14  西武TOB

 西武ホールディングス(HD)に対し敵対的な株式公開買い付け(TOB)を実施中の米投資会社サーベラスは、TOBの期限を2週間延長して5月31日に変更すると発表しました。理由は「投資家の申し込み手続きが終わっていないため」としています。一方西武HDは、6月末に予定する株主総会に、評論家の大宅映子氏ら3人を新任取締役候補として提案すると発表しました。サーベラスは既に元金融庁長官の五味広文氏やダン・クエール元米副大統領、ジョン・スノー元米財務長官ら8人を推薦しています。株主総会での選任には過半数の賛成が必要で、実質的な経営権を巡り、株主総会での委任状争奪戦(プロキシファイト)に発展する可能性が高まっています。
 何故この話題かと言うと、西武HDの後藤高志社長は筆者と同様岩手県雫石町の観光大使だからです。「株主の皆様にはTOBに応じないでいただきたい」と言う後藤高志社長を応援しています。プロキシファイトで西武HDが勝てば後藤社長ら常勤を含む取締役会11人中10人を確保しますが、サーベラスが勝てば取締役会15人中9人の過半数を握る計算となり、実質的に経営権が移ります。


西武特急ニューレッドアロー号


■会社は誰のもの?
 これまで「はげたかファンド」と日本企業の戦いはすべて日本企業がファンドを撃退してきました。それはこうした株式争奪戦が会社の営業とは関係ないところで行われるマネーゲームであって、国民世論がファンドに反発して、結果的に銀行が世論を背景に日本企業を守ったからです。日本人的考えでは株式争奪戦なんておかしいのですが、米国的考えではそれが当たり前なのです。むしろ株主に対して最大利益をもたらさない経営陣こそ問題なので、株式を買い集めて、もっと株主に利益をもたらす経営陣に取り替えることが当然なのです。会社は株主のものですから、どちらの考えが正しいのかというと米国的考えが正しいのは言うまでもありません。しかし、利益のためだったら何をやっても良いのかというとそうは行きません。特に西武HDのような公共的な事業をやっている企業は、もうからないから西武鉄道の秩父など不採算路線は廃止しましょうとか、プロ野球の埼玉西武ライオンズを売却しましょうなどと言われると、いくら企業が株主のものだと言っても、埼玉県民としては黙っておられません。知事始め、関連自治体などがこぞってアンチサーベラス連合を組んで西武HD応援のため署名活動を呼び掛けています。

■日本社会の価値観
 しかし世の中はお金が一番と考える株主が多いので、サーベラスに株を売る人もいて、サーベラスは着実に持ち株を増やしています。サーベラスが新任取締役候補としていた生田正治・元日本郵政公社総裁は辞退したということです。だってこのような有名な人が米国ファンドに味方したら、日本人的考えでは村八分になります。それ故に五味広文元金融庁長官がサーベラスについたのにはみんなビックリ、金がすべて的な米国型市場原理主義は日本的風土に馴染みません。農耕民族で額に汗して働き、皆で助け合って穀物・野菜を育てていくムラ社会の日本と、高い木の上から獲物を睨み、ここぞというときに猛然と獲物に襲い掛かってむしゃぶりつく猛禽類のような狩猟民族では、そもそも価値観が違うのです。ヨーロッパでもギリシャのイソップ物語「蟻とキリギリス」を見れば、やはり働き者の味方です。日本昔ばなしを聞いてください。サーベラスのようなファンドは悪人そのものです。それに味方するような人はムラからはじき出されて村八分にされるのです。それが日本社会の価値観です。

■西武HDに味方する大株主
 6月に予定される株主総会での取締役選任が焦点ですが、委任状争奪戦(プロキシファイト)でサーベラスに勝ち目はないでしょう。西武HDの第2位株主NWコーポレーションの大株主である堤義明氏がTOBに反対していますし、同じく大株主である主力取引銀行の、みずほコーポレート銀行や日本政策投資銀行、農林中央金庫など、株式の2〜4%を保有する主要株主は、サーベラスの提案に反対する見通しです。「路線の廃止や球団売却を示したことは勇み足。これでサーベラスに味方する大株主はいなくなった」(証券アナリスト)との声が代表です。西武HD株を約2%保有し、業務提携関係にもある京浜急行の幹部は「沿線住民を支える鉄道の廃線は軽々しく口にするものではない」と指摘しました。こうしたことが、ムラ社会日本を見誤った米国ファンドの誤算です。

■いま何故従軍慰安婦?

 日本維新の会共同代表橋下徹大阪市長の従軍慰安婦に関する発言、どうしてこんなことを今更言うのでしょう?戦時中の旧日本軍の慰安婦について「必要なのは誰だってわかる」などと発言したことについて、同党の松井一郎幹事長(大阪府知事)は、「(慰安婦は)現実にあったわけで、必要とされていた。(橋下氏は)そういう問題を建前でなく、本音で解決するために言ったと理解している」と、大阪府庁で記者団の取材に答え、火に油を注ぎました。橋下氏が沖縄県に駐留する在日米軍の司令官に「もっと風俗業を活用してほしい」と進言したことについても松井氏は「ストレスを合法的に発散して下さいねということ。風俗店には性風俗だけでなくお酒を飲むところもある。合法的なお店で楽しんでもらえたらいいと思う」と述べました。
 日本維新の会の石原慎太郎共同代表も、「軍と売春はつきもので、歴史の原理みたいなもの。決して好ましいものではないが、彼は基本的にそんなに間違ったことは言っていない」と述べ、橋下氏を擁護する考えを示しました。
 米国防総省報道担当者は「ばかげている」と批判しましたが、橋下氏は「アメリカはずるい。アメリカは一貫して、公娼(こうしょう)制度を否定するけれども、米軍基地の周囲で風俗業が盛んだったことも歴史の事実」、「日本国において法律で認められた風俗業を否定することは、自由意思でその業を選んだ女性に対する差別だ」などと反論しました。「従軍慰安婦を自分は否定するが、強制連行の証拠は無い」と言って、韓国政府の怒りを買い、中国政府も厳しく批判しました。


埼玉県富士見市図書館の白藤


■日本維新の会とみんなの党の選挙協力解消
 日本維新の会国会議員団の西村真悟衆院議員は党代議士会で、共同代表の橋下徹大阪市長の従軍慰安婦発言に関連し、「日本には韓国人の売春婦がうようよいる」と発言したそうです。西村氏は、従軍慰安婦発言をめぐる海外報道に関し「従軍慰安婦がセックス・スレイブ(性奴隷)に転換されている。これが国際的に広がれば、謀略が成功しかねない」と強調、その上で「反撃に転じた方がよい」と述べたとのこと。さすがに日本維新の会も、離党届を提出した西村真悟衆院議員を除籍する方針を示し、議員辞職を求める考えも明らかにしましたが、本人は辞めるつもりは無いと言っています。
 みんなの党の渡辺代表は、日本維新の会との参院選での選挙協力について、「解消に行かざるを得ない。もう一緒に組むべき相手ではない。関係を断ち切るということだ」と述べ、白紙撤回する考えを示しました。みんなの党は、橋下氏の発言の撤回を維新の会側に求めていましたが、橋下氏に撤回の意思がないと判断し、渡辺氏は「(回答を)聞くまでもない。言い訳を百万遍繰り返しても国民は理解しない」と語り、維新の会の候補が出馬する選挙区で、候補擁立を検討する考えを示しました。

■日本人の人権感覚が問われる事態
 何にせよ、これで日本人とはどういう国民か?ということが国際社会に知れ渡ってしまいました。橋下氏がいくら口が立つと言っても、「言って良いことと悪いことがある」という感覚が欠如していることが露呈され、しかも日本人から多く支持されている人たちまでが橋下氏を擁護する発言をするに至っては、日本人の下劣性をPRする結果になりました。米国政府が「論評するまでもない」と不快感を示したことで、従軍慰安婦問題でかねがね米国議会から批判されてきた安部総理は、これでいっそう慎重になるでしょう。昔から賢人はぺらぺらしゃべらないものです。

■じぇじぇじぇ

 岩手県は、今年のGWに県内の主要観光地14カ所を訪れた観光客が、前年比11.2%増の延べ100万6642人だったと発表しました。特にNHK連続テレビ小説「あまちゃん」の舞台となった久慈市は倍増しました。久慈市の観光施設「やませ土風館」が前年の倍だったほか、桜の開花が大型連休と重なった北上市の北上展勝地は同26%増の34万2427人。世界遺産の平泉は前年並みでした。八幡平山頂レストハウスは天候不良や寒さの影響で落ち込みました。
 「北限の海女」は、岩手県北東部、北三陸に位置する久慈市小袖海岸で、今なお受け継がれている素潜り漁です。久慈では数年前に「美人過ぎる海女さん」が話題になり、海女さんが「アイドル」になりました。好調な視聴率は、出演する俳優達の賑々しさもありますが、都会と田舎暮らしの対照もあります。「じぇじぇじぇ」という言葉が流行しているそうですが、盛岡近辺では「じゃじゃじゃ」と言います。

(2013年5月19日)


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