに起死回生の一打でした。村上宗隆はサードファウルフライでチェンジ。
 試合を振り出しに戻した日本でしたが、ここまで無失点で踏ん張っていた山本由伸が8回表一死から1番アロザレーナにライトへ大きな当たりの二塁打を打たれます。更に2番A.ベルドゥーゴが初球から直球を打ってセンターへタイムリー2ベースで失点、4-3とされ、3番J.メネセスを迎えます。アメリカ戦で2本塁打してアメリカを粉砕した怖い打者、それどころか2019年にオリックスに移籍して山本由伸や吉田正尚とは親しい間柄、わずか29試合でドーピング違反でオリックスを去りましたが怖い打者です。1B1Sから山本由伸の低めの直球を打ってレフト前ヒット、ピッチャー交代、リリーフの湯浅京己が4番を迎えたところで1塁走者が盗塁成功、空振り三振で二死としますが、5番I.パレデスが2B1Sから低めのフォークを打ってレフトへヒット、タイムリーとなりますが、吉田正尚がバックホーム、突っ込んで来た二塁走者に甲斐がタッグ、走者は本塁憤死、これは大きなプレーでした。終盤ですから5-3と6−3では追いかける側の心理がまるで違います。再びメキシコに2点のリードを許した日本に対し、メキシコは抑えのJ.クルーズを送ります。8回裏に日本は、岡本和真が初球デッドボール、代走に中野拓夢を送ります。7番山田哲人は1B1Sから低めの直球を打ってレフト前ヒット、8番源田は送りバント試みますがファウル、2B2Sからナント、3バント成功して一死2、3塁、こうなれば甲斐に代打、山川穂高を送ります。ボール1から低めの直球を打ってアロザレーナに捕られましたが飛距離十分、レフト犠牲フライで1点差に詰め寄りました。ここでメキシコはまたピッチャー交代、G.レイエスをマウンドへ送ります。1番ヌートバーフルカウントから低めのスライダーを見極めて歩き、二死1、2塁と攻めますが、2番近藤健介はストライク2から直球見逃し三振、チェンジ。
 まさしく手に汗握る大接戦ですが流れは日本に有ります。9回表はピッチャー大勢、キャッチャー大城卓三、二塁に代走の中野拓夢が入り、山田哲人がセカンドからファーストに回りました。大勢は1死球与えましたが、速い球で無失点に抑えます。さあ1点を追う9回裏、メキシコはレイエスに代えて守護神・ジオバニー・ガジェゴスを送ります。先頭打者は大谷翔平、初球をガツンと引っ張って右中間二塁打、1塁回る時ヘルメットを飛ばしての激走で二塁到達、塁上で日本ベンチへ向かってサア来い!来い!と檄を飛ばします。続く吉田正尚は3B1Sから高めの直球を見極めて四球、1塁へ向かうとき日本ベンチへ向かって指さして何か言いました。ノーアウト1、2塁ですから、ここまで4打席凡退、それも3三振の村上宗隆に「頼んだぞ」と言ったのでしょう。サヨナラのランナーはファーストランナーですから、ここで栗山監督は代走として走塁のスペシャリスト・周東佑京を送ります。バッターボックスに向かった村上宗隆はB1S1からの3球目、メキシコの守護神・ジオバニー・ガジェゴスの151kmを捉え、バット一閃、打球はセンターの頭上を越えます。セカンドランナーの大谷に続き、ファーストランナーの代走・周東佑京が大谷に追い着かんばかりの激走でサヨナラのホームを踏みました。周東が2塁を蹴って3塁を回るあたりで、日本の選手たちはベンチを飛び出し、全員3塁コーチャーみたいに手をグルグル回し、ホームインを見届けて、万歳、バンザイ、帰ってきた村上を囲んで大フィーバー、今大会不振で苦しんでいた村上のサヨナラタイムリーで日本はメキシコを6X‐5で破り、決勝進出を決めました。
 3点を追う4、5、6回、いずれも3塁までランナーを進めながらあと1本が出ませんでした。7回に吉田正尚の芸術的一発で追い着き、直後の8回に突き放されて2点差となりますが、ここからは総力戦の栗山采配、見事に当たってのサヨナラ勝ちでした。試合終了後に大谷翔平は、「勝てて良かった。苦しいゲームでしたけど、諦めないでやってよかった。ムネは本人が一番苦しかったので、ほんとに良かったと思う。難しい展開でしたが、こんなゲームができることは人生の中でそう無いので、ほんとに楽しいゲームでした。アメリカは1番から9番までスターが揃っているので、臆することなく、自分たちの野球が出来れば絶対勝てると切り替えて明日を迎えたい」と語りました。
 この試合で4打席凡退と快音がないまま迎えた9回無死1、2塁の場面で栗山英樹監督がサヨナラ打を放った村上宗隆選手を最後まで信じ抜けた理由を聞かれると「最後は『村上勝負』だと決めていて、その理由は3三振してベンチで僕の前に座ったときに、ちょっと落ち込むじゃないですか人間って。でも、すぐ座った瞬間に打席に入ってるバッターに声が出せるんですよ。“さぁ行くぞー”とか。その姿に僕は感動したし、3冠王のバッターですよ。自分のことより、それができるこの選手は絶対に打てるって思わせてくれる」と語りました。確かに野球というのは、どうでもいい時に打てなくても、ここで決めてくれというときに打てるバッターが頼りになる打者、それが吉田正尚であり、大谷翔平であり、岡本和真であり、山田哲人であり、源田壮亮であり・・・近藤健介もヌートバーも、アレ?みんなじゃないですか。栗山監督はみんなを信じていたということです。

■ 決勝ではアメリカの強力打線対日本投手陣の戦い
 3月21日、アメリカ合衆国フロリダ州マイアミのローンデポ・パークでの決勝戦、3大会ぶりの優勝を目指し、野球日本代表・侍ジャパンがディフェンディングチャンピオンのアメリカ代表と対戦しました。試合前、日本の円陣で大谷翔平選手が今大会初めて声出しを担当しました。「僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう」と切り出し、「ファーストにゴールドシュミットがいたり、センターを見ればマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたり、野球をやっていたら誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思う。憧れてしまっては超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう」と言って、「さあ、行こう!」と鼓舞しました。「オーッ」とロッカールームに声が上がり、拍手が響きました。大谷の一言で最高のムードができました。日本の先発投手は今永昇太と発表されており、その他は準決勝と同じオーダーで臨みました。アメリカは抑えの投手陣が強力なので、後半はなかなか点が取れないだろう、序盤リードして、粋の良いピッチャーを小刻みに繰り出して、8回ダルビッシュ、9回大谷翔平で逃げ切る!という栗山プランだろうと予想していました。初回アメリカは一死から2番トラウトが打って2塁とライトの間に打球が落ちましたが、トラウトは迷わず2塁を陥れる見事な走塁、これがトラウトか、とビックリしましたが、今永は9球で3アウトを取りました。その裏アメリカの先発はM.ケリー(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)、大谷に四球を与えましたが、両チーム無得点の立ち上がりでした。2回表にアメリカはこの大会絶好調で、この日9番から6番に打順を上げたトレイ・ターナー(ロサンゼルス・ドジャース)がレフトへソロホームランを叩き込みアメリカ先制、今大会最多5本目の本塁打です。なおも二死1、2塁と攻めましたが、今永踏ん張りました。先に1点を失った日本ですが、準決勝でサヨナラ打の若き三冠王がやっと覚醒しました。2回裏、先頭打者で迎えた5番の村上宗隆が、ライトスタンドへ打った瞬間確信のソロホームランを叩き込み同点に追い着きました。取られた後すぐ取り返す、これは日本チームに「行ける!」と勇気を与える一発でした。さらに続く岡本和真がライト前ヒットで出塁すると、源田壮亮がレフトへヒット、中村悠平が歩いて一死満塁と攻めます。ここでアメリカはA.ループにピッチャー交代、1番のラーズ・ヌートバーが思い切って振って、詰まらされたファーストゴロの間に1点を挙げ、日本が勝ち越しました。3回から日本は戸郷翔征がマウンドに上がりました。2人四球で出しましたがトラウトとターナーを空振り三振に仕留めるナイスピッチング。4回には三者凡退で2イニングを無失点に抑えて良い流れを作ると、4回裏に先頭の岡本和真がレフトスタンドへソロホームラン、前日のメキシコ戦ではレフトの好守にはばまれたので、今度は越えてやろうという意地の一発でした。読売ジャイアンツのエースと主砲の活躍で、日本が3-1とリードを2点に広げました。好調の戸郷を引っ張らず、5回はチーム最年少20歳の橋宏斗、2安打打たれましたが、トラウトとゴールドシュミットを三振に仕留めるナイスピッチング。6回はWBCで一人のランナーも出していない伊藤大海が3人で切って取り、7回は大勢が四球とヒットで二人走者を出すもゴールドシュミットを遊ゴロ併殺に仕留め無失点の投手リレー。その裏日本は大谷翔平がショート内野安打、吉田正尚のサードゴロ、5-6-3の併殺。8回に登板したダルビッシュ有がカイル・シュワーバー(フィラデルフィア・フィリーズ)に6本連続ファウルと粘られた挙句ライトスタンドに放り込まれ3-2とされました。なおもターナーにヒットを許しましたが、後続断ちました。栗山英樹監督は1点差の最終回のマウンドを、この試合3番指名打者で先発の大谷翔平に託しました。5回ぐらいからベンチとブルペンを行き来する姿を見て、最終回リードしていたら来るな、と思いました。大谷翔平は先頭ジェフ・マクニール(ニューヨーク・メッツ)に四球を許しましたが、続くムーキー・ベッツ(ロサンゼルス・ドジャース)を4-6-3のダブルプレーに仕留め、最後はロサンゼルス・エンゼルスでチームメイトのマイク・トラウトとの勝負という、誰が書いたんだ、こんな脚本、というものすごいことになりました。球場は大歓声に包まれました。1球目ボール…スライダー(141km/h)、2球目ストライク(空振り)…ストレート(160km/h)、3球目ボール…ストレート(160km/h)、4球目ストライク(空振り)…ストレート(160km/h)、5球目ボール…ストレート(164km/h)、これは外角にはずれ、中村捕手が捕れません。6球目三振(空振り)…48cmも横に曲がるスライダー(140km/h)でした。その瞬間大谷翔平はグラブを投げ捨て、帽子を放って吠えました。

■ WBC2023が残したもの
 今回のWBC2023では栗山英樹監督の野球というものが、新しい野球の指導者像として浮かび上がりました。侍ジャパンの全員を、仲の良い集団に仕上げたこと、若い力を生き生きと躍動させたこと、信じる力、どれもこれまでとは一味違ったものでした。そもそも大谷翔平の二刀流を認め、信じて、更にアメリカまで送り出したことは、これまでの常識を覆すものでした。また、ハンカチ王子斎藤佑樹投手は、他の球団であればとっくにクビであったはずですが、辛抱強く待ったこと、結局斎藤の11年間の通算成績は、89試合(63先発)364回3分の2、15勝26敗、防御率4.34。キャリアハイは1年目で19試合(19先発)6勝6敗、107回、防御率2.69。右肘、右肩などの故障に苦しみ、2021年をもって引退しました。日本ハムが、ほぼ戦力外の斎藤に契約金とあわせて11年間で4億円近くも払っていたのは不思議でした。斎藤佑樹はタレント性がありますから、野球を離れても長嶋一茂のように生きていけるでしょう。ダルビッシュが2月のキャンプ当初から来て、若い選手たちに指導したり、選手の和を醸成したりしたことも大きかったでしょうが、大谷翔平も吉田正尚もヌートバーも、栗山監督だから参加したと言えるようです。メジャー球団も大谷翔平を育成した栗山監督なら仕方ないと思ったようです。いま子どもたちの野球人気は低下していて娯楽の多様化により、ゲームやサッカーのほうが人気があります。野球界が転換点に直面している、「野球は楽しいものだ」と認識してもらうために何をすべきか、メジャーのスター軍団に負けない若い力を選出し、技術と精神力を見せつけることで、日本野球の未来を明るくしようとしたのでしょう。それは見事な結果を出し、若手が躍動し、野球は楽しい、3年後も選ばれたいという言葉で溢れました。

(日刊スポーツより)

■ WBCへのメジャー球団の対応
 今大会に対してMLBの本気度が分かったのは、WBCに選手を送り込む数の多さです。最も多いのはヒューストン・アストロズとセントルイス・カージナルスの13人、最も少ないチームはオークランド・アスレチックス、サンフランシスコ・ジャイアンツ、そしてテキサス・レンジャーズの2人です。なんと、合計97人が、各国代表として出場したのです。エンゼルスは今回のWBCにとても協力的でした。アメリカ代表のキャプテン;マイク・トラウト外野手初め、日本代表;大谷翔平投手、メキシコ代表;パトリック・サンドバル投手、コロンビア代表;ジオバニー・ウルシェラ内野手、イタリア代表;デビッド・フレッチャー内野手、パナマ代表;ハイメ・バリア投手、ベネズエラ代表;ホセ・キハダ投手とルイス・レンヒーフォ内野手、イスラエル代表;ザック・ワイス投手と9人が出場しました。またメキシコのギル監督はロサンゼルス・エンゼルスの内野コーチであり、準決勝で負けた後、「我々は最善を尽くした。脱帽するしかない。今夜は野球界が勝利したんだ」と語りました。

■ WBC裏話
 イタリア代表で3打点と大活躍のドミニク・フレッチャーの兄、デビッド・フレッチャー内野手は、イタリア代表の9番として先発の大谷と2度対戦し、5回に右前打を放ちました。ロサンゼルス・エンゼルスで大谷と同僚で同じ28歳、大の仲良しで知られます。試合後大谷翔平について聞かれると「彼は間違いなく全力でプレーしていた。本当に気合が入っていたよ。彼との対戦はもちろん楽しみにしていた。東京ドームで彼と対戦できたのは現実離れしていたよ。ファンも素晴らしく、試合に熱中していた。エキサイティングだったよ」と話しました。
 米国・デローサ監督は、大谷とトラウトの対戦で幕切れになったことに対し、「まるで台本があるかのような展開で、違う結末を期待していたが、野球界とファンの勝利だ、大谷はどのような状況でも動じない」と語りました。大谷と対戦した主将トラウトについて「彼が深い深呼吸をして感情をコントロールしているのが分かった」と言い、「自分だったら、あのような場面に立つ姿を想像できない。地球上最高の選手であり、チームメートでもある2人が向かい合っているんだ」と語り、二刀流で活躍し大会MVPに輝いた大谷に関しては「彼のやっていることは、おそらくこの大会に出た選手の9割がリトルリーグやユース大会で同じことをやってきたかもしれないが、彼は最高の舞台でそれを続けることができている。野球界のユニコーン(唯一無二の存在)。他にも試してみる選手はいるだろうが、彼のレベルでできる人はいないだろう」と称賛を惜しみませんでした。

2021年ア・リーグMVPの大谷翔平投手を紹介する岩手日報号外

■ グランドセイコーの腕時計をプレゼント
 カージナルスに戻ったヌートバー選手は、一躍スターになって戻ってきたと話題になっています。大谷翔平選手と冗談を言い合えるほど仲良くなれたと話すヌートバー選手に記者から「次回大会も日本代表でプレーしたいか」と質問されると、「実は腕時計をプレゼントしてくれたんだ。そのとき2026年のWBCで、日本代表に戻ってこなかったり、他の国の代表になったりしたら、それを返してもらうからね、と言われたんだ」と答えたそうです。エンゼルスに戻りマイナーとの練習試合に登板した大谷翔平選手にこのエピソードについて訊ねたら、「彼とご飯を食べている時に『どこのなの?』とか。欲しそうな感じだったので。僕が付けているのを単純に。そんなに使い込んでないですけどね。比較的新しいヤツですけど、欲しそうだったので」との答えだったそうです。新品ではなくて、大谷選手が身に着けていた、というところに価値がありますね。この腕時計は「グランドセイコー SLGH005」で、その価格は¥1,155,000円だそうです。このエピソード、ヌートバー選手が披露して分かったのですが、実はとんでもない宣伝効果なのです。誰しも、大谷翔平選手の腕時計?ロレックスかな?なんて思うでしょうが、グランドセイコーというところに意味があるのです。大谷翔平選手はグランドセイコーのアンバサダーなのです。したがって彼が身に着けているだけで、宣伝効果があるのです。バットやシューズ、ウェアなどで契約するのを見かけますが、時計もそうなのでしょう。岩手県奥州市出身の大谷翔平選手は、盛岡市との間に有る宮澤賢治のふるさと花巻市の花巻東高校で活躍しました。先輩の菊池雄星投手は、このたび岩手県営球場が移転・新設オープンした「きたぎんボールパーク」のある盛岡市の岩手飯岡駅から南の花巻東高校で活躍しました。二人はそれぞれ北と南に向かったわけですが、盛岡市から国道46号線を真西に向かって、右(北)が小岩井農場、左(南)が繋温泉、真っ直ぐ(西)が秋田県田沢湖という「尾入十文字」の処にあるのがこの高級時計の製造元「グランドセイコースタジオ雫石」です。この辺り一帯は焼肉冷麺街道と呼ばれますが、爽やかな林に包まれた、空気と水のとても美味しい地帯で、宮澤賢治が盛岡第一高等学校と、その向かいの盛岡高等農林学校(現在の国立大学法人岩手大学農学部)に在学していたころ、歩いてよく訪れた地域です。賢治はこの一帯の光景がとても好きだったのです。

大谷翔平選手と服部会長(©報知新聞社)
 セイコーウオッチ株式会社は、2021年12月に広告出演契約を結んだエンゼルス・大谷翔平投手に、2021年ア・リーグMVP受賞を記念して、高級腕時計「グランドセイコーEvolution 9 Collection SLGH005」を贈呈したそうです。岩手県盛岡市から10年前のNHK朝ドラ「あまちゃん」の舞台;久慈市に向かう途中、葛巻町と久慈市の境界にある平庭高原の白樺美林をダイヤルにあしらい、同じく雫石町にある「グランドセイコースタジオ雫石」(盛岡セイコー工業株式会社内の雫石高級時計工房にある)にて製造された時計です。時計業界で最も権威ある賞とされるジュネーブ時計グランプリの2021年度「メンズウオッチ」部門賞を受賞したグランドセイコーの次世代を担う高級モデルです。大谷翔平選手は「雫石町は、花巻市から比較的近いので、このモデルが組み立てられているスタジオにも、いつか訪れてみたいですね」と話し、同社の服部会長は「MVPを獲得した大谷選手の腕に、ジュネーブ時計グランプリのメンズウオッチ部門賞を受賞したグランドセイコーが重なった姿を見て、とても嬉しいですし光栄です」とコメントしたそうです。オオタニサンはエンゼルスの年棒40億円より広告出演料46億円のほうが多く、合わせるとメジャー最高だそうですから、アメリカからプライベートジェットで日本にやって来ることなんて、なんちゅうことないでしょうね。

グランドセイコー SLGH005 雫石の高級時計工房で作られています(同社ホームページから)

■ 愛すべき大谷翔平
 日本がWBCで優勝した後、マイアミのローンデポ・パークで大谷翔平がインタビューを受けました。このインタビューの内容には米国内でも称賛の嵐でしたが、韓国では違う意味で話題となったようです。インタビュアーが「日本の野球がこれでますます注目されるでしょう」と述べた後、大谷翔平に意見を求めると「日本だけじゃなくて、韓国もそうですし、台湾も中国も。またその他の国ももっともっと野球を大好きになってもらえるように。その一歩として優勝できたことが良かったなと思いますし。そうなってくれることを願っています」と答えたのです。優勝した国の選手が、1次ラウンドで敗退した他のアジアの国々を勇気づけるようなエールを送るなんて・・・韓国メディアで大谷翔平は「ゴッドタニ(God+tani:神タニ)」、「キングタニ(King tani)」、「お坊っちゃん」などと呼ばれているそうです。GodとKingは文字通り「頂上にいる」という意味ですが、お坊ちゃんというのは「育ちが良く皆に愛される存在」というイメージだそうです。日本のスーパースターとして韓国でも名前がよく知られているイチローの場合は成績、そして選手としては文句のつけようがない「レジェンド」ですが、大谷とは違い「孤高の求道者」、カリスマ性が強く「近寄りがたい存在」というイメージが韓国では強いそうです。確かにWBC終了後イチローが「日本が優勝できたのはダルビッシュのお蔭だ」と讃えたのに対し、ダルビッシュが「イチローさんに褒められるなんて有り得ないことなので光栄です」と喜んだのをみても、イチローはそれだけの存在なのです。一方で、ダルビッシュがWBCに参戦する決意を固めたのは大谷翔平からの誘いがあったからだそうです。日本が優勝するためにはこのレジェンドが必要だと考えた大谷翔平のプランがあったのでしょう。大谷翔平には常にプランが有り、それを実現するために自分を律しながら周りの人間を惹きつけて行く力を持っています。子どもたちからも、年上の人たちからも愛される存在であるのは、その人柄や、出る言葉のお茶目でありながら思わずニヤッとしてしまうところ、ユーモアとも違う、お世辞とも違いますが、思わずこのヒト好きになってしまいそう、というところです。それは子どもの頃から醸成してきたもので、ただ野球をやっていただけではないということです。グラウンドやダッグアウトに落ちたゴミを拾う姿や、プロ選手らしからぬ質素で素朴な生活を送り、謙虚で周りの人への配慮を欠かさず、いつも笑顔で選手とファンに接する姿・・・あっ、これで気付かされました。花巻育ちの宮澤賢治そっくりですね。大谷翔平のこうしたエピソードが韓国では伝えられて、好感を持たれていて、このようなスタイルのプロ野球選手は韓国には居ないので、韓国の野球ファンは大谷翔平をスーパースターながら愛すべき存在ととらえているそうです。もっともこうした評価は米国ですでに確立しているので、このWBCで改めて見た大谷翔平は、韓国の野球ファンにとって一段と愛すべき存在になったようです。

■ 憧れの大谷翔平
 大谷翔平に関してはいろいろな報道がありましたが、米国の記者が東京ドームでのプールBの試合を取材するために日本に来て驚いたのは、町中いたるところに大谷翔平の写真が見られ、TV画面やネット画像もオオタニだらけで、日本における大谷人気は全盛期の米国におけるマイケル・ジョーダンを越えていると感じたそうです。大谷翔平はオフに日本に来て、ほぼ都内のマンションでお母さんと一緒に暮らしながら、筋トレしているのですがメディアへはほとんど登場しません。膨大なスポンサー契約があるので、この時間でこなしているのです。メジャーのシーズン中は過酷なスケジュール、ましてや二刀流ですから、野球に集中しています。日本に居ながら自分を律し、チャラチャラすることなく筋トレしているというのはスゴイことです。あの筋肉隆々の上半身、胸板の厚さ、腕の太さ、足の長さ、それで小顔、いったい何頭身?格好良さで他の大柄なメジャー選手に勝っています。大柄なのに足も速く、投げて打って走る、「君はどこの惑星から来たの?」と問われて「ニッポンの片田舎です」と答えたそうですよ。ニッポンの片田舎じゃないとこういう人間は出来上がらないのでしょうか。マイアミのローンデポ・パークでの試合前のバッティング練習では、大谷翔平の番が来ると球場中の目がバッティングケージに注がれ、記者や解説で来ている過去の大物メジャーリーガーたちも皆集まってきて眺めるのですが、打球が右翼席上段にポンポン打ち込まれると、皆唖然として見送って「スゴイ!」と言ったそうです。米国の野球少年にとってもオオタニは憧れの存在だそうです。

(読売新聞Online)

■ PDCAを回す大谷翔平
 大谷翔平は高校を卒業したら大リーグに行く、と言っていました。それを翻意させて日本ハム入りさせたスカウトは、日本ハムファイターズの大渕隆スカウト部長とのこと。大渕さんが作った30ページに及ぶ資料「夢への道しるべ〜日本スポーツにおける若年期海外進出の考察〜」を読んだからだと言われます。大渕さん曰く「翻意というより、大谷選手が我々から新たな情報を入手し、彼自身の意思が明確になっただけです、交渉の潮目が変わったのは『投手も打者も両方やっていいよ』と伝えたときです」と言います。「大谷選手は高校時代、監督の指導ですでに自分を成長させる手法を会得していました。本を読むとか、短・中・長期で目標を立てるとか。こうした、その後にずっと生きてくる『自ら考える力』を選手が持っているかどうかをスカウトする上で重視しています」とのこと。「ファイターズ入りが決まった10年前、当時の栗山英樹監督や花巻東高校の佐々木洋監督は『世界一の選手になる』と口にしていましたが、私はここまでになるとは思っていませんでした。想像力が追いつかない選手です。在籍した5年間、様々なことを試す中で現在の基礎を固めたのだと思います。1年目のオフには、フォームなどの動作解析をしてもらおうと自ら筑波大学に行っていました。2年目のオフには、パッと見て分かるほど筋量が増えていました。栗山監督を含め、球団の関係者が『筋肉のつけすぎでは』と心配しても、大谷選手にとっては笑いごと。自身で決めたテーマに沿って、PDCA(計画→実行→評価→改善)を回していただけなのでしょう。結果、4、5年目くらいから、フリー打撃でとんでもない打球を放っていた。パワーだけではなく、ボールをバットに乗せる技術がかけあわさっていました」とのことでした。
 大谷翔平の愛読書は「論語と算盤」です。日本ハム時代の栗山英樹監督は、試合の指揮やチームを運営する際の自らの指南書として、新人選手に一冊ずつ手渡していました。「論語と算盤」をテーマに選手に講義もしました。セ・リーグでは、中日の根尾昂選手が高校時代から愛読書にしているそうです。医師の父から毎月、本が大阪桐蔭高校の寮に送られ、その中で気に入った一冊が「論語と算盤」でした。栗山監督は「野球は論語と算盤の意識を持ってやることが重要だ」と言います。野球では走者を進塁させる送りバントや、大差がついた試合での敗戦処理の登板など、自らを犠牲にするプレーが求められます。私心を捨てて人のために尽くすという論語の精神は、まさにピッタリなのです。「論語と算盤」は渋沢栄一の講演をまとめた本です。「士魂商才」と「至誠」という、道義に則った商売の必要性を説いた経営哲学論です。道徳を説く論語と、もうけを意味する算盤は相矛盾した関係と見られがちですが、「異質な二つを両立させ、新しい価値を生む」ことが渋沢栄一の考えでした。
 大谷翔平は2013年に日本ハムに入団後、目標をつづるシートに「メジャーに行く」「160キロを投げる」とともに、「論語と算盤を読む」と書きました。投手と打者の二刀流を日本でも米国でも実現した大谷選手は、野球界での「論語と算盤」の体現者なのです。しかも花巻東高時代に作った人生目標シートでは、27歳の欄に「WBC日本代表MVP」とはっきり記しています。しかし、新型コロナウイルスの影響で開催が延期になりました。侍ジャパンの栗山英樹監督について、大会前には「お世話になった監督なので、こういう舞台でできるというのは、特別な思いですし、一緒に優勝できれば、これ以上ないかなと思います」と語り、自らのプランを28歳で迎えたWBC初出場で実現しました。全7試合で安打を記録、打率.435、1本塁打、8打点をマーク、投手では1次ラウンド最初の中国戦、準々決勝・イタリア戦と2勝、決勝戦では1点差の9回から救援して同僚トラウトを空振り三振、セーブを挙げてMVPになりました。

■ 「AT1債」の紙切れ化、中小銀行からの預金引き出し殺到
 米国のシリコンバレーバンク(SVB)の破綻に始まり、経営危機に陥ったスイスの大手クレディスイスを救済するスイスの金融当局が発表した内容に世界の金融関係者が衝撃を受けています。それは、「AT1債」と呼ばれる金融機関が発行する特殊な社債、実に160億スイスフラン(日本円で2兆2000億円)が一瞬にして無価値になるという異例の対応でした。通常の社債や劣後債と比べて金利が高い一方で、自己資本が減少した際には、元本が削減されたり、強制的に株式に転換されたりするリスクがあります。つまり、預金者に影響が出ないようこの社債を買った投資家が損失を吸収する形です。「普通株式を持つ投資家より先に債券保有者だけが損失を被るのはおかしい」との声が出ています。投資家の間で「AT1債」を手放す動きが出るなど動揺が広がっています。またアメリカでは、中小銀行からの預金引き出しが殺到し、大手銀行へ預け替える動きも顕著です。
(2023年3月26日)


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