16  顰みに倣う

 14年7ヶ月取締役を勤めた会社の役員を退任しました。長かったか?短かったか?と、ありきたりの質問をされますが、やはり長かったですね。いっぱい事件がありました。不渡りを食らったのは1回だけですが、いちゃもんをつけられたり、とんでもない会社に仕事を頼んで苦労したり、いろいろありました。ただ、安易な妥協はせず、無理難題には徹底的に抗戦しました。しかし、設備投資に依存する生産財企業としては、長い円高デフレで、どんどんお客様の工場が海外に移転して行くのには参りました。投資はするが海外の工場ですから、日本から職人を連れて行って工事するのは採算上無理です。
 特にリーマンショックの影響は大変でした。日本の多くの企業が赤字に陥りました。お客様である半導体や家電産業は絶不調、そんな状況下、設備投資は抑えられます。のた打ち回る苦しみを経て、なんとかこれを乗り切って明るさが見えたときの東日本大震災、最初はタカをくくっていたのですが、最大顧客の自動車産業からの受注がパッタリ止まって、真っ青になりました。


りんごの花は可憐で美しい花です

 その原因は茨城県の、これまたお客様である某半導体メーカーの被災でした。今や自動車は、CPUを搭載した電子制御基板がたくさんあって、それらの間をシリアル通信で結んで動いているのです。そのCPUの供給がストップしたのです。

■荘子のたとえ話
 さて本日の主題「顰みに倣う」という言葉ですが、たとえば「顰みに倣うだけでは、いい仕事はできないよ」というように用いられます。「ひそみにならう」と読みますが、「顰み」とは、眉間にしわを寄せることで、「倣う」は真似することです。
 出典は中国の紀元前の思想家荘子の書『荘子』からと言われています。老子と荘子の思想が道教に取り入れられるようになると、荘子は道教の祖の一人として崇められるようになり、道教を国教とした唐の時代には、玄宗によって神格化され、742年に南華真人(なんかしんじん)の敬称を与えられました。いろいろなたとえ話によって、荘子はその思想を説きました。

 荘子が孔子の弟子たちにたとえ話をしました。

 「呉の国と越の国は、激しい戦いを繰り広げましたが、最後には呉の国が越の国を撃破しました。負けた越王の句践(こうせん)は、呉王にひれ伏して、ご機嫌をとるために絶世の美女と言われていた西施(せいし)を連れてきました。呉王の夫差(ふさ)は、美しい彼女をとても愛して、西施の名は絶世の美女として今の世まで伝わっています。
 西施がまだ故郷にいたころ、胸の病気にかかったことがありました。痛みのために胸を押さえて、時々、眉(まゆ)を顰(しか)めていました。その村のある娘が、西施のその表情を見てとても美しいと感動し、胸に手をあてて顔を顰めて、村の中を歩き回るようになりました。美人ではない娘が、すっかりその気になっておかしな顔で歩き回るので、みんなは「気がおかしくなってしまったのか・・」と心配するようになりました。村の金持ちたちは堅く門を閉ざし、貧しい人たちの中にはあまりにも不気味だったので不安に思い、妻子を引き連れて村を逃げ出す人もいたそうです。その娘は、西施の眉を顰める姿が美しいということはわかっても、その表情がなぜ美しいのかわかっていなかったのです。
 残念ですが、あなた方の大先生である孔子もこのたとえ話と同じです。昔の聖人のまねばかりしています。このままではいずれ行き詰まってしまうでしょう。礼儀、制度、価値観は、時代にあわせてどんどん変わりゆくものです。大切なのはありのままを受け入れる姿勢ではないでしょうか」

事の善悪を考えず、人のまねをすること、また、人を見習って何かをするときに、自分を謙遜して使うのが「顰みに倣う」という言葉です。「虚無」を尊んだ荘子にとって、「礼、孝 仁、忠」を根本とする儒家の思想には反対でした。荘子の思想は無為自然を基本とし、人為を忌み嫌うものです。なお老子と荘子の思想も若干違うと言われています。


秋田県にかほ市象潟の西施像


■西施の縁で日中友好
 さて右上の写真は秋田県にかほ市の道の駅で、日本海をバックにした西施像があるのを見てパチリ。松尾芭蕉が奥の細道で、
    象潟や  雨に西施が  ねぶの花
とうたったのだそうです。ねぶの花というのは合歓の花です。救国のため敵国の王に身を捧げた悲劇の美女を、松島にくらべて「うらむがごとし」と、象潟の風景に似通うものとしたのだそうです。これが縁で、にかほ市と西施の生まれた中国浙江省諸曁市は友好都市になりました。また宮城県松島町とは夫婦町の関係です。以前象潟町でしたが、仁賀保町、金浦(このうら)町と合併してにかほ市となりました。山と海に抱かれた風光明媚なまちです。

■孔子と儒教
 ちなみに孔子を祖とする儒教は今に至るまで中国という国家の根本思想であると言われますが、近年では特に韓国がその思想を多く引き継ぐと言われ、日本もその例外ではありません。20世紀、文化大革命においては毛沢東とその部下達は「批林批孔運動」という、孔子と林彪を結びつけて批判する運動を展開しました。孔子は封建主義を広めた中国史の悪人とされ、林彪はその教えを現代に復古させようと言う現代の悪人であるとされたそうです。しかしいかに共産主義国家とは言え、中国人民の太古の歴史の中で染み付いた思想は、おいそれとは変わらないでしょう。孔子の弟子達はたくさん居りました。性善説を唱えた孟子は、孔子が最高の徳目とした「仁」に加え、実践が可能とされる徳目「義」の思想を主張しました。荀子は「性悪説」を唱えて「礼」治主義を主張しました。他に、「孝」の実践で知られ、『孝経』の作者とされる曾子がいます。

■西武TOB
 5月末期限で西武ホールディングス(HD)に対し敵対的な株式公開買い付け(TOB)を実施していた米投資会社サーベラスは、3.04%の応募があったと発表しました。これにより保有比率は現行の32.44%から35.48%になります。やはり埼玉県の自治体から反対署名が出るような状況下では、株主にもためらいがあったのでしょう。ただ、サーベラスは、発行済み株式総数の3分の1超を保有することになるため、合併や定款の変更などの経営の重要事項について、株主総会で議案を否決できる比率を確保しましたので、両者の対立は続きます。
(2013年6月2日)


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