389  スマートグリッドその2

 東芝は、沖縄電力が沖縄・宮古島で今秋から行うスマートグリッドシステム(次世代送配電網)の実証実験システムを一括受注した。4MWの太陽光発電システムを新設、既存の電力系統に連結するなど国内最大規模の実証実験で、年間4000トンの二酸化炭素(CO)削減効果を目指す。スマートグリッドはICT(情報通信技術)を使って太陽光などの再生可能エネルギーと火力などの既存の電力を効率よく組み合わせ、CO排出量の抑制などを図る送配電システム。宮古島では既にある風力(4.2MW)や火力(61.5MW)、ガスタービン(15MW)に加え太陽光発電システム(4MW)を新設。天候によって発電量が大きく変わる太陽光発電を既存の電力系統に接続する際の課題などを詳しく調べる。また、ICT通信網で各家庭などの電力消費状況をリアルタイムに把握。蓄電池に蓄えた太陽光の電力を使って火力の利用を抑えるなど、新エネルギーと既存の電力との最適な組み合わせを探る。東芝はスマートグリッド事業の専任組織を設立、2015年度に売上高1千億円を目指している。


宮古島系統実証試験設備(東芝発表から)

次世代は電気自動車になる
 昨週の『スマートグリッドその1』では、東京ビッグサイトで開かれた「スマートグリッド展」、「次世代自動車産業展」を見て、本題を掲載した。内容が専門的で難しいので2回シリーズに分けた。関連するのは299『新エネルギー(2008年10月5日、242『次世代車(2007年9月3日)など。2007年の次世代車のつぶやき時点では、ディーゼル・ハイブリッドなどに注目したが、三菱自動車や富士重工業が電気自動車に賭けると発表したときには、本気かいな?と耳を疑ったものだ。今回の展示会ではトヨタもプラグインハイブリッド・プリウス(家庭のコンセントからバッテリーに充電できるエンジン併用車)を展示し、日産やマツダも電池自動車を発表して、どうやら筆者の眼は曇っていたようだ。次世代車の本命、電気自動車の一種・燃料電池車はHONDAが注力しているが、燃料が問題、水素スタンドというインフラ整備は困難なので、メタノールを改質して水素を取り出す仕組みになろうか。燃料を作るには植物が必要だ。ところがリチウムイオン電池の性能の急激な向上で、例えば太陽光発電で得られた電気を蓄電してエネルギーにすれば、地球上どこでも手に入る、スマートグリッドと電気自動車はここで繋がるのである。化石燃料に頼らないために、中国は国を挙げて電気自動車に注力している。高校同期の自動車部品会社に勤める機械技術者が、「これからは電気屋の時代だよ、自動車は部品もガラリと変わる、DENSOなどの時代になる」と語っていた。
■蓄電池が重要
 昨週は、
日本では停電対策のためのスマートグリッド化は不要であり、太陽光発電や風力発電、マイクロ水力発電などの再生可能エネルギーの導入目標達成のために必要とされている、と書いた。太陽光や風力などは、その発電量が天候に左右され、非常に不安定だ。更に、電力需要が少ない時に供給量が増加してしまうと、配電線に大量の電力が送られ、負荷をかけることになってしまう。そのため、需要と供給のバランスを調整するなどの系統安定化策が不可欠。
 具体的には、大型の
蓄電池を設置することで電力をプールする方法や、電気自動車の蓄電池としての代替利用、コージェネ(熱電併給)やガスエンジンといった機器の電力源としての利用など、他の設備に余剰分の電力を移す方法がある。現在、大規模風力発電設備にはナトリウム硫黄電池(NAS電池)が使われている(製作するのは日本碍子のみ)が、装置が大がかりで、細かな充放電には向かないため、住宅用として新たな蓄電池の開発が求められている。
ICT(情報通信技術)のセキュリティ対策が必要
 地球温暖化防止への世界的な環境意識の高まりの中、電力を効率良く運用するマイクログリッド・スマートグリッドの市場規模は、今後大きく伸びることが予測される。宮古島の離島マイクログリッドシステム実証試験は、東芝グループで開発した世界最高クラスの直交変換効率97.5%を誇るパワーコンディショナに加え、マイクログリッド用に開発した需給制御機能を持つμEMS(マイクロ・エネルギー・マネジメント・システム)を搭載した次世代監視制御システム、蓄電池の一部に新型二次電池SCiBTMを初採用する予定。また、太陽電池モジュールはシャープ株式会社製の高効率多結晶パネルなどを採用する(東芝のプレスリリースより)。
 一方で、スマートグリッドには欠点もあるとの指摘がある。例えばセキュリティ上の問題。スマートグリッドのインフラには、高度な通信システムや技術が結集することになる。そこに対する不正操作やウイルス感染などの対策はまだ不十分と言われており、今後セキュリティの脆弱性の克服が必要になるだろう。
■スマートグリッドの基幹技術各種
 下記スマートグリッドを構成する基幹技術を紹介する。
スマートメーター
 需要家と電力会社との間で双方向通信を行う機器(計器)。需要家の消費電力や太陽光発電などによる発電量がリアルタイムに把握でき、そのデータを送配電網を通じて、電力会社に送信する。また、住宅やオフィス内の家電・設備機器と無線通信やPLC(電力線通信)でつながっており、そのON/OFFや状態、送配電量の調整を、電力会社側から制御できる。
 スマートメーターの設置が世界で最も進んでいるといわれるイタリアでは、同国の大手電力会社エネルが主導し、全世帯の約85%にスマートメーターが設置された。米国の調査会社の報告では、スマートメーターの世界市場は2009年に7,600万台だったが、2014〜15年頃にはおよそ3倍の2億1,200万台に達すると予測されている。
日本企業:日立製作所、大崎電気工業、メガチップス、東光電気など
超電導ケーブル
 冷却することで電気抵抗がゼロになる性質をもつ超電導物質を利用したケーブル。ケーブルを冷却して送電を行うことで、送電の際の電力ロスがなくなり、省エネ・CO2削減に貢献する、とされている。住友電気工業は、東京電力と共同で、平成22年度より、日本で初めて高温超電導ケーブルを電力系統に連系する実証実験を行う。この技術はアメリカにも輸出されている。
日本企業:住友電気工業、古河電気工業、昭和電線など
デマンド・コントロール(デマンド管理)
 最大需要電力(デマンドの最大値)を予測するシステム。電気料金のうち、基本料金は契約電力(契約上使用できる最大電力)によって決定される。契約電力は、30分ごとに計測される需要電力量の平均値のうち、最大値(最大デマンド)が適用される。30分の中である一定の需要電力値を超えないように、需要電力を計測し、警報などで需要家に知らせる仕組み。これにより、基本料金を抑えることができる。
日本企業:三菱電機、富士電機、大崎電気工業など
スマートオアシス
 スマートオアシスは、電気自動車(EV)充電スタンドを利用したサービス。充電スタンドの位置情報や空き情報を、携帯や無線LANを使い、リアルタイムで知ることができる。また、各充電スタンドでの充電状況や課金状況、障害発生状況を監視することができる。
日本企業:日本ユニシスなど
マイクログリッド
 マイクログリッドは、複数の小規模な発電施設で発電した電力を、その地域内で利用する仕組み。分散型電源や分散型電力網とも呼ばれる。エネルギー供給源としては、再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス、燃料電池)が利用され、蓄電池も設置される。これらの発電施設を地域内に作り、更にネットワーク化して連結。自然エネルギーは一般的に出力が安定しないという欠点があるが、複数の発電所を用い、電力需要にあわせて最適制御を行うことで、需給バランスを調整し、安定的に電力を供給することができる。更に、建設費用が安価で、送電によるエネルギーロスが少ないというメリットがある。その反面、実用化にはコスト面の問題が残る。特に蓄電池はまだコストが高く、更なる高性能化・長寿命化も求められている。
スマートシティ
 スマートシティとは、ICTを活用し電力供給を最適化するスマートグリッド技術を導入し、再生可能エネルギーを用いた分散型発電システムや電気自動車の充電システム、高効率な空調装置を用いたビル・住宅などの都市システムが結合され、CO2排出量が少なく、環境負荷の低い社会インフラが整備された次世代都市のことをいう。
BEMS(Building Energy Management System)
 情報技術を駆使して業務用ビルなどのエネルギーを管理するシステム。ビルなどの建築物で、各種設備のエネルギー使用状況を把握し、制御することで、ビル内の快適な環境を維持しながら省エネを推進する。
 ビルの建設〜解体までの全期間にかかる建設や改修、運用などの経費のうち、運営維持に要する費用は全体の75〜80%を占めると言われており、BEMSによる省エネ効果は大きいと考えられる。また、将来的には、情報通信技術と組み合わせることで、ビル群を一括管理する統合的BEMSに拡大するとも予測されている。
HEMS(Home Energy Management System)
 家庭内のエネルギー管理を行う「家庭版BEMS」。家電製品や給湯機器をネットワークでつなぎ、自動制御する。需要家に対して省エネを喚起したり、各機器の使用量を制限することでエネルギー消費量を抑制したりすることができる。冷蔵庫やテレビを始め、あらゆる家電機器がIPアドレスを持つようになるため、以前このつぶやきで触れたIPV6に移行したのである。>



決勝トーナメント進出、ブラボー!日本


 深夜のFIFAワールドカップ・デンマーク戦、翌日は寝不足の方も多かっただろう。世界ランク下位の日本(FIFAランキング45位)と韓国(FIFAランキング47位)が16強に入った。岡田監督は「デンマーク戦の勝ちよりカメルーン戦の1勝の方が大きい。あの1勝がなければ、何も起こらなかった」と言った。「我々がやろうとしたサッカーの中心選手の不調が続いていた。それがW杯の重圧なのだろう。どこかで踏ん切りをつけなければいけなかった」と、エースMF中村俊輔を信頼している監督が苦渋の決断をした。
 カメルーン(FIFAランキング19位)戦での得点の場面、右サイドから松井が右で打つと見せて体を入れ替えたことで相手守備が振られ、前に余裕が生まれた。左足から狙いすましてセンタリング、ゴール前中央に大久保が相手二人を引き付け、左後ろ回り込んだ本田が落ち着いてトラップし、蹴り込んだ。美しい、見事なゴールだった。
 オランダ(FIFAランキング4位)戦では相手にチャンスらしいチャンスをあまり与えず、1点取られた後の猛攻、特に本田のパスを岡崎がシュートした場面は決定的なチャンスだったが、ボールはバーの上へ・・・惜しかった。この1戦で「日本侮りがたし」という評価が世界のサッカーファンに浸透したはずだ。うっかりすればオランダが足をすくわれたかもしれない、という展開だったからだ。オランダは日本を侮ることなく慎重な試合展開に徹していた。
 デンマーク(FIFAランキング35位)戦では本田の無回転フリーキックがゴール左隅へ、WC前の不調から立ち直った遠藤のフリーキックがゴール右隅へ、そして大久保、本田、岡崎が攻め上がり、本田からのパスを今度は落ち着いて決めた岡崎、見事な攻撃だった。本田が蹴るのでは?と思わせての遠藤のフリーキックは、今大会最高のフリーキックと評されている。グループリーグで惨敗したフランスのメディアは、本田のボールキープの能力や、常にパスを受けられる位置に動く読みの鋭さと、試合中守りに攻めに献身的に走り回る動きに着眼し、特にドリブルで切り込んで3点目のアシストを送ったプレーを絶賛し、「メッシのようだ」と表現した。今大会で、見事なパスでチームを勝利に導いているアルゼンチンのメッシは、自らシュートするだけでなく、どうすればゴール確率が高いかを考えて、あくまでチームのためのプレーに徹している。その精神と同じだと言うわけだ。本田は南アフリカで今やスターになった。「ホンダ、ホンダ」と声をかけられる。ヨーロッパメディアは日本のチームワークを手放しで讃え、「パラグアイは油断できない」と評した。だがその裏で日本のキーパー川島の気迫、中澤、田中マルクス闘莉王の守備、中盤の長谷部、阿部や長友、チーム一番走り回る遠藤などの選手の活躍が大きい。岡田監督はエースの完全復活を待っている。俊輔が再び攻撃のタクトを握った時、日本はさらなる進化を遂げるはずだ。
 それにしても、ヨーロッパの強豪が相次いで敗れるという今回のWC、前回優勝のイタリア(FIFAランキング5位)、準優勝のフランス(FIFAランキング10位)がまさかの1次リーグ敗退、スペイン(FIFAランキング2位)と前回3位のドイツ(FIFAランキング6位)は1敗しながら最後はグループ1位で通過。攻めに攻めるより、守りに守るほうが勝てる確率が高いことを見せ付けられているだけに、オランダ(FIFAランキング4位)の慎重な戦法はやはり大したものだった。他の欧州勢では、前回4位のポルトガル(FIFAランキング3位)がエース・ロナウドを擁し、失点0でブラジルに次ぐ2位通過、イングランド(FIFAランキング8位)もアメリカ(FIFAランキング14位)に次ぐ2位通過、スロバキア(FIFAランキング38位)はパラグアイに次ぐ2位通過だった。欧州勢は6チームが決勝トーナメント進出。アメリカとともに北中米カリブ海代表で1次リーグ突破したメキシコ(FIFAランキング17位)は、ウルグアイに次ぐ2位通過、ガーナ(FIFAランキング32位)はアフリカで唯一1次リーグを突破した。前回大会は欧州勢が強かったが、今大会は南米勢が強い。ブラジル(FIFAランキング1位)、アルゼンチン(FIFAランキング7位)、チリ(FIFAランキング15位)、ウルグアイ(FIFAランキング18位)、パラグアイ(FIFAランキング30位)と、5チームが決勝トーナメント進出。
 今大会3戦で1失点のパラグアイは、3得点で得失点差2は得点4失点2の日本と同じ、守りのチームである。南米予選でブラジル、チリ、ウルグアイと1勝1敗、アルゼンチンに1勝1分と立派な戦績で1位通過。昨年の国際親善試合では韓国に1-0で敗れたが、オランダとは0-0で引き分けた。FIFAランキングは低いが、守り強く波に乗っている。韓国は今大会得点5だが失点6と粗い試合をしている。攻撃的サッカーのあまり、隙も出るわけだ。日本はパラグアイに勝てるチャンスは十分に有ると考える。
頑張れ!ニッポン
 [追伸]決勝トーナメント1回戦、韓国はやはりウルグアイに1-2で負けた。守備がポイントだ。
(2010年6月26日)

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