380  農業法令

 昨日は夏至でした。太陽視黄経90度、1年で最も昼の長い日です。東京の日の出は4時25分、日の入19時00分、月の出4時09分、月の入19時02分です。そして新月です。太陽と月が同じような時刻に沈む...部分日食ですね。次は3年後です。何とか見たいと我が家から歩いて直ぐ、鶴ヶ岡から眼下に川越市下松原を見下ろすと一面の畑、その向こうに武蔵野の保存林が広がり、ポツリポツリと人家がある...西の空に部分日食が見えないか、しかし雲の切れ間は無く、残念...そしてまた2020年6月21日は父の日でもありました。父の日は、アメリカでは祝日であり、1972年に制定されました。母の日に遅れること58年です。母の日の花はカーネーションですが、父の日の花はバラだそうです。ギリシャ神話では、美の女神アフロディテが生まれたとき、大地が神々と同様に完全な美を生み出そうとした結果がバラだとされています。なお、これを見た神々は、その完全な美を賞賛し、神酒を注いだので、それ以後、バラはアフロディテに捧げられる花となりました。我が家ではただいま、連れ合いが薔薇と紫陽花をたくさん増やしています。バラはピンクと黄色と赤、アジサイは赤紫と青紫と白です。


赤いバラ


■ 都道府県をまたぐ移動の自粛解除
 2020年6月19日、都道府県をまたぐ移動の自粛が解除されました。観光地や旅館、宿泊業などにとっては、待ちに待った解禁でしょう。ただし「新しい日常」ということで、世の中は様変わりしています。飲食店は客足が戻っていません。接客を伴う飲食店ではフェイスガードにマスクのホステスが・・・お客様は楽しいのでしょうか?パチンコ店を外から覗くとガラガラです。走る電車を線路際で見ていると・・・やはり空いています。筆者は全く東京が疎遠になりました。「新しい日常」には素直に対応しなければなりません。店頭で売れなくても、通販はすごく増えたはずです。販路を失った農畜産物や魚介類を、インターネットで売るという試みによって、新たな流通形態に目覚めた人もいるはずです。時にはこれが生産者を支援する輪になったり、消費者にとっても新しいモノに触れることができるようになったことで、様々な変化が生まれました。変化に素直に従えば、ビジネスチャンスがあるはずです。

■ マイクロツーリズム」から始めよう
 緊急事態宣言解除後、早速外食を復活しました。まずはテイクアウトから始めました。そして今では店内飲食もしています。散々苦しんできたお店を応援するためです。ただもともと外食が少なかったので、無理して機会を作っている感じです。それでも飲みに行ったり、カラオケはさすがに自粛しています。習慣が変わりました。移動自粛の解除で早速へ行きましょう。星野リゾートの星野佳路代表がおっしゃるようにまずは「マイクロツーリズム」から始めましょう→星野リゾートが提案する「マイクロツーリズム」〜地域の魅力を再発見し、安心安全な旅 Withコロナ期の旅の提案〜 その次は岩手ですね。ご無沙汰している人に挨拶して・・・青森まで足を伸ばそうかな・・・これは夏になるでしょう。

■ 国会閉幕と共に閉店セール
 通常国会閉幕と共に、いろいろな問題が一気に噴出しました。検察官の定年延長のための検察庁法改正案は廃案、持続化給付金をめぐる不透明な受注や業務委託問題は打ち切り、イージス・アショアの配備計画停止、河井夫妻逮捕、そのどさくさに紛れて公選法違反疑惑で経済産業相を辞任した菅原一秀衆院議員がこれまで拒んできた緊急会見を開き、自らの行為が公選法に抵触する可能性があることを認めて「深く反省しています」と謝罪しました。野党から見れば首相に対する追及材料は山ほどあったのですが、報道によれば、国会閉幕に合わせて「得意の逃げ恥作戦」で、今後の政局は「衆院解散や党と内閣の人事を絡めた自民党内権力抗争に焦点が移る」のだそうです。「アベノマスクの配布もほぼ完了し、国会を閉じてコロナ対策の実行に専念していれば、内閣支持率低下も底を打つ」(自民党幹部)との読みがあるそうですが、与党内には「閉店セールで不良品を整理するようなやり口は、いつまでも通用しない」との厳しい声もあるそうです。やれやれ...


これはSNSに出回っている画像ですが、作られたフェイクものでしょう
一蓮托生の字が違っていますし、だいいち安倍首相の字ではありません
しかも明らかに画像加工した痕跡が見えます
だからネットは信用できない...と言われそうですが、それにしてもリアル


■ イージス・アショアの配備計画停止
 これはビックリ!イージス・アショアの突然の停止・・・河野太郎防衛大臣は2020年6月15日、秋田県秋田市、山口県萩市へのイージス・アショア配備計画を停止すると発表しました。迎撃ミサイルを発射した後、ブースターと呼ばれる推進装置を想定地域に確実に落下させられないことが判明したことが理由とのこと。事前の自民党への根回しがなかったことで、党内では異論や反発が噴出しました。小野寺元防衛大臣など、怒りまくってましたね。確かに北朝鮮の核ミサイルがどんどん進歩している現状を見ると、見直しは当然かも。トランプ大統領のごり押しを安倍首相が受け入れたというのが政界筋の見方だっただけに、巨額の予算措置の停止・見直しを評価する向きもあるようです。河野太郎防衛大臣だからできたこと、という見方もあるようです。山口県、秋田県は安倍晋三首相の選挙区、菅義偉官房長官の出身地ですから、地元での反対意見が多いことを知るだけに、河野太郎防衛大臣の決断に反対できなかったのでしょうか。しかもトランプ米大統領の足許がおぼつかなくなってきた現状を見ると、「政権にとって、今まで嘘を言ってきたというダメージより、潔く誤りを認めたことへの評価が上回る」(首相経験者)との見方も少なくないそうです。
 そもそも北朝鮮のミサイルから首都圏を守るのなら能登半島に配備するはずです。北朝鮮がまず狙うのは我が住む地域と言われています。ふじみ野市には自衛隊大井通信所、所沢市には米軍の通信基地があるからです。ここをたたけば、初動が混乱するからと言われています。北朝鮮から秋田市を結んだ先はハワイ、北朝鮮から萩市を結んだ先はグアムです。何処を守るために迎撃するつもりだったのでしょうか?

■ 河井夫妻逮捕…責任を痛感する首相、張り切る検察
 東京地検特捜部は2020年6月18日午後、昨年7月の参院選広島選挙区で、票の取りまとめを依頼する趣旨で約2600万円の現金を地元議員ら約100人にばらまいた公職選挙法違反(買収)の疑いで、衆院議員の河井克行前法相(57)と河井案里参院議員(46)を逮捕しました。国会議員が自身の選挙でカネをばらまき、夫妻で逮捕されるという前代未聞の出来事で、戦後の混乱期でもこんな事件はなく、憲政史上に残るとんでもない事件とのこと。しかも法務行政のトップを務めたばかりの政治家の逮捕です。17日に自民党を離党した河井夫妻は、安倍晋三首相や菅義偉官房長官など官邸中枢と親密でした。2019年秋の内閣改造人事で、克行氏を法相に起用したことについて、安倍首相は「大変遺憾で、かつて法相に任命した者として責任を痛感している。国民にお詫びしたい」と神妙な表情で陳謝しました。責任を痛感という言葉は聞き飽きましたね。責任を痛感して、また頑張るのでしょう。参院選で河井陣営に異例の1億5000万円もの選挙資金をつぎ込んだことは、自民党幹事長でも一存ではできないということなので、どうやら天の声だったのでしょう。黒川弘務前東京高検検事長を1月に定年延長させたことによる検察人事への恣意的な介入を疑われた官邸ですが、検察も森友事件などで官邸への忖度を疑われていただけに、ここは検察の意地の見せ所とばかりに張り切っているようです。

■ 開城(ケソン)の南北共同連絡事務所爆破
 北朝鮮は2020年6月16日、南北融和の象徴的地域である開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破しました。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が2018年4月の南北首脳会談で採択した「板門店宣言」に基づき設置された連絡事務所が崩壊する様は、この2年余りの南北交流はいったい何だったのかと、韓国国民をガッカリさせる出来事だったでしょう。南北間の連絡チャンネルもすべて遮断され、軍事衝突が起きかねない情勢となりました。南北融和を一貫して推し進めてきた文在寅政権ですが、和解と平和への期待が高かっただけに、この北朝鮮の突然の昔帰りには、韓国国民はビックリし、失望し、今後北朝鮮への視線は冷たくなるでしょう。脱北者団体のビラ散布がきっかけとは言え、この豹変のウラには、両国間の何か約束事があって、それが果たされないことへの怒りがあるように思われます。改めて北朝鮮という国がどういう国であるか、韓国の徴兵制は何のためにあるかを、思い知らせる出来事だったと思われます。しかも今回は一貫して金正恩委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第一副部長がスポークスマンになっています。あのほほえみ外交から一転、その談話は韓国に対する罵詈雑言と恫喝のオンパレードです。文在寅韓国大統領を「南朝鮮当局者」呼ばわりし、北朝鮮に対話を呼びかけた2度の演説について「嫌悪感を禁じ得ない」「ムカムカした」と不快感を露にしました。さらに「恥知らず」「鉄面皮」「卑劣」「表は正常に見えるが精神はどこかおかしいのではないかと心配する」と侮辱する表現を連発しています。さすがに文政権内部や与党からも、北朝鮮に強い姿勢で臨むべきだとの声が出ています。


■ 昔に戻った北朝鮮の強硬姿勢の意味するものは?
 この背景には新型コロナウイルスによる鎖国と国連の経済制裁で北朝鮮内部がのっぴきならない苦境に陥り、国民の不満が高まったので、国民の目を南北緊張に向けようとしていることが想像されます。過去の歴史に照らして見れば一目瞭然です。もう一つは金正恩朝鮮労働党委員長の身に何かあったのではないかということです。金与正氏だけが出てきているのは何故か?アメリカのCNNが、北朝鮮の金正恩委員長(36)が手術後、重体に陥ったとの情報があると伝えたのは4月21日でした。CNNが報道を行った前日の4月20日、韓国の北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」は金正恩氏が心血管系の手術を受け、地方で治療を受けていると報じました。金正恩氏は心臓病と糖尿病を患っていると言われています。しかし朝鮮中央通信は5月2日、金正恩委員長が「肥料工場の完工式」に出席したと報じ、6月8日には党政治局会議に出席したと伝えました。写真や動画が配信されましたが、金正恩氏の肉声は伝えられていません。このことから、5月2日と6月8日に登場したのは影武者ではないかと疑う声も出ています。米国のトランプ大統領は金正恩が生きてて良かったとツイートしましたが、もはや北朝鮮に以前ほどの関心を向けてはいません。米国に振り向かせるために利用してきた文在寅政権への北朝鮮の怒りが爆発したことに対し、韓国から見ればどうして?なぜ?と思うでしょうが、北朝鮮の独裁体制を維持するためのいつもながらの手法です。いい加減、韓国国民も目を覚ますべきでしょう。

■ 韓国文在寅大統領は「古典的な社会主義」
 前々回、韓国の文在寅大統領の経済政策は、「古典的な社会主義」と書きました。最低賃金を2018年以来3年間で30%以上アップさせました。この過激な賃上げをマトモに実施すれば企業業績は大変なことになります。企業は正規雇用者採用を躊躇し、非正規雇用に走って、仕事にあぶれる若者が増えます。法人税も引き上げて、所得税も富裕層への増税を強化しました。格差の拡大を解決するために韓国躍進の原動力だった財閥企業が貯め込んだお金を労働者階級に“所得移転”を図るという政策です。当然ながら韓国企業の競争力は落ちます。中国の習近平政権は企業を保護し、国家ぐるみで米国に対抗しているのと比べると、やっていることが違いますね。輸出依存度の高い韓国企業は、日本から学び、日本企業と組むことで発展してきました。例えば輸出の2割を占める半導体は、製造装置を日本から輸入し、材料を日本から輸入して加工して輸出します。日米半導体摩擦で半導体を作れなくなった日本企業に代って韓国企業が半導体を生産するようになりました。韓国企業と日本企業はうまく分業して、共存共栄して来たのです。徴用工問題で日韓関係が怪しくなって困ったのは日韓の企業でした。政治のメンツで、せっかく上手く回っていた歯車が狂いました。文在寅政権がこれ以上韓国企業を抑圧すると、海外へ新天地を求めかねない気がします。

我が家でもヤマユリが咲き、強い芳香を放っています
日本の山野にたくさん自生している大輪の花です
人気のカサブランカは、ヤマユリの改良品種です

■ 安倍政権は「リベラルな資本主義」
 では日本はどうか?安倍政権の経済政策は、「リベラルな資本主義」ではないかと思います。「え〜〜っ、ウッソー」と言われそうな気がします。安倍首相はかねて「新自由主義」を標榜していると言われてきました。それは「戦後レジームからの脱却」が必要だとして改憲を主張しているからです。日本は戦後新憲法を制定して、戦前の旧体制に決別して新しい国になることを決意しました。これが戦後レジーム(戦後体制)です。この新憲法下の戦後体制のもとで、国民は、一人ひとりを大切にする新しい時代の日本に生まれ変わろうと努力してきました。戦前のように教育に国家が介入したり、宗教を利用するような国家の行為を憲法で禁止しました。政府が海外で軍事力を行使しようとすることも禁止しました。日本国憲法は国家権力を縛って、国民の権利・自由を守り、平和を守ってきたのです。諸外国からは、血を流さず、経済利得を得る、ズルイと批判されることもありました。しかしおかげで日本は戦後驚異的な経済発展を遂げました。この戦後レジームから脱却するということは、「米国が作った憲法から脱却したい」ということのようです。せっかく収まっていた慰安婦問題を持ち出して韓国世論に火を点けたのは、やぶへびでした。戦後レジームの何が悪いのか?いま年輩の国民は首を傾げるでしょう。森友学園問題でこの一端が垣間見えました。幼稚園生に教育勅語?皇室に対する男尊女卑の考え方、夫婦別姓の否定・・・戦後レジームを否定すると、北朝鮮みたいな国になるのでは?

■ 戦後レジームからの脱却よりもまずはアベノミクス
 しかし安倍首相は第一次安倍政権で掲げた戦後レジームからの脱却という悲願を二の次にして第二次安倍政権ではアベノミクスを前面に押し出しました。経済問題が国民の第一の関心事であり、憲法問題はその後だと考えたのでしょう。現実の政策は規制緩和、円安誘導、デフレ脱却、株価上昇、各種経済特区の実現、ふるさと納税、一億総活躍、女性活躍社会の実現、携帯電話料金値下げ、インバウンドによる観光立国、同一労働同一賃金・・・、国民の望むことを汲んで政策実現してきました。だからいまだに高い支持率なのです。検察庁問題で支持率を落としていますが、それでも歴代政権末期に比べれば岩盤支持率を維持できています。責任を痛感するといってまったく責任をとらないやり方に、50代以上と女性は内閣不信を持っていることが世論調査にハッキリ出ていますが、若者、特に男性はそれを感じていないようですね。どうやらその理由はスマホだそうです。40代以下は新聞やテレビの情報から離れ、スマホに依存しているので、報道にあまり触れる機会が無い、ただし女性は女性活躍と言いながら現実は男尊女卑の考え方が底に流れていることを感じ取っているのだそうです。

娘から頂いた父の日プレゼント
ナント!New Balanceのシューズです

■ 労働市場緩和→非正規雇用拡大で格差社会に転換
 次々に規制緩和しながらも、小さな政府政策を採らなかった、この点が「リベラルな資本主義」なのです。もし保守ならば、戦後体制から脱却しようなどとは考えないでしょう。リベラルだからこそなのです。リベラル=左派ではありません。そして次々打ち出す政策は国民の意思に沿うものが大半でした。中には統合型リゾート(IR)のように市場原理に任せ過ぎたものもありました。戦後一貫して日本が海外から見れば貧富格差の小さい、社会保険の整備された平等な社会、最も社会主義的な国と言われてきた社会を、市場原理に任せたことで、格差社会に転換させました。最大の失敗は、セーフティーネットの整備をせずに、非正規雇用者を増やすよう規制緩和をしてしまったことです。労働市場を緩和し、非正規雇用を拡大したときが転換点でした。保守ならば、市場原理に任せず、規制をかけたはずです。あのとき、企業の力が強くなり過ぎないように、同時に最低賃金を引き上げる政策を打たなかったのが、決定的なミスだったのです。もちろん安倍政権だけが悪いわけではありません。金融バブル崩壊以降の歴代政権の政策により、第一次産業(農林水産業)の衰退、第二次産業の縮小(製造業の海外移転)、労働生産性の低い第三次産業の拡大が進みました。産業構造の歪み、国民の貧困、世界第28位に低迷する生産性という結果につながりました。日本全体の生産性が546万円なのに対し、生産性が低い順に宿泊・飲食が194万円、教育が207万円、医療・福祉が289万円、サービス業が330万円、生活関連が338万円、小売業が365万円となっています(『中小企業白書 2019年版』より)。COVID-19によるパンデミックで打撃を受けた業種と見事に一致します。

■ 最低賃金で働くのは女性労働者が多い
 生産性の低い業種に、女性労働者が集まるのは世界的傾向です。実際に日本もそのとおりになっています。日本で最低賃金で働いている人の男女比率を見ると、15〜29歳ではほとんど差がありませんが、30代になると急激に女性の比率が高くなります。年齢が上がるとその傾向はさらに顕著になり、40〜49歳の場合、約9割が女性で占められます。30歳を超えた途端に、女性のスキルだけが一気に低下することなどありえません。その理由はすぐ分かりますね。子育て中の女性は、残業ができない、休みが多くなりやすいなどの理由から、雇用主に対する交渉力が大きく低下するのです。何が「女性活躍社会」ですか!活躍しようとすれば、結婚しない、子供を産まない、という選択肢になります。少子化で税収は減る、社会保険料も減る、このままでは年金制度も維持できないのは明らかです。

New Balanceのシューズはブランド
ナイキやアディダスと並ぶもの

■ 課題に直面する日本農業
 さていよいよ今回の本題に入ります。肥料のインターネット販売は法律違反ですゾということで、メルカリなどを通じて、余った園芸用の市販の肥料や、自宅の薪ストーブで出た「草木灰」を無届けで販売したなどとして、肥料取締法違反の疑いで全国各地の男女7人が書類送検されました。いずれも「違法とは思わなかった」と話しているそうです。
 いま日本農業は様々な課題に直面しています。一番の問題は高齢化です。生産性が低いために跡継ぎが他の職業に行ってしまい、担い手が居ない農家は、やがて耕作放棄せざるを得ません。日本は海からマサカリの刃がニョッキリと出たような地形の国です。関東平野のような農業適地はほとんどありません。わずかな河川の周りの平地での稲作や、中山間地の段々畑などを耕してきました。旅客機の窓から眺めたり、今ではグーグルアースで見れば、いかに日本という国土が山だらけか一目瞭然です。人々は谷あいに寄り集まって暮らしているのです。したがって八郎潟や有明海の干拓などという話が出てくるのです。そんな小規模農業が、広大な敷地を農業機械を駆使して耕作する米国やオーストラリアなどの農産物とコスパで対抗できるわけがありません。筆者の家の周りでは、関越道周辺のふじみ野市、所沢市、狭山市、川越市下松原、三芳町の三富地区などに広い畑が拡がっています。この辺りの農家は後継者が居ます。それは大消費地と隣接していることと、不動産を企業に貸して収入を得ているからです。農産物だけで食えているのではありません。もちろん三芳町の「富の川越いも」などのブランド品を持っていれば農業だけでも立ち行けるかもしれません。

■ TPPと食糧安保、コロナ禍で懸念が現実化
 そこで農水省は、兼業農家で働けなくなった人や、離農した人の耕作地をまとめて請負耕作する会社をJAが設立したり、民間の農業会社が受け手となることを奨励・推進しました。ここでも規制緩和し、ヤル気のある農業生産法人を支援するようにしました。主食のコメは守り、ムギやソバなどは輸入で良い、野菜は物流コストの関係で国産有利ですが、それでも韓国のパプリカや中国産の野菜などは解禁しました。食糧自給率は下がってもしょうがない、グローバル化で適地生産〜ノータックス国際流通を推進しようということでTPPを成立させました。抵抗するJAなどには農協改革を断行するという、かつての自民党農政では考えられない強権を発動する、これが顕になったのが「安倍農政」でした。もはやコメも外国産が店頭に並ぶようになりました。「食糧安保」を唱えたり、「安全安心の農畜産物」、「農業がもたらす自然保護の継承」を主張する筆者などの論は吹き飛ばされました。そこへこのコロナ禍です。戦争や感染症などが起きると国際流通はたちまちストップする、自分たちの食べるものは自分たちで作る、そのために補助金を投下して良いという筆者たちの主張が現実のものとなりました。

■ 農業関係法改正の動きと、これに反対する人たち
 近年農業関係法が次々と改正されています。これは規制緩和の結果であったり、前述の農業後継者の確保や、耕作放棄の防止のためであったり様々です。いずれにせよ日本農業が海外農産物と対抗して行くためには、ニッチな分野や、美味しさで消費者ニーズをつかむ必要があります。例えば日本のブランド苺や、ブランド米、信州川上村のレタスなどは海外からも人気です。北海道の十勝農協などは年収2千万円以上の農家がズラリ、農業もやりようなのです。フランスやドイツなどは農家に多額の補助金を出して農業を保護しています。多くの戦争を体験してきたからこそです。地方の名士と言えば農家なのです。日本はこれに比べればまだまだ農家自身の努力に期待するという傾向です。
 農家がコストを下げたり、品質の良い農産物を作るためには様々な障害があります。育てるためには肥料が必要です。「富の川越いも」は川越藩主柳沢吉保が武蔵野の雑木林を開墾して碁盤の目の畑を作らせ、上富、中富、下富の三地区に畑と林と家というブロックを単位とした農地を造成したものです。徳川時代の行政というのはつくづく素晴らしいと感心します。利根川の流路変更、多摩川と荒川間の用水路造成、江戸との舟運のための川造り、パワーショベルも無い時代にその構想力と実際にやってしまう実行力、スゴイ!畑と家の他に林を残したのは、落ち葉で堆肥を作るためでした。この有機肥料が「富の川越いも」の美味しさの理由です。

高設イチゴ栽培
 肥料のほかにも農薬が必要です。これは主としてウイルスや細菌による病気や、作物を食い荒らす害虫対策です。また栽培をしたことのある人なら悩むのが雑草です。昭和天皇は「雑草という名の草は無い」とおっしゃったそうですが、それはそうです、でも食えない草のほうが勢いがあるのです。これをそのままにしたら土中養分や水分が奪われ、肝心の作物が良く育ちません。手で草取りしてたらそれだけでヘトヘトです。趣味で小規模にやっている人ならそれでも良いですが、単価の安い農産物で利益を出すには大量生産が必要です。そこで除草剤や穴あきマルチシートなどを用いますが、これに反対する人たちがいます。無農薬栽培とかノープラ栽培を主張する人たちです。筆者がサポータを勤める「ふじみ野こどもエコクラブ」は、生態系保護協会のメンバーが兼ねているのでまさしくこういう人たちです。しかし筆者は協力はしていますが、これに全面的に組してはいません。農家とは違うからです。

■ 肥料取締法の改正
 前述の肥料取締法違反の話ですが、この法律は15年ぶりに改正され、2019年12月に公布されました。法改正の背景は、堆肥施用量の減少による地力低下への危機感です。また世界的な肥料需給の高まりで肥料原料(リン鉱石など)の価格が不安定さを増していることもあります。土壌改善と肥料の安定供給には、安価で国内調達できる家畜ふん堆肥や食品残渣(ざんし)などを有効に利用する必要があるのです。農林水産省の統計資料によれば、水田への堆肥の投入量は、過去30年間で約4分の1にまで減少しています。農家が高齢化し、重くて扱いが面倒な家畜ふん堆肥が敬遠されているためです。その結果、米や大豆の収量が減っている地域が出ています。
 見直しの方向は規制強化と規制緩和に大別され、強化については、肥料メーカーの原料管理制度の徹底です。2015年に肥料の偽装表示が発覚し、使用していた農家が大きな損害を被るという事件があったので、肥料の原料として利用可能な産業副産物の範囲を明確にして、原料の虚偽表示に罰則を設けました。
 緩和については、家畜ふんなどから作られる「堆肥」と工業的に作られる「化学肥料」の二つを自由な割合で配合して販売できることが可能になりました。これは農家には大きな負担軽減になる上に肥料価格が下がることも期待できます。

■ 農薬取締法の改正
 1948年に農薬取締法が制定された当時は、戦後の食料危機のため食糧増産が急がれていましたが、反面、不良農薬が出回って農家に損害を与えることがあったので、不正、粗悪な農薬を追放することが制定の目的でした。その後、農薬が目覚ましく発達したこと、さらに環境汚染に対する社会的関心の高まりの中で、残留性の強い農薬成分が、農作物、水、土壌などを汚染するなどの社会問題や、国民の健康への懸念がクローズアップされたことなどから、時々の時代の要請に応じて改正が行われて来ました。
 最新の改正は2018年6月公布、12月施行で、環境影響評価に関する部分は2020年4月施行です。昆虫などの生態系に影響を与えかねない農薬の規制が世界で厳しくなっているとして、日本でもこの4月から農薬の規制が厳しくなりました。

ナス

■ 除草剤反対運動と陰謀論
 モンサント社が開発した除草剤の「ラウンドアップ」は世界の160ヶ国以上で広く使用され、日本や米国では最も多く使用されている除草剤で、有効成分はグリホサートという化学物質です。ほとんどの種類の雑草を除草することができますが、散布すると短時間で土壌に吸着され、微生物により分解されて消失するので、環境汚染の可能性は小さく、適切に使用する限り人の健康被害は無いとされています。ところが1996年に始まった遺伝子組換え(GM)作物の商業栽培を機に「ラウンドアップは危険」という風潮が広まりました。GM技術には当初から反対運動がありました。そもそも「遺伝子は神の領域であり、人間がこれに手を付けることは許されない」という神がかり的な反対や、「自然ではない遺伝子が入っているものなんか食べたくない」という感情的な反対です。これが世界的な運動に広がった結果、「ラウンドアップには発がん性がある」といった映画が次々作られ、同様の内容の単行本も多数が出版され、それがSNSなどを通じて拡散し、多くの人の「常識」になってしまったのです。「モンサント社のような世界的大企業が政治を動かし、作物の種子を独占し、世界の農業を支配しようとしている」などの陰謀論を多くの人が信じるようになりました。とは言え、科学的には危険性が証明されていないので今でも普通に使われていますし、日本でも店頭に並んでいます。訴訟社会の米国では、除草剤に発がん性があるとして、たくさんの訴訟が提起され、実際カリフォルニアの陪審員裁判では、モンサント社に対して、学校の用務員・ジョンソンさんに320億円の支払いを命じる判決が出たりしています。ただしまだ確定していません。日本でもそうですが、裁判というのは人が判決を下しますから、時折こういう事例が発生します。モンサント社は2018年6月に肥料や農薬の大手独バイエル社に買収されました。

■ 種苗法改正見送り
 今国会に提出され、2021年4月の施行を目指していた種苗法改正案の成立が見送られることになりました。種苗法改正で問題視されているポイントは、「種苗の知的財産権」が強化される一方で、農民の「自家増殖の権利」が制限される点です。「自家増殖」とは農業者が収穫物の一部を次期作付け用に種苗として使用する、いわゆる「自家採種」のことです。農林水産省は、わが国で開発された高級ぶどうのシャインマスカットやイチゴなど優良な新品種が海外に流出し栽培されていることで、日本から本来輸出できたものができなくなるなどの日本農業への影響が懸念されることから、海外流出を抑止する種苗法改正案を国会に提出したわけです。しかし女優の柴崎コウさんが4月下旬、ツイッターで「このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまう」と投稿したことからネットで反対論が噴出しました。このツイートは後に削除されましたが、今NHKの朝ドラ「エール」で双浦環を演じている柴崎コウさんですから影響は甚大でした。

■ 一般品種と登録品種
 ここにはひとつ誤解がありました。わが国の農産物には一般品種と登録品種があり、一般品種は在来品種や、品種登録されたことがない品種、品種登録が切れた品種のことで、流通している品種のほとんどを占めています。たとえば米では84%、みかんでは98%、りんごでは96%が一般品種です。品種登録されたことがない品種は、コシヒカリ、あきたこまち、ふじ、つがる、ピオーネ、二十世紀、桃太郎などで、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、はえぬきなどは品種登録期間が切れています。これに対して登録品種は、一般品種にない新しい特性を持つ品種で、都道府県試験場、農研機構、大学などが年月と費用をかけて開発しています。シャインマスカットはその例で、登録品種として種苗法で保護されています。

シャインマスカット
 しかし、登録品種が販売された後に海外に持ち出されることは現行法上は違法ではなく、登録品種が自家増殖された後に海外に持ち出されることは違法ですが、増殖の実態が把握できないため現実には抑止できません。出願期限が切れたシャインマスカットが中国や韓国に流出したのは、外国人や非農業者と思われる人に種苗が販売されたり、ホームセンターで不特定多数に販売されたと考えられますが、いずれも違法ではなかったのです。
 また、栽培を山形県内に限っていたサクランボ品種「紅秀峰」を県内農業者が増殖し、それを育成権者に無断でオーストラリアの人に譲渡したことから産地化されてしまいました。このような増殖と譲渡までをチェックすることは現行法ではできません。そのため種苗法を改正し、登録品種に限って農業者が増殖する場合には許諾を必要とする制度とすることによって、登録品種の育成者権を持つ者は農業者による増殖を把握することができるため、海外流出を抑止することができるというのが改正の主旨でした。

■ 種苗の権利保護は国際的にも当然
 ところが、規制緩和で農業に市場原理を導入する、TPPを成立させる、抵抗するJAなどには農協改革を断行するという「安倍農政」に反対する人たちは、この種苗法改正も、農家の基本的な権利と言える自家増殖を制限するものだとか、種子の権利を持つ企業を利するものだとして改正取り止めを求めたのです。折悪しく、検察庁法改正案や新型コロナウイルス対策の不手際が重なって、政権批判が高まった結果種苗法改正案も見送られることになりました。農水省は「政治的な話にすりかえられた」とガックリしているそうです。
 都道府県、農研機構、大学などの育成者権者が利用条件を付けた場合はその利用条件に反した行為が制限されます。農水省は利用条件として日本国内での利用限定、栽培地域限定を想定しています。これまでと同様、一般品種の自家採取など、増殖は制限されません。登録品種は許諾料が生じる場合もあるでしょうが、農水省は都道府県試験場や農研機構など公的主体であれば高額になることは想定されず、その許諾料は優良な品種開発に使われます。種苗メーカーを利するものだという主張も現実には当りません。メーカーは種苗が売れなければ商売になりませんから、法外な価格なら売れないからです。法改正で困るのは違法に種子を増殖して転売したりするズルイ農業者です。種苗の権利保護は国際的にも当然なのです。柴崎コウさんがツイートを削除したのは、こういう主旨を理解したからではないでしょうか。しゅしだけに...なんちゃって。

■ スズメの子育て
 隣家の軒下にスズメが巣を作り、一生懸命えさを運んでいます。チュンチュンとかまびすしいです。

スズメ
(2020年6月22日)


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