205  長時間労働

 日本海側の大雪、特に西日本は数十年ぶりの大変なことになっているようです。強い寒気の影響で山陰地方は断続的に雪が降り、鳥取市では、33年ぶりに積雪が90センチを超えるなど記録的な大雪となりました。降雪のピークは過ぎましたが、港では、雪の重さで転覆・沈没する漁船が相次いでいます。道路も渋滞が続いています。
 一方先般ぐるっと回った盛岡も、仙台も会津若松も例年に比べて雪が少ない冬です。前回は二つの熱海温泉の話題でした。「あたみ桜」が今年は2週間も早く咲きました。南関東も暖冬ですね。我が家の近くの河津桜も咲きだしました。

■ 極めて異例なトランプ流大接待を受けた安倍総理大臣
 アメリカのトランプ大統領の招待で安倍総理大臣は、フロリダ州のトランプ氏所有のゴルフコースで一緒にプレーしました。トランプ氏自身も安倍総理とハイタッチをする写真を投稿して「総理をアメリカで歓待できてグレートな時間を過ごしている」と蜜月ぶりをアピールしました。
 極めて異例なゴルフのハシゴに食事にと、トランプ流の大接待を受けた安倍総理、安保でこれまでと変らない方向を確認できてまずは一安心、懸案の経済問題は後回しにして、人間関係はできたようです。世界各国から警戒されているトランプ大統領にこれほどまでに歓迎されたのは、世界各国首脳のことを良く知っている、とりわけロシアのプーチン大統領と親密に話せる数少ない首脳である安倍総理だけに、トランプ氏とするとこれを一つの機軸として首脳外交を展開して行こうという考えでしょう。ゴルフを通じてこれまでも様々な”deal”を実現してきたトランプ氏、反応からすると恐らく満足な成果を得たのでしょう。「トランプ氏相手に毅然とした姿勢を示す必要に迫られた場合、安倍総理には内外からの厳しい視線が向けられそうだ」、とする報道もありました。ただ、日本にとっては貿易相手国としても安保でも、米国と仲良くやって行かなければ繁栄が無いのですから、胸襟を開いて話し合えることは何よりも大事です。プーチンさんとも習近平さんとも、とにかくにこやかに話し合える関係を築いて行くことが、ニッポンのトップに求められる絶対条件なのですから。

■ 第一次安倍内閣
 これまで日本の総理大臣はめまぐるしく代わり、相手国首脳も大変だったでしょう。ドイツのメルケル首相のように長い人も珍しいですが、安倍総理大臣は第一次と通算するともう5年首相を務めていて、現在の支持率は世界各国の首脳の中で断トツトップを誇っています。これだけ国民から支持を受けて安定した政権基盤を持っているとなると、外国首脳から見てもこの人は仲良くしておいたほうが良いと当然思うでしょう。

2015年2月土肥温泉の河津桜



気が合うみたいですよ
 では安部晋三という人は何故人気があるか?第一次安倍内閣のときは自らの政治信条である「戦後レジームからの脱却」が必要だとして改憲を主張しました。戦後レジーム(戦後体制)とはどういうことなのか、戦前のように教育に国家が介入したり、宗教を利用することを禁止し、天皇制から国民主権に変えたこと、他国を侵略する戦争はこれを永久に放棄すると定めたことです。政府が海外で軍事力を行使しようとしても、憲法がそれを禁止し、国家権力を縛って、国民の権利・自由を守り、平和を守ってきたのです。日米安保の下、日本は経済活動に専念して繁栄してきました。米軍駐留経費の負担も他国より多く負担しているのはその見返りです。この戦後レジームから脱却するということは、新憲法が米国から押し付けられたものなので変えなければならないということです。この主張は国民から警戒されました。5年5ヶ月の珍しく長かった小泉内閣の後をうけた第一次安部内閣は、結局1年と1日で崩壊しました。

■ 第二次安倍内閣
 3年3ヶ月の民主党政権時代に日本は東日本大震災を経験しただけでなく、国政が大混乱しました。3人の首相が次々代わり、野田首相は本来の民主党の公約を破棄して消費増税、TPP推進に転換して国会を解散しました。
 これは国民には裏切り行為と見えました。民主党はウソつきだ、公約を守らないとの不信感が芽生えました。これに乗じて自民党は反TPPのスローガンを掲げて、政権を取り戻すべく、「ウソつかない」、「ブレない」、「TPP断固反対」、「日本を耕す」、「日本を取り戻す」と宣言、国民の空気を読めば野田首相の国会解散は自殺行為でした。案の定自民党は大勝しました。
 発足した第二次安部内閣は、一転TPP推進に転換したのです。トランプ大統領のほうがよほど「ウソつかない」、「ブレない」人ですよね。まさかメキシコ国境に壁をつくるなんて、と思っていたら本気のようです。TPPは永久に放棄するし、イスラム7ヶ国からの入国制限などは司法にひっくり返されたもののまだ諦めないようです。TPP反対を信じて自民党を支持した農民や医療関係者への約束を破棄した安部総理と、自分に投票してくれた白人労働者への約束を履行するトランプ大統領、対照的です。
 ただし第二次安部内閣の高支持率は、「戦後レジームからの脱却」を押し隠し、まずは経済問題を前面に出したことによります。首相官邸のホームページをご覧下さい。四つの柱があります。TPPについてはまだ旗を下ろしていませんが、実質はFTAやEPAに向かうでしょう。アベノミクス(成長戦略)、働き方改革の実現、まち・ひと・しごと創生がキャッチです。これが国民の支持の理由です。

2012年の自民党のポスター

■ 労働者の耳に心地良い安倍総理の言葉
 アベノミクスは現実にはうまく行っていません。成長戦略は実らないままです。しかし株価は上がり、これで国民心理に余裕が生まれました。賃金は上がらないけれど失業者は減りました。非正規雇用ばかりとは言っても、仕事が無いよりマシです。日銀のマイナス金利政策によって住宅ローンを組めるので家がドンドン建ちます。住宅と言うのは裾野が広く、様々な分野に雇用を産みます。幸運なことに米国の好景気により円高が抑制され、製造業の輸出心理が改善されました。
 非正規雇用が増えて「同一労働・同一賃金」が問題になりました。女性活躍のためには保育所増設、保育士の待遇改善が問題になりました。男性の家事・育児参画のためには企業経営者の考えを変えること、テレワークなども取り入れよう、先進国では最低クラスまで落ち込んだ賃金を上げてくれ、と政府が産業界に申し入れるなど、これまでは有り得ないことでした。労働者から見ると安部総理の言うことは耳に心地良いのです。
 もちろん安部総理の政治信条は変わっておらず、「戦後レジームからの脱却」のためにジワジワと外堀を埋める作業が進行中です。ただその一方で経済問題と外交に精力的に取り組んでいます。まち・ひと・しごと創生については後日触れるとして、いま働き方改革において最大のテーマは「長時間労働の抑制」です。

■ 残業の上限を月平均60時間に
 電通の新入社員高橋まつりさん(当時24)の過労自殺を発端に、残業時間の規制の動きが急速に強まっています。若き命を失ったことも教訓に、政府の働き方改革実現会議は、残業の上限時間を月平均60時間、年間720時間、繁忙期には一時的に月100時間まで認めるという案をとりまとめようとしているようです。政府は、過労死ラインを「月間残業80時間」としています。もともと労働基準法では、1日8時間、週40時間を労働時間の上限としています。ただ労使協定(いわゆる36協定)を結べば、上限を超える残業も可能です。政府はここに法律の網をかぶせようとしているのです。厚労省は昨年4月から、労働基準監督署の立ち入り調査の対象となる残業時間を「月100時間」から「月80時間」に引き下げました。しかし調査したところ、4割の事業所で労使協定を超える違法な残業が確認されました。過重労働は蔓延しているのが実態のようです。
 ただし、この「月平均60時間」にも異論が出ています。日本医療労働組合連合会(医労連)は、「夜勤交代制労働など業務は過重であり、政府案はまさに過労死を容認するもので、断じて容認できない」として、「月60時間」が過労死ラインと主張する談話を公表しました。医療や介護の分野は特殊であって、警察官や消防隊員もそうですが、24時間体制の過酷な業務であり、夜勤交代制は体に有毒で、睡眠障害や循環器疾患などが指摘されています。看護師の過労死は後を絶たないそうで、医労連は、看護師の「慢性疲労」が7割を超え、「仕事を辞めたい」人も75.2%に達しているとしています。

■ ドイツでビックリしたこと
 筆者は1991年11月に欧州の計量計測の視察団の一員として訪問したドイツで、すごくビックリしました。電車の改札口がありません。ポストみたいのがあって、電車から降りた乗客がそれに切符を入れて出て行くのです。切符を買わずに電車に乗っても降りられるはずです。誰かズルするだろうとしばらく見ていましたが、誰一人そんな人は居ません。ドイツ人のモラルの高さに驚嘆しました。もう一つビックリしたのは帰るのが早いこと、定時にサッサと帰ります。ドイツに駐在している日本のサラリーマンとの交流会で、彼は「ドイツ人はこれほど労働時間が短いのに、なぜ経済がきちんと回っているのだろう?」と不思議なんですよと言いました。

■アメリカ人にビックリしたこと
 またあるときに日本の合弁会社に赴任してきた米国人の副社長のモウレツ振りに眼を瞠りました。朝6時には出勤して、夜22時ごろまで会社に居るのです。つまり職場に16時間も居るのです。睡眠時間大丈夫だろうか?と心配しました。
 彼が言うには、米国のエリートは皆モウレツに働く、相応の給料を貰っているから当然だ、と言います。そう言えば日本の霞ヶ関の官僚もモウレツに働きますね。エリートはそういうものなんでしょうか。

■オランダ人の職人にはもっとビックリ
 ある温室用の暖房機メーカーの役員に話を聞いた時も驚きました。オランダのフェンロー型温室を発注したら背の高い大男のオランダ人が数人来てハウスを建て始めました。日本では地盤強化やくい打ち、整地などの土木作業や、水道、排水、鉄骨、塗装、被覆工事、電気工事、空調工事、計装工事など工程ごとに業者が違い、その工程を管理するために「ゼネコン」と呼ばれる業者が仕切ります。オランダ人が数人ということは、彼らはスーパーバイザーだろうからと、日本人の職人を数人付けたら、やがて「日本人は要らない」と言い出したのだそうです。理由を聞いたら、「日本人はお茶は飲む、煙草は吸う、怠け者で役に立たないから要らない」とのこと、日本人から見たら普通の職人が、オランダ人には怠け者に映るのだそうです。なるほど、見ていたら、この2m近い身長のヘーシンクみたいな連中は、一心不乱に働いてみるみるハウスを建てていくのだそうです。しかもすべての工程をこなせる多能工なのだそうです。穴を掘って、コンクリートを流し込んで柱を立て、ボルト、ナットでどんどん組み立てていく、塗装も、被覆工事も、水道工事も、電気工事も、空調工事もみんなやってしまう。さすがに計装は無理?そんなことはありません、ノートパソコンを取り出して、センサからの温度をチェックし、制御状況を調整して、報告書を作っていく・・・日本にはこんなスーパーマンみたいな職人は居ません。体力があって頭脳もあるので、短期間に工事が終わります。すなわち生産性が全く日本人とは違うのです。

■ 世界主要国で最も労働時間が短かいのがドイツ
 オランダ人やその隣国のドイツ人は背が高く、街を歩いているとまるで林の中を歩いているように感じます。体力があって頭が良いので、労働生産性が高く、したがって日本人みたいに長時間労働しなくても良くて高賃金なのです。安倍政権が「働き方改革」に力を入れているのは、日本人の長時間労働にメスを入れ、生産性を向上させるのが狙いです。ドイツ人は日本人より労働時間が短く、生産性は高い、なぜこれが可能なのでしょうか。
 ドイツは世界の主要な国の中で最も労働時間が短かく、日本よりも有給休暇の取得率がはるかに高いのです。それにもかかわらず、高い経済パフォーマンスを維持しています。OECDによると、ドイツの2014年の労働生産性(労働時間あたりの国内総生産)は64.4ドルで、日本(41.3ドル)を約56%上回っています。労働者1人あたりの年間平均労働時間は1371時間で、これは、OECD加盟国の中で最短です。2位はオランダの1425時間です。1729時間の日本に比べて約21%も短く、OECD平均よりも399時間、韓国よりも753時間短いのです。ちなみに韓国は2124時間、それを上回るのがメキシコの2228時間です。

蝋梅

■ 残業する社員は評価されないドイツ
 労働生産性が日本より56%も高いということは、つまり短い時間で稼げる、日本人より1.5倍効率が高い作業をしているということになります。ドイツ企業では、「短い時間内で大きな成果を上げる」社員が評価されます。成果が出ないのに残業をする社員は評価されません。これは日本でもITに従事するエンジニアなどはそうですね。能力が無いひとは残業しないと仕事が終わりません。だから残業制を取らない企業が多いのです。本来はこうした頭脳労働者には請負的に成果給の賃金体系を取るべきですが、日本では何故かITエンジニアほど長時間労働の人が多いのです。もちろん単純作業は時間に比例するので残業制をとるべきですが、少なくとも残業が当たり前などという職場環境は排除すべきです。残業が当たり前となると、人間は賢いので、ソレにあわせた働き方になって、労働生産性が低下するからです。

■ 有給休暇をすべて使うのが当たり前
 ドイツでは、休暇の取り方も半端ではありません。法律によって最低24日の有給休暇を社員に取らせるよう義務づけられていますが、大半のドイツ企業は社員に30日の有給休暇を与えています。企業で働く人の大半は、毎年30日の有給休暇をすべて使うのが当たり前、ここが日本とは大違いです。
 日本はドイツに比べてサービスの水準がはるかに高いので、労働者には「この業務は自分でなければ務まらない」という意識がありますが、ある業務が「特定の人でなければ務まらない」という考え方は、ドイツ企業では珍しいのです。日独の間には、ビジネス風土や社会環境、顧客心理、労働組合の影響力などで大きな違いがあるので、日本でこれらの要素を一朝一夕に変えることは、まず無理でしょう。日本では、手始めに企業側の意識を変える必要があります。「残業が多い社員は、会社への忠誠心がある」という考え方は過去のものにすべきです。

■ ドイツに学ぼう
 高齢化と少子化が同時に進む日本では、将来、労働人口の不足が今よりもっと深刻になるでしょう。高い技能を持った人材の奪い合いがグローバルに展開されるようになるはずです。魅力ある労働条件を整えている企業が有利になります。経営者が最初に始めるべきことは、まずは業務改革です。不必要な業務を徹底的に無くし、長時間労働を減らし、有給休暇を社員に取らせることです。そのために国会は法律を制定し、政府は企業に対して法律遵守を働きかけ、国民の意識を変えていくことです。その意味でドイツは日本よりずっと先を行っています。良いことは見習って、自分たちなりに消化していくのが日本の優れた国民性ですから、ドイツに学びましょう。

■ 鴨鍋パーティ
 ふじみ野駅に近い「江戸切そば英」で、4人で鴨づくしパーティをしました。あらかじめ予約してあったのですが、当日は予約で満杯で、一般客は入れません。昭和78年創業だそうですから2003年、もう随分長いですね。りそな銀行の向かいで、独特の黒い建物です。店主の加藤英樹さんが一人で黙々と料理を作っています。
 鴨のサラダ、鴨とそばみそチーズあぶり焼き、鴨わさ、鴨ちゃんこ、もちろんつっつけそば一人一合、最後はそばアイスのデザート、飲み放題付きでした。
 そばはもちろん手打ち蕎麦、三芳町のそば粉を使っているみたいですよ。更科風のそばに見えました。ご馳走様でした。

お通しのサラダがハンパじゃない量です

三芳町の畑(Facebookから)

(2017年2月13日)


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