162 トランプ旋風
熊本県で大地震が起きて被害が出ています。このESSAYや前身のつぶやきでは度々災害に触れ、地震についても書いています。それは、東大で開かれていた「防災事例研究会」に出ているうちに知り得た様々な知見に基いてのものでした。日本列島は、どこでも地震の被害に遭う可能性があります。明日はわが身です。心しましょう。 ■ 平成28年熊本地震 熊本県で2016年4月14日21時46分頃、震度7の地震が起きて益城町を中心に住宅が倒壊、死者が出ましたが、その後も余震が続いて大変だと思っていたら、ナント16日午前1時25分頃熊本県熊本地方を震源とする地震があり、熊本市や同県菊池市などで震度6強の揺れ、地震の規模を示すマグニチュード(M)は7.3と推定され、1995年の阪神大震災級とのことです。気象庁は14日の震度7の地震が前震で、16日のM7.3の地震が本震と発表しました。午前3時55分頃頃にも、同県阿蘇地方で震度6強の地震があり、福岡県で震度5強、愛媛県では5弱を観測するなど、九州から中・四国地方の広い範囲で強い揺れがありました。阿蘇市で家屋が多数倒壊、南阿蘇村ではアパート1階部分がつぶれたほか、宇土市では市役所が半壊しました。その後震源域は大分県にも移り、午前7時11分ごろ、大分県由布市で震度5弱の地震があった他、九州各地を不安に陥れる地震が続いて死者が増えています。 ■ 地震のタイプで建造物被害に差 今回の地震で建物が多く倒壊しているのに、M9.0の東日本大震災ではそれほど建物の被害は無く、津波による被害が甚大でした。近年で震度7の揺れは1995年1月の阪神大震災、2004年10月の中越地震、そして2011年3月の東日本大震災です。東日本大震災は宮城県沖の海溝型だったのに対し、阪神や中越、そして今回は断層のズレです。地面が横ズレしたら、普通の建造物ではひとたまりもありません。むしろ堅固なキューブみたいなものが地面の上に置いてあるような構造ならば、中の物は揺れても構造物はポンポン跳ねるだけで壊れないかもしれません。断層型の場合は、地表にクッキリと地盤の割れ、隆起、段差が現れることが多くあり、今回はその典型です。 ■ 日本に数多く分布する断層 熊本県熊本地方、阿蘇地方、大分県で規模の大きな地震が相次いでいるのは、連動しているわけではなく、三つの地域で別々の地震が同時多発的に発生していると説明されています。ただ、地下のひずみがギシギシと修正されたら、それが伝播して遠い場所にエネルギーとして伝わるでしょうから、連動していないとしても関連していると考えるべきでしょう。九州の断層帯は日本の他の地域と同じようなものでそれほど多いわけではありません→コチラに詳しく載っています。数多く集中しているのは日本中部、糸魚川構造線の西側、北陸、長野、東海、近畿地方です。ウジャウジャと断層があります。 筆者が「防災事例研究会」で聞いた話では、日本どこでも地震の危険は存在しますが、足元の揺れは地盤によって大分異なるとのことです。例えば東日本大震災で震度7の強さを記録した宮城県栗原市は、とにかく揺れやすい地域です。関東にもそういう地域は存在しますが、特に東京はすり鉢の上にプリンを置いたような地域なので揺れやすいのです。関東は「関東ローム層」という岩盤で覆われているため、その下部の地盤のことは詳しく分かっていません。筆者の住む地域は、中央構造線と立川断層の間で、東大地震研究所の発表では、関東で最も揺れにくい地域です。しかし立川断層が本格的にずれたらわかりません。ただし断層型の場合はほんのちょっとの差で、まるで被害が異なります。竜巻と同じように、線状に被害が表れます。 ■ 暴言王トランプの凄さ、恐ろしさ 米大統領選で予想外に健闘している不動産王ドナルド・トランプ、大統領になる品格も、知識も経験も無いと思われるヒトが、なぜこれほどまでに熱狂的支持者を生み、旋風を巻き起こしているのでしょうか。むちゃくちゃな「暴言王」で、その発言は虚言、妄言、失言であふれかえっているように思うのですが、それを「面白い」と言うのではなく、「その通りだ」と多くの有権者がどうも思っているようなのです。女性蔑視、外国人差別、障害者差別の発言を次々と繰り出すのですが、メディアがこぞって叩いても、批判しても、トランプの熱狂的支持者はびくともしません。彼の人心扇動術の凄さ、恐ろしさがここにあります。 ■ トランプ旋風を甘く見てはいけません 米国におけるトランプ旋風を「日本では有り得ない」とほぼすべての日本人は思っているでしょうが、過去の歴史を見ますと、アメリカで起きたことはやがて日本にも来ます。したがってトランプ旋風を甘く見てはいけません。トランプはとにかく他人を誹謗し、自己礼賛する究極のナルシストです。普通に考えれば、最もイヤなヒトです。全く根拠も真実味もないことでも、最大級の自信で断言してみせる稀代のホラ吹きですが、そこに人々は惹きつけられます。トランプの言葉はとにかくわかりやすく、シンプルなキャッチフレーズを駆使し、同じようなセリフを何度も繰り返します。これは聞いている人々にジワジワ浸透する、最も効果的なアジテーションです。具体的な戦略も案も示さず、「なぜ、できるのか」と問われれば、「それは俺だから」と切り返すのです。 ■ 支持者を褒め讃えるトランプ
■ 寛容の非寛容 「彼は本音を言う」・・・多くのトランプ支持者がその理由を聞かれた時、最も多く出る声です。日本でも、最近はセクハラ、マタハラ、パワハラなどを危惧して、「言ってはいけないワード」が激増しています。要するに差別的な発言はいけない、ということですネ。弱者やマイノリティに対して、寛容であろうとする故に、逆に「タブー」が増え、言語的な制約や、タブーを犯したものへの容赦ない攻撃を生むという現実があります。これを「寛容の非寛容」というのだそうです。しかしこれに反発を感じる人もまた増えているのです。そこに登場したトランプが、まるでヘイトスピーチのように、イスラム教徒や移民に対する差別意識をむき出しにして攻撃する姿に、溜飲を下げる人が少なからずいる、ということです。誰の心にも実はあるかもしれない「小さな差別意識」や「他者への怒り」そして「ねたみやそねみ」。そのマグマのかけらをかき集め、導火線をつけ爆発させたのがトランプなのです。 ■ 米国と日本では民族性が違う 米国では銃による大量殺人事件が起きるたびに、銃規制ではなく、銃を持つ正当性の支持率が上がります。そもそも民族性が日本とは違うのです。狩猟民族と農耕民族の違いです。狩をしてその肉を食うのは、手っ取り早く今すぐ食糧を得られます。そのために有用なのが銃です。逆に襲われたら身を守るために銃を持って反撃する必要があります。農業は、土を耕し、種を撒いて、水をやって、肥料をやって、育つのを待って収穫します。その過程で多くの人が助け合って作業するので部落と言うものが生まれます。共同とか協力がどうしても必要です。だから日本人は個々では弱くても、集団になると強い力を発揮するのです。そんな日本人を伝統的な米国人は尊敬するでしょうか?肥えたものを狩る、力で奪い取ることが正当だと考える人々にとっては良い獲物です。先日米国のケリー長官が広島で献花し、原爆ドームを視察しました。5月のサミットではオバマ大統領も、と言う話も出ています。しかし、米国人の多くは広島、長崎に原爆投下したことを悪いとは思っていません。米国での世論調査の結果に明確に出ています。日本が逆らったから懲らしめてやったと思っているのです。トランプはそれをハッキリ言っているだけです。 ■「謝るが勝ち」に変質した日本社会 ひるがえって日本ではどうでしょうか?最近目立つのは、ズバリ“謝罪”です。男子バドミントンの桃田賢斗選手と田児賢一選手、読売巨人軍の高木京介投手、ベッキー、宮崎謙介議員、五体不満足、そしてショーンK・・・・毎月誰かが謝っている気がします。毎度気になるのは、謝る人と、そうさせずにはおかない日本社会です。彼らに対して本気で怒っている人よりも、ゴシップを楽しんでいる人が大多数なのではないかという気がしますが、ネットでアンケートを取るとやはり彼らが悪いと言う人が多数になります。 「謝るが勝ち」最近では、そういう風潮が蔓延しています。千葉の姪が女の子を産んだので、お祝いに行こうと4月16日車で川越街道を南下し、膝折坂を下って底部から再び上って平らになったところに朝霞警察署がありました。女の子を監禁した容疑者はここに居るんだなと思いました。女子中学生誘拐監禁事件の容疑者が通っていた千葉大学は謝罪に先んじた対応を行いました。容疑者の学位授与を取り消し、卒業を留保する判断を下したのです。法学部の教員からは、違法性の高さを指摘されていましたが、事件の異常性が極めて高かったこともあり、その飛び火を防止するつもりなのでしょう。千葉大がそこまでビクつくのは、日本が“炎上”だらけの怖い社会になってしまったからです。なにかしくじったら、深々と謝罪をし、長期の低迷を余儀なくされます。しかしそれ以上に怖ろしいのは、謝罪しないことで炎上がネットで際限なく拡大し、再起不能の大ダメージ――一発レッドカードを喰らうことです。それなら、早く謝罪するに限る、イエローカードに留めたほうが良いということなのです。こうした日本社会の変質に恐さを感じます。 ■ トランプの支持層「草の根保守」 さて再びトランプの話に戻りましょう。彼はこう言っています。「米国が日本や韓国を守っているのに、彼らは米国を助けず、クルマを売り込んでくる。これはフェアじゃないぜ!」これは米国の「草の根保守」の人たちのホンネです。「草の根保守」の人たちは伝統的な共和党支持層で、多くはアメリカ南部や中西部の農村地帯に住み、歴史的には19世紀の「西部開拓農民」にまでさかのぼります。政府からまったく支援を得ることなく、自分の努力と才覚だけで先住民(インディアン)と戦って、荒野を切り開いてきた人たちです。正当防衛のために個人が銃をもつのは当然の権利と考え、銃規制に反対するのもこの人たちです。彼らは国のために外国で戦って死ぬのは、ナンセンスと考えます。トランプの支持基盤、経済的には中間層です。 「草の根保守」は「ティーパーティー」とも呼ばれます。ティーパーティーという言葉でアメリカ人が思い出すのは、「ボストン・ティーパーティー」。アメリカが植民地時代、イギリスが課した茶への重税に抗議する人たちが、ボストン湾に茶を投げ捨て、「ティーパーティー」(茶会)と称した事件です。独立運動のきっかけになった重大な事件です。アメリカ建国の理念を示す言葉でもあります。オバマ政権に反対する保守派の人たちが、「大きな政府」に反対する集会を開く際、集会を「ティーパーティー」と呼びました。この言葉が、多くのアメリカ人の心をつかみました。自分たちより社会階層が上のエリートに反感を持ち、自分たちより下の社会階層によって自分たちが脅かされていると危機感を抱く人たち・・・現代版ファシズムの萌芽ですね。 ■ もうひとつの共和党支持層「福音派」 もうひとつの共和党の基盤は「福音派」です。ピューリタンといわれるイギリスの新教徒の一派が迫害されて大陸にたどり着いたのが、アメリカの始まりです。メイフラワー号で渡った102人を「ピルグリム・ファーザーズ」(巡礼の父祖)といいますが、彼らは米国に自分たちの信仰を実現する理想国家(=神の国)を作りたかったのです。彼らの考え=ピューリタンの信仰は「欲望を避けて質素に暮らし、一生懸命働くことが、神のご意思である」という信仰です。アメリカ大陸を清めるため、先住民(インディアン)を「一生懸命に」追放しました。今回の予備選挙では、共和党の候補者にテッド・クルーズという人がいます。テキサス州選出の上院議員で、不法移民排除などトランプとは政策が重なっていますが、この人が強烈な「福音派」です。彼らはまず、米国という理想国家(=神の国)を作りました。しかし、まわりを見渡してみると、世界には「間違った信仰」・・・カトリックやイスラム教、多神教の国がたくさんあり、これらは「正すべき存在」ということになります。米国人には、米国型の価値観、つまり自由、人権、民主主義を世界中に「布教」すべきだという考え方があるのです。もし相手の国が米国型の価値観を認めない独裁政権である場合には、武力を使ってもかまわないと考えます。第二次大戦のときは、「ドイツと日本のファシズムを打倒し、民主主義を守れ」という名目でしたし、冷戦期は「共産党独裁に対抗して自由と民主主義を守る」という名目でソ連や中国とにらみ合いました。冷戦が終わった後は「イラクの独裁政権」あるいは「テロリスト」から「自由と民主主義を守る」と言ってイラク戦争に勝利した後、ついにはIS(イスラム国)が出現しました。 ■ 「トランプ大統領」は「吉」か「凶」か 戦っても戦っても現れる敵に疲れ果てた米国人は、オバマを大統領に選び、孤立主義に回帰して、紛争から身を避けようとしました。草の根保守の「孤立主義」と、福音派的「介入主義」、米国外交はこの間を振り子のように揺れ動いてきましたが、ちょっと一服している間にISが台頭して、オバマもまたテロ撲滅に立ち上がらざるを得なくなりました。 共和党の支持基盤のもうひとつは軍需産業です。共和党の支持基盤はいま分裂しています。国防費で利益を得る軍需産業は基本的に戦争を望みます。イラク戦争のあと大きな戦争もなく、戦闘機やミサイルの在庫がたまっているはずです。このあたりで共和党に政権を取らせて…と考えているでしょう。戦争はコレまで米国の外で行われてきました。兵士はたくさん死にましたが、民間人は直接被害を受けていません。広島、長崎の原爆投下も東京大空襲も、アフガニスタン、イラク、シリアも米国人には現実的ではありません。2001年9月11日の同時多発テロ事件はアメリカ合衆国内で発生した現実的な恐怖でした。そして今北朝鮮が米国本土に到達し得る核ミサイルを開発中、実験中、これは黙ってはおられません。 トランプの立場は、今のところ「草の根保守」の立場です。しかし、オバマ政権8年間の間、急ピッチで南シナ海の軍事化を進めてきた中国が、これ以上米国を挑発するならば、「トランプ大統領」が取るであろう対応は、オバマとは全く違うものになるでしょう。中国にとって、「トランプ大統領」は「凶」となります。ヒラリーの夫のビル・クリントン政権時代に、チャイナマネーがクリントン家周辺に流れていたと言われています。中国で儲けようとする人たちはヒラリーに政治資金を投入すると思われます。日本は従来通りに、在日米軍に安全保障を肩代わりしてもらい、「平和憲法」を死守して防衛費は制限し、商売だけに専念すればよい、という立場の人たちから見れば、「トランプ大統領」は「凶」となります。逆に、日本は自国の安全保障にもっと責任を持ち、将来の在日米軍や在韓米軍の縮小に備えて防衛費を増大し、むしろ積極的に東アジアの安全に寄与すべきだ、という立場から見れば、「吉」となります。 皆様、どうお考えですか?上で書いた「日本社会の変質」、これはかつてヒトラーの台頭を許したときのドイツ民衆に通じる恐さを感じます。トランプのようなデマゴーグが日本にも登場したら?考えるだに恐ろしいことです。 (2016年4月17日) |