153  リスクオフ

 2回前、筆者は米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年末、予想外の利上げに踏み切った結果、起きるであろう大混乱が起きて、これで米国景気はピークを越えたと書きました。本来は2016年中盤で利上げ、景気が減速して、2017年にはドーンと急降下と予測していたのに、少し早過ぎます。予想とは外れるために有るとは言え、まさか、まさかのパニックとなりました。FRBも日銀も難しいかじ取りを迫られていると言えばフツウのコメントですが、実は米国も日本もそろそろ金融への過度の依存から脱却すべきときではないかと思います。

■ 世界株安の要因のひとつは原油安
 世界株安が止まりません。経済成長への懸念や中銀の政策効果への疑念から投資家は株式を売り、債券や金などの安全資産に殺到しているのです。欧州の一部や日本のマイナス金利を受けて銀行株が下落したことをきっかけに、株安が本格化しました。イエレンFRB議長は2016年2月11日の議会証言で、必要であればFRBもマイナス金利導入を検討すると明言しました。
 株安の要因のひとつは原油安です。米シェールオイル生産の拡大や中東各国の生産過多によって、世界的に石油が供給過剰で、価格の急激な下落が始まりました。原油価格は今や1バレル=29ドルと、およそ13年ぶりの安値水準に落ち込んでおり、アナリストはさらなる下落を予想しています。原油安を受けて、産油国の景気も急速に悪化し、株市場から資金が波が引くように引いて行きました。日本にとっては有り難い原油安ですが、産油国にとってはバブル崩壊なのです。

■ 弱気になっている場面ではない
 ただしFRBのイエレン議長は、米経済は十分力強いと主張し、政策金利を緩やかに引き上げる計画を堅持する可能性を示唆しています。日銀の黒田総裁も足元の景気は底堅いと言っています。市場は底入れを示す投げ売り状態にはまだなっていません。資金フローの変化を狙い、円安株高を狙った日銀のマイナス金利導入は裏目に出た形です。マイナス金利が発表されて2週間で、円の対ドル相場は7%上昇、東京株式市場の日経平均は15%以上下げました。日銀は、金利を更に下げたり、債券買い入れ規模を現行の年80兆円からもっと拡大することも可能ではあります。しかし、投資家たちが日銀の限界を見てしまった以上、これは危険と日本国民の多くは考えるでしょう。最近は、安倍政権が財政支出拡大や労働市場改革で進展を図れないでもがいていることが見えて来ています。日銀も物価上昇2%が全く実現できない状態が続き、黒田総裁と安倍首相の強気のリップサービスは信用されなくなってきています。市場混乱は、安倍首相の経済政策全体を揺るがすリスクをはらんでいると言えるでしょうが、参院選を見据えて、弱気になっている場面ではありません。

JR東日本のカレンダー1月の写真、岩手県の小岩井駅と雫石駅の間を秋田に向かって走るこまち号、筆者のふるさと七ツ森を背に岩手山を見る、左手にスキー場

■ アベノミクス失速?
 日銀の黒田総裁のバズーカ第3弾は不発どころか、為替はものすごいスピードで円高となり、株価は暴落、オイオイ、ちょっと待ってくれよ、という勢いで世界的に経済危機の嵐が吹き荒れています。原油価格はますます下がり、リスクオフ心理から株を売って円や金を買うという動きです。これでアベノミクス失速か?と週刊誌や夕刊紙が書き立てています。こういうときに、ジタバタしてはいけません。ただし、リーマンショックの経験からしますと、実体経済は悪化していないのだから、とタカをくくっているうちに奈落の底へ落ちましたから、カネを持っている投資家たちはジタバタせざるを得ない心境なのです。
 確かに日本の銀行はじめ金融機関は今回のマイナス金利でマインドが冷え込みました。製造業も余りに急激な円高なので焦っています。2月10日に都内の一流ホテルであったパーティで、あるメーカーの社長は、「日経平均株価は1万3千5百円ぐらいまで落ちるのでは」と言っていました。株価の下落や円高は賃上げや設備投資意欲を削ぎます。企業のカネは内部留保に向かい、消費者は安いものに眼が行って、またまたデフレ方向に向かう恐れがあります。しかしもうマネーゲームには距離を置きたいところです。乱高下しているときこそ動かないことです。といっても筆者は市場参加していないのだから関係ないですが、景気は人心ですから明るいほうが良いに決まっています。

■ ウォールストリートジャーナルの見方
 では海外メディアはどう見てるのでしょう。ウォールストリートジャーナルの見方では、「アベノミクスの行き詰まり」と書いています。安倍晋三首相による経済再生計画の核心は、中央銀行の積極的な取り組みが「失われた20年」の経済低迷にあえぐ日本へのショック療法になり得る、という賭けだったが、マイナス金利導入という最も斬新な措置を講じた後も、日本銀行は持続的な景気拡大をもたらすに至っておらず、「アベノミクス」の行き詰まりが示唆されている、と書いています。
 ただし、安倍首相にとって逆風かと言うとそうでもない、とも書いています・・・・有権者は力強い成長を期待しているわけではなく、それを得るのに必要な混乱を伴う変化を恐れているため、公約を実現できない政治家に制裁を加えるようなことはしない、というのが日本国内の状況だ。米国、ドイツ、フランスでは有権者の怒りに訴えかけ、さらにそれを煽る政治家が混乱を生んでいるが、日本の政治は数十年来で最も安定した時期にある。最近の世論調査で、甘利大臣辞任があっても安倍内閣の支持率は50%以上に持ち直しており、連立政権は今夏の参議院選挙で勝利を収める見込みだ。安倍首相の支持率が低下したのは、安全保障関連法の成立を強行した際だけだった。国内企業のトップも市場の混乱を冷静に受け止めている。たとえば、ソフトバンクの孫正義最高経営責任者(CEO)はマイナス金利の導入で景気がいずれ上向くと見ており、「(金利は)ソフトバンクにとっては良い話」だと話した。また、市場の動向が業績にもたらす直接的な影響はあまりないとした。アベノミクスが失敗に終わっても日本経済が崩壊するわけではなく、安倍政権発足前の状態への回帰という穏やかな挫折にとどまるだろう。日本の政府債務残高はGDP比200%以上と膨大だが、金利低下のおかげでさほど差し迫った問題ではないように思える。政府は目下、ほぼ無利息で借り入れができるばかりか、借金をしても投資家から収入を得ることすらできるのだ
 ちょっと皮肉っぽい書き方ですね。ソフトバンクは企業としては巨額の借り入れをしていますから、マイナス金利になったら助かります。円高になっても、製造業は困りますが、サービス業のソフトバンクには無関係です。孫社長が言っていることは当然なのです。ただ、日本への観光客来日や、いわゆる「爆買い」にはものすごい逆風です。借金地獄の日本政府がマイナス金利で潤うという見方など、嘲笑としか思えない書き方です。円高の間に海外旅行でも楽しみますか。
(2016年2月13日)


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