446  教育と貧困

 驚いたことに、我が家のスオウが咲き出しました。このスオウは世田谷の増田家から頂いたものです。この時期に咲いたことはありません。スオウのピンクの花は、本来4月に咲くものです。それも、まだ葉が出る前に花が咲いて、その後に葉が出てくるのです。それがどうしたわけか、大きな葉っぱの陰で枝にポツポツ、あちらでもこちらでも咲き出したのです。しかも枝の先端が黄色っぽく見えます。2階の窓から覗いてみたら、どうやら若葉が出てきたみたいです。


咲き出したスオウのピンクの花

 そういえば先般「ふじみ野こどもエコクラブの畑で、本来5月〜7月に咲く春の花『スイカズラ』の花が咲いた」ことを紹介しましたが、その時に「恐らく一旦涼しくなってからまた暑くなったので『春が来た』スイッチが入ったのでは?」と書きました。植物生理では、花咲きスイッチは日照時間や気温によるものなのです。明らかに、天候不順の影響ですね。


ふじみ野こどもエコクラブの畑に咲いた「スイカズラ」の花、今はもう咲いていません

■ サンマ漁
 これまた天候不順の影響か?今年はサンマが豊漁だというニュースがひところ飛び交いました。海水温が高いとサンマが日本近海に下ってこないので、近年はずっと不漁です。サンマ豊漁のニュースをよく見ると、「昨年に比べて」でした。去年は記録的不漁でしたから、昨年と比べるのではなく平年と比べればやはり不漁なのです。対してカツオは豊漁なので、スーパーの鮮魚売り場などカツオがズラリと並んでますね。

過去は秋分の日と言えば三陸大船渡東京タワーサンマ祭りでした

■ 野菜が高い
 これまた天候不順の影響で野菜が高いですね。レタスやキュウリの値段は例年のほぼ倍です。八百屋さんの店頭価格を見たら長野県産レタスが435円、福島県産キュウリは1本95円、ネギが特売で1本128円ですよ。ホウレンソウ、キャベツ、ダイコン、ナスも高騰しています。価格が安定しているのはモヤシやトマト、コマツナ、キノコなどです。施設栽培しているので天候不順の影響を受けにくいのです。北海道が主産地のタマネギ、ニンジン、ジャガイモというシチューやカレーに欠かせない野菜も今年は高い!八百屋さんの店主は「スーパーは仕入れ元との契約なのか、それほど高くない。こういう時に個人経営の八百屋はかなわない」とため息をつきます。茨城県や福島県産のトマト、ナスがお盆以降の曇天で収穫が減り、長野県産のハクサイとレタスは9月上旬のひょう被害を受けて出荷が落ち込んだそうです。
 この時期になるとやたらに目に付くのが「岩手県産」という表示、有難いことに例年ならひときわ高価な「岩手県産」が今年は高くなく見えます。高価な理由は甘くて美味しいためですが、今年は周りが高いので目立たないのです。前回岩手県岩手郡岩手町特産キャベツ「いわて春みどり」を紹介しましたが、先日は岩手県産ピーマンを買いました。ピーマンはナス科トウガラシ属ですが、辛く無いので英語ではgreen pepperやsweet pepper、あるいは鈴の形なのでbell pepperと呼ばれたりします。いわゆるパプリカの仲間ですね。日本ではパプリカと言えば赤や黄色のイメージがありますが、トウガラシも含めて皆仲間です。ピーマンという呼び名はフランス語やスペイン語、ポルトガル語が起源みたいです。

■ 日本では新型コロナウイルス感染者急減
 新型コロナウイルス感染者数が急減している理由について、人流が減っていないのに何故?と言われますが、尾身先生は複合的な要因だと言っています。人流が減っていないというのは昼間の人出で、仕事しなければ生きていけないからには仕方ないことです。しかし感染対策することに注意しているから、というのは間違いありません。夜の人流は減っています。繁華街の夜は寂しいですよ。デパ地下などでのクラスターが報道されて、換気が少ない密閉空間を避ける人が増えたこともあるでしょう。大きいのは天候不順の影響です。雨や曇天続きで、真夏に冷房ガンガンという期間が短かく、窓を開けて換気できたことが大きかったはずです。以前書きましたが、ある企業の本社ビル空調リニューアルで「ビル空調では湿度管理と換気が重要、全熱交換器と併用してフレッシュエアを常に送り込むと共に、湿度が60%以下にならないようなコントロールが必要だ」と提案したら、誰もが日本一と認める某研究所の所長を歴任した経営顧問の方が、「それは省エネに反し、機器の初期コストも運用コストもかかり過ぎる」と主張して、経営者が板挟みになって困ったものの、我々業者の提案を採用してくれたことを紹介しました。今回のCOVID-19パンデミックを経験して、改めて我々の主張の正しかったことを認識してくれたはずです。コストよりも従業員の健康が第一だとした経営者の眼に曇りが無かったということです。

■ 韓国では新型コロナウイルス感染者急増
 日本での新型コロナウイルス感染者数急減のもう一つの理由はワクチン投与の進展でしょう。これによってウイルスも「チョット待てよ」と考え込んでいるのではないでしょうか。もちろんウイルスに考える能力が有るとは言いませんが、変異を繰り返して何とか生き残ろうとするはずですから、ワクチンによる抗体をすり抜ける手を打つ間、チョット大人しくなっただけだとも考えられます。必ず次の流行が来ると考えておかなければなりません。
 その証拠に韓国では新規感染者数が3千人を超え、過去最多となっています。秋夕(チュソク、中秋)連休明けに新型コロナ感染者数が急激に増えているのです。この連休で大都市から地方に多くの人が移動したようですから、これから全国的に感染拡大するのではないかと考えられます。人から人へ移るウイルスですから、密集することが感染の要素なのです。マスク、手洗い、換気、密集を避ける、こうしたことを励行することが肝腎なのです。

■ マスクやワクチンに異論の市議
 先般テレビを見ていたら、マスクやワクチンを巡るある議員の振る舞いが物議をかもしていると紹介していました。大分県臼杵市議会の委員会で委員長が「本委員会でも適切なマスクの着用のルールの順守をお願いします。若林委員、正しくマスクを着用してから発言して下さい」と言っています。ところが発言を求めた当の市議は、マスクから鼻が出てしまっています。若林純一市議:「あの、このままでの発言を許可して頂きたいと思います」、委員長と押し問答が続きます。たびたび注意されても「このままでの発言をお許し下さい」と繰り返します。結局発言が許されないため、若林市議は自ら退席し、「この進め方はやはり議会としてまずいと思います。最終日の本会議において、同じ対応をして同じことになるのであれば、法的手段を検討します」と言います。なぜ、そんなにも正しい着用を拒むのでしょうか。番組が問い質すと「要するに新鮮な空気が吸えないことは、要するに思考回路が働かない、100%。ですから私は強制、強要はされたくない。ただ最大限受忍の限度なりエチケットの範囲内であればします」・・・その結果が鼻出しマスクなのだそうです。「マスクが健康な人に強要されるべきではない。そんなローカルルールには従わない」という若林市議は、8月に市内の中学校周辺などでマスクを着けずに新型コロナワクチンの接種停止を求めるチラシを配布し、市には、子どもからチラシを受け取った保護者などから苦情や抗議の電話が殺到したそうです。これを受けて市議会は、市民に不安を与える行動だとして若林市議を「厳重注意」としました。番組が臼杵市の市民がどのように受け止めているかインタビューしたら、総じてノー、60代女性は「市民の恥だ」とまで言っていました。これに対し若林市議「私としては間違った情報を出しているつもりはありませんので、苦情を言われる方は自分の考えと違うということもあろうかと思いますけれども、私は恣意的に何かを曲げたりとかじゃなくて、今の現状をきちんとお伝えしたいということだけをやってきたつもりです」・・・ダメダコリャ

■ 子どもの貧困
 最近ネット上で、NPO法人「Learning for All 」が運営する無料で通える『居場所拠点』の案内(→https://learningforall.or.jp/support/)を見かけます。その冒頭のメッセージは・・・“貧困”は海外だけの問題ではありません… よくユニセフのテレビCMでアフリカのやせ細った子が出て来て、この子どもたちのために寄付を募り、つなぐよこに…0120-279452にお電話ください、というのがありますが、それを意識したメッセージなのだと思います。皆様の浄財を、貧しい子どもたちのためにという運動は、もはや足元に目を向けて下さいというレベルになっているのです。日本はアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の経済大国なのに、厚生労働省の2015年国民生活基礎調査によれば、7人に1人の子どもが貧困状態にあり、ひとり親世帯(そのほとんどが母子世帯)では半数以上が貧困にあえいでいる、これは先進国の中で最悪の数字です。実際、回りを見ると「こども食堂」などの活動を見かけます。貧困が子どもへ及ぼす影響は、皆さんおおよそ想像できるのではないでしょうか。学費の支払いが困難なために高校や大学への進学を諦める子どもたち、筆者の子ども時代はそれが当たり前でした。しかし我が親は必死に働いて大学まで行かせてくれました。そのために立派な企業に就職出来て、豊かな暮らしが出来ました。子どもたちも大学へ行かせられました。親の務めは、子どもに教育を受けさせて、その未来をサポートすることです。しかしやりたくてもそれが出来ない親が居る、どうしてこんなニッポンになってしまったのでしょうか。

ひとり親世帯の子どもの貧困率(Learning for Allのホームページより)

■ 自民党総裁選は「格差是正」がテーマ
 自民党総裁選挙に立候補した4人が、異口同音に「格差の是正」を主張しています。アベノミクスの恩恵を受けた層と受けられなかった層が鮮明になり、格差が拡大したというのです。すなわち、「格差是正」を掲げなければ、次の選挙には勝てないと思っている自民党国会議員が多いようなのです。本来なら野党が言うようなことを自民党議員が言う、それは政治家だけに、国民の実態をよく見て把握しているからに他なりません。確かに「令和版所得倍増」とか、「サナエノミクス」なんて言っていますが、日本がOECD諸国の中で、獅子の谷落としみたいに転げ落ち、どんどん国民が貧しくなっている現状を見たら、まずは「アベノミクスとは何だったのか」を検証しなければなりません。本当にデフレは克服できたのか?

■ 立憲民主党の報告書…「アベノミクスは失敗だった」
 立憲民主党の「アベノミクス検証委員会」は9月21日報告書を発表しました・・・3本の矢の1つ目とされる「異次元金融緩和」については、「大胆な金融緩和…円安誘導やゼロ金利あるいはマイナス金利…によって、確かに輸出産業を中心に収益増となり、株価は上昇した。しかしインフレ期待に働きかけての消費増には全くつながらず、物価安定の目標の2%も達成できていない、さらに大きな問題点として、こうした政策をいつまで続けるのかの出口戦略が全くなく、その見通しも立っていない」としました。麻薬なんですね。
 2つ目の矢である「積極的な財政政策」については、「消費を喚起させなければならないにも関わらず、2度にわたる消費増税でGDPの半分以上を占める消費を腰折れさせた。必要な投資、税制改革が進まない一方で、インフラ投資も従来型のものが中心で、経済的な波及効果はあまり得られなかった。いずれにしろ消化不良で使い残しも目立っている」と、2本目の矢の空回りぶりを指摘しました。
 3本目の最後の矢である「成長戦略」については、「金融緩和の『カンフル剤が効いている間に進めるべき体質改善』が『成長戦略』であるにもかかわらず、製造業の労働生産性はOECD37ヶ国中16位まで落ちて、潜在成長率はゼロパーセントまで低下している」としました。
 枝野代表はこれを受けて「アベノミクスは失敗だった」と総括しました。「『お金持ち』をさらに大金持ちに、『強い者』をさらに強くしただけに終わった。安倍前総理が唱えた『トリクルダウン』(普通の暮らしをしてる人、厳しい生活をしている人たちの所に滴り落ちる)は起きず、格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった」と述べました。「実態としての格差の広がりは否定できない。適正な分配と安心を高めることこそが、何よりの経済対策だ」としています。枝野代表にしてはずいぶん抑えた表現ですね。従来なら「格差が拡大し貧困層が増えたのはあなたたちの責任だ!」ぐらいの強い表現を採ったはずです。やはり総選挙を控えて、「何でも反対」とか「口汚く面罵する」野党というイメージを持たれないように抑えたのでしょう。記者会見で、正社員・非正規の雇用者数や報酬が増えたことについてはどう考えるか?と問われたのに対しては、「トータルとして、しっかりと労働力、人に投資してこなかった。そのことで消費を冷え込ませている。 実際には労働分配率が大きく下がっていて、家計消費も下がっている。この客観的事実は、否定できない」と反論しました。

■ 安倍政権で日本経済はどうなったか
 物価を上げようと必死に努力したアベノミクス・・・しかし結果は上図の通り世帯消費が減って行きました。実感はありますか?おそらく「その通りだ」と言う人と、「いや、そんなことはない」という人に分かれるでしょう。本来のアベノミクスの狙いは、物価を上げれば賃金も上がる、景気が盛り上がってトリクルダウンで庶民も潤う・・・はずでした。そのためには物価以上に賃金が上がらないといけません。高齢化の進展で、社会保障費の増大は避けられませんから、賃金が上がっても手取りが減ったら生活を切り詰めなければなりません。上図はそれをハッキリとデータで表しています。第二次安倍政権の間に物価が7.2%上がって世帯消費が9.3%下がった・・・その意味するものは・・・国民全般で見れば生活が苦しくなって消費を切り詰めた...ということです。「いや、そんなことはない」という人は、株式投資などで恩恵を被っている、もしくは事業所得ないし給与所得で厚遇を受けた人のはずです。これが「格差拡大」となって、貧困層の割合を増やしてしまったのです。
 データは口ほどにモノを言うと言われますが、このグラフを見れば立憲民主党の言う通りです。すると「令和版所得倍増」が現実的なら是非やって欲しいですが、「サナエノミクス」なんて言っていたら日本はもっと埋没するんだということになります。自民党総裁選挙は、自由民主党員の間で行われる選挙です。イヤな言い方ですが、勝ち組が多いはずですから、「いや、そんなことはない」という人が大半なのではないでしょうか。ましてや自民党国会議員のなかでも偉い人たちは、菅総理などを除いて二世、三世の人が多く、地盤、看板、カバンの3バンを継承して、貧困の辛さ、苦しさなど経験したことも無く、地方暮らしの経験も無い東京生まれ東京育ちの方たちですから、庶民の苦しみ、地方の苦しみなんてわかるのでしょうか。

■ GDPに見る日本の衰退
 2002年の日朝首脳会談実現に尽力した元外務審議官の田中均氏が9月22日、自民党総裁選一色の報道に触れて「この10年主要国の中でも日本の衰退は最も激しく、長期自民党政権は有効な手立てを打ってこなかった。GDPは10年前には中国の83%、米国の40%だったのに対し、今では各々32%、23%だ。人口は2百万人以上減少した」と指摘。「勇ましく台湾有事だとか敵地攻撃能力を言う前に国力を上げることが先決ではないか」と指摘しました。「権力集中による3S(説明せず、説得せず、責任取らず)政治を総括することなく、日本が置かれた状況に危機感を語ることもなく、将来の大きなビジョンを議論することもない総裁選って何なのか。コップの中の嵐である、国民はこれで良いのか?」と危機感を述べました。小泉純一郎総理を北朝鮮に伴って、拉致被害者の一部帰国を実現させた人が、現在の実質総理を選ぶ自民党総裁選挙に苦言を呈する...ウーム。
 日本の国内総生産(GDP)は2010年に中国に追い抜かれて以降、米国、中国に次ぐ世界第3位です。GDPは一定期間に国内で生み出された付加価値(中間投入物を除いた生産額)の合計であり、生み出された付加価値は分配されて所得になるので、国の経済規模や国の豊かさを表す指標といえます。
 上グラフのGDPは為替レート(米ドル)で換算されたものです。アレ?2012年からの第二次安倍政権になって伸びが止まったばかりか、落ちて、以降フラットになってるじゃないかと思いませんか?その理由は「異次元金融緩和」によって円安誘導したためです。米ドル換算すれば円が安くなったからそうなるのです。国際比較のためには、国ごとの物価の違いをベースに考えたほうがいいですね。GDPが同じでも、物価の高い国より物価の低い国のほうが、実質的な生産額や所得額は大きいといえるからです。そこで、IMFの同じデータベースを用いて、国ごとの物価の違いを示す購買力平価(PPP)でGDPを換算すると、日本は下グラフのように、2009年にインドに抜かれて以降、中国、米国、インドに次ぐ世界第4位となっています。

■ 一人当たりGDPで見ると...
 2020年になって中国以外カクッと下がっているのはコロナ禍によるものです。米国はどちらも米ドルですから同じですが、それ以外の国は購買力平価換算のほうが滑らかで、いかにも現実に近いことが分かりますね。なんだ、日本はドイツより上じゃないかと思われますか?当然です、人口が違います。そういう意味では国民一人当たりGDPで見たほうが国民の生活実態を正しく反映していると言えます。平均的な豊かさを示す指標としてはGDPを人口で割った「一人当たりGDP」がよく用いられます。IMFの同じデータベースによれば、2020年の日本の一人当たりGDPは、購買力平価換算で世界第30位でした。国家のGDPの順位と大きな差がありますね。一人当たりGDPのランキング第一位はルクセンブルクで11万8千ドル、およそ13百万円です。第二位はシンガポールで9万7千ドル、以下アイルランド9万4千ドル、カタール9万3千ドル、スイス7万2千ドルと続き、国は小さいながら、国民は豊かであることを示しています。米国は七位で6万3千ドル、ドイツは19位で5万4千ドル、フランス26位4万6千ドル、韓国27位4万4千ドル、イギリス28位4万4千ドル、日本は30位4万2千ドル、およそ464万円です。ちなみに中国は77位1万7千ドル、インドは128位6.4千ドルです。日本が経済大国だと言えるのは人口が多いからですが、その人口がドンドン減っていますから、先行きどうかと問われると...

■ 「アベノミクス」によって企業の内部留保が増え続けた
 財務省が公表した2020年度の「法人企業統計調査」によれば、金融・保険を除いた全産業の「利益剰余金」は484兆3648億円と前年同期比2.0%増え、コロナ禍など何するものぞ、9年連続で過去最多を更新しています。内部留保を増やし続けてきた企業経営者の言い分は、主として「危機に備える」ということでしたから、戦後最悪と言われた新型コロナでの経済危機で内部留保を活用しなくて、いつ使うのか?と言えますね。ところが、同じ統計で「人件費」を見ますと、2019年度1.9%減、2020年度4.7%減と大幅に減っています。金額にして、2019年度は6兆3345億円、2020年度は6兆8671億円、2年間で企業は合わせて13兆円余り人件費を減らしていたのです。企業の内部留保が過去最高を更新し始めたのは2012年度から、第2次安倍内閣が発足した時からです。もうお分かりですね。「アベノミクス」によって企業収益が大幅に改善し始めたのは、それが賃金に反映されなかったからです。さらに最も大きかったのが、安倍政権下で実施された法人税率の引き下げです。法人企業統計で、「営業純益」(営業利益−支払利息)に占める「租税公課」の割合を計算すると、2011年度に30.7%だったものが、2017年度には16.6%にまで低下しているのです。筆者が経営者だったころは、収益の三〜四割は税金として納めるものだと思っていました。一方でこの間、消費税は2度にわたって引き上げられました。安倍前首相が言い続けた「経済好循環」、つまり、企業収益の増加が給与の増加に結びつき、それが消費増となって再び企業収益を押し上げるという姿には残念ながらなりませんでした。企業収益は従業員の給与の増加ではなく、内部留保と株主配当に向かい、規制緩和によって非正規労働者が増えて、低賃金層が増加した上に、消費税が上がってデフレが続き、消費が減退した、年金に加入しない若者が増えて税金で補填する、「アベノミクス」はいったい誰に潤いをもたらしたのか?本来これだけGDPが国際比較で比率低下して来ると、もっと円安になるはずです。ところがこの企業内部留保が日本国内ではなく海外への投資の形で積み上がっているために、「有事の円買い」という構図が出来上がって、例えば米国で株価が下がったり、中国で恒大集団が崖っぷちに立たされたりするとドルを売って円を買う、日本円は安全資産とみなされるのです。下図をご覧ください。2012年以降、「アベノミクス」によって日本の大企業の収益はどうなったか?

■ 「アベノミクス」はいったい誰に潤いをもたらしたのか?
 「アベノミクス」はいったい誰に潤いをもたらしたのか?その答えは上図で明らかです。待てよ?中小企業ならいざ知らず大企業の従業員は給料は上がったんじゃないの?と思われますよね。確かに役員や正社員は上がったのです。しかし非正規雇用が増えると、この人たちの給与はなかなか上がりません。最低賃金が上がる分ぐらいしか上がらない、しかも企業業績によってまるで安全弁のように、この人たちの雇用で調整できるのです。「連合」に加入している労働者は労働貴族だなんて、かつて誰が考えたでしょうか。かつての日本企業は第二次産業=製造業が多かったので、収益の多くを設備投資に回して企業は伸びて行きました。2012年以降、「アベノミクス」によって平均従業員給与や設備投資が低迷したのに、経常利益や内部留保、配当金はうなぎ上りですね。つまり、「アベノミクス」が潤いをもたらしたのは株主なのです。しかも東京証券取引所の株式分布状況調査によると、2020年度の日本株の外国人保有比率は30.2%です。日本株を持っている日本人はもちろんですが、海外投資家にせっせと配当する一方で従業員の給与は伸びない、これが実態なのです。
 さらに言えば下図ご覧ください。この20年での平均賃金を米、仏、独、そして韓国と比べたものです。前にも書きましたが、韓国が日本を追い越したと胸を張るのが何故か分かりますよね。このグラフを見れば韓国の労働者は明らかに豊かになっているのです。
 しかし、では何故安倍政権はずっと支持率が高かったのか?ここまでのグラフを見たら、日本国民はどこかで気付いて怒っても良かったのではないかという気がします。年金暮らしの老人はともかく、現役世代や、特に非正規労働者の多い若者たちは何故怒らなかったのか?その背景は様々あるのでしょう。安倍政権の支持率は若者が高く、高齢者になるほど低かったのです。「規制緩和」や雇用確保、財界団体への賃上げ要請、女性活躍、同一労働同一賃金など耳障りの良い言葉を並べ、外交では胸を張って各国の曲者要人たちと堂々と渡り合う、カッコイイと目に映ったはずです。その陰でニッポンの崩落が進んでいることに気付かせなかったのは、マスメディアの責任が大いにあるはずですが、長期政権を築き、東京五輪や大阪万博を招致し、コロナパンデミックが起きるや難病を理由に途中辞任する・・・最後までカッコよく去って行きました。後を引き継いだ菅総理は、積み残し難題を次々に片付けたのです。結局怒らない若者を育てた教育、ここに最大のポイントがあるはずです。

■ 大学の学費の変遷
 今日では、日本の大学進学率は51%に上っており、大学進学は決して贅沢ではありません。しかし、文部科学省の「大学進学率の国際比較」を見ますと、日本の大学進学率はOECD平均の62%より低く、韓国より20%も低いのです。この背景に何があるか、言うまでもなく、行きたくても行けないからなのです。日本では今、大学の定員割れが続出し、私立大学の中には経営困難から閉鎖の危機にあるところが年々増加していて、合併の動きもあります。国立大学も今後同じような事態に直面するかもしれません。少子化が大きな要因に見えますが、実は大学が裕福な家庭の子でなければ行けなくなっているのです。
 筆者が国立大学の学生だった頃、授業料は月千円、年間1万2千円で、幼稚園の月謝よりも安いと言われていました。「ウッソー」と言われるような気がしますが、ホントです。奨学金をもらえばそれで済むような時代でした。その上大学生は社会の宝だというような風潮があって、アルバイトは優遇され、特に親の教育で働き者だったので、学生時代にタンマリ貯金したのです。もちろん寝る間も惜しんで勉学にもいそしんだので、成績には自信がありました。
 授業料が値上げされる話が在学中に持ち上がり、当時は学生運動が盛んだったので反対運動がありましたが、卒業した昭和47年(1972年)、新たに入学する学生から月額3千円に引き上げられました。この値上げ率は国立大学史上最大と思われます。その後昭和51年(1976年)に36,000円が 2.7倍の96,000円に上げられています。初年度納付金(授業料+入学料+その他)を私立大学の平均と比較すると 昭和45年(1970年)で 国立:16,000円に対して私立:229,000円(14.3倍)、昭和60年(1985年)で 国立:372,000円に対して私立:913,000円(2.45倍)、平成元年(1989年)で 国立:525,000円に対して私立:1,035,000円(1.97倍)で、この年に 2倍を切りました。

本来は縦軸を同目盛り(およそ1.4倍)にすれば一目瞭然で差が分かるのですが...

■ 裕福でなければ大学へ行けなくなった日本
 昔はお金がある子は私立大学へ行けても、家が貧しければ国立大学へ行くというので、国立大学は狭き門でしたが、こういう学費なので行けたのです。今は裕福でなければ大学へは行けません。入学金と学費で4年間で5百万円以上必要です。医学部なら国立大学でもグンと跳ね上がります。政府の総支出に占める公財政教育支出の割合(全教育段階)を見ると、日本は9.4%とOECD加盟国中、最低となっています。日本の高等教育費の公的負担のGDP比は2017年にようやくOECD平均に追い着いたのですが、これは2017年度の日本学生支援機構の給付型奨学金の創設のためです。もちろん小学校、中学校は義務教育で、高校も年収がそれほど高くない人は授業料無償化になりますが、大学の費用に対して国が支援するお金が少ないので、こうした結果になっているのです。ちなみに、フランスなどは国公立であれば大学まで無料です。日本では国立大学を法人化して、「自分で稼げ」という形にしました。企業と連携して、共同研究のような形でお金を頂く、必然的に営業マンみたいな先生がもてはやされます。

■ 教育が隠れた貧困を引き起こす
 日本は教育費の家計負担率が高いことで知られ、それが「隠れた貧困」を引き起こしているのです。高い学費が理由となって、世帯年収600万円の「ふつう」の生活を送ってきた4人家族であっても、子どもが大学に通うようになると生活保護レベルの生活水準になってしまうのが実態です。最新2019年の国民生活基礎調査の世帯年収の平均が552万円ですから、世帯年収600万円と言えば平均より少し高いレベルです。日本学生支援機構によれば、大学生や専門学校生のいる親世帯の平均年収は862万円ですが、600万円未満の世帯も32%を占めているというのです。授業料のほかに、学習費、生活費、交通費など含めた費用の合計は、平均で年間188万円だそうです。最も費用が高いのは、「私立大学4年制・自宅外通学」の場合で、年間約250万円です。この金額を世帯年収600万円から引くと、残りは350万円、これでは生活は苦しいですね。

■ 奨学金とバイトで食いつなぐ学生
 ところが現実には世帯年収600万円を確保することも、容易ではなくなっているのです。共働きが増えているとはいえ、男性雇用者(35〜39歳)の収入は、年収300万円〜400万円が約19%、年収300万円未満が約21%と、合わせて4割程度にまで落ち込んでいるので、この10年間の間に奨学金制度の利用や、大学生のアルバイトが急拡大してきたのです。ただ、文科省も貧しい家庭の学生には授業料免除とか減免の枠を設けていて、無策というわけではありません。国のおかげで大学に行けたという学生も一定数以上居るのです。

安い昔の学食見つけた!

■ 奨学金の利用も減少、アルバイトも減収
 その奨学金の利用も近年減少しています。その原因は、奨学金制度の「借金」としての過酷さが世間に知られた結果、借り控えが起きているからです。実際に、学生の74.4%が返済に不安を感じていて、奨学金の貸与人員は2013年度をピークに低下傾向にあるのです。1998年の50万人から2013年の144万人へと、奨学金の利用者は急速に拡大してきましたが、2018年には127万人まで減少しています。いまや大学生・短大生の四割が奨学金を借りており、平均借入額は324.3万円だそうです。平均月額返済額は16,800円ですが、非正規雇用で低賃金であったり、「ブラック企業」に勤めていて返済に窮し、奨学金を返済できず自己破産する若者が相次ぎ、保証人も返済できずに破産する「破産連鎖」も生じて社会問題化しました。そうした中で、2020年度からは修学支援制度が創設され、授業料無償化と給付型奨学金が実現しましたが、対象となる世帯は年収270〜380万円、これはキツイ!結局、年収600万円程度の「普通」の世帯の若者は奨学金を借りることをあきらめて、ますますアルバイトを増やす方向で進学を目指すようになっていたところへコロナ禍で、頼みの綱である学生アルバイトも減収を強いられており、もはや退学せざるを得ないという学生が増えている状況です。今年3月に文科省が行った全国調査によれば、今年1〜2月の緊急事態宣言発令中と、昨年10〜12月(宣言未発令時)を比較して減収した学生が49.7%と約半数に上っているそうです。筆者が経営協議会委員を務めている大学でも、企業やOBに学生への緊急支援の寄付を募っています。

国立大学法人岩手大学のキャンパス・・・桜の名所です
遠くにウッスラと日本百名山の2千m峰・岩手山が見えます

■ 収入が減り費用が増えた
 このような問題がなぜ生じたのか?
 第一に、最大の要因ですが、賃金の低下に伴う世帯収入の減少です。これまで主な稼ぎ手とされてきた男性労働者の賃金を見てみると、35〜39歳では1997年から2017年の20年間に、400万円以上の層が76%から58%に減少したのです。低賃金の非正規雇用や、正社員であっても賃金が上昇しないケースが増えたためです。その分、子育て世帯では女性(母親)の就業率が高くなっているにもかかわらず、世帯の平均可処分所得は、1997年から2015年で97万円も低下しているのです。
 第二に、教育費負担が大きいことです。特に学費については、国立大学において、2005年以降現在に至るまで授業料は53万5800円、入学料は28万2000円(現在は国立大学法人、いずれも標準額)と、上グラフのように昔に比べて高騰しているのです。1975年比授業料は14.8倍、入学料は5.6倍です。私立大学ならもっと高いことは言うまでもありません。
【参考】国公私立大学の授業料等の推移(文科省)https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_sigakujo-000003337_5.pdf

■ 授業料増額を行う大学も
 文科省は授業料の標準額から2割増の64万2960円までの増額を認めており、実際に、2019年度からは東京工大と東京芸大が、2020年度からは千葉大、一橋大、東京医科歯科大が授業料の増額を行いました。東京工大を除く4大学で上限いっぱいの2割増の金額となっています。増額の理由としては、外国人教員の招聘、語学教育の充実など教育と研究における国際化の推進などが挙げられています。さらに、文科省は国立大学法人の授業料「自由化」を検討していて、大学の裁量でさらなる授業料の値上げが可能になりますが、大学側としてはそうなるとますます学生から敬遠されるのでは?と悩ましくて簡単には踏み切れません。実は前記の授業料増額を行った大学は人気のある大学で、裕福な家庭の子にターゲットを絞っても十分に受験生が集まると見込んでいるのです。

東大安田講堂

■ 大学ランキングでも遅れをとる日本
 そもそも、日本は世界的に見ても、教育に対する公的負担が少ない国です。高等教育が先進国でますます一般化していく中で、希望する誰もがアクセスできるようにするために、学費の減免や給付型奨学金制度を拡大し、高等教育費用の公的負担を増やしてもらいたいと考えます。世界各国が教育に注力し、特に大学教育には家庭の状況にかかわらず優秀な学生には教育を受けさせるという風潮がある中で、日本の現状は余りにも悲しい...結果として日本の大学のステータスが国際的に低下しています。「世界大学ランキング」の2022年版(→高校生新聞参照)では、東京大学が35位で、京都大学が61位、他は200位以下で、400位以内に入ったのは東北大学、大阪大学、東京工業大学、名古屋大学を含む6校で、すべて国立大でした。アジアからは、中国の北京大学と清華大学がともに16位に入りました。中国の大学が上位20校に入ったのは初めてです。シンガポールのシンガポール国立大学が21位、香港の香港大学が30位、韓国のソウル大学が54位に入り、いずれも昨年より順位を上げました。上位200校に中国の大学は10校、韓国の大学は6校、香港の大学は5校が入り、日本より中国や韓国、香港、シンガポールの大学に勢いがあるのです。
 苦学生という言葉があった昔より今のほうが苦しい日本、そもそも学生にすらなれない若者がいるのです。筆者の時代には貧しくても頭が良ければ大学へ行けた、その大学では学生運動が盛んで、学生は政治に対してモノ申す勢力でした。今はそれがありません。「ノーと言えないニッポン」になってきた感があります。
(2021年9月26日)


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