451 怪物
東北では紅葉が一気に進んで来ました。北海道や北東北の紅葉は、色鮮やかで目を瞠ります。よく紅葉の名所として採り上げられる京都は、作られた紅葉です。モミジは全国どこでも紅いし、銀杏は全国どこでも黄色いのです。それ以外の、自然に生えた樹木の紅葉が美しいのが自然美ですね。本来なら10月下旬に北東北紅葉巡り、温泉巡りしたかったのですが、コロナ禍で心がなまってしまいました。気力が萎んだという表現が適切でしょうか。
■ 力が抜けた同級生の逝去
高校の同級生の訃報がもたらされ、ヘナヘナと力が抜けてしまいました。東大へ進み、農水省の官僚となり、要職を歴任されました。植物防疫の責任者として活躍されました。常に物静かで、決して声を荒げたり、怒ったりしない人でした。意見を求められたら、熟慮して答えを絞り出すという感じで、話題の核心から逸れることなくしっかりと考えを述べられました。日本を動かす官僚はかくあるべしという感じで、実に信頼できる人でした。筆者と共に在京の同窓会幹事を務めておられました。昨年6月に体調が悪いので近所の医者に行ったら癌の可能性があると言われ、それならば最高の医療機関ということで癌研有明病院で7月に手術、その後リンパへの転移が確認され、化学療法を開始しました。この場合白血球減少などの副作用が予想され、治療は半年以上かかるとのこと、人混みを避けるよう指導されたそうです。その後回復して良かったと思っていたら、今年9月に黄疸症状が出て検査したところ、肺に転移してステージ4で余命2ヶ月との宣告を受けたそうです。そこで、友人知人にお別れの葉書を出し、奥様には死後の始末をきちんとお願いされて、緩和ケア病棟で穏やかに過ごしておられましたが、コロナ禍で家族以外の人は面会かなわず、ガラス越しに電話するしかない状況でした。ついに先日、薬石効無く永眠されました。なんと見事な引き際か、と感嘆するのは簡単ですが(シャレではありません)、自分が同じ局面に立たされたら、果たしてこのような始末はできるだろうか?と考え込んでしまいました。彼らしい、律儀さ、沈着冷静さとしか言えません。さはさりながら、日本で一番という病院で、どうして転移にもっと早く気付かなかったのか、残念でたまりません。早期発見〜手術〜定期検査というステップは踏んでおられたのでしょうが、どうして?なぜ?口惜しいです。今の医療レベルではまだここまでだったのかもしれません。頭が良いだけでなく運動能力も高い人だったので、ガン細胞がたちまち侵食したのかもしれません。まだまだ日本のために多くの功績を残してくれるはずだった人です。残念です。
■ 衆議院議員選挙の結果
10月31日(日)衆議院議員選挙の結果は当初メディアが予想していたものと違いました。自民党は改選前から15議席減らしたものの、追加公認2議席加えて261議席と単独で過半数を大きく上回り「絶対安定多数」を確保しました。公明党は3議席増やして32議席となって、自公の与党体制は安泰です。野党共闘で選挙に臨んだ立憲民主党は議席を結構増やすとの予想が外れ、14議席減の96議席に落ち込み、共産党も2議席減の10議席だったのに対し、日本維新の会は30議席増の41議席となって事前予想を越える伸びでした。
参議院静岡補選で自民党が敗れたのが逆に幸いして、自公に危機感が出て最終盤の引き締めにつながったのでしょう。最終盤の選挙情勢展望で朝日新聞と毎日新聞は与党リードで波乱は起きないと書いたのに対し、読売新聞と産経新聞は「自民党ピンチ、過半数ラインも危うし」と伝え、日経新聞も同調してその温度差は顕著でした。これを見て、自民党は結構行けるのでは?と思いました。
日本維新の会は大躍進のように見えますが、松井代表は冷静でした。過去の選挙結果を振り返ればその理由が分かります。2012年→2014年→2017年→そして今回の2021年と議席数の変遷は、54→41→11→41です。すなわち前回が大不振で、まだ2012年には戻っていないからです。報道というのは一部を切り取って見がちですが、データというのはいろいろな角度から見ないと真の姿が見えません。自民党は294→291→284→261です。公明党は31→35→29→32です。共産党は8→21→12→10でした。立憲民主党と国民民主党は、民主党が前回立憲民主党と希望の党に分裂し、希望の党が解党して今回は立憲と国民に分かれたので、民主党系で辿れば66→75→105→107です。解散前と比べて勝った、負けたと言って、自民党は幹事長が変わり、立憲民主党は幹部が総入れ替えみたいな話で責任論になっています。決して責任を取らなかった過去の政権がありましたが、今回はそれに比べれば潔いと言えます。ただ4回の衆院選挙を辿ったらどの政党が勝ってどこが負けたのでしょう?
我が家の庭の菊が咲きました
■ 大物議員落選の選挙
今回は与野党伯仲して僅差で勝敗が分かれた選挙区が多かったので、緊迫感が漂いました。立憲民主党の枝野代表ですら接戦を制する状況で、安住国対委員長も森下千里とかいうどこかで聞いたことのあるような名前の人と戦い、結果は貫禄の勝利でしたが、だいぶマスコミを賑わせました。各党の大物議員の選挙区での落選が目立ちました。自民党は甘利明幹事長が神奈川13区で敗北、比例復活は果たしたものの、現役の自民党幹事長として初めて選挙区で落選となり、幹事長を辞任しました。また、元幹事長で国土交通相や経済再生相を歴任して石原派を率いる石原伸晃氏も東京8区で落選し、比例復活もなりませんでした。立憲民主党では、副代表を務める辻元清美氏が大阪10区で落選、平野博文選対委員長も落選、比例復活も果たせず、議席を失いました。東京、神奈川、大阪のような大都市では無党派層が投票所に向かうと、大物でも風に吹かれるとヤバイという典型です。安倍晋三氏、麻生太郎氏、岸田文雄氏、二階俊博氏、石破茂氏のような地方を地盤とする人は安泰ですが、岩手3区では17回連続で当選してきた小沢一郎氏がまさかの落選、比例で復活当選したものの、小沢王国≠ェ崩壊しました。そもそも岩手は1区が立憲民主党の階猛氏、2区が財務大臣の自民党鈴木俊一氏で、それぞれ連続当選を果たしています。3区の小沢氏はほぼ初めてと言って良いほど終盤選挙区に張り付いたのは「ヤバイ」と思ったからでしょう。そもそも立憲民主党岩手県連が階猛氏を公認せず別の候補を立てようとして、立憲民主党本部がこれを認めず、人気のある階猛氏を公認した経緯がありました。階猛氏は小沢氏に反旗を翻した人ですから、このドタバタ劇を見て、岩手3区の選挙民の心も小沢氏から離れたのでしょうか。岩手・雫石町出身の階猛氏は、筆者の高校後輩でもありますが、小沢氏は東京生まれ東京育ちの典型的世襲議員です。時代が変わりましたね。
庭の蜜柑が色づきました 紅いのはアブチロン・チロリアンランプ
■ 岩手の新怪物・佐々木麟太郎
菊池雄星、大谷翔平、そして佐々木朗希と立て続けに“超”のつく大物選手を輩出してきた岩手県。そんな彼らに続く存在となり得る逸材登場です。花巻東高校の1年生スラッガー、佐々木麟太郎です。チームの指揮を執る佐々木洋監督の長男で、勝海舟の幼名を由来に名付けたそうです。入学直後からファーストの定位置をつかみました。183cm、117kg、背負う背番号は菊池雄星と大谷翔平が1年夏につけていた「17番」というのも何かしら意味深ですね。
2015年に「スーパー1年生」として規格外の打棒を振るい、早稲田実時代に高校記録の通算111本を残した清宮幸太郎(日本ハム)でさえ、1年秋の時点では22本でした。打席に立つ姿はその清宮幸太郎や、今夏甲子園で活躍した智弁学園の前川右京をほうふつとさせます。佐々木麟太郎は東北大会までで既に47本、清宮幸太郎の倍以上のホームランを打っているのです。まさしく「怪物」の名がふさわしいですね。その佐々木麟太郎は「夏の悔しさ」を胸に秋の大会に臨みました。今年の夏、優勝候補の筆頭とされながら、花巻東は岩手大会決勝でライバルの盛岡大付に敗れました。その「モリフ」が甲子園で大活躍したのは記憶に新しいところです。
朝鮮カボチャもこれがラストかな? 煮物でも味噌汁でも美味しい瓜です
■ 申告敬遠させる打棒
実は秋の県大会決勝前の練習で右手薬指を骨折したそうです。爪もはがれてしまうような怪我でしたが、テーピングしてバットは振れる、むしろ、スイング時に余計な力が入らないから好都合だと佐々木監督は考えたそうです。バットを力いっぱい握らずに振ることで、県大会が終わってから逆にホームランの数がどんどん増えたそうです。秋の県大会まで本塁打は30本を超えていましたが、そこからわずか1ヶ月で10本以上も上積みするとは本当にスゴイ。ホームランバッターは、たとえ豪快な一発が出なくとも、相手ピッチャーの脅威となります。極言すれば、バットを振らなくてもピッチャーにダメージを与えられるわけで、この打者にはそんなスケール感があります。
秋の東北大会では佐々木麟太郎の名前が轟いていて、各チームとも対策を考えていました。唯一無安打に終わったのは八戸工大一(青森第二)戦でした。長谷川菊雄監督は言います・・・「非常に素晴らしいバッターです。練習試合をさせてもらいましたけど、とてもじゃないが全打席抑えられるわけがない」・・・最も有効な対策はピンチで迎えたら打たせないこと、すなわち申告敬遠でした。
背番号17佐々木麟太郎の打撃フォーム 埼玉西武ライオンズの森 友哉みたいですね
■ 第74回秋季東北地区高校野球大会
花巻東は秋の岩手県大会では失点が多過ぎました。まだまだ粗削りなチームです。しかし第74回秋季東北地区高校野球大会では、岩手県第一代表として6年連続21度目の出場でした。10月22日の1回戦で東日本国際大昌平(福島第二)に6回コールド11−1で大勝、10月23日の準々決勝は昨秋覇者の仙台育英(宮城第一)に8−2で快勝、10月24日の準決勝では八戸工大一(青森第二)に延長10回4−3でサヨナラ勝ち、10月26日、宮城県の石巻市民球場での決勝では、聖光学院(福島第一)を4−1で下して初優勝しました。来春のセンバツ出場はこれで確定です。驚いたのは秋季東北大会での岩手県勢の優勝は1983年の第36回大会を制した大船渡以来38年ぶりとのことです。11月20日に開幕する、各地区の覇者が集う明治神宮大会で佐々木麟太郎は一番の注目選手になるでしょう。
■ 清宮幸太郎の不振
佐々木麟太郎は打者としては魅力的です。ただしあの清宮幸太郎でさえ、いま日本ハムで苦しんでいます。同期の村上宗隆(ヤクルト)や安田尚憲(ロッテ)の活躍と比べて何が違うのでしょう。大谷翔平(エンゼルス)や柳田悠岐(ソフトバンク)のように、日米を代表する左の強打者は左中間に強い打球を飛ばすことができます。村上や安田にも共通する点です。清宮は引っ張り過ぎです。筋量を増やして体幹を鍛え、軸がしっかりして崩れない姿勢を作れれば、しっかり体の回転を使って腕が振れて、スウィングスピードが上がるはずです。清宮はリストが強くて手首の使い方が上手なので打球を飛ばすことはできますが、足の力と腰の回転の速さが課題です。何か迷いがあって、打撃フォームを変えたりしているみたいですが、不振の根本原因はスウィングスピードが鈍いことです。そもそも「不振」という言葉がまさにこれを言い当ててますね。もっと腕を振れれば、スウィングスピードも出てくるはずです。結局課題は筋力ですね。野球以前に身体作りからやり直して欲しいと思います。
■ 佐々木麟太郎の課題
この清宮幸太郎の課題を佐々木麟太郎は今のうちから肝に銘じておくべきですね。まあ、まだ高校1年生ですから、身体作りを考えても、今のうちからプロ選手に求めるようなことを言うべきではありませんが、野球の基本は少年野球でもプロ野球でも変わりません。清宮幸太郎の課題のもう一つは守備です。ファーストとしてもイマイチです。王貞治さんは高校時代ピッチャーで、プロではファースト一本でしたが、守備は上手かった・・・だから打者としても一流になれたのです。佐々木麟太郎は、サードを守らせてここでも一流だったらなお良いと思います。筒香みたいな選手になって欲しいですね。筒香はメジャーのピッチャーの揺れる球に苦しみましたが、2年目を終えようとする頃に開眼しました。苦しんでも、勉強熱心で努力を惜しまないからこそ、できたことです。佐々木麟太郎はスラッガーとしての体型は十分で、左打ちもできるしなやかさも備えていますから、後は清宮幸太郎の課題と同じ、筋量アップですね。これに俊敏性が加わればスゴイ選手になるでしょう。そのためにもサード守備練習をガンガンやれば、筋肉が着いて締まった身体になるのでは?と勝手に想像します。大谷翔平が筋力トレーニングで、あの鞭のようにしなる身体を作ったのを見ても、筋肉の締まった体型になればスゴイ選手になるでしょう。今でも90km/hのスローカーブに泳がずにホームランできる力は持っていますが、打つだけでなく守りでも魅せる打者になって欲しいと思います。王貞治さんは何がスゴイかというと、打撃も守備も、そして人間性も素晴らしかったからです。イチローさんや大谷翔平がメジャーで他の選手からもファンからも讃えられているのは、打撃、守備、走塁、そして人間性も素晴らしいからです。大谷翔平はこれに投球が加わっていますから特別です。大谷翔平は無理としても、また新たな岩手発のスター、楽しみですね。
背番号17大谷翔平の打撃スウィング どうですかこの体幹 スケールが違いますね
(2021年11月2日)
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