175  コリジョン・ルール

 第98回全国高校野球選手権大会、いわゆる「夏の甲子園」の出場校を決める地方大会が今盛んに行われています。沖縄では早くも代表校が嘉手納に決まりました。主催する朝日新聞のホームページにその状況が掲載されています。蝉時雨前の熱い夏、筆者も夢中です。かつての我が少年野球チームの選手たちが甲子園目指して戦っているのです。応援しないわけにはいきません。

■ 物議をかもすコリジョン・ルール
 今期プロ野球では今年から適用されたいわゆる「コリジョンルール」が物議をかもしていますが、プロ野球の「コリジョンルール」というのは、もともとアマチュア野球規則ではその素となる規定がありました。大リーグでも2014年から導入されました。これを公認野球規則で採用して、プロ野球では俗称「コリジョンルール」と言われています。学童野球ではそもそもコリジョン(衝突)というのは危険なプレーなので、走者は捕手に体当たりしてはいけないし、捕手は走者の走路を防いではいけないと規定されてきました。

■ 学童野球とプロ野球ではルールが少し違います

 今年から適用された「コリジョンルール」では、捕手は走者の走路を防いではいけないので、フェアゾーンで送球を受けてミットでタッチに行くしかありません。ボールを受けた後でも、走路に入ってタッグ(私たちはついタッチプレーと言いがちですが、正式にはタッグプレーと言います)したらオブストラクションなので、追いタッチしか出来ないのです。右写真のような形になります。捕手による走路をふさぐブロックが禁止されたので、相手の進路をふさがないためには、フェアゾーンで送球を待ち、ミットを持つ手でタッチに行くしかありません。ランナーはファウルゾーンに回り込んだり、本塁を触るときだけ手を出したりして、タッチをかいくぐりやすくなります。
 プロ野球の捕手としては悩みの尽きないルール変更だと言われています。学童野球(アマチュア野球規則)では、もともとこうしたルールになっています。予めホームベースを隠していなければオブストラクションは取られませんから、学童野球の場合、捕手は、捕球後ミットを回して追いタッチする形ではなく、捕球後身体を走路側に移動して、ミットで走者の身体にタッグして良いのです。

2016ヤクルト春季キャンプで、外側に滑りながら手でベースタッチする荒木(24)と左手でタッグする中村捕手
同じような表現ですが、プロ野球(公認野球規則)と学童野球(アマチュア野球規則)ではここに違いがあるのです。タイミングアウトの場合、ミットを回すより身体を移動するほうがアウト確率が高いのですが、プロ野球では走路をふさいではいけないので追いタッチしか出来ません。「追いタッチ」ではなかなか審判は「アウト!」コールをしてくれません。学童野球では捕球後走路に入ってもオブストラクションにはなりません。捕球してから本塁の上に居てもオブストラクションにはならないのです。
 捕手が送球を待つ立ち位置が重要です。走者は三塁からホームベースめがけて走ってきますので、捕手はボールを持っていない状態で、少なくともランナーからホームベースの三塁側半分が見える状態にしていなければなりません。ランナーから見て本塁が見えるようにとホームベースをまたいだ形でもボールを持っていなければ走塁妨害(オブストラクション)です。これについては、仙台市青葉区の吉成野球スポーツ少年団が良いパンフレットを作っていますのでご覧下さい→クリック(PDF)

■ 本塁クロスプレイにおけるインターフェアとオブストラクション
 走者が本塁めがけて走ってきて、明らかに捕手にぶつかったらインターフェア・アウト(守備妨害)です。ところが捕手がランナーの走塁を妨害したというオブストラクションが適用されることも有ります。この違いは?捕手がボールを持っていない状態では走塁妨害が多く、持っている捕手にわざとぶつかったら守備妨害です。学童野球の場合に微妙なのは、本塁でのクロスプレイにおいて、捕手が送球を受けて走者にタッグしたとき、その送球の方向や軌道、バウンドに反応した結果走者の走路を防ぐ結果になった場合や、捕手が送球を受けて本塁をブロックしなくても走者はタッチアウトになったであろうと審判が判断した場合はオブストラクションが適用されないということです。したがって審判の判断は微妙なプレイのときに難しいというのは以前から言われていて、過去本塁上でのオブストラクションはあまり取られなかったのですが、プロ野球で話題になっているのでにわかに注目されています。今プロ野球でもめているのは、まさにこの部分です。以前は捕手が本塁を隠してブロックした場合に適用されましたが、今は走路の途上に居ただけで適用されるため、捕手はインフィールドに居て追いタッチするしかないのが今のプロ野球で、「野球がつまらなくなった」というブーイングや、3球団からの抗議が来て、日本野球機構は、早ければオールスター明けの後半戦から「コリジョンルール」を見直すと2016年6月29日発表しました。

■ 2013年にアマチュア野球内規に危険防止ルールが追加されました
 実は2013年のアマチュア野球規則改定で危険行為が禁じられたので、学童野球でもより厳しく判定されるようになって本塁上でのオブストラクションがよく見られるようになってきました。プロ野球で「コリジョンルール」が話題になってから、さらにそれが加速されているかもしれませんが、上で書いたように、プロ野球ではいきなり、より厳しくなったため、これまで慣れ親しんできた野球との違和感が問題になっているようです。
 2013年の第85回選抜高校野球大会第9日、大阪桐蔭−県岐阜商戦で、9回裏に2死1、2塁から福森の中前打で大阪桐蔭の2塁走者峯本がホームで待ち構える神山捕手に激突して吹っ飛ばしたプレーで捕手は落球しましたが、主審は守備妨害(捕手に対する走者のインターフェア)を宣告してランナーアウト、大阪桐蔭の負けが宣告されました。大阪桐蔭の西谷浩一監督は高野連から厳重注意処分を受けました。
 日本アマチュア野球規則委員会は選手の安全を確保する目的で、2013年2月の改正でアマチュア内規に危険防止ルールを追加しました。本大会ではこの試合以外にもラフプレーで注意処分を受けた高校が発生しました。審判が乱暴な接触を故意とみなした場合は「たとえ野手がその接触によって落球しても走者にはアウトが宣告される」と明記されました。これによって、ボールを持って待ち構えている野手にぶつかったら、まず間違いなくインターフェア・アウト!です。実はこのルール、この日も3番として打線の中軸を担うことを期待されていた大阪桐蔭の森主将(現埼玉西武ライオンズ)が、2012年9月のU18世界選手権2次ラウンド・米国戦(於ソウル)で、2度も米国選手の強烈なタックルを浴び、負傷したことから制定されたもの、この試合では前日の練習中に右ふくらはぎを負傷して無念の欠場でしたから、目の前で味方がインターフェア・アウト!皮肉です。
2013年アマチュア野球内規(pdf)
2013年〜アマチュア内規に危険防止ルール追加

大阪桐蔭走者の峯本が神山捕手に体当たり、落球

■ プロ野球で「コリジョン・ルール」が何故問題になるのでしょうか?
 日本野球機構(NPB)が本塁上での衝突プレーを禁止した「コリジョン・ルール」を見直ことで、既に審判部と規則委員会が同ルール見直しの検討を12球団に報告しました。規則を改正するのではなく、捕手などがボールを持たずに走者の走路に入ったかどうかについて審判の判断基準を緩和する方針とのこと。
 今季から導入された同ルールの判定をめぐっては、阪神、西武、ヤクルトから意見書や質問書が提出されるなど混乱が生じていました。プレーする側も判定する側も難しいルールであることから、運用や判定に対して否定的な意見も出されています。
 ルール自体は、捕手を含めた守備側の選手が走者の走路をふさいでブロックすればセーフ、走者が故意に守備側の選手へ接触した場合にはアウトが宣告され、当該の選手に警告が与えられます。選手の故障防止が目的であり、ルール導入の起点にあるのは選手会や球団からの要望だったという点で、ルールの運用方法決定には選手や球団の意見も取り入れられているのに何故問題になるのでしょうか?

■ 張本さんの「サンデーモーニング・週刊御意見番」での発言が大きい
 野球解説者の張本勲氏がレギュラーコメンテーターを務めるTBS系「サンデーモーニング」(日曜午前8時)の人気コーナー「週刊御意見番スポーツ」で、「コリジョン・ルール」に反対の意思を表していることが大きいようです。
 張本氏はブロック禁止の新ルールを「コリジョンルールという」と紹介しながら、昨シーズンまでなら、捕手は本塁上の一角を開けながら他の部分をふさぐ形で野手からの送球を受けることができましたが、走者が外国人選手の場合、アウトのタイミングでもほとんどの選手が捕手めがけて体当たりをし、自身も現役時代は体当たりしていたことを述懐しました。今季はけが防止のために、捕手はホームベースを開けて前に出てラインの内側で送球を受け、その後に本塁を突く走者にタッチをしなくてなならなくなったことで、「(捕手が)追いタッチをしなければならないし、うまい走者は外回りをする。特にスクイズは成功する。こんなルールをよく作ったね。私は反対だよ。ぶつかってね、ケガは付きものよ。逆にスリルがあって迫力があるんですがね。意図的にぶつかったのをアウトにすればいいんですよ、アンパイアがね。ちょっと難しくなりますよ、このルールは」などと言っていました。張本氏のおっしゃる体当たりはインターフェアになりますから絶対許されない危険行為ですが、捕手が昨年までなら身体で走者を防ぐタッグプレーで「ナイスプレイ!」と言われていたのが、今年からはオブストラクションでランナーセーフとなるため、追いタッチしなければならないのがつまらないというわけです。

■ 実際に今期プロ野球で問題となった事例
【事例1】5月11日の甲子園での阪神−巨人戦で、巨人1点リードの3回表、2死二塁から脇谷亮太の打球はセンター前へ、これを阪神のセンター・大和がさばき、本塁へ矢のような送球...ボールは二塁走者・小林誠司が本塁へ滑り込む前に捕手・原口文仁に届き、待ち構えるようにしてタッチ、アウトでイニング終了・・・・と思いきや、リプレー検証の結果「コリジョンルール」が適用され、一転オブストラクション→セーフになりました。原口が禁止されている走路の封鎖を行ったこと、これが同ルール適用の理由でした。
 結局この後も巨人打線がつながり、ジョーンズの適時打で脇谷も生還。昨季までなら入っていない“おまけの1点”を取った巨人がそのまま試合を制し、「コリジョンルール」の存在感の大きさを感じさせました。

【事例2】6月14日のセパ交流戦、マツダスタジアムでの西武−広島戦、2―2で迎えた9回、中前打で本塁に突入してきた広島・菊池への捕手・上本のタッグプレーがアウトと判定されてサヨナラのピンチを脱したかのように見えましたが、広島側が球審に抗議し、約10分のリプレー検証の末に判定が覆って、史上初のコリジョンルールの適用によるサヨナラゲームとなりました。お祭り騒ぎの広島ベンチはもちろん、球場を埋め尽くしたファンの歓声に、普段は温厚な西武・田辺監督が、眉間にしわを寄せながら怒りを爆発させていました。「あれじゃ野球にならないよ!」。報道陣に不満をぶちまけても怒りは収まりません。チーム関係者は「あそこまで荒れている監督を見たのは初めて。怖かったよ」と言ったそうです。翌日西武は球団名でNPBに対して判断基準に対する質問書を提出しました。

【事例3】まさにその日、広島から約7百キロ離れた東京でも「コリジョン騒動」が起きました。ヤクルト―ソフトバンク戦(神宮)ではリプレー検証の結果、コリジョンルールが適用されなかったことにヤクルト側が猛抗議、真中監督も激怒し、西武と同様に質問書が提出されました。

 話を西武に戻しますと、サヨナラ負けから一夜明け、田辺監督は穏やかな表情に戻り、「審判もかわいそうなところはあるけどな」という前置きをしてから、持論を語りました。「今年のルールだと走路上に入ったら全部アウトという解釈なんだろうね。でもさ、審判はもっと判断に幅を持たせないと。明らかに危険なプレーは確かにダメだけど、危険だとは思えないプレーならこれまで通りの判定でいいんじゃないか。昨日の上本のプレーだって、1年前ならスーパープレーと褒められるプレーだし、どちらもケガをするようなプレーではなかった。もちろん、ケガは避けなければいけないけど、野球の醍醐味でもある一瞬の攻防まで無くしちゃいけないよ」
 もちろん審判もプロとして最善のジャッジを心がけているでしょうが、ビデオで何度も放映されたのを見て、田辺監督の意見はもっともだと思いました。これまで長く野球を見てきた筆者から見ると、どう見てもタッチアウトでしたね。
 「コリジョンルール」について、野球規則では下記のようになっています(要約)
1.走者の捕手または野手への体当たり禁止
2.捕手または野手の走者へのブロック、走路の封鎖禁止
3.送球が逸れる等やむを得ない場合、捕手または野手の走路侵入は許されるが、走者と激しい接触を避ける努力をする
4.球審が悪質で危険な衝突と判断した場合には、該当選手に警告または退場処分を下す
 以前は捕手が送球を待ち構えながら、走者の本塁侵入をレガース等で阻む行為(つまりブロック)が当たり前でした。しかし、「コリジョンルール」導入後はブロック禁止になり、捕手は走者に直接ミットで触れて刺殺する必要が出てきました。走路を塞いではいけないので、主に捕手の立ち位置と動きが大きく変わることから、同ルールは走者が本塁を狙う機会が増え、全体的に得点機も増えることが開幕前から想定されていました。
 
5月11日の阪神―巨人戦、巨人走者・小林誠がホーム突入タッチアウトの判定、リプレー検証後セーフに反転、ボールがまだミットの手前にありますから、阪神・原口捕手(94)の位置は明らかなオブストラクションですね


6月14日の西武−広島戦、2―2で迎えた9回裏、中前打で本塁に突入してきた広島・菊池(33)、西武捕手・上本のミットにボールが納まっています


広島・菊池(33)は回り込んで身体を右回転させて右手でホームベースタッチに行きました、西武捕手・上本(49)はミットを回してタッグプレー、位置関係から見ますと走塁妨害しているようには見えません

■ 運用基準見直しでは、実際に衝突が起きたかどうかを判断基準とする模様
 日本野球機構(NPB)の運用基準見直しでは、実際に衝突が起きたかどうかを判断基準とするようです。シーズン途中に運用を見直す背景には、判定を不服とした球団からNPBに意見書や質問書が提出される事態が相次いだためです。5月11日の阪神―巨人戦(甲子園)では、阪神・原口捕手が走路に入ったとされ、判定がタッチアウトからオブストラクション→セーフに覆りましたが、実は審判員の間でも意見が分かれたのだそうです。「余裕を持ってタッチアウト」に見えたところが物議を醸した理由でしょうが、上の写真から見ると、筆者はオブストラクション→セーフで良いと思います。
 優勝がかかったシーズン後半やポストシーズンに向け「このままでは、どう判定しても疑義が生じる」との声も出てきたので、NPBは検討材料として、コリジョンルールによるリプレー検証を行った今季全11件をDVDにまとめ、各球団やプロ野球選手会に送りました。関係者によりますと、タッチアウトからオブストラクション→セーフに覆った4件のうち、新基準では3件は適用外になるそうです。6月14日の西武−広島戦(マツダ)はまさにこの適用外事例で、オブストラクション→セーフではなく、タッチアウトにすべき事例です。シーズン途中の見直しには、現場から賛否の意見があり、同ルール適用によるサヨナラ負けを喫した西武の田辺監督は「捕手の動きを見て、しっかりとした判断をしてもらいたい。(見直しは)当然」と話しますが、一方で、捕手出身のロッテ・伊東監督は「一年間貫き通すことが大事。コロコロ変えてしまうと対応できない」と言います。ある選手は「一度決めたものを変更すれば、戸惑う部分は絶対にある。見直すなら選手会とNPBがしっかりと話し合って、来季から新ルールでやった方がいい」と否定的な考えを語りました。
 プロ野球がアマチュアと同じようなルールで運用すれば良いことであって、NPBの運用基準見直しは時宜を得た適切なものと思います。衝突が起きないような事例までオブストラクション→セーフにしたら、野球がつまらない、張本氏の言う通りで、「スポーツ」とは武器を持たぬ戦いですから、今年いきなり適用したルールが極端だったわけです。

■ リオ五輪が近付いて来ました
 2016年6月26日陸上リオ五輪代表選考会兼日本選手権最終日(愛知・パロ瑞穂)で、福島千里が優勝しました。この人の笑顔、本当に良いですね、もう28歳になりました。女子200メートル決勝で、自らの日本記録を100分の1秒更新する22秒88で、歴代最多に並ぶ6連覇を達成し、リオ五輪代表に内定しました。100メートルと合わせ6年連続2冠というのは、傑出した選手だということです。割れた自慢の腹筋に模様が入っていました。腹部に張られているのは、天然鉱石をブレンドした磁気シールだそうです。血行を良くして筋肉の動きを良くする効果があるそうで、一説に寄れば、そのように信じると実際に記録がよくなる心理的効果では?とも言われます。

よろこびの福島千里


■ 訃報…ラジオの巨人とテレビの巨人死す

 放送作家の草分け的存在でタレント・作家の永六輔(本名・孝雄)さんが7月7日に83歳で死去されたそうです。坂本九さんが歌って日米で大ヒットした「上を向いて歩こう」や梓みちよの「こんにちは赤ちゃん」を作詞しました。脚本を書いたり、自らも出演し、独特の早口なしゃべりで人気を博しました。TBSラジオ・・・楽しいしゃべりでした。1994年に発表した「大往生」は200万部を超える大ベストセラーとなりました。2010年にパーキンソン病と診断され、前立腺がんであることも分かり治療を続けていました。角刈りと長い顔が特徴でした。
 「11PM」などの人気番組の司会者として活躍し、がんで闘病していたタレント、大橋巨泉(本名・克巳)さんが7月12日に82歳で死去されました。妻の寿々子さんが「どうぞ大橋巨泉の闘病生活に“アッパレ!”をあげてください」とするコメントを発表したことで分かりました。2005年に胃がんを患って以降、がんの手術を繰り返し、闘病生活を送っていましたが、今年4月に入院し、5月下旬からは集中治療室で治療を続けていたそうです。死因は急性呼吸不全となっていますが、最後に受けたモルヒネ系の鎮痛剤の過剰投与のためのようです。
 このお二人は60年以上前からの友人だったそうです。男はこの年齢辺りが一般的限界みたいですね


永六輔さんと大橋巨泉さん・・・徹子の部屋「40周年突入ウィーク」4日目のゲストでした
2016年2月4日放送・・・永六輔さんが出るならばと大橋巨泉さんが駆けつけてくれました

(2016年7月20日)


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