37 米作
昨週はとまとについて語り、日本の農業について野菜作りと米作りに触れました。そしてTPPの議論で、ミソもクソも一緒にするような暴論に釘を刺しました。野菜は輸出するように競争力強化すべきだが、米は保護せよと書きました。日本国政府はこの10年間で減反政策を廃止する意向のようですが、経済原則から言えば生産させないために金を出すというのは絶対的に間違っています。減反廃止反対に臆せず、早くやめるべきです、と書きました。零細な米作農家に対して、なんてひどいことを言うのか!と怒り心頭の方も居られたと思います。 ■減反政策廃止を
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■自由貿易と農業保護 農業保護というとすぐ目くじら立てる人がいます。しかし、世界一の農業大国のアメリカやヨーロッパの国々は、日本以上に農業保護にお金を出しているんですよ。それは何故かと言うと、食は健康の源であり、文化だからです。だから守っているのです。ガット(関税と貿易の一般協定)などはそれをけしからんと言っています。自由貿易の立場からすればそうでしょうが、国としては国民の健康や自国の文化は、第一に守る義務があります。だから例えば酪農だけとってみれば、自由貿易にしたらニュージーランドに負けるから米国は関税をかけて自国の酪農を守り、例えば牛肉では、草を食べるオーストラリアのオージービーフより、穀物を餌とする米国の牛肉はおいしいので自由貿易にして欲しいのです。各国それぞれの事情があります。コメだって、カリフォルニア米はおいしい上に日本のコメの数分の1の価格ですから、自由貿易になればあっという間に日本市場を席巻し、もっと作れ、もっと作れということになるのは目に見えています。するとカナダなどはカリフォルニア米よりおいしいコメを作れる気候風土ですから、指をくわえて見ていることはないでしょう。日本の米作りは崩壊します。100ヘクタールの大規模農業者でも到底かないません。何故か?地形や水土、気候風土が違うのです。日本は海からまさかりの刃がニョッキリと突き出たような国土であり、平地が少なく、風水害が多い国です。安定した大陸性気候の国に比べたら、農業には大変厳しい国なのです。農業を守るというのは、安心、安全の確保であり、食糧のために稲を育てるのはこんなに大変なんだよということを子供たちに教えるためでもあり、美しい日本の風土を守ることでもあるのです。 ■牛丼はかけそばより実質安い
■パンに比べても米は高くない
■すたれる従来型農業
従来の農業者は作るだけ、JAに出して終わりという人が多かったでしょう。消費者の声を直に聞く機会は少なく、せいぜい直売所に置いて売れ行きから反応を見るくらいでした。優秀な栽培ノウハウを持つ人は「篤農家」と呼ばれ、尊敬されていました。しかし悪天候や災害に悩まされる人も多く、「労多くして得るものが少ない」農業は、若者から敬遠され、後継者もおらず農業者は高齢化して、やがて耕作放棄地が増えてきました。今や東京都区部の2倍の面積、滋賀県相当と言われています。 ■離農者が増える米作農家 なぜ離農者が増えるのでしょうか?例えば夫婦でコメ生産している農家の方の時給は250円程度という試算があります。埼玉県の平成25年の最低賃金は785円ですから、3分の1以下です。ではこんな安い賃金で作ったコメの生産者価格はいくらでしょう?うるち玄米1俵(60kg)1万1千円ぐらいです。スーパーの店頭で白米10kgいくらでしょう?4千円ぐらいでしょうか。売価が安いから生産者価格も低いのです。農家の夫婦が、まっとうな所得を得るには、玄米1俵(60kg)1万6千円は必要です。これは現状絶望的、もはや米作りでは暮らして行けません。苦労して作ってもこの有様、ましてや年々日本の米消費は減っています。2004年度には860万トン、2012年度は799万トンと初めて800万トンを割り込む模様。国民一人当たりのコメ消費量は1962年の118kgをピークに減少傾向に転じ、2011年は58kgと半減、1世帯あたりのパン購入額が精米を上回りました。米作農家は減らざるを得ないのです。 ■栽培ノウハウのデータベース化 先進的農業者は「スマートアグリ」によって、栽培ノウハウのデータベース化を図ります。南北に長く、海からマサカリの刃が突き出ているような国土の日本は、中山間地が多く、大陸のように気候が安定していません。寒冷地から亜熱帯まで存在します。地域によって気象も水質も違います。したがって、同じ作物でも栽培ノウハウが地域ごとに異なります。だからこそデータベース化が必要ですし、これが確立してくると若者が農業に入りやすくなります。寒冷地から亜熱帯まで存在するということは、これらの地域の生産者をネットワークすれば、1年中作物が供給できる体制も構築できます。商社や小売と生産者のネットワークが出来てきた所以です。 ■「儲かる農業」を実現 ITを駆使するには若さが必要です。これら若者が十分な所得を得るためには、「儲かる農業」を実現する必要があります。利益は消費者から頂くものです。消費者がお金を払っても欲しいものとは、味が良い、新鮮だ、安全だ、安心だ、価格が安いなどの要素が求められます。生産者から見ると現在有利なのはJAや市場を通さなくても「売ってくれ」という消費者や小売が出てきて、流通マージンの分を分け合えることです。インターネット直販も当たり前になりました。品質を高めることや、高く買ってくれる有機栽培品の面積当り収量増を図ることで、「儲かる農業」が可能となります。 ■若者が明日の農業を支える (有)信州ファーム荻原の荻原昌真農場長の話を聞く機会がありました。その言葉は印象的でした。お父さんである社長は農業での事故で片腕を失いました。自分だけではやっていけないとなれば、「みんな」でやるしかありません。会社組織にして、若者6人で信州の休耕田などを借りて水田65ha、畑35haを耕作しています。連日重労働、皆走っている、こんなこと若者でなければできない、それなのに日本はコメを作ると怒られる、これからインドネシアで米作りすることにした、人口は日本の2倍だがコメ消費は6倍、食うなと言ってもコメが大好きな国民、年々コメ消費が減っている日本とは大違い、やはり生産者は喜ばれるものを作りたい・・・・この話を聞いて、考えさせられました。「儲かる農業」をやるにしても、やはり農業者は大変です。特に有機栽培の米は田圃の草取りもすべて手作業、大変な重労働とのこと。3Kを嫌う日本社会・・・安易な考えで入って来た若者はすぐ落伍する、日本農業を支えているのは、こうした高邁な精神を持った若者なのだ、と感動しました。 インドネシアでのコメの生産コストは1kg50円程度だそうです。こだわって日本米を作っても、100円は行かないそうです。もっと安いのでは?という気がします。 ■アセアンで米作れば安いのは当たり前 もうひとつの事例、JCグループPresident CEOの高虎男(Ko Honam)氏は、早稲田大学 政治経済学部 経済学科卒業、日本公認会計士、カンボジアで2008年から米作りをしています。バッタンバンで230haの水田で米作り、カンボジア人は大抵コメ作りの方法を知っているとのこと。お米はモミ状態で売り、300USドル/トン、1トン30,000円ですから1kg30円です。精米すると半分ぐらいの質量になるため、現地ではモミで販売するそうです。これで粗利は半分出る、ちなみにカンボジア人の月給は100USドル、1万円。カンボジアでどうやってコミュニケーションするの?という質問には、タイやベトナムなどと違って、英語が話せる人が多いので、英語で会話するとのこと。アジアで米を作れば安いのは当たり前、日本の農業技術を適用すればさらに単位面積当たり収量が増し、もっと安くなるそうです。 ■本来の姿に立ち返れ、JA、期待してるぞ! 日本農業が大転換点にあるのは間違いありません。また農業国と言われる国が農業に補助金を投下して自国の農業を守っていることも事実です。日本では農業への補助金がマスコミからの批判の的となっており、こうした傾向はマスコミからインターネットへの役割交代によって、早晩是正されるものと確信しております。減反や転作補助のような後ろ向き政策ではなく、個別所得補償といったバラマキでもなく、主食であるコメの逆ザヤ補助、高度先進農業への補助金を投下して、安全、安心、美味しい、滋養豊富な、あるいは医薬同源の素となる作物を競争力ある状況で生産できるような状況を作り出すべきです。食糧安保と言うだけではなく、食物材料を生産する農林水産業は、国民の健康と美しい自然景観を保全する最も大事な産業です。これを保護するために国家としてお金を投下していくことは絶対的に必要なことです。JAも批判されることが多いのですが、これは金融機関化したり、補助金の窓口となっているために政治との結び付きが強くなり、組合員の利益を真に守る団体でなくなっているところが多いためです。本来の農業者の協同組合の精神に立ち返れば、必要な団体ですし、もういちど原点に返って頑張って欲しいと思います。 (2013年11月3日) |