このような紙おむつの市場規模拡大の背景には高吸水性樹脂SAP(Super Absorbent Polymer)の存在があります。SAPは自重の500〜1000倍の水を吸収します。パルプの間にSAPを挟み込むことで、かつて座布団のようだった紙おむつはドンドン薄くなり、発売当初の1枚60グラムが30グラムまで軽くなりました。

■ 紙おむつ主要素材のSAPは日本触媒が世界トップ

 1983年、P&Gファーイースト(現在のP&Gジャパン)の研究員が、女性用生理用品に日本触媒製SAPが使用されているのを赤ちゃん向け紙おむつに転用できないかと考え、日本触媒製SAPを主要吸収剤として採用したのが現在の高機能型紙おむつ隆盛の始まりです。翌1984年には、花王がSAP多使用型紙オムツ「メリーズ」を発売しました。SAPを主要吸収剤とする使い捨て型紙オムツの原型誕生です。花王はSAPを自社で内製していることが特徴です。
 紙おむつの影の主役、最も重要な構成要素のSAPの世界トップメーカーが、日本触媒です。その生産能力は世界最大の化学メーカーBASFを押さえ、30%のトップ・シェアを握っています。SAPはダウ・ケミカルが1960年代に基本特許を取得しました。しかし応用は拡がらず、1983年に紙オムツに適した「アクアリックCA」が日本触媒から上市されると、SAP市場は一気に広がりを見せます。1983年、全世界で1万トン/年程度だった消費量は、1986年に10万トン/年、2010年には170万トン/年程度にまで拡大、現在も年率7〜8%の成長を続けています。


■ 事故多発で日本触媒は大もうけ
 世界の化学メーカーの売上トップは2008年で1位ドイツのBASF(704億ドル)、2位アメリカのダウ・ケミカル(575億ドル)、日本トップの三菱ケミカルHDが186億ドルで第14位です。ところが日本触媒のように、特定の製品でシェアトップの化学メーカーが日本には結構多いのです。日本触媒のSAPは、基礎技術を実務の要求に耐えうる水準に引き上げ、市場を創造したと言う点で、技術大国日本の面目躍如と言ったところでしょう。

 大手オムツ・メーカーとSAPメーカの間には緩やかな系列が存在します。内製が基本の花王以外では、P&G(日本触媒、BASF)、キンバリー・クラーク(三洋化成、Degussa)、ユニ・チャーム(住友精化、三洋化成)等です。
 SAPの原料;高純度アクリル酸の価格は急騰しています。需要が供給を上回っているからでしょう。実は理由がもう一つあります。BASF、ダウ・ケミカル、そしてアルケマ・・・近年、アクリル酸の世界大手の工場で軒並み操業トラブルが発生し、供給力がガタガタになりました。各社とも事故原因を明らかにしていませんが、アクリル酸は重合しやすく、取り扱いを誤れば、重合反応が暴走します。需要増に応じるために無理な操業を強行し、制御限界を超えて爆発事故、などというケースが相次ぎました。アクリル酸の世界大手の工場で唯一、日本触媒の姫路製造所だけが無事故で操業し、その秘密が「日本型ものづくり成功の典型」と言われてきました。一時期、「日本触媒だけが無事故のヒミツ」などとはやされました。当然市況高騰下、日本触媒は大もうけ、しかし、そんな良い時期は長くは続きませんでした。


■ ついに事故が起きて大損するも再起
 2012年9月29日、日本触媒の姫路製造所(兵庫県姫路市)でもついに爆発事故が起きました。事故が起きたのは高純度アクリル酸製造工程の精製塔と回収塔の間に設置された中間タンクでした。このような貯蔵設備で爆発が起きるとは想定していなかったようです。飛び散った高温の液は粘性があり、これが降りかかってきたらひとたまりもありません。消火に当たった消防士1人が死亡する大事故となりました。日本触媒の報告書「姫路製造所における爆発・火災事故について/事故調査委員会中間報告」を見ますと、鎮火に26時間かかりました。重傷者も消防士2人、従業員3人、合計37人が死傷しました。損失額は200億円を超えた模様です。
 事故調査委員会の報告書によりますと、全面停電させて電気・計装保全工事を行い、運転再開に向けて中間タンクに液溜めを行っていました。タンクの下部には冷却コイルがあり、冷却されていましたが、上部において反応〜重合が進み、高温となって、タンク上部ベントから白煙が発生、消防に通報した頃にはもはやタンク内部は手を付けられない状態になっていたようです。タンクに亀裂が発生、液漏れでタンク内圧力急降下〜貯蔵液が沸騰〜爆発〜液飛散〜着火〜火災が発生しました。
 こういう爆発事故を起こさないようにするには「温度監視」が第一です。この中間タンクには温度センサは付いておらず、したがって温度監視もされておりませんでした。この異常な温度上昇に気付いておれば、タンク内の液を天板リサイクルさせて、温度上昇を防げたでしょう。わずかな異変に気付いたら素早く手を打たないと、反応が反応を呼んで、一気に反応が進み、手が付けられない状態になります。注水が逆効果の場合もあります。福島第一原発のときもそうでしたが、事故は初動が第一です。初期に抑えられないと「手遅れ」になります。無線温度センサの複数設置、監視装置設置、天板リサイクル常時実施、作業員教育定常化などの対策を今後実施する必要があります。
 日本触媒は今回の事故で多くの教訓を得ました。事故は起きるものです。そう考えて、だからこそその兆候を見逃さず、今後は起きないようにするための手立てを必死に検討し、実施しました。原発もそうです。得られた教訓を生かして前進してこそ、発展があります。やめてしまったら後継者の未来を奪ってしまいます。頑張って下さい。

■ テレ朝の偏向報道に抗議
 日本触媒のホームページにテレビ朝日、朝日放送への抗議文が掲載されています。2013年1月18日に抗議文「テレビ朝日系列「報道ステーション」(平成24年10月2日)の「工場爆発で作業員語る『通報できなかった理由』」と題する報道、および類似内容の報道への抗議」、返答が無いので2013年3月29日に再抗議しています。その後何も載っていないので、多分無視されているのでしょう。
 「報道ステーション」は過去たびたび誤った報道で問題を起こしています。前身の「ニュースステーション」では、1999年、所沢の葉物野菜がダイオキシンに汚染されていることを報じた騒動で、ホウレンソウをはじめとする野菜が売れなくなり、廃棄する騒ぎに発展しました。農民たちがテレビ朝日に抗議し、埼玉県や農水省も調査に乗り出しました。実際に濃度が大きかったのは煎茶で、加工して乾燥して質量が小さくなっているので見かけ上大きく感じるものの、飲んでも健康に害が無い程度のものでした。筆者の周辺の農家も可哀想でした。こうなったら意地でも地元の野菜を食べようと思いました。所沢市や近隣自治体の住民が農家を支援しようと立ち上がり、生産者と消費者が連携して批判の矢面に立たされたテレビ朝日、ついに2週間後久米宏が謝る破目になりました。しかし莫大な風評被害に、おさまらない農民たちは裁判で損害賠償を訴えました。しかし報道そのものの方向は間違っていないとテレビ朝日が突っ張って、1審、2審はテレビ朝日が勝訴、しかし最高裁の裁判官全員一致で高裁に差し戻し、結局5年の歳月をかけて和解、テレビ朝日が和解金1千万円を払い、これを原告団は全額寄付することにして、所沢市に「子供たちを野菜好きにする食農教育に使って」と百万円、噴火被害の三宅村の農業復興に残る9百万円を寄付しました。思い込みによる報道や、偏向した報道は慎んでもらいたいものです。これについてつぶやいたTV報道』(2003年10月26日)をご覧下さい。

■ 紙おむつの市場
 紙おむつの話に戻しましょう。中国で花王の「メリーズ」が大人気と言っても、2011年で中国における紙おむつはP&Gが35.7%で1位、ユニチャームが17.7%で2位、花王はず〜〜っと低位です。アジアで売れ行き2位のインドネシアではユニチャームが55%で1位、P&Gが25%で2位です。タイではユニチャームが63.7%で1位、DSGが23.8%で2位、インドではP&Gが55.1%で1位、キンバリー・クラークが27.4%で2位、台湾ではP&Gが30.1%で1位、ユニチャームが27.0%で2位、花王が20.1%で3位と、やっと名前が出て来ます。まだまだこれからなのです。
 ただ、自動車に見るまでも無く、今後大衆商品市場では、中国を制する=世界を制することになりますので、中国の市場で受けているということは、絶好のチャンスであると言えます。
 日本市場では、おむつが必要な乳幼児は1歳半までだと仮定すると、子供のおむつ人口は160万人。これに対して、大人のおむつは後期高齢者の一部が対象とはいえ、80歳以上の高齢者に限っても810万人の人口規模です。乳幼児を対象にしたビジネスチャンスは30年間で4割減なのに対して、後期高齢者を対象にしたビジネスチャンスは30年で3.5倍。時代のキーワードは「幼児よりも老人」だそうです。おむつになる前に死にたい、と考える老人が多いのではないでしょうか。
 日本市場はこれに限らず、「老人ビジネス」が急成長です。例えばペットもそうです。子育てを終えて、ペットを飼うから、日本で犬猫が増えているのです。

■ ネトウヨ
 花王はかつて、不買運動にさらされました。これはフジテレビが韓国ドラマを放送するのがけしからんという反韓勢力のあおりをくらったものでした。ヘイトスピーチと底流は同じです。「フジテレビにCM出すな!」という要求を毅然としてはねつけたので不買運動・・・もうムチャクチャです。「ネトウヨ」と呼ばれるネット右翼の横暴です。しかし結果は?全然問題なし、花王は増収増益でした。不買運動がマスコミ報道されて、花王カワイソウ・・・逆効果になったのです。
 最近日本社会における右翼の台頭が海外から問題視されています。これはゆゆしき問題です。大阪市の橋下市長・・・これを「ハシズム」と言うのだそうです。みんなの党の渡辺喜美代表も改憲を大声で主張し始めました。逆に公明党や自民党の長老たちがこの流れを引き戻そうと動き始めています。戦争を体験した世代には、かつていつのまにか、物言えば唇寒くなって、逆らうこともできなくなった戦前の怖い時代の雰囲気が漂い始めたことを感じて、今言わなければヤバイ、と老骨に鞭打っているのです。筆者は父母から、散々聞かされましたからわかっているつもりです。いちばんコワイのはマスコミの扇動です。その動きが間違いなく台頭して来ています。

■ 若年層の右傾化
 2014年東京都知事選挙において、立候補した田母神俊雄候補が61万票、得票率約12%を獲得し、供託金没収を免れたことが開票後大きな波紋を呼びました。産経新聞は「これはもう善戦どころではない」と評しました。特に、出口調査では20代のうち24%が田母神候補に投票していたことから、若年層の右傾化としてメディア各社で大きく取り上げられ、国内のみならず海外でも報道されました。ただ筆者はこれを若者の右傾化とは見ていません。この選挙戦では田母神候補が一番現実的で明確な主張をしたからです。ほかの候補は、若者の未来を考えず、縮小指向の保守的主張をしました。若者から見れば、田母神候補が一番若者の未来を考えてくれてると感じたのです。

■ ヤバイ!ヤバイ!ウクライナやビットコイン
 内容は書かなくてもわかるでしょう?
(2014年3月2日)