6  雇用

 いよいよ2013年4月1日から改正高年齢者雇用安定法が施行されます。今までも沢山の労働法関係の法改正はありましたが、今回のように中小企業を含めすべての企業で対応を迫られるものは滅多にありません。この改正高年齢者雇用安定法では希望者全員の継続雇用を義務付けていますが、だからと言って個々の労働者を雇用する義務ではありません。高年齢者を雇用して下さいと言うのは、今年から老齢厚生年金の受給年齢が61歳となり、以降2年ごとに繰り下がって、男で1961(昭和36)年生まれ、女で1966(昭和41)年生まれ以降の方から、65歳支給となるので、この間無収入にならないよう法律を定めたわけです。しかしながら、ただでさえ若者の就職難が言われていますから、難しい問題があります。ベテランの力は貴重ですが、若者の活力も欲しい、企業としての解決策は、ワークシェア/マネーシェア、すなわち高齢者に若者をサポート・バックアップしてもらい、安い賃金で働いてもらうことでしょう。高齢者が働けば、その分年金支給が遅くなって、年金資源枯渇が先送りされます。パイを増やすには、経済を活発にすることです。アベノミクスに皆が乗って、マインドを高揚させることです。

3月18日の品川インターシティ、高層ビルの谷間の公園は、桜は咲き始めたが木々はまだ芽吹かない

■中小企業金融円滑化法打ち切り
 今の日本経済は良いのか悪いのか?結論的には、大企業は多くが好調です。ただし製造業は海外移転が進みました。好調な大企業は内部留保を増やし、従業員にはさほど還元されないため、デフレを維持しなくてはならず、それが円高を誘って輸出が出来なくなりました。負の循環が続きました。政治の力でこれを引っくり返そうというのが現在の動きです。
 政府・与党は3月末で期限切れとなる中小企業金融円滑化法を再延長しないことを決めました。打ち切りによって、経営状態が特に危険視されるであろう中小企業は5万社〜6万社あると言われています。倒産件数は一気に増加するかというと、そうは行きません。資金繰りに窮した中小企業が、消費者金融「サラ金」へ頼ってでも生き残ろうとするので、これまで不振にあえいでいた消費者金融への需要が高まるだろうと言われています。失業率はどうなるのでしょう?何やら新たな悲劇がまた始まりそうです。しかし、悲劇の後にまた再生がある、と信じます。保護してばかりだと、新たな産業や企業は産まれません。

■雇用、そして心の持ち方
 製造業の空洞化によって、第2次産業から第3次産業へ労働者の移動が起きています。居酒屋で、どう見ても前職は固い仕事のサラリーマンだったのだろうと思うようなオジサンが働いているのを見るようになったのは10数年前からです。飲食業では栄枯盛衰が激しくなっています。あるコンサルタントのブログに、業績が悪い店のチェックに行ったことが書いてありました。 売上が下降線で利益もなくなり、赤字に突入している店です。PLなどの数値だけをみると、業態変更か撤退のどちらかと見えます。 しかし、数値だけを見て判断してはいけないと言うのです。「なぜ店は赤字になったのか?」そこには、数値ではわからない原因が隠されていたようです。現場をきちんと見て、総合的に判断をすべきだという結論でした。

■スタッフの活気が無い
 お客様になってみて、一番目に付くのは、スタッフの活気でした。店に活気が無いのです。お店は、静かに食事やお酒を飲んだりするお客様や、団体で盛り上がっているお客様まで様々です。しかし、スタッフはただの運び屋になっているだけで、お客様をマネージメントしていません。エレベーターやドアを開けても、いつまでもスタッフが出てこなかったり、トイレがわからなくて、不安な顔をしていても廊下で無視されたり・・・、最近流行っているお店は皆、入って行くなり、「いらっしゃいませ〜」と大きな声が飛んでくるのが普通です。帰るときは「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております!」と背中に声がかかります。灰皿に吸殻がたくさん溜まっていても交換に来ないとか、ドリンクの出が異常に遅かったり、おかわりに来ないなど、飲食のマネージメントはたくさんありますが、ほとんどができていないのです。これでは、お客様が楽しく食事をすることはできません。お客様をもてなし、また次回来店したくなるようなマネージメントができていない店は、ジワジワと売上が落ちてきます。スタッフの能力によって売上は大きく変わるのです。売上が落ちてきた理由は、スタッフの能力の低下が原因です。

■現場を見れば改善点が見える
 これではいくら魅力的な業態に変更しても、一時的に売上が良くなるだけで、また元通り、赤字に転落してしまいます。他にも、同じ屋号でやっているのに、料理の味や盛り付けなどが店舗によって大幅に違っている場合があります。これも、リピーターを失って売上を落とす要因です。味や盛り付けのブレは致命傷です。同じメニューで運営している店でも、売上が悪い店は味も盛り付けもイマイチ、片や、売上の良い店は、味も盛り付けも抜群でした。このように、現場をよく見ると、数値とは別のところに原因があることがわかります。PLだけを見て判断するのではなく、できるスタッフと料理の改善によってお店は蘇るのです。
 無駄に設備投資をして業態を変えるよりは、スタッフに投資した方が設備投資するよりも少なく済むし、結果も出やすいのです。ただ、売上が悪いから撤退、業態変更、ではなく、なぜ売上が悪いのか?なぜ赤字になっているのか?PLだけではなく、お客様目線で現場を見ることが改善の第1歩だというのです。

■半導体事業のリストラ
 富士通が人員削減をすると発表しました。主に半導体事業の人員削減と配置転換です。会社が存続するために、終了する事業もあれば、新規事業も生み出す必要があります。そうして企業は脱皮しながら、変身しながら、存続して行くのです。それは、パナソニックであれ、ソニーであれ、NECであれ、シャープであれ、皆やってきたことです。原発の停止によって苦しくなって良いはずの日立、東芝、三菱重工業が、今比較的堅実な業績であるのは、国際競争の激しい尖ったハイテクと言うよりも、誰もが欲しい社会インフラの面で、圧倒的な技術力を誇るからですが、ここに到るまでに、これら各社も事業の改変、強靭な体質作りに厳しいリストラを重ねてきました。他にも多くの日本企業は、高い技術力により、高機能な製品を開発し、商品化してきました。ところがこの3年間の超円高は、家電ではいかにハイテク製品でも価格が高過ぎて手が出ないという状況をもたらしました。そしてそれらの基幹部品である半導体も連動しました。日本の製品が売れない、中国、韓国、台湾の製品が売れる、自然にこれらの国で半導体産業が育って行きました。半導体と言えば、かつては日本の花形でした。日本の研究開発のおかげで、今は半導体も安価に大量生産できるようになりました。

■半導体はファブレスへ
 半導体の関係者のことを思うと、心が痛みます。半導体産業は設備産業です。もはやこのモデルは日本では立ち行かないと考えて、富士通は舵を切り、半導体生産に終止符を打ったのでしょう。中国や韓国企業などのように、大量生産を行い、より低価格競争を展開して、業界で生き残って行く選択を捨てたのです。ただし富士通は半導体を捨てたわけではありません。パナソニックと組んで、開発は続けます。かつて日本に負けたアメリカが選んだ道です。ファブレスで、生産は中国、韓国、台湾企業に委託するのです。アメリカはこの形態で日本企業にも勝ちました。半導体関係ではリストラの嵐です。会社に拘るのであれば、仕事の内容が変わっても自分が会社から必要とされなければ首を切られますから、企業に残るための努力をしなければいけません。

■企業は脱皮しながら、変身しながら、存続して行く
 右肩上がりの成長を続ける経済状況のときには、会社はどんどん人を雇用し、事業を拡大してきました。また、一つの事業が数十年かかるような事業、例えばインフラ事業のようなものであれば、入社して定年まで勤め上げることが出来るでしょう。先般アルジェリアでの日揮とその関係者の方々は大概高齢者でした。たとえば、原発や火力発電、地熱発電、海水淡水化プラント、石油化学プラント、新幹線のようなものは、円高であろうと日本企業の市場です。しかし、ハイテク産業は技術の移り変わりが激しく、入社した時に行っていた事業が定年退職するまで存続していることは有り得ません。しかも若者のように頭が働かなくなるので、途中で着いて行けなくなります。自分がこの会社でまだ働きたいと思ったとしても、できなくなる、首になることもあるでしょう。嫌な仕事でも家族を養うために続けなればいけない場合もあるでしょうが、そうした局面においても、やはり「何がやりたいのか」を持っている人は強いのではないでしょうか。いつか自分はこんな仕事をしたいと思っている人と、そういった目標を持たない人では未来が変わってきます。たとえば、富士通という会社が半導体生産を切ることを予見できれば、いち早く自分の未来を考えられたはずです。富士通は今はソフトウェアの世界で好調です。農業への取り組みも始めました。上で書いた「企業は脱皮しながら、変身しながら、存続して行く」のです。それを常に考えていたならば、職を失うことはありません。

■高年齢者雇用安定法の改正
  「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、あくまでも@定年の引き上げA継続雇用制度の導入B定年の定めの廃止、の3つを高年齢者雇用確保措置として選べることになっています。しかし、現状は8割以上の会社で継続雇用制度の導入をしています。そのため、今までは対象者を限定できる仕組みだったものが、希望者全員を継続雇用するという法改正に企業は慌てているのです。
◆本当に希望者全員継続雇用なの?−−−>そんなことはありません。就業規則に定める解雇・退職事由に該当する場合は継続雇用する必要はありません。ただし、就業規則に何も定めていなかったら?−−−>希望者は全員継続雇用しなければなりません。
◆全員が65歳まで継続雇用する義務があるの?−−−>そんなことはありません。現行法では継続雇用の対象者を限定する基準を労使協定で定めることができます。ただし、2013年4月1日からは廃止されてしまいます−−−>駆け込みで労使協定を結べば、2025年まで段階的に年齢が引き上げられることになります。
◆継続雇用の雇用形態は決められているの?−−−>そんなことはありません。あくまでも、国は少子高齢化に向けた法整備のなかで高年齢者雇用確保措置を義務付けているだけで、雇用形態まで断定していません。−−−>60歳定年後の雇用形態は、自社独自で整備する必要があります。
◆これからの賃金規程の見直しは?−−−>少子高齢化で若者が少なくなるのは避けられませんが、会社には若い力も必要です。継続雇用のために必要な賃金はどこから捻出するのか?大手では、働き盛りの世代の賃金カーブをゆるくする取組も行われるようですが、中小企業ではその取り組みも難しいかもしれません−−−>その会社にあった再雇用制度の構築と雇用保険高年齢者雇用継続基本給付金や助成金等を活用する必要があるため、制度をしっかりと把握する必要があります。今後の新たな助成金等、行政の動向にも注目する必要があります。

 東芝のホームページに下記のような記載があります。素晴らしいと思ったので転載させていただきます。

東芝は、少子高齢化が進む中で、60歳定年以降も貴重な即戦力として、また高度なスキルや技能の伝承者としての役割を期待して、2001年からスキル・能力に応じて賃金水準が決まる雇用延長制度を導入し、高齢者が活き活きと活躍できる仕組みを提供してきました。
今般、東芝は、2013年4月に施行が予定されている「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正への対応について、2013年4月以降に60歳に到達する者から、法改正の主旨を踏まえて、原則希望者全員を雇用延長することとします。
引き続き東芝は、高齢者の働き方のニーズや個々のスキル・能力に応じた高齢者の活躍を積極的に推進していきます。


■WBCはドミニカ優勝
 やはりドミニカが強かった。負けなし優勝というところが凄いねぇ。ところで、WBCを戦い終えたばかりのキューバ代表のYadier Pedroso(ヤディエル・ペドロソ)投手が3月15日に自動車事故によって26歳で死亡したとキューバメディアが報じました。ご冥福を祈ります。
 ところで侍ジャパンですが、2013年3月17日(日本時間18日)米国サンフランシスコのAT&Tパークで行われたWBC準決勝で日本は戦前の下馬評を裏切って1−3でプエルトリコに負けました。YAHOO!知恵袋で、「前田健太が敗戦投手になるのは納得できないです。能見投手の失点で負けてます」という質問がありました。答えは「これは野球のルールだから仕方ないよ」という素っ気無いものでした。この答えは埼玉県東入間学童野球連盟の「知っ得2」に載っています。
 負けてグチャグチャ言っても仕方ありませんが、ここまで行ったというのは侍ジャパンの強さを示しています。アメリカだって準決勝前に負けました。世界チャンピオンのキューバもそうです。もはやこの辺りのチームは紙一重ですから、勝っても負けても不思議ではありません。そのときに勝てるかどうかはマインドと技術がうまくはまるかどうかです。
 先発の前田健太と阿部のバッテリーは慎重に入りました。「制球を乱した」という報道は野球を知らない記者の記事です。ビミョーなコースをボールと判定され、2四球を与えました。メジャーのバッターをずらりと並べたプエルトリコ打線にまともに立ち向かったら火達磨になります。ボールを打ってもらおうという作戦は正しいのですが、見極められました。前田は、1点先制されてから、いつもの強気がムラムラと出てきました。その後は凄いピッチングでした。負けの原因を能見篤史の投球にすることも内川の走塁にすることも出来ないと思います。すべては打てなかったということです。まあ、あのホームランは唯一の失投だったとは言えますが、ここまでプエルトリコで一番打てなかった打者が見逃さず打ったところがやはりスゴイ、相手をほめるしかありません。ホワイトソックスの現役大リーガーですからね。プエルトリコ9安打に日本6安打、大きな差ではありませんがやはり打力で負けました。負けにタラ、レバは付き物ですが、4番阿部が3度のチャンスで1本でも出ていれば展開は変わったでしょう。先制されて、打者の心理が「早く追い着かなければ」という形になったのでしょう。8回の内川の走塁について本人はもの凄く責任を感じて涙していましたが、「ダブルスチールしてもいいよ」というサインがあるんですね。さすがプロ野球はスゴイ!しかし2塁井端、1塁内川、バッターは左打席の阿部、1ストライクからの2球目、井端が3盗のスタートを切ろうとして自重した、そのとき一走の内川が2塁へ一目散、投球はボール、捕手モリーナがボールを持ったまま、2塁手前で立ち止まる内川を追いかけ、そのままタッチアウト。何度もビデオで見ました。スコアラーの目で見ましょう。モリーナの追いかけ方が素晴らしかった。内川が戻れないように、走者の右方向へダッシュしました。この捕手は試合前に最も警戒すべき大会ナンバー1キャッチャーと言われていました。もし「ダブルスチールせよ」というサインだったら井端は迷わず走り、そして多分殺されたでしょう。「死ね」と言われたら死ななければいけません。「お言葉ですが」と返すサインなんてあるんでしょうか?野球の上ですから、ホントに死ぬわけではありません。こういうのを「捨て身の作戦」と言います。左打者だから捕手は投げやすい。しかも3盗というのは余程でないと成功しません。「ダブルスチールしてもいいよ」というサインが出ても井端が自重したのは、展開がわかっているから当然です。内川は2塁走者が走って、本気で3塁へ向かっているのを確認してから全力疾走に切り替えるべきだったのです。プロだから分かっているのですが、どういう心理だったのでしょう。タッチアウトされてから、しまった、と思ったはずです。だから申し訳なくて、日本のファンの応援している姿を思い浮かべて涙が出たのでしょう。井端が3盗を図ったら、捕手は当然3塁へ投げるでしょう。内川のスタートは遅れても良いのです。しかしこの場面確率的にイチかバチかの作戦を取るべきだったか?台湾戦の鳥谷の2盗は成功する確率のほうが高いと思えますが、この場面はほぼ失敗するであろう場面、阿部が打てなかったら仕方ない、というところ、「ダブルスチールしてもいいよ」なんてアリエナイと思いますが、野球というのは成功したら選手がほめられ、失敗したら監督が責められる、そんなものです。負けて一番辛いのは監督なんです。
(2013年3月23日)


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