338  値上げ
 いよいよ9月になりました。明らかに秋の気配を感じますが、まだ日中は30℃を越える暑さです。しかし朝に畑仕事に行くと、草に結露していて、夜にそれだけ温度が下がったんだなということが分かります。

■ 消費増税前の値上げラッシュ
 普段買い物をしている人ならば、最近なんか値上げされたものが多くなったな、と感じているはずです。物価の優等生の卵は一時期高くなったものの再び安くなっていますが、たとえば牛乳、トマトジュースや野菜ジュース、ポテトチップス、ヨーグルト、インスタントラーメン、サバ缶、アイス、2リットルペット飲料、塩、文房具、トイレットペーパー、ティッシュ、自動車用タイヤなどが上がりました。他にも味の素やブルボン、永谷園、フジッコなどが値上げしています。
 これまでは、内容量を減らして実質的な値上げというのはちょくちょく行われてきました。いわゆる「ステルス値上げ」です。今回は、ステルス値上げでも対応しきれなくなってきたということで、各メーカーが値上げ発表に踏み切ったようです。
 10月の消費税増税を控えて、前回5%から8%に消費税を上げたときにかなり消費が落ち込んだという経験をしていますので、メーカーは、増税前のうちに値上げをしておきたいという考えのようです。10月の増税後でも、「お酒以外の飲料」「食料品」は『軽減税率』の対象で『8%』に据え置かれますし、スーパーなどは消費を落ち込ませないように特別な『セール』を展開する可能性があり、慌てて買いだめをするような必要はないはずです。
 外食産業は対応が分かれています。一般的には人手不足と時給アップで値上げが一般的です。カレーチェーンの『カレーハウスCoCo壱番屋』、ハンバーグの『びっくりドンキー』、定食の『大戸屋』、『やよい軒』、うどんの丸亀製麺、マクドナルドも320円商品を10円値上げ、コーヒーチェーンも各社値上げを発表、スターバックス、タリーズ、ドトール、ベックス、いずれも10〜30円値上げです。
 1000円カットのQBハウスが1200円に値上げしたら、同業が一斉に値上げしました。TOHOシネマズは、全国66ヶ所の映画館の入場料を100円値上げしました。災害多発で火災保険料が上がりますが、自動車保険料も上がります。

珈琲チェーンも値上げ

■ 値上げの要因
 ただし値上げの要因は様々です。
@原材料費の高騰・・・例えば発展途上国が経済発展し、それらの国でも多く食料品を消費するようになると、需要の割合が多くなって 原材料費が上がってきます。他にも生産国の賃金が上がってくれば必然的に商品に転嫁されますし、気候の影響で不作と慣れば商品の金額も上がって きます。
A物流費の高騰・・・昨今良く耳にします。ネットショッピングなどの利用増加により、物流業界は超がつくほどの人手不足、加えて働き方改革、これらの問題を解決するには物流費を引き上げるしかない、というわけです。
B人件費高騰・・・全体的に労働人口が減ってきているので、働くひとが少ない、その少ない働き手の中でも優秀な人材はもっと少ない、でも企業は人手不足。そうなれば人材を確保するためにも人件費を上げていく必要があるという理屈です。
C環境要因・・・秋刀魚の不漁など、漁獲が落ちたのが要因とされるものもありますが、その裏には更に深い原因があります。これについては別途下で触れましょう。海苔の値上げも産地で生産量が減っているためですが、第一の要因は海水温度の上昇のためと言われます。第二は生産者の高齢化、跡継ぎが居ないので、作り手が減っているためのようです。トイレットペーパーやティッシュの値上がりは。古紙相場上昇のせいです。米中貿易戦争の結果、中国が古紙を米国ではなく日本などから輸入するようになって古紙価格が上がっているのです。他にも米中貿易戦争の影響はいろいろなものの値上がりにつながって行くでしょう。

■ サンマ不漁の要因
 千島列島沖からサンマが南下してくるのですが、三陸沖に達する前に中国や台湾の漁船が「先取り」してしまうのです。背景には「日本食ブーム」があるようです。北海道旅行でアパホテルに泊まったとき、中国人の和食好きにビックリしたと書きました。中国や台湾を含む8ヶ国・地域がサンマの資源管理を話し合う北太平洋漁業委員会(NPFC)で、漁獲枠の導入について協議され、昨年までは中国などが反対していましたが、今年7月の年次会合で、ようやく全体で年約55万トンを上限とすることで合意されました。ただ、NPFC加盟国・地域の昨年の漁獲量は約44万トンで、合意の漁獲枠はそれを上回るので、効果はあるのでしょうか?日本は今年、サンマの通年操業に踏み切りました。これまではサンマ漁は8〜12月だけでしたが、通年に切り替えることで、日本近海に南下する前に「先取り」しているとされる中国や台湾に対抗するためです。ただ専門家によれば「サンマは漁獲増大による減少だけでなく、周期的な変動もあって今は減っている時期。ここで取りすぎると資源量が回復しない」とのこと。
9月は「さんままつり」の時期です

■ 消費増税に伴う値上げ
 日本郵便が消費税増税に伴い、10月1日から手紙を82円→84円に、はがきを62円→63円に引き上げ。東京都内の公衆浴場の大人の入浴料金を460円から470円に引き上げ。JR・私鉄など鉄道各社が、10月の消費増税に合わせ、運賃の値上げ。高速道路料金も値上げ。日本たばこ産業(JT)が、メビウスなど、たばこ製品115銘柄の値上げ。紙巻きたばこは1箱当たり10円引き上げです。

■ 価格が物を言うサラリーマン・ランチ
 サラリーマン・ランチは手頃な価格が支持されており、満足度の高い商品が消費者の胃袋を掴みます。消費増税で節約志向は一層高まると考えられ、価格に強みを持つ企業が力を発揮するでしょう。
 外食・中食の市場規模は拡大・・・「外食産業」と持ち帰り弁当店や惣菜店、契約により弁当を事業所に配達する形態などを含めた「料理品小売業」の市場規模は拡大基調です。2012年から2017年にかけて、それぞれ10%、19%規模を拡大させました。就業者数の増加や訪日外国人の増加が寄与したと考えられます。今や持ち帰り弁当はコンビニはもちろん、スーパーの売り場でも大きな割合を占めています。「料理品小売業」の伸び率が高いのは、女性の社会進出で調理の手間が省け、美味しい中食が重宝されていることや、老人が家で料理せず、持ち帰り弁当や宅配弁当などの中食に頼っていることが有ると思われます。

安いと言えば「のり弁」何故か中国人に人気
 昼食代は男性555円、女性581円・・・外食・中食の市場規模は堅調推移が見込まれますが、消費者の節約志向は高いままです。新生銀行の「2019年サラリーマンのお小遣い調査」によると、お小遣い額は男性会社員:36,747円(前年比3,089円減少)、女性会社員:33,269円(同1,585 円減少)となり、男性会社員は1979年の調査開始以来過去2番目に低く、女性は2014年以降最も低い数値です。また、昼食代は男性会社員:555円(同15円の減少)、女性会社員:581円(同5円の減少)でした。世の中景気が良いと言う人も居ますが、この実態はお金がサラリーマンには還元されていないことを示しています。男女ともに節約志向が高まり、持参弁当が支持を集めています。働き方改革の推進で残業代は減少、効率的に業務をこなそうとすると、ランチは低価格で手軽に済ませる傾向が強まるのは当然でしょう。低価格メニューに定評のある吉野家HD、サイゼリヤ、マクドナルドの市場予想は今来期営業増益となっています。

■ 値下げされるものは無いの?
 値上げの話題ばかりでなく、値下げされるものは無いでしょうか?ワインはEUとのEPA発効やTPPで安くなりました。チーズも安くなるはずです。米国との貿易交渉で農畜産物の値下げを飲まされたので、牛肉、豚肉なども安くなるでしょう。円高が進行していますから、輸入品は全般に安くなるはずです。
 消費税が上がることで需要低下することを恐れ、長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」はランチメニューに、餃子5個とご飯、スープと漬物で税抜き370円の「格安セット」を投入、人気のちゃんぽんと餃子5個のセットを700円から690円に値下げしました。他の外食チェーンでも増税前の値下げが相次いでいます。ラーメンチェーンの「幸楽苑」は4月、主力の中華そばを421円から440円に値上げしたものの、みそラーメンと塩ラーメンを453円から440円に値下げし、増税後も値段を据え置く方針とのこと。外食チェーン大手の「サイゼリヤ」は店内商品の税込み価格を増税後も据え置く“実質値下げ”を打ち出しました。「ケンタッキーフライドチキン」も主力商品のオリジナルチキンを同じように実質値下げします。
 消費税を5%から8%に引き上げた2014年とは、状況がまったく逆となっています。当時、牛丼チェーンの「吉野家」が牛丼並盛を280円から300円に値上げしたほか、「モスバーガー」が商品の9割を値上げしましたが、結果は?惨敗でした。大手居酒屋チェーンの『鳥貴族』は2017年に全品一律280円から298円(いずれも税抜き)に値上げした結果、客足が落ち込みましたからね。どのチェーンも増税前に値下げをしておいて、3〜4ヶ月ぐらい増税後の様子を見ながら少しずつ値段を上げてくると思います。
吉野家の牛丼
 8月の消費動向指数によると、消費者心理を示す「消費者態度指数」は前月比0.7ポイント減の37.1。11ヶ月連続の悪化です。このままで消費税が上がると、日本は再びデフレ不況に突入してしまうのではないかと懸念されます。

■ スマホ料金値下げ
 スマホ料金は政府の圧力で下げざるを得なくなりました。菅義偉官房長官が「4割は下げられるはずだ」と言ったので、NTTドコモの吉澤和弘社長が、4月に「最大4割下げる」と言ったのです。データ従量制プランの「ギガライト」では、月間1GBまでの利用時の月額が2980円で、他に家族回線が2回線以上あれば、各回線から1000円が割り引かれ、月額1980円となります。ドコモの従来プランとギガライト(1GBまで)を家族3人で利用した際の総額を比較すると、約43%の値下げです。しかし、利用できるデータ量が比較前後で異なるということを考慮しなければなりません。従来プランでは1人当たり平均約1.7GBまで利用できるので、従来プランから1人1GB当たりの月額利用料を計算すると、2088円で、新プランの1980円と、そう変わりません。つまり、ドコモの新プランは「確かに選択肢として従来から4割値下げとなるプランも用意したが、通信量の単価はほぼ据え置き」なのです。データ通信をそれほど使わない家族にとっての選択肢が増えたということなのです。そもそもまともに4割下げたら赤字になります。減益必至ですから、これが精一杯なのでしょう。
NTTドコモの吉澤和弘社長、我が後輩です
 KDDIも新料金プランで「最大4割おトク」を打ち出しました。「新auピタットプラン」です。しかし、家族回線による割引を考慮しなければ新ピタットプランと旧ピタットプランの月間利用1GBの際の月額料金は同じなのです。総務省は「端末購入を条件とする通信料金の割引の廃止」すなわち「分離プランの導入」を求めています。今回のKDDI料金プラン値下げの大きな要因は「家族回線による料金割引の導入」です。NTTドコモはこれまで分離プランを導入していなかったため、分離プランの発表とともに4割値下げを打ち出せますが、KDDIは分離プランである(旧)ピタットプランを発表していたので、菅官房長官の発言以前に小容量データプランを比較的安価に設定していたKDDIにとって、旧ピタットプランとまともに比較したくなかったのです。
 利用データ量が少ない人は、もともと格安SIMを利用すれば安くなったのですが、パソコンを使わずスマホを利用する人や、ゲーム、音楽、動画ガンガン利用する人は格安SIMというわけにはいきません。総務省は違約金を従来の9500円から1000円にしろというのも打ち出しました。10月からは楽天も参入します。携帯各社にとって冬の時代の始まりか?日本ではiPhone信仰がありますが、これも変わって行くでしょう。
(2019年9月4日)


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