■宮古島に興味
■オトーリ とにかく急に宮古島に絡む話題が沸騰して、行った事はないが、聞けば聞くほど面白そうな島であり、興味がしんしんと沸いてきたのである。その中でも一番は「オトーリ」である。その後輩の農業土木の専門家が「世界オトーリ普及協会」認定のオトーリ師範代だというのだ。オトーリというのは、今や那覇などでは禁じられているが、宮古島伝統のならわしである。参加者が順番に親になって、まずは口上を述べ、沖縄の焼酎;泡盛または県産ビールを一気呑みして、盃を回してこれを一回り続けると言う、独特の酒席の慣習である。ところが、これが一回りでは終わらないのがフツウ、とてもじゃないが、酒に弱い体質の人には耐えられないし、何より危険である。しかし、「郷に入りては郷に従え」という意味から、島外者を受け容れるための行事であるとも解釈できる。島外者から見ればとんでもない慣習のように思われるが、実はオトーリには歴史的に深い島民の思いが込められており、決して酒の弱い人に強制するものではない。「世界オトーリ普及協会」の「オトーリ七か条」の中に、「オトーリは和をもって尊しとなす」、「オトーリの口上は簡潔を旨とし、感謝・笑い・感動・祈念を含むべし」というものがある。ここにオトーリの真髄がある。 ■台風銀座 実は、箱根・仙石原の温泉宿でこれを書いている。昨夜のテレビで宮古島の映像が流れ、風速40m/s以上の強風が吹き、木の枝がちぎれ、電線が垂れ下がる画像を見て、そうだ!宮古島だ!単純なのである。仙石原も雨だ。庭がきれいな宿で、遠景は霞み、庭木の緑も雨に打たれて美しく輝いている。掛け流しの温泉は白い湯、宮古島には無い楽しみだ。
■水の管理と有機農業 沖縄諸島は、火山性の島とサンゴ礁の島がある。宮古島は、典型的なサンゴ礁の島。ほぼ真っ平ら。サンゴ礁の島の問題は水である。川がない。水で苦労する。ところが、この宮古島の最下層は泥岩層がある。遠い昔から蓄積した揚子江の細かい土。これが隆起しその上にサンゴが作った琉球石灰岩がある。この上に表土があるのだ。このサンドイッチされた石灰岩が穴だらけで水が流れる。地下をまるで川のように流れて海に溢れ出て流れ出してしまう。これを、土中工法でせき止めたのが地下ダムである。この水を使って、汲み上げて、宮古島では農業が出来るようになった。牛を飼い、豚を飼い、それらの糞と土と青草を混ぜ、魚介屑などで発酵させた酵素を混ぜて有機堆肥を生産して、有機農業ができるまでになった。若い農業者が千葉や栃木から移住するようになってきた。まだまだ、有機栽培は難しいと彼らは率直に議論する。さらに雨除けハウス栽培も始まった。マンゴーを特産にしようとの取り組みもある。最大の敵は台風である。今回の台風2号はマンゴーを振り落とした。滅多に無い5月の台風直撃、先々週も宮古島の風力発電機倒壊事件を紹介したが、それでも人々はこの島で生きている、この島に帰ってくる。 ■沖縄人は怠け者? 以前米国国務省のケビン・メア日本部長(当時)が「沖縄県民はゆすりたかりの名人」という主旨の発言をして、2011年3月10日解任されたことを紹介した。この事件で沖縄県民は怒り、日本の大マスコミはこぞってメア発言を糾弾したために、当初事を重大視していなかった米国国務省は慌てて事態沈静化に動いた。ところが東日本大震災の勃発でこのニュースは吹き飛んでしまった。 「沖縄は飲酒運転率が最も高い」 「日本政府は沖縄の知事に『もし金が欲しいならサインしろ』という必要がある」 「日本人は合意文化をゆすりの手段に使う」 「日本文化には本音と建前があり、駐日米大使は真実を言うと批判される」 「日本は法治国家として前近代の状況に取り残されたままである」 加えて、沖縄の名産品であるゴーヤについて、「他県の生産量の方が多い、沖縄の人は怠惰すぎて栽培できない」 これが、ケビン・メア氏の発言だ。これでも2006年から2009年に駐沖縄総領事を務めた人物なのだ。更にメア氏は米国の本音を漏らした。 「米国の国益のために日本の領土を使用している」 「これを不可能にする日本の憲法9条改正には反対だ」 メア氏の言ったことは事実なので、米国国務省はこれが大問題になると言う認識は当初無かったようだ。実は、これが、米国の沖縄に対する認識、日本に対する基本姿勢である。日本の大マスコミが怒ったのは、痛いところを突かれたからだ。ただ、思っていても言わないものであって、メア氏の傲岸不遜ぶりがわかる。 ■沖縄振興予算 内閣府の肝入りで、沖縄振興のために実はかなりの予算が現在も尚投入されている。例えば科学技術大学院大学、農水では畜産振興に百数十億円が使途未定で予算付けされている。沖縄以外では有り得ないことだ。第二次世界大戦で戦場となった上、我が国に駐留する米軍基地の過半以上を沖縄に押し付けて、本土の安寧を確保しているため、当然の費用負担だというのが暗黙の了解だ。だからこのお金を目当てに企業は沖縄へ向かう。これまた当然の商行為である。基地問題や基地移転などの慰撫のために、市町村に莫大なお金がばら撒かれて来て、沖縄の人たちも過去を考えれば、それくらい当然だ、と内心思っているのではないか?基地に土地を貸している地代収入に関しても、実は実勢価格よりかなり有利な条件で地主と契約しており、働かなくても収入を確保できる人たちが多いのは、現地の人と話せば見えてくる。 ■日本最低所得だが貧しくはない 国家資金のばら撒きは何が悪いのか?戦後65年、2世代以上にわたってこの状況が続いた結果、沖縄の人たちは日本で最低所得になってしまった。亜熱帯に属する恵まれた気候風土にも起因しているが、あくせく仕事をしようという気風が無いというのは、沖縄に営業所を出した本土企業の共通認識である。のんびりしていることが悪いのではなく、金銭を稼ぐためにガリガリ仕事しろとも言わない。本来人間と言うのは、働くために生きているのではなく、生きるために仕方なく働いているのだ。430『値下げと値上げ』(2011年4月10日)で、「生きる環境が厳しい北欧の人達が働き者で、知恵が出るのは、環境のなせる技だ。世界の中で、先進国はすべて日本より高緯度の国ばかりなのは当然だ」と書いた。実際植物工場で世界トップのオランダ人に言わせれば、「日本人は怠け者だ」ということになる。「お茶は飲むし、煙草は吸うし、仲間内でペラペラしゃべって一心不乱に仕事しない、使えない」、という評価なのだ。沖縄はゆったりとした時間や美しい風土に誘引されて都会からの人口流入が続いている。地方の過疎化が進行する中で、唯一人口が増えているのだ。だが、沖縄ののんびりが許容される背景には、自分達や先祖の努力以外の要因があるのも事実である。Uターン、Iターンを標榜する東北、北海道から見ればうらやましい限りだが、例えば冒頭の下地勇も高校卒業後7年間東京で働いてから宮古島に戻った。筆者の知り合いの若者も、東京でビル管理の仕事をして、その技術を惜しまれながら沖縄本島に戻り、しばらく仕事がなかったが、オジイ、オバアと一緒にいれば食うには困らなかった。オバアが畑で作った野菜が毎日の食卓に並んだ。東京の人々から見ると宮古島の人は所得が半分である。それでも宮古島に帰るのは何故?貧しいというのは心の問題だ。筆者が独身時代、隣の部屋に引っ越してきた女性が西表島から来たと言った。地図で見たら、もはや台湾のすぐ近くではないか。それから20年以上経って、我が家にその女性が訪ねて来て、筆者は留守で妻が応対した。娘の出身名門女子校の同窓会役員で、苗字からもしかして、と思ったのだそうだ。娘同士が同窓だったわけだ。もう顔も思い出せないが、よくぞ覚えていてくれた。夫は隣の市の議会議長だった。こういう人は帰れないな(^_^) ■バイオアイランド沖縄 政府は一方で、バイオテクノロジーを沖縄振興の切り札にしようと目論んでいる。労働賃金の安さだけで誘致したコールセンターやIT産業群は、中国やインドなどに押され始めている。付加価値が低いため、沖縄ののんびりした気質がこうした産業では駆逐される可能性が高い。バイオは知識資本主義であり、有力な知的財産や知識を確保、独占することができれば、せこせこする必要はないし、エネルギーや資源を大量に消費する産業でもない。沖縄の美しい風土を損なわず、経済発展を遂げる可能性がある。この小さい島に、沖縄県や沖縄振興公社を通じて資金がジャブジャブと投入されている。バイオアイランド沖縄は今後の注目点である。 (2011年5月29日) |