茗荷
さて、筆者が何故これを見たかったかと言うと、じつはみょうがが大好きだからだ。みょうがには殆ど栄養はなく、香りと歯ごたえで楽しんで食べる食材であるが、冷奴やそうめんの薬味としては最高だ。ショウガ科の植物で、胃腸の活発化の効用により、夏バテに効果があるという。みょうがに酢を加えると感動的な紅い色になる。赤という色は食欲をそそるもの、だから夏ばてに良いのだろう。東京メトロ池袋駅から2駅目に茗荷谷というところがあるが、ここはみょうががよくとれたところだそうだ。「みょうがを食べ過ぎるともの忘れする」と言われるが何故だろう?茗荷が大好きな筆者はこの言葉の由来を調べた。諸説あるが、もっとも良く言われる話を紹介しよう。 釈迦の弟子に「周梨槃特(しゅりはんどく:チューダパンタカ)」という者がいた。この男、記憶力が悪く、自分の名前まで忘れる始末。兄が聡明なのと比べて笑われていた。そこでお釈迦様は彼の名を大書した札を与えたら、常に背負って歩いたという。槃特は、お釈迦様から与えられたそのわずかな教えと戒めを基に精進を続け、悟りの域に達し、ついには十六羅漢の一つになってこの世を去った。『悟りを開くのに賢愚の差はない』という有難い話なのだ。その死後、墓地に見知らぬ草が生えた。これを、名を背負って歩いたことにちなみ、茗荷と名付けたのだと言う。 みょうがは香りがあるので「芽香:メイガ」と呼ばれていたものが、いつしか転じて「みょうが」になったとも言われている。英語名は”mioga”であるほど、みょうがというのは日本的なものであり、お釈迦様にまつわる話があるのだからインド、中国の食材であるように思われがちだが、「日本人がみょうがを食べていた」という記載が魏志倭人伝にあるほど食することが珍しいものだという。茗荷を栽培して食しているのは実は日本だけということを知っている人は少ないだろう。みょうがの種類には「夏みょうが」(早生)、「秋みょうが」(中生・晩生)があり、「夏みょうが」は6月〜7月、「秋みょうが」は8月〜10月が旬だそうだ。「CAN DO ファーム」のお陰で、年間通して食べられるようになり、旬が薄れた感はあるが、付け合せの食材とあわせて、やはり夏が似合うものだ。料亭などの高級食材として、黒いネットで隠して日が当たらないようにし、収穫直前にカバーを取ると鮮やかなピンク色になるのだそうだ。写真でそれがわかる。 周梨槃特の話はいかにもありがたいお話として作られた気もするが、この手の言い伝えには必ず何か先祖の教えと言うものが入っているはずだ。本厚木の「スナックハーモニー」のホームページに雑学豆知識が掲載されており、ここに載っているものをご紹介する。 栄養なし説…みょうがは栄養素となるものがなく、香りを楽しむだけのもの。従って、美味しい美味しいと言って大量に食べてもなんにもならない。だから、みょうがを食べるともの忘れがひどくなると言うことにして、あまり大量に食べないようにと昔の人が作った教訓。 ひとり占め説…みょうが好きの人がいて、自分で一人占めしようと考え、皆が食べさせないようにデマ話を作った。 つまみ食い防止説…料理人がみょうが料理を作っていると、子供がつまみ食いしたので、つまみ食いしないようにさせるためのデマ話を作った。 みょうがにまつわる話…江戸落語に『茗荷屋』という小噺がある。 「みょうがを食べると忘れぽっくなる」と聞いた宿屋の主人が、宿泊客が財布を忘れてくれるように、みょうが料理ばかりを食べさせた。お客が宿を後にすると、主人は急いでお客の泊まっていた部屋に行って、忘れ物の荷物を確かめたが、何も無い。はて、どうしたものかと考えているうちに、主人は大変な事に気がついた。「しまった。お客が宿代を払うことを忘れて出発してしまった(笑)」。主人もつまみ食いでみょうがを食べていたので、御代をもらうのを忘れていた(笑笑)。大体はここで話は終わるのだが、その後の話もあるみたいだ。慌てた主人は、お客の後を追って外に出て行きお客を探すが、見つからないので周りの人に「お客を知らないか?」と聞こうとしたが、主人は、どんな客だったか忘れてしまった、という二段オチである。 ○料理の話をしていて、その流れで友達に「隠し包丁とは何でしょう?」と聞いてみた。…3人中2人が懐から包丁を取り出すジャスチャーをした (あし) ○料理を全く作れない夫にインスタントコーヒーを頼んだら、台所から「すっごい事になってるよ!」と叫ぶ声が。何事かと慌てて見に行くと、カップの中に満タンにコーヒーの粉を入れたらしく、お湯が注がれて火山のようになっていた。ちょっと感激! (らき) ※隠し包丁とは?・・・材料の表面からは分からないように、包丁で切れ目を入れること。材料に味がしみ込みやすくなり、火が通りやすくなり、食べやすくもなる。厚い輪切りの大根や丸のままのかぶや芽キャベツの裏側に、十文字に隠し包丁を入れる。なすやこんにゃくなど味がしみ込みにくいものや、魚をまんべんなく焼きたい時や、煮付けるときには、斜めに2本切り込みを入れる切り方が隠し包丁で、×印をしたものは飾り包丁といわれている。盛り付けたときに、目に付かないところに包丁を入れるので、忍び包丁ともいわれている (2008年7月21日) |