129  中国危機

 猛暑から急に寒くなりました。台風が秋雨前線を誘引したのでしょう。2015年8月28日、気象庁から、北日本と東日本の日照不足に関する全般気象情報(第1号)が発表されました。北日本、東日本では8月12日頃から日照時間の少ない状態が続いています。この状態は今後2週間程度は続く見込みです。日照不足で野菜の成長や多湿による病気の発生が心配されるほか、稲穂が垂れている時期に米が十分に熟成されるかなどが心配です。

■ 中国発の株暴落
 この10日間、世界の株式市場は大揺れでした。前回日経平均は1万9千円を割れるだろうと書きましたが、1万8千円割れまで行きました。8月10日に2万800円台で、25日には1万7千800円台ですから、2週間で3千円も下がったわけです。この暴落はとりあえず収まりましたが、世間では中国バブル崩壊とか盛んに言われ、日銀の黒田総裁は「そんなことはない」ときっぱりと否定しました。
 6月中旬からの上海株下落で、中国は官民合わせて少なくとも4兆元(約80兆円)の資金を投じて株価下支え策を続けましたが、個人投資家が大半の上海市場では、疑心暗鬼が広がって、下落が収まりません。「市場をゆがめる」との批判から当局が8月中旬以降、介入の手を緩めた結果、失望した個人投資家がパニック売りを浴びせました。未成熟な証券市場では、巨額のお金が水の泡のように消えて行きました。

■ 理財商品と不動産から逃げ出した資金が株式市場へ
 今回の株式市場の暴落に先立ち、2014年に入って、不動産市場の下落が始まりました。中国の不動産市場は、自己居住用ではなく、値上がり期待の投資用が多く、しかも賃貸を中心に考える香港人のマンション投資と違って、短期保有での転売が前提のため、誰も住まない「鬼城(ゴーストタウン)」が全国各地に生まれます。しかし不動産価格の下落で損失が大きくなったため、投資家が損切りして資金を株式市場に移したのです。
 2年前まで中国では理財商品が一世を風靡していました。主に数十日から1年までの短期で高利回りをうたった投資商品です。集めた資金は不動産開発や地方政府などに貸し出されました。中国工商銀行、中国建設銀行のような一流の銀行が発行するものから、名もない田舎町の設立間もない投資会社のものまで玉石混淆で、多くの庶民が高利回りに飛びつき、最盛期の理財商品の発行残高は15兆元(300兆円)に達したといわれましたが、地方のいくつかの投資会社が償還不能(デフォルト)を起こし始め、人々はその危うさに気付きました。
 不動産、理財商品から逃げ出した資金が向かったのが株式市場です。中国株は昨年まで2000ポイント前後で上下する低迷が続いていましたが、突然上昇に転じ、上がり始めれば、さらに資金が流入し、上昇が加速して、なんと2.5倍以上に跳ね上がったのです。行き先のない資金が逃げ込んだのです。株式市場をカジノ感覚でとらえる中国人は、企業業績がどうあれ、上がるから買うわけです。これはヤバイ、と筆者が書いていたのは、根拠の無い上げはバブルだからです。下がり始めると、一気に心理は逆転し、人々は雪崩を打って高値の売り抜けに走りました。

■ 高成長持続のために打ち手
 中国は改革開放政策の成果が出始めた1980年代から、一時的な落ち込みはあったものの高成長が続いてきました。1990年代半ば以降は、外国企業の直接投資を呼び込んで更なる成長モードに入りました。外資の輸出向け工場進出が雇用を創出し、国内の消費を活性化させ、輸出と内需が連動してスパイラル的に中国の成長は加速して行きました。ケ小平氏が挑んだ「社会主義市場経済」の実験は成功し、国民の共産党への支持は固まり、国際的な評価も高まりました。
 しかし、輸出が伸びれば貿易黒字が溜まり、貿易摩擦と通貨の上昇を招きます。アジアで高成長を遂げた日本と韓国が歩んだ道とまったく同じ轍を踏みます。世界からの貿易不均衡是正のプレッシャーのなか、きわめて不利な条件で世界貿易機関(WTO)に加盟し、人民元の上昇も受け入れました。2005年7月、政府は人民元を切り上げ、緩やかな上昇を容認するようになりました。時の胡錦濤政権は米欧日などからの内需型成長への転換要求を飲み、国内で超金融緩和と財政支出の拡大路線を採って、高成長持続のために手を打ちました。成長がいつまでも続くというのは幻想です。しかしそれをやらなければ、中国共産党政権は持続できません。

■ 不動産バブルから株式市場へ向かった資金
 お金がジャブジャブ溢れるようになったことは、中流層を増大させ、一気にマンション、自動車、海外旅行が沿海都市部の庶民の手に届くまでになりました。50年前の日本と同じです。バブルに酔いしれた中流層がさらなる豊かさのためにバブルの拡大再生産を要求し出しました。原資は土地の使用権の譲渡であり、不動産価格の上昇はバブル拡大の大きなツールとなりました。政府が土木、建築工事で素材や設備、工業製品の需要を創り出し、国有企業や庶民が投機的な不動産投資で需要を支えたのです。人の住まないマンション群、売れない工業団地、客のまばらなショッピングモールの増加が誰の目にも明らかになったところで、残ったのは不動産の不良在庫の山であり、増強された鉄鋼、アルミ、セメント、家電、自動車などあらゆる産業分野の過剰生産能力です。不動産市場を逃げ出して、株式市場へ向かった資金が再び株式市場から逃げ出すことを中国政府は容認できません。もはや行き場が無く、中国共産党の終わりとなるかもしれないからです。だからなりふり構わず買い支えたのです。

■ 中国の製造業低迷で資源価格急落
 中国政府は日本のバブル終焉後の展開を研究しているでしょう。日本長期信用銀行、北海道拓殖銀行がつぶれ、生保の連鎖破綻が起き、山一証券の自主廃業に到りました。すなわち銀行破綻が始まったらヤバイのです。中国政府は、なんとしても銀行破綻を阻止しようとするでしょう。開かれた国と違って中国は共産党の一党独裁の政治体制です。米欧日などのような市場原理主義などクソ食らえです。もし反対する者があれば容赦なくしょっぴいて死刑にするぐらい何でもありません。現に今回の株暴落を誘導したとして記者などが逮捕され、罪を自供させられています。
 リーマンショックが世界を震撼させたとき、中国政府は4兆元(当時のお金で50〜60兆円)の景気対策で世界経済の主役に躍り出ました。新興国は世界の工場としての中国に原材料を輸出することで経済発展しました。日本にとってもそうですが、サブプライムローンでリーマンショックを引き起こした悪魔は米国で、中国は救世主だったのです。しかしながら今、米国は好景気で、中国は製造業の停滞で、鉄鋼、金属、石炭、石油などの資源は行き場を失い、コモディティ価格は急落しました。そのためにブラジル、ロシア、オーストラリア、インドネシア、マレーシアなどは経済が低迷し、通貨も下がっています。
 もちろん欧州や日本も中国が大きなお客様ですから、中国経済の低迷は好ましいことではありません。米国は中国のお客様ですから、欧州や日本、新興国のようには大きな影響は無いでしょう。中国の製造業が停滞した大きな理由の一つは人件費の高騰です。1970年代の日本のような状況で、欧米や日本資本は中国から引き揚げて他のアジア市場やインドに向かっています。

■ 恐ろしいのは中国の軍事的膨張
 恐ろしいのは中国の軍事的膨張です。最近の海洋における各種の動きもそうですが、異様な軍事的膨張は国内における格差や、環境問題などから国民の目を逸らすものであるとすれば、それは戦前の日本の姿をほうふつとさせます。第1次大戦後日本は欧米列強に遅れて準一等国になりましたが、1929年に起きた世界恐慌以降、経済に行き詰りました。台湾を日本領土としていましたが、更に満州国建国などの打開策のために軍事的膨張へと走ったのです。これを苦々しく思った米英などが日本に対して経済封鎖圧力を加えてきたことが太平洋戦争の始まりでした。つまり戦争は常に、経済的リスクから軍事的リスクへと繋がって起きるものなのです。中国も今や準一等国になりましたが、国民の不満を抑えるために国家主義に走った戦前の日本の愚かな歴史をたどらないよう願わずにはいられません。ただ、中国に対して経済封鎖圧力を加えることは今やどこの国もできないでしょう。万が一出来るとすれば、米国しかありません。米国は中国にとって最大のお客様だからです。しかし逆に債務国米国に対する最大の債権国は中国です。この2国が、馬鹿な真似をするとは到底思えません。

■ 米国の政策金利引き上げが恐れられている理由
 米国金融政策が出口戦略に向かう一方、日欧をはじめとする各国が金融緩和を積極的に推し進める中でドルに実質的にペッグしている人民元は周辺国通貨に対して大幅に切り上がっていました。したがって中国政府が人民元を切り下げようとするのは自然な動きで、驚くにあたりません。
 基軸通貨ドルの政策金利引き上げは常に世界金融市場に極度の緊張をもたらしてきました。米国の利上げを直接的または間接的要因として1987年にはブラックマンデーが、1997年にはアジア通貨危機が、2007年にはサブプライムローン危機がおよそ「10年に一度」のタイミングで発生しています。その発生メカニズムは至って単純で、ドル安・低金利を背景にハイリスク資産に流入した過剰流動性が、利上げによって逆流することで通貨や株式、商品、不動産などの大幅な価格調整をもたらすというものです。米国の政策金利引き上げが恐れられている理由はここにあります。筆者は過去、日本円は米ドルに対してまだまだ円安になる、と書いてきたのは、世界で唯一最終財の巨大な超過需要を生み出しているのが米国だからです。確かに中国経済は急成長しましたが、それは米国がお客様だからです。かつての日本が米国をお客様として急成長したのと同じです。したがって中国経済が仮にゼロ成長に落ち込んでも、世界経済が実質的に景気後退に陥る可能性は低いでしょう。中国が世界の工場として部品・原材料などの中間財を輸入するので、唯一資源のみ巨大な超過需要を生み出しているため、コモディティー価格には中国の需要が少し落ち込んだだけでも深刻な影響が及びます。そのひとつ、WTI原油価格は5〜6月頃はバレル60ドルぐらいで推移、7月になって急落し、最近は37ドル台まで落ちたのに、この数日で一気に42ドル台に戻しています。

■ 今後の世界経済のカギは米国に有り
 為替にしても唯一頼りになるのは米ドルです。どうして米国経済が強いか、それは農業資源やエネルギー資源はじめあらゆる資源が豊富にあることのほか、人的エネルギーです。世界中からドンドン人材が米国に集まります。日本の優秀な学者だって米国を目指します。優秀な人材のブラックホールみたいな国、だから強いのです。
 世界の株式市場は一時的中国ショックはありましたが、下げは急で上げはゆっくりです。それも上がって下げてまた上げて、ジワジワとのこぎりの歯状に上がって行きます。日経平均も2万4千5百円ぐらいまでは上がって行くでしょう。問題は米国の政策金利引き上げです。2007年から10年が次の経済ショックだとすると、まだそこに足がかかった状態でしょう。恐ろしいショックのカギは常に米国にあります。お金持ちはそのときにどうするかを考えておかなければいけませんね。

■ 東京五輪のエンブレム問題
 2020年東京五輪のエンブレムが、ベルギーのリエージュ劇場のロゴマークと似ているとされる問題で、大会組織委員会が8月28日、選考過程を明らかにしました。104点の応募作品から佐野研二郎氏(43)の作品を選んだのですが、佐野氏の元々の応募作品はアルファベットの「T」を強調し、三角形が上部に、赤い丸が右下に配置されていたそうです→右図をご覧下さい。国際オリンピック委員会(IOC)と組織委が世界の商標を調べたところ、「若干類似する作品が見つかった」ため、組織委は佐野氏に作品の修正を依頼、2015年2月初旬ごろ、佐野氏が示した最初の修正案は大きな円を中心に置き、赤い丸を右上に移動させたデザインでしたが、「躍動感が薄まった」として組織委は再度、佐野氏に修正を依頼、4月、今のエンブレムになったのだそうです。リエージュ劇場とロゴをデザインしたデザイナーのオリビエ・ドビ氏が「五輪エンブレムはロゴの盗作」と主張し、IOCに対し、使用差し止めを求めてベルギーの民事裁判所に訴訟を起こしています。
左:当初応募作品 右:最終決定エンブレム
 企業が世界中で商標をとるなかで、シンプルな形は似てくることもあります。盗作云々はネットで炎上しました。佐野氏への疑惑はまだまだ続いています。このネットでつつくフィーバーはいかがなものでしょう?商標を登録しなければ、いかに先にブログで発表したとか、劇場のロゴに似ているなどと言っても、何とかの遠吠えです。ネットでの雑音は無視して構いません。
(2015年8月31日)


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