175 コリジョン・ルール
第98回全国高校野球選手権大会、いわゆる「夏の甲子園」の出場校を決める地方大会が今盛んに行われています。沖縄では早くも代表校が嘉手納に決まりました。主催する朝日新聞のホームページにその状況が掲載されています。蝉時雨前の熱い夏、筆者も夢中です。かつての我が少年野球チームの選手たちが甲子園目指して戦っているのです。応援しないわけにはいきません。
捕手が送球を待つ立ち位置が重要です。走者は三塁からホームベースめがけて走ってきますので、捕手はボールを持っていない状態で、少なくともランナーからホームベースの三塁側半分が見える状態にしていなければなりません。ランナーから見て本塁が見えるようにとホームベースをまたいだ形でもボールを持っていなければ走塁妨害(オブストラクション)です。これについては、仙台市青葉区の吉成野球スポーツ少年団が良いパンフレットを作っていますのでご覧下さい→クリック(PDF)。 ■ 本塁クロスプレイにおけるインターフェアとオブストラクション 走者が本塁めがけて走ってきて、明らかに捕手にぶつかったらインターフェア・アウト(守備妨害)です。ところが捕手がランナーの走塁を妨害したというオブストラクションが適用されることも有ります。この違いは?捕手がボールを持っていない状態では走塁妨害が多く、持っている捕手にわざとぶつかったら守備妨害です。学童野球の場合に微妙なのは、本塁でのクロスプレイにおいて、捕手が送球を受けて走者にタッグしたとき、その送球の方向や軌道、バウンドに反応した結果走者の走路を防ぐ結果になった場合や、捕手が送球を受けて本塁をブロックしなくても走者はタッチアウトになったであろうと審判が判断した場合はオブストラクションが適用されないということです。したがって審判の判断は微妙なプレイのときに難しいというのは以前から言われていて、過去本塁上でのオブストラクションはあまり取られなかったのですが、プロ野球で話題になっているのでにわかに注目されています。今プロ野球でもめているのは、まさにこの部分です。以前は捕手が本塁を隠してブロックした場合に適用されましたが、今は走路の途上に居ただけで適用されるため、捕手はインフィールドに居て追いタッチするしかないのが今のプロ野球で、「野球がつまらなくなった」というブーイングや、3球団からの抗議が来て、日本野球機構は、早ければオールスター明けの後半戦から「コリジョンルール」を見直すと2016年6月29日発表しました。 ■ 2013年にアマチュア野球内規に危険防止ルールが追加されました 実は2013年のアマチュア野球規則改定で危険行為が禁じられたので、学童野球でもより厳しく判定されるようになって本塁上でのオブストラクションがよく見られるようになってきました。プロ野球で「コリジョンルール」が話題になってから、さらにそれが加速されているかもしれませんが、上で書いたように、プロ野球ではいきなり、より厳しくなったため、これまで慣れ親しんできた野球との違和感が問題になっているようです。 2013年の第85回選抜高校野球大会第9日、大阪桐蔭−県岐阜商戦で、9回裏に2死1、2塁から福森の中前打で大阪桐蔭の2塁走者峯本がホームで待ち構える神山捕手に激突して吹っ飛ばしたプレーで捕手は落球しましたが、主審は守備妨害(捕手に対する走者のインターフェア)を宣告してランナーアウト、大阪桐蔭の負けが宣告されました。大阪桐蔭の西谷浩一監督は高野連から厳重注意処分を受けました。
■ プロ野球で「コリジョン・ルール」が何故問題になるのでしょうか? 日本野球機構(NPB)が本塁上での衝突プレーを禁止した「コリジョン・ルール」を見直ことで、既に審判部と規則委員会が同ルール見直しの検討を12球団に報告しました。規則を改正するのではなく、捕手などがボールを持たずに走者の走路に入ったかどうかについて審判の判断基準を緩和する方針とのこと。 今季から導入された同ルールの判定をめぐっては、阪神、西武、ヤクルトから意見書や質問書が提出されるなど混乱が生じていました。プレーする側も判定する側も難しいルールであることから、運用や判定に対して否定的な意見も出されています。 ルール自体は、捕手を含めた守備側の選手が走者の走路をふさいでブロックすればセーフ、走者が故意に守備側の選手へ接触した場合にはアウトが宣告され、当該の選手に警告が与えられます。選手の故障防止が目的であり、ルール導入の起点にあるのは選手会や球団からの要望だったという点で、ルールの運用方法決定には選手や球団の意見も取り入れられているのに何故問題になるのでしょうか? ■ 張本さんの「サンデーモーニング・週刊御意見番」での発言が大きい 野球解説者の張本勲氏がレギュラーコメンテーターを務めるTBS系「サンデーモーニング」(日曜午前8時)の人気コーナー「週刊御意見番スポーツ」で、「コリジョン・ルール」に反対の意思を表していることが大きいようです。 張本氏はブロック禁止の新ルールを「コリジョンルールという」と紹介しながら、昨シーズンまでなら、捕手は本塁上の一角を開けながら他の部分をふさぐ形で野手からの送球を受けることができましたが、走者が外国人選手の場合、アウトのタイミングでもほとんどの選手が捕手めがけて体当たりをし、自身も現役時代は体当たりしていたことを述懐しました。今季はけが防止のために、捕手はホームベースを開けて前に出てラインの内側で送球を受け、その後に本塁を突く走者にタッチをしなくてなならなくなったことで、「(捕手が)追いタッチをしなければならないし、うまい走者は外回りをする。特にスクイズは成功する。こんなルールをよく作ったね。私は反対だよ。ぶつかってね、ケガは付きものよ。逆にスリルがあって迫力があるんですがね。意図的にぶつかったのをアウトにすればいいんですよ、アンパイアがね。ちょっと難しくなりますよ、このルールは」などと言っていました。張本氏のおっしゃる体当たりはインターフェアになりますから絶対許されない危険行為ですが、捕手が昨年までなら身体で走者を防ぐタッグプレーで「ナイスプレイ!」と言われていたのが、今年からはオブストラクションでランナーセーフとなるため、追いタッチしなければならないのがつまらないというわけです。 ■ 実際に今期プロ野球で問題となった事例
■ 運用基準見直しでは、実際に衝突が起きたかどうかを判断基準とする模様 日本野球機構(NPB)の運用基準見直しでは、実際に衝突が起きたかどうかを判断基準とするようです。シーズン途中に運用を見直す背景には、判定を不服とした球団からNPBに意見書や質問書が提出される事態が相次いだためです。5月11日の阪神―巨人戦(甲子園)では、阪神・原口捕手が走路に入ったとされ、判定がタッチアウトからオブストラクション→セーフに覆りましたが、実は審判員の間でも意見が分かれたのだそうです。「余裕を持ってタッチアウト」に見えたところが物議を醸した理由でしょうが、上の写真から見ると、筆者はオブストラクション→セーフで良いと思います。 優勝がかかったシーズン後半やポストシーズンに向け「このままでは、どう判定しても疑義が生じる」との声も出てきたので、NPBは検討材料として、コリジョンルールによるリプレー検証を行った今季全11件をDVDにまとめ、各球団やプロ野球選手会に送りました。関係者によりますと、タッチアウトからオブストラクション→セーフに覆った4件のうち、新基準では3件は適用外になるそうです。6月14日の西武−広島戦(マツダ)はまさにこの適用外事例で、オブストラクション→セーフではなく、タッチアウトにすべき事例です。シーズン途中の見直しには、現場から賛否の意見があり、同ルール適用によるサヨナラ負けを喫した西武の田辺監督は「捕手の動きを見て、しっかりとした判断をしてもらいたい。(見直しは)当然」と話しますが、一方で、捕手出身のロッテ・伊東監督は「一年間貫き通すことが大事。コロコロ変えてしまうと対応できない」と言います。ある選手は「一度決めたものを変更すれば、戸惑う部分は絶対にある。見直すなら選手会とNPBがしっかりと話し合って、来季から新ルールでやった方がいい」と否定的な考えを語りました。
(2016年7月20日) |