123 堀場雅夫さん逝去
計測機器メーカー、堀場製作所の創業者で最高顧問の堀場雅夫(ほりば・まさお)氏が2015年7月14日18時54分、肝細胞がんのため京都市内の病院で死去されました。90歳でした。通夜、葬儀は近親者で執り行い、社葬は後日行うと堀場製作所のホームページに掲載されています。 ■ 訃報:堀場雅夫氏逝去
■ 『やれるものならやってみろ』、『イヤならやめろ!』と『おもしろおかしく』 「イヤならやめろ!」という言葉は誤解を受ける言葉です。会社がイヤなら、辞めてしまえ!というように聞こえます。これは、堀場製作所の創業者・堀場雅夫さんの言葉で、堀場製作所の社是「おもしろおかしく」と表裏の関係にあります。会社は、社員の人生の一番いい時期(青年期〜壮年期)の、一番いい時間(朝早くから夜遅くまで)を独占しているので、会社にいる時間を有意義に過ごせなければつまらない、それは経営者の責任でもあり、本人の自分自身に対する責任でもあります。現在の仕事を楽しめないのなら、楽しくするように全力で努力しよう。それでもダメなら、楽しめる仕事を他に探そう。楽しめる仕事、没頭できる仕事でなければ、決して一流にはなれない、というのがこの言葉の真意です。 筆者は経営者時代、堀場雅夫さんの言葉を社員に紹介していました。現在の仕事を楽しむほかにもうひとつ大事なことはチャレンジ精神です。Yes, we can! 『負けそう』 と思うと負ける。 『ダメかも』 と思うとダメになる。 『私はできる』そう思える人だけが結局は勝つ! 「やれるものならやってみろ」この言葉の持つ意味を噛み締めると、やれると信じて、元気に、張り切って困難に挑戦する姿は、周囲に感動を与えます。怠惰に、成り行きに任せて生きる人は落ちこぼれて行きます。企業は利益追求集団ですから、とにかく勝たなければなりません。ただし勝つためには「オレが、オレが」ではダメです。野球などのチームスポーツがそうであるように、各ポジションの選手が自分の役割を果たし連携して行けば、個々の能力が劣るように見えるチームでもエリート集団に勝てるのです。WBC「侍ジャパン」がメジャー揃いのアメリカに勝てる。同僚を信じて連携して行こう。まず魁より始めよ。Let me try my best, and let me hope to get your support. こんなことを朝礼で言っていました。 ■ 堀場雅夫さんのインタビュー記事 朝日新聞で堀場雅夫さんのインタビュー記事を見ました。「被爆国から2015」というテーマでした。 京都帝国大(現・京都大)在学中は戦争中でした。学生は軍事工場とかに行かされ、私は電波兵器の陸軍の研究所へ。実験場があった兵庫県伊丹市で、米軍のB29爆撃機を迎撃するロケット戦闘機「秋水(しゅうすい)」の電探(レーダー)を研究していました。 レーダーがほぼ完成、という時に終戦になりました。1万数千メートルの上空を飛ぶ予定だった秋水も、試験飛行ではすぐに落っこちていて、どっちも未完成のまま、広島と長崎に原爆が落とされて戦争が終わってしまいました。当時、原爆は一般に「新型爆弾」と言われていましたが、私が戻った京大の教室では、すでに「原爆やりやがった」と。京大の化学の教授だった父からは「ウランの同位元素を抽出して核分裂を起こせば、ダイナマイトと比べものにならないエネルギーが出るんや」と聞かされていました。京大でも原爆の研究をやっていたようです。 理学部と医学部が被爆地に行き、私も1年少したって広島に入りました。通常の絨毯爆撃や焼夷弾でやられるのとは違い、破壊のされ方がひどかった。それでも人が生活を始めており、「人間ってすごいな」と感じました。 ダイナマイトを発明したノーベル。強力な武器があれば誰も使うのが怖くてけんかをしなくなると考えたと思うが、結局は「戦争の道具」になってしまいました。核兵器も同じです。ロシアのプーチン大統領はウクライナ情勢をめぐり、使う準備をしたという発言をしましたね。手に入れたら、使いたくなるのが人間の本能です。嫌な感じがしています。 ■ 戦後復興を担った経営者達の懸念 堀場雅夫さんの言葉を安倍晋三総理に聞かせたいですね。集団的自衛権の安保法制は、中国を念頭に置いて米国を守ろうというものです。戦争の抑止力になるから集団的自衛権が必要だ、というのが安倍理論です。憲法9条は米国によって押し付けられたものなので改正しなければいけない、我々日本国民は、戦後レジームから脱却しなければならないのだ、と安倍総理は言います。自民党の古参政治家達は、戦争を経験しているだけに、戦争に繋がることを避けるように政治を進めてきました。それが一内閣によって、なし崩しに戦争のスイッチをオンできるようにしようというのですからこぞって反対しています。ところが今の自民党には総理に刃向かう政治家はほとんどいません。それどころか、平和の党だったはずの公明党さえもが、手のひら返して協力しています。民主党が激しく反対しています。チョット前の民主党と公明党では全く立場が逆だったのを日本国民は覚えているはずです。民主党政権時代の野田総理が公約と全く逆のことをやって「信を問う」と解散した選挙で大敗し、その選挙での公約を総理になって180度転換した安倍総理、もうしばらく選挙は無いから今のうちにという安保法制の変更、国民は選挙でしか意思は示せませんが、政治家は、政党は、国民に約束したことをこのように裏切って良いはずがありません。甘いことを言って、当選したら豹変、どうせ日本国民はバカだし、喉元過ぎれば熱さを忘れるから、と思っているのでしょう。それにしても公明党はどうしちゃったのか?平和主義の創価学会が母体のはずなのに・・・。ニッポンが戦後見事に復興し、それどころか未曾有の繁栄をなぜ達成できたかというと、戦争をせず、経済に没頭できたから、「戦争しません」という国だから世界中どの国も日本と交易してくれたから、というのは堀場雅夫さんはじめ戦後を担った経営者達の共通の考え方です。ところが安倍総理とその取り巻きの若手右派は、自分の国は自分で守るだけでなく、これまで守ってくれた米国がピンチなら協力して戦争するのが当たり前なので、憲法はそのままにして安保法制を変えようというのです。これは米国が弱体化して中国が強大化してきたからです。しかし戦争は仕掛けられたら反撃しなければなりませんが、コチラから撃って出ることが可能になれば、相手も死に物狂いで反撃してくるという類のものです。これまで血も流さずに米国の庇護の下、経済活動に没頭したニッポンはヘンと言う安倍総理とその取り巻きの若手右派の考え方は、大日本帝国陸軍若手将校たちとソックリです。堀場雅夫さんが「手に入れたら使いたくなるもの」と懸念したのは、原爆だけでなく、集団的自衛権も然りなのです。 ■ 「おもしろおかしく」・・・ホリバリアンを育てるホリバカレッジ
■ 社内大学「ホリバカレッジ」の学舎に、世界経営戦略会議のテーブルに活用 研修施設は1991年に既設棟を開設して以来、社内教育や国内外の子会社との会議などに利用されてきましたが、近年、HORIBAグループがグローバル化したことで、1ヶ月の利用者が300人を超えるようになりました。階層別や業務ごとの研修に加えて、中国やインドなどアジア圏の人財開発の推進や、米国・ヨーロッパの子会社首脳が一堂に会するグローバル経営戦略会議の開催など、研修や会合などでの施設の利用が、さらに増加することが見込まれるため、既設棟の北側の敷地内に新たに研修施設を建設していました。 既設棟と2倍の収容規模の新棟の2棟構造により、研修機能を拡充するとともに、大規模な会議などでも利用可能で、研修と会議を平行して開くことも可能になりました。共通ゾーンには暖炉やラウンジなどの心安らぐ空間を備え、研修・会議のオンの時間とオフのコミュニケーションのメリハリをつけ、そして充実させるインテリアとなっています。研修時の始業ベルは小学校でよく使われるメロディを鳴らしたり、国際会議で宿泊の外国人対応にシャワールームを新設。遊び心や心配りもHORIBAらしく仕上がっています。環境に配慮して樹木の伐採を最小限に抑えたため、研修所と周囲の自然環境との調和が保たれ、自然の力で情操を養えるような雰囲気を生み出しています。 ■ 「ホリバカレッジ」とは 社内で選ばれた講師によるハイレベルな専門教育を行う社内教育システムです。創立記念日の2009年1月26日に開校。専門講座には開発・生産・営業・管理の4つの学科があり、年間280種類の講座を企画します。講座は、製品技術やビジネススキルに関する基礎教育や次世代を担う専門家やリーダー育成を扱う講座があり、今回の研修施設と本社の2ヶ所で実施します。 これまでの専門能力開発の基本は自己啓発と仕事を通じて人を伸ばすOJTでした。しかし、仕事が細分化・専門化する中で、幅広い知識や基本を身につけ、先輩のキャリアを疑似体験するには体系的・継続的な「Off JT」が有効です。社是「おもしろおかしく」をモットーに、個々人が自律したキャリア形成をすることを支援し、成長実感を通じて、働く魅力を高めることも狙いとしています。 ■ 目標管理も『おもしろおかしく』 近年の成果主義は過度に業績を重視したことで、仕事本来の楽しさ、例えばより良いものやサービスを世の中に提供できているという使命感、社内外関係者との家族的なコミュニケーション、そして会社の成長に自分も貢献しているという充足感といった、人が働くことの動機づけになる要因を希薄化させていると指摘されています。 それでは業績を追うのはやめようと考えてしまっては、企業活動は成立しません。ではどうするか。その答えのヒントになるのが、堀場製作所の目標管理のあり方です。やはり、ここでも『おもしろおかしく』の考えが反映されているのです。 同社は、2000年に半期ごとの目標設定制度を取り入れました。四半期決算が多くの日本企業で採用された時期だけに、堀場も投資家にウエイトを置いた短期の業績報告の流れに追従したのではないかと考えられがちです。 しかし、株主を尊重することはもちろん大事ですが、それよりもむしろ、個人のやる気を重視したことが半期目標の導入の大きな要因だったとのことです。 「今のように複合化して1つの技術を開発する時に、そこに何十人もの人が関わります。だから、ある程度自分の目標が見えていないと現場では混乱が起きる。また、そうした人たちをマネジメントする人も、部下の目標達成プロセスをその都度把握しておいて、褒めるべき時に褒めてあげることで、部下のやる気も継続します」ということが半期目標導入の意図だとしています。 ■ 目標設定=自分のチャンスをつくることができること だから半期目標は社員自らが設定しています。具体的には経営目標を受けて上司と面談し、そのうえで個人目標を自分で設定します。これだけだと多くの会社で行っている目標管理制度と変わりませんが、堀場では目標設定の場も上司と部下、そして組織(部門)としてのコミュニケーションの促進に活用しています。 上司とだけでなく、同じ部門のほかの社員とも協議することで、組織としてのやるべき方向性や存在意義を強く認識できるようにしているのです。 だから面談時には、上司は部下に対して「目標とは、今期終わった時にこういう状態になっていればワクワクする、楽しい状態」だと説明し、目標は「自分のチャンスをつくることができる場」「やらされることではなく、それを宣言することで実現できるチャンスの場」として伝えています。 もちろん、目標には達成すべき数値もあります。しかし、"売り上げとは、自分のやっていることが会社に受け入れてもらえたかどうかのインジケーター"。社員は、これによって自分の仕事が会社全体にどう貢献しているかを知ることができるのです。 個人の仕事が組織にどれほど貢献できるのかが見えることで、自分の存在意義も確認できます。組織の中での役割が明確であり、自分の目標が達成できた時ほど、人はうれしいもの。自分で決めた目標を達成させることでさらに仕事が『おもしろおかしく』感じられるのです。 ■ 「ホリバリアン」から「ホリバリアン」になる人たちに伝えるDNA グローバル化がこれからの日本企業の中心的な課題に据えられていますが、堀場製作所は世界各国に活躍の場を広げています。その勢いは、社員の半数がこの十数年ほどの間に入社した人で占められるようになったことからもうかがえます。 急速に拡大発展を遂げる会社の大きな課題の1つに、DNAの伝承があります。その企業が長年の間に育んできた技術やノウハウ、そして文化。こうしたことは、なかなかマニュアル化できるものではありません。DNAは人から人へと伝わるからこそ、その企業独自のぬくもりとして連綿とそこで働く人の心や体に染み込んでいくのです。団塊世代の大量退職も重なって、世代交代が急速に進む日本企業、堀場もこの問題から発生するDNAの伝承のあり方を模索しているところです。 『おもしろおかしく』の企業文化を受け継いできた「ホリバリアン」たちが、これから次代を担う「ホリバリアン」たちに技術や企業文化を口伝えやその行動で伝えていく。デジタルの世に極めてアナログの方法ですが、こうした手数のかかることこそが、『おもしろおかしく』努力してきた創業スピリットをも伝えていくことになります。 そうした考えもあって、人材を会社の「人財」として育ってもらうために「行きたくなるような研修所」を作りました。この研修所には消灯時間がありません。自分たちで企画した研修を終えた後、暖炉の前に人が集まり、それぞれの想いを語り合うのです。 こうした場を大事に思うかぎり、『おもしろおかしく』の企業文化は永続されていくでしょう。 堀場製作所管理本部人事担当副本部長 野崎治子氏の話−−−−以下、要約。 ■ 独自の研修制度に注力 2009年に"ホリバカレッジ"と呼ぶ研修制度を立ち上げた。経営トップの下に私が学長で、管理、営業、開発、生産・物流の4つの学科ごとに合計250講座を用意する。社員はここで学びたい内容を自ら選んで受講できる。各講座はベテランと若手社員の有志がアイデアを出し合って作り上げた。毎年、社内のニーズに応じてどれを開講するか見直す。2013年度は110講座を提供する。 ■ ホリバカレッジの目的は 「深い専門性とそれ以外の知見をバランス良く備えた"T字型"のリーダーを育成することだ。当社の測定機器は自動車向けから医療や半導体などまで幅広く、製品は1000種類を超える。業務が細分化するとタコツボ組織になりやすい。カレッジを始めた2009年は米リーマン・ショックの後で、優秀な人材を早く育成する必要もあった」 「当社の社是は"おもしろおかしく"。本来仕事とは人生を楽しく豊かにするものであるはずだ。仕事が単なる作業となってはいけない。カレッジの教育を通じて日々の仕事に役立つ新たな刺激を受けてもらうことも狙いの1つだ」 ■ 重視する点は 「設立60年を超える当社に受け継がれる経営哲学や特有の技を究めてもらう。それには先人からの薫陶を直接受けて『この人のようになりたい』と思わせる教育が必須だ。カレッジの講師はすべて社内から選んでいる。例えば営業系の講座で役員が過去の失敗談などを語ることで若手社員の教育に生かす。社員同士が直接接することで薫陶を受けやすくする」 「カレッジは本社から離れた滋賀県内の施設『FUNHOUSE(ファンハウス)』で、泊まり込みで実施するケースも多く、昨年度は約40講座を用意した。リゾートホテル風のぜいたくな施設で日中は真剣に講義を受ける。夜は先輩社員らが参加し、暖炉を囲んでお酒を飲みながら製品開発などに関する当時の思いなどを存分に語ってもらう。こうすると尊敬が自然に生まれやすい。ファンハウスの利用者は年間延べ2000人。国内のグループ社員約2300人の大半が一度は訪れる計算だ」 (2015年7月19日) |