205 長時間労働
■ 第二次安倍内閣 3年3ヶ月の民主党政権時代に日本は東日本大震災を経験しただけでなく、国政が大混乱しました。3人の首相が次々代わり、野田首相は本来の民主党の公約を破棄して消費増税、TPP推進に転換して国会を解散しました。
■ 労働者の耳に心地良い安倍総理の言葉 アベノミクスは現実にはうまく行っていません。成長戦略は実らないままです。しかし株価は上がり、これで国民心理に余裕が生まれました。賃金は上がらないけれど失業者は減りました。非正規雇用ばかりとは言っても、仕事が無いよりマシです。日銀のマイナス金利政策によって住宅ローンを組めるので家がドンドン建ちます。住宅と言うのは裾野が広く、様々な分野に雇用を産みます。幸運なことに米国の好景気により円高が抑制され、製造業の輸出心理が改善されました。 非正規雇用が増えて「同一労働・同一賃金」が問題になりました。女性活躍のためには保育所増設、保育士の待遇改善が問題になりました。男性の家事・育児参画のためには企業経営者の考えを変えること、テレワークなども取り入れよう、先進国では最低クラスまで落ち込んだ賃金を上げてくれ、と政府が産業界に申し入れるなど、これまでは有り得ないことでした。労働者から見ると安部総理の言うことは耳に心地良いのです。 もちろん安部総理の政治信条は変わっておらず、「戦後レジームからの脱却」のためにジワジワと外堀を埋める作業が進行中です。ただその一方で経済問題と外交に精力的に取り組んでいます。まち・ひと・しごと創生については後日触れるとして、いま働き方改革において最大のテーマは「長時間労働の抑制」です。 ■ 残業の上限を月平均60時間に 電通の新入社員高橋まつりさん(当時24)の過労自殺を発端に、残業時間の規制の動きが急速に強まっています。若き命を失ったことも教訓に、政府の働き方改革実現会議は、残業の上限時間を月平均60時間、年間720時間、繁忙期には一時的に月100時間まで認めるという案をとりまとめようとしているようです。政府は、過労死ラインを「月間残業80時間」としています。もともと労働基準法では、1日8時間、週40時間を労働時間の上限としています。ただ労使協定(いわゆる36協定)を結べば、上限を超える残業も可能です。政府はここに法律の網をかぶせようとしているのです。厚労省は昨年4月から、労働基準監督署の立ち入り調査の対象となる残業時間を「月100時間」から「月80時間」に引き下げました。しかし調査したところ、4割の事業所で労使協定を超える違法な残業が確認されました。過重労働は蔓延しているのが実態のようです。 ただし、この「月平均60時間」にも異論が出ています。日本医療労働組合連合会(医労連)は、「夜勤交代制労働など業務は過重であり、政府案はまさに過労死を容認するもので、断じて容認できない」として、「月60時間」が過労死ラインと主張する談話を公表しました。医療や介護の分野は特殊であって、警察官や消防隊員もそうですが、24時間体制の過酷な業務であり、夜勤交代制は体に有毒で、睡眠障害や循環器疾患などが指摘されています。看護師の過労死は後を絶たないそうで、医労連は、看護師の「慢性疲労」が7割を超え、「仕事を辞めたい」人も75.2%に達しているとしています。 ■ ドイツでビックリしたこと 筆者は1991年11月に欧州の計量計測の視察団の一員として訪問したドイツで、すごくビックリしました。電車の改札口がありません。ポストみたいのがあって、電車から降りた乗客がそれに切符を入れて出て行くのです。切符を買わずに電車に乗っても降りられるはずです。誰かズルするだろうとしばらく見ていましたが、誰一人そんな人は居ません。ドイツ人のモラルの高さに驚嘆しました。もう一つビックリしたのは帰るのが早いこと、定時にサッサと帰ります。ドイツに駐在している日本のサラリーマンとの交流会で、彼は「ドイツ人はこれほど労働時間が短いのに、なぜ経済がきちんと回っているのだろう?」と不思議なんですよと言いました。 ■アメリカ人にビックリしたこと またあるときに日本の合弁会社に赴任してきた米国人の副社長のモウレツ振りに眼を瞠りました。朝6時には出勤して、夜22時ごろまで会社に居るのです。つまり職場に16時間も居るのです。睡眠時間大丈夫だろうか?と心配しました。 彼が言うには、米国のエリートは皆モウレツに働く、相応の給料を貰っているから当然だ、と言います。そう言えば日本の霞ヶ関の官僚もモウレツに働きますね。エリートはそういうものなんでしょうか。 ■オランダ人の職人にはもっとビックリ ある温室用の暖房機メーカーの役員に話を聞いた時も驚きました。オランダのフェンロー型温室を発注したら背の高い大男のオランダ人が数人来てハウスを建て始めました。日本では地盤強化やくい打ち、整地などの土木作業や、水道、排水、鉄骨、塗装、被覆工事、電気工事、空調工事、計装工事など工程ごとに業者が違い、その工程を管理するために「ゼネコン」と呼ばれる業者が仕切ります。オランダ人が数人ということは、彼らはスーパーバイザーだろうからと、日本人の職人を数人付けたら、やがて「日本人は要らない」と言い出したのだそうです。理由を聞いたら、「日本人はお茶は飲む、煙草は吸う、怠け者で役に立たないから要らない」とのこと、日本人から見たら普通の職人が、オランダ人には怠け者に映るのだそうです。なるほど、見ていたら、この2m近い身長のヘーシンクみたいな連中は、一心不乱に働いてみるみるハウスを建てていくのだそうです。しかもすべての工程をこなせる多能工なのだそうです。穴を掘って、コンクリートを流し込んで柱を立て、ボルト、ナットでどんどん組み立てていく、塗装も、被覆工事も、水道工事も、電気工事も、空調工事もみんなやってしまう。さすがに計装は無理?そんなことはありません、ノートパソコンを取り出して、センサからの温度をチェックし、制御状況を調整して、報告書を作っていく・・・日本にはこんなスーパーマンみたいな職人は居ません。体力があって頭脳もあるので、短期間に工事が終わります。すなわち生産性が全く日本人とは違うのです。 ■ 世界主要国で最も労働時間が短かいのがドイツ
■ 残業する社員は評価されないドイツ 労働生産性が日本より56%も高いということは、つまり短い時間で稼げる、日本人より1.5倍効率が高い作業をしているということになります。ドイツ企業では、「短い時間内で大きな成果を上げる」社員が評価されます。成果が出ないのに残業をする社員は評価されません。これは日本でもITに従事するエンジニアなどはそうですね。能力が無いひとは残業しないと仕事が終わりません。だから残業制を取らない企業が多いのです。本来はこうした頭脳労働者には請負的に成果給の賃金体系を取るべきですが、日本では何故かITエンジニアほど長時間労働の人が多いのです。もちろん単純作業は時間に比例するので残業制をとるべきですが、少なくとも残業が当たり前などという職場環境は排除すべきです。残業が当たり前となると、人間は賢いので、ソレにあわせた働き方になって、労働生産性が低下するからです。 ■ 有給休暇をすべて使うのが当たり前 ドイツでは、休暇の取り方も半端ではありません。法律によって最低24日の有給休暇を社員に取らせるよう義務づけられていますが、大半のドイツ企業は社員に30日の有給休暇を与えています。企業で働く人の大半は、毎年30日の有給休暇をすべて使うのが当たり前、ここが日本とは大違いです。 日本はドイツに比べてサービスの水準がはるかに高いので、労働者には「この業務は自分でなければ務まらない」という意識がありますが、ある業務が「特定の人でなければ務まらない」という考え方は、ドイツ企業では珍しいのです。日独の間には、ビジネス風土や社会環境、顧客心理、労働組合の影響力などで大きな違いがあるので、日本でこれらの要素を一朝一夕に変えることは、まず無理でしょう。日本では、手始めに企業側の意識を変える必要があります。「残業が多い社員は、会社への忠誠心がある」という考え方は過去のものにすべきです。 ■ ドイツに学ぼう 高齢化と少子化が同時に進む日本では、将来、労働人口の不足が今よりもっと深刻になるでしょう。高い技能を持った人材の奪い合いがグローバルに展開されるようになるはずです。魅力ある労働条件を整えている企業が有利になります。経営者が最初に始めるべきことは、まずは業務改革です。不必要な業務を徹底的に無くし、長時間労働を減らし、有給休暇を社員に取らせることです。そのために国会は法律を制定し、政府は企業に対して法律遵守を働きかけ、国民の意識を変えていくことです。その意味でドイツは日本よりずっと先を行っています。良いことは見習って、自分たちなりに消化していくのが日本の優れた国民性ですから、ドイツに学びましょう。 ■ 鴨鍋パーティ
(2017年2月13日) |